異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

93 / 332
#93 The another one evil eye

魔眼

 

自分からダウンを奪った数少ない技を前にしても哲郎は落ち着いていた。

それがどれほど危険な物か分かっていたのにも関わらず、 どれほど危険な物か分かっていたからここまで落ち着く事が出来た

初めて経験する代物なら取り乱して落ち着いていた対峙することは出来なかっただろう と考えていた。

 

(ノアさんに呼ばれて学園に遊びに行った時にサラさんが『魔眼を解放したら持続時間が減る代わりに魔法が比べ物にならない程強力になる』って言ってたな。

既に僕の攻撃を全身に受けて身体はもうボロボロのはず。

 

この人は間違いなく この攻撃で仕留めに来る!!!!)

 

レイザーの攻撃は早く鋭く 一発でもまともに貰えば意識を奪われてしまう。 しかも次はさらに威力も速度も上がって襲ってくる。

 

そこから導き出される答えは単純明快な一つ

 

《凌ぎきれば勝ち 出来なければ負け》だ。

 

 

「………ラドラ様もあなたを認めてくれるでしょう。

《万全な状態(・・)》で持って帰れずとも あなたがそれほどの素体(・・)だったという事ですからね。」

「………………………!!!」

 

《人形》 だの 《素体》だのと下級生達を道具とみなすような言動が鼻についた。

 

「私も全力であなたを仕留めましょう。

ラドラ様の計画の礎になれることをありがたく思うのです。」

「…………………………!!!!」

 

その瞬間は唐突に訪れた。

 

「行きます。」

「!!!!!」

 

哲郎の目の前からレイザーの姿が消えた。

そして通路内の壁 全体に蹴って反射する衝撃音が響き渡る。

 

しかし、哲郎は一つ 違和感を感じた。

 

接近してくる気配な何度もあるのに、攻撃が来る気配が全くないのだ。

 

(…………!!!

これは フェイントか!!!

 

隙を生んだ所に剣を打ち込む気だな!!!)

 

周囲の環境を最大限 活用して相手の隙を作り、そこに自身の超高速の剣技を叩き込む

それがレイザーの奥の手だ。

 

(今は耐えているでしょうが危険が何度も襲えばいずれ耐えかねて空振りの抵抗を見せるでしょう。

もうあなたには逃げ場も勝ち目も無い。

これで終わらせる!!!!!)

 

哲郎にはレイザーの高速移動から【逃れる】方法は無かったが、それでも【対抗策】は持っていた。

 

「!?」

 

哲郎は目を閉じて身体を丸め、体制を低く屈めた。

 

(これが魚人武術の秘伝の一つ

(なぎ)の構え】です!!!!)

 

(なぎ)の構え》

魚人武術の一つの流派が生み出した派生技の構え

目を閉じて音を聞く事に集中し、相手の攻撃の迎撃に特化した構えである。

 

また余談だが、魚の名前を冠していないため魚人武術の技とは違うという意見もあるが、哲郎は魚人武術の構えの一つと結論づけている。

 

(凪の構え

まだ完全には物に出来ていないけど、これに賭けるしかない!!!!

反応してくれよ!!!!)

 

 

凪の構えを取っている間 構えている人は周囲に波一つない水面のイメージで音を聞き、攻撃の瞬間や方向を把握する。

今の哲郎にはそれがたった一つのレイザーへの対抗策だった。

 

 

ダッ!!!

「!!!」

 

哲郎の左後方で地面を蹴る音が響いた。

しかしその方向にレイザーはもう居ない。

 

(そっちは囮ですよ!!!

まだそこに気配は残っている!! これで終わりですよ!!!!!)

 

左後方の気配を囮に右後方から急接近し、心臓目掛けて剣を振るった。

その鋒が哲郎の背中を捉える━━━━━━

 

 

ガッ!!! 「!!!!?」

 

レイザーの顎に触感が走った。

それが顎を掴まれた事であると気づくには時間が少なすぎた。

 

「残念でしたね。 今度も上を行ったのは僕だ!!!!!」

 

 

ズドォン!!!!!

「!!!!!」

 

防御の暇もなくレイザーは地面に叩きつけられた。

 

哲郎のマーシャルアーツ レイザー自身のスピード 地下通路の石造りの床

それら全てが凶器となって頭に直撃したのだ。

 

薄れゆく意識の中でレイザーは自身が敗北したことをゆっくりと理解した。

 

 

***

 

 

「………………………………………………………………………

 

 

!!!!?」

 

レイザーは意識を取り戻した。 そして自分が始末されずに生きている事に驚いた。

 

「こ、これは……………!!?」

 

そして自分の身体が縛られているのに気がついた。 縛っているものは自身のマントをちぎって繋ぎ合わせて紐状にした物だ。

 

「あなたを拘束したんですよ。

それからこの剣は僕が預かります。」

「ここに放置するんですか? 情けをかけるつもりですか?」

「情けじゃありませんよ。

あなたへの敬意のつもりです。」

 

その言葉を残して哲郎は背を向けた。

 

「待ちなさい!」 「?」

 

「あなたは、本当にラドラ様を倒すつもりなんですか?」

「そうですよ。」

「何のために? どうしてそこまで身体を張る事が出来るんですか?

教えてください」

 

少しだけ考えて哲郎は口を開いた。

 

「それが【依頼】だから」

「?」

「自分のギルドを作るための立派な第一歩を踏み出したいんですよ。」

 

それを聞いたレイザーの心には最早 この拘束を抜け出ようとする思考すら無かった。

これを甘んじて受け入れようと 心の底からそう思った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。