異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#94 Final Gong

哲郎は地下水路を進んでいた。 目指すのはレイザーによって開けられたガリウム達の元へと続く穴だ。

 

「………………ぐっ…………!!!」

 

レイザーの視界から外れて たまらず座り込んだ。 絶えず動き回って全身を切りつけられて肉体的にも精神的にも疲労が蓄積していた。

 

「………………!!!

体が動かない…………………!!

こんな所で休んでられないのに………………!!!」

 

自分が今 立たされているのは決して1対1の試合会場ではない。 戦いは依然として進んでいるのだ。

 

ボロボロとなった己の身体に鞭を打ち、通路を進む。 目指すはミリア達を守りながら戦っているであろうガリウムの所だ。

 

 

 

***

 

 

(………………………!!!

あ、あと何体いるんだ…………………!!!!)

 

 

哲郎と別れてどれほどの時間が経ったのか 正確には分からない。

もう1時間以上経ったかもしれないし、まだ数分しか経っていないかもしれない。

 

それでもただ1つ確かなのは自分はその時間 ミリア達を守り抜いたということ。

彼女達の強化魔法に勇気を貰って 襲ってくる人形の魔物達を制しているということだけだ。

 

自分の後ろでは人形に変えられた生徒達がぐったりとしながら眠っている。 彼ら全員、そして自分達もまたラドラ・マリオネスに拉致された者達だ。

 

いくら倒しても次が湧いてくる。

 

今もその内の一体が自分に迫ってくる━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

「《騎士之盾(イージス)》!!!」

「!!?」

 

突如、ガリウムの目の前に手の平ほどの大きさの障壁が展開された。 大きさは頼りないが、それでも人形の眉間がそれに激突し、吹き飛ぶ。

 

「ガリウムさん!!!

それと 行方不明になっている生徒の皆さんですね!? 僕達はエクス寮長の手の者です! 救出に来ました!!!」

「ファン様!!! それにミゲル!!!

来てくれたのか!!!!」

 

ファン・レインとミゲル・マックイーン そして見慣れない金髪の少女が通路の奥から姿を表した。

 

ガリウムの後ろにいた少女達からは これで助かった と言わんばかりに歓声が沸き立つ。

 

「ガリウムさん よくぞご無事で!!」

「ええ!これも一重にテツロウ君が私を信じてくれたおかげ━━━━━━━━━━━

 

 

!!!」

 

無事を喜びあっている最中、人形の一体がファンに向かって突進してきた。

 

「!!!

騎士之盾(イージス)(バッシュ)》!!!!!」

「!!!!?」

 

ファンの掌から障壁が打ち出され、人形の鼻っ柱に直撃した。 人形はまたも吹き飛ぶ。

 

「ファン様 それは一体……………!!」

「ああ。 これは僕の固有魔法です。 ついこの前覚えたんですよ。」

「それはそれは 逞しくなられて…………!!」

 

拉致されるついこの前まで気弱ながらも鍛錬を積んでいたファンがついに聖騎士(パラディン)として大成した事実を知り、ガリウムはさらに喜びを募らせた。

 

「それはそうとガリウムさん、行方不明の生徒はここに居るので全部ですか?」

「あ、 はい そうです。」

 

 

それを聞くとファンは話し相手をガリウムからミリア達に変えた。

 

「皆さん 落ち着いて聞いてください!

これより あなた達はトムソンさんとエルコムさんが護衛し、安全な場所までお連れします!!」

「ト、トムソンとエルコム?

確か ここに来るのは5人と聞いていますが」

「僕が提案したんです。 行方不明者の護衛に 腕の立つ人が必要だと思いまして。」

 

既に 力だけでなく状況を見据える能力までファンは手にしていたのだ。

 

「トムソン エルコム 気をつけて護衛してくれ。 彼女たちは皆 足を負傷している。

俺はここに残って哲郎の援護 及び救出に当たる。」

 

それから トムソンとエルコムを挟んで少女達が列を作り、前もって確保しておいた抜け穴から救出する運びとなった。

 

 

「彼女たちひとまずこれでいいとして ガリウムさん、テツロウ君の状況を教えてくれますか?」

「ええ。 彼は追っ手を食い止めて私達を守るために残りました。 それしか私に言えることはありません。」

「そうですか

 

 

!!!」

 

そこまで言って ファンは目を凝らした。

微かにだが 確かに通路内を靴が叩く音が聞こえた。

 

「!!! ガリウムさん、 あれは…………!!!」

「?! おお!!!!!」

 

通路奥から哲郎が姿を表した。

表情は既に疲労困憊の様子であるが、確かに意識を保って立っている。

 

「テツロウ君 無事だったんだね!!!」

「良く戻ってきてくれた!!! 追っ手はどうなった!!?」

 

「…………追っ手は何とか撃退しました。 今は通路内に拘束しています。 それから 奴の持っていた武器も回収しました。

 

それより 彼女たちはどうなったんですか…………?!」

「安心しろ!! たった今 トムソンとエルコムが護衛して救出に成功した!!

さあ 早くここから出るぞ!!!」

 

「………………いえ、 待ってください…………。」

「? 何だ? 水でも欲しいのか!?」

「水は要りません。 エクスさんと通信を繋いでください………………。」

「? わかった。」

 

 

ガリウムは哲郎から渡されていた水晶をエクスへと繋いだ。

 

『こちら エクス ガリウムか。

何か問題か?』

「いえ エクス寮長。 行方不明の生徒達は全員 救出に成功しました。

現在 トムソンとエルコムが護衛しております。

それから テツロウの無事も確認しました。彼が話したい事があるそうなので、通話を代わります。」

 

ガリウムは水晶を哲郎へと手渡した。

 

「…………………エクスさんですか…………? 哲郎です………………。」

『どうした? 何か問題でもあったか?』

「……………ええ。 追っ手が現れたので 僕が撃退しました。」

『そうか。 よく一人で戦い抜いてくれた。 早く戻ってこい。』

「………いや、それはだめです…………。」

『?! どういう意味だ?』

 

「………僕が居て、こんなにも頼もしい人達が5人も()()()()()()()()()()

これは唯一のチャンスなんですよ。」

『何の事だ!? 何を言っている!!??』

 

「帰ることは出来ません。

このまま僕たち5人で ラドラ達と戦います!!!!!」

「「「「『!!!!?』」」」」

 

通路内に衝撃が走った。


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