Fate/dear my family   作:和間

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一日目
1:召喚


●● 2004年2月2日 23時43分 ●●

●● 衛宮邸 ●●

 

 身体を引き摺って、帰宅する。

 靴を脱ぎ散らし、鞄を放り、制服のジャケットも脱ぎ捨てようとして──ギミックが仕込まれた右袖を衛宮士郎は押し掴む。

 台所の蛇口をひねって口を濯ぐ。気管に入った水滴に、噎せて咳き込む。おかげで、口の中の鉄臭さは幾分かマシになった。

 

 ジャケット右袖のスリーブガン装置──袖に隠している小型拳銃を手の位置まで射出させる、レールとスプリングによる仕掛け。そこから取り外したベビーブローニングは、ベルギーのFN社が開発した小型自動拳銃だ。

 装弾数は6発。M1906のマイナーチェンジモデルで、パテントを引き継いだ米国メーカーが現在も生産しているロングセラー品。25口径で射程と威力は乏しいが、小型軽量という特性(なにせフル装填状態でも300gに満たないのだ)から要人護衛用やバックアップウェポンとして世界中で用いられている。久宇舞弥(ははおや)から護身用品だと押し付けられた士郎もまた、普段から隠し銃として携帯していたのだが、

 

 ──抜くことさえ、出来なかったな。

 

 台所の床に座り込み、6発の弾が詰まったままの銃を片手に息をつく。

 

 夜の校庭で剣戟を交わしていた青装束と赤装束(二人の男)──それを弓道場から目撃した士郎は青装束に気付かれて、逃げ込んだ校舎三階の廊下で槍に貫かれた。

 男と打ち合っていた赤装束も含め、彼らの技量は明らかに人のそれを超えていた。

 当然そんな人外は、獲物へのトドメを損じない。左胸部が破れた制服と口に残る血の味は、士郎が受けたのが致命だったことを示していて。それに何より彼自身、今は鼓動している心臓が潰れた感覚を覚えている。

 だから衛宮士郎は一度殺されて、それから誰かに助けられた──10年前、衛宮切嗣にしてもらったのと同様に。

 自分だけ助けられ生き残り、だから今度は自分が助ける側になるのだと意気込んで──だけど肝心な時には何もできず、また誰かに救い上げられる。進歩の無い自身の情けなさに顔を歪め、廊下で気付いた時に拾った赤い宝石を取り出した士郎は──

 

 ──カララン、コロロン、

 

 屋敷全体に鳴り響く警告音に、身構えた。

 

 

 忍者屋敷の鳴子を思わせる音の正体は、敵意を持った存在の接近を告げる魔術的な警報装置。

 宝石をズボンポケットに押し込み、スリーブガン装置付きの制服ジャケットを羽織り、少し考えてから士郎は拳銃から弾倉を取り外す。装填されている弾丸の1発を箪笥裏に隠しておいた『とっておき』と交換し、再装填した拳銃を右袖中に取り付け直す。

ついで、大河が置いていった演歌歌手ポスターに手を伸ばし──

 

「──同調(トレース)()開始(オン)!」

「ほぅ! いい判断してるじゃねーか」

 

 咄嗟に丸めて『強化』したそれで、頭上からの殺気を振り払う。

 ガギンという鈍い音と、電柱を殴りつけたような手の痺れ。

 攻撃を防がれ室内に降り立った青装束は、校舎で士郎を突き刺した男だ。

 

「同じ奴を二度も殺すなんて──と思ってたんだが、思ったよりは楽しめそうだ」

 

 獰猛な笑みを浮かべた男が、身の丈よりある真紅の槍を軽々と振り回す。

 構えも型もない、ただ戯れているだけのような動き。事実加減されているそれは、けれど一撃一撃が士郎が強化したポスターを弾き飛ばしかねないほど重い。

 

「オラ、どーした? こんなもんじゃねーだろ」

 

 咄嗟にポスターを左手に握り直した隙に付け入られ、接近を許した青装束に士郎は蹴飛ばされる。

 縁側のガラス戸を軽々と突き破り、庭に出て更に数度転がりようやく停止する士郎。腹を抱えて激しく嘔吐き、俯いたまま起き上がれない。

 

「ありゃ、こりゃー俺の見込み違いだったか?」

 

 失望したような声──とともに破壊されたガラス戸から、男が庭へ踏み出そうとして、

 そしてそこが、士郎にとっての唯一の勝機。

 

 ポスターから放しておいた右手を伸ばす。

 レールとスプリングによる仕掛けが作動し、袖下に隠し持っていた小型拳銃を掌に収めさせる。

 狙いは自分が突き破り、【()()()()()()()()()ガラス戸】──嘔吐いて俯いたままでも、庭に出ようとしている相手ならその位置は自ずと確定できる。

 

 一発、二発と引き金を引く。

 発射音と同時に響く、弾丸が切断される音──青装束の男がその長槍で、拳銃弾を弾き飛ばしたのだ。

 

同調(トレース)()開始(オン)!」

 三発目──の引き金と同時に叫ぶ。けれど結果は変わらない。

 

 そして、それでいい。士郎が魔術で強化したのは、銃弾を射出する拳銃のほう。

 それで()()()()()()()男に弾かれたということは──成功率が高いとは言えない士郎の強化魔術が、成功したことを意味している。

 

 四発目。

 五発目。

 単なる繰り返しに終始する結果に、男の顔に失望が交じり──

 そして最後の六発目──本来ならば冗談で作った衛宮士郎の『とっておき』、炸薬を通常の5割増にした特性弾。

 

 もちろん通常はそんな弾、拳銃が耐えられるわけがない。暴発して発砲者の手首から先を吹き飛ばすのがオチである。

 だが士郎の魔術で強化されたベビーブローニングの銃身は、その常識はずれの炸薬量を抑え込む。結果、炸薬の運動エネルギーは全て銃弾に伝達され、通常より数割増の初速を実現する。

 

 例えるならそれは、スローボールと豪速球。

 単純な作戦ではあるが──秒速350mの通常弾がまさか【目を慣らさせる為のスローボール】であろうとは、読心系のスキル保有者でも無い限り予想し得ない。

 

 放たれた最後の銃弾は男の槍を空振らせ──ヒョイと竦めた男の肩を()()()()()()()()()()

 

「……いや、マジで今のは驚いたぜ。

 しかも弾頭は銀製で法儀式済み、魔術効果付与のおまけ付きってーと、当たれば俺たちサーヴァントにもそれなりの効果があったかもだが──わりぃな、生まれつきの体質で、飛び道具のたちは受け付けねぇんだわ」

 

 唖然と目を見開いた士郎に、男はきまり悪げに頭を掻きつつ謝罪の言葉を口にする。

 そう、今のが士郎の切り札で他にはもう策が無いことを、彼もまた理解したのだ。

 

 徒労に終わった常人の足掻きをあたかも慰うかのように、無造作に踏み寄った男は槍柄で士郎を殴り飛ばす。

 

 転がり、 ──嫌だ

 呻き、 ──死にたくない

 這いずり、 ──こんなところで

 震えて、 ──なにもしないまま

 それでも士郎は身を起こす。 ──だって、、、、、、

 

 それは最早、策ではない。

 抵抗と呼ぶのも烏滸がましい。

 いわば純粋な生存本能。あるいは単なる反射行動。

 

 ならばその見苦しさを早急に終わらせてやるのは、生前幾多もの戦場を渡っていた槍の男にとってむしろ誠実な行動だ。

 

「じゃあ、あばよ──もしかしたらお前が七人目だったのかもな」

 

 青装束の男から、投げかけられる言葉と視線。

 そこに敬意を読み取って、それを受け入れかけた士郎は──

 

 ──────────先輩。

 

「………………冗談じゃ、ない!」

 

 重く怠い左手を歯を食いしばって持ち上げる。

 その手に残っていたポスターを広げ、魔術で強化した光沢紙で男の槍を──防ごうとして、あっけなく貫かれる。

 軌道を僅かに逸らされた槍は士郎を土蔵の中に吹き飛ばし、仕損じた男はむしろ士郎への憐憫から舌打ちする。

 

「──っ悪ぃな。嬲るつもりはなかったんだが。

 だが、これで終いだ。坊主、今度は迷うなよ」

「──ゃだ……」

「あぁん?」

「……嫌だ。俺はこんなところで、お前なんかに、、、殺されてなんかやるもんか!」

 

 魔術師はおろか、一般人が見ても無駄だと分かる悪あがき。

 ただ負けたくないという意志を、表明するだけの叫び。

 ほとんど何の意味も持たない士郎の行為は──けれどゼロではない確率を此処に結実させる。

 

 10年前の戦争時、養父の妻であったホムンクルスを維持する為に刻まれていた魔法陣。

 それが浮き上がり──まるで意志を有するかのように改変されて起動する。

 士郎の右手がズキリと痛み、そこに刻まれかけていた令呪が聖杯へと接続される。

 

 

 

「問おう。あなたがわたしのマスターか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 召喚され、ランサーに対峙する【10年前と同じセイバー】。

 それを土蔵の陰から覗いている蝙蝠には、小型の無線カメラが括りつけられていた。

 




舞弥さんの影響で、銃器の知識もある士郎。

彼の切り札──『とっておき』は、魔術で強化した銃で放つ炸薬増強弾
(初速が通常の数割増し。ただし銃を『強化』しておかないと、暴発して撃った人間の手首ごと吹き飛ぶ。
 なお無事に発射できても銃身が『強化』の反動で砕けるため、一発ごとに銃を使い捨てる必要があるというなんとも頭の悪い銃弾である)。
特に使用する予定はなかったが──魔術鍛錬を終えたとある深夜、テンション爆上げ状態になって一人土蔵で自作した。
……男の子はみんな、こういうのが大好きなんです!!!



次回、
アインツベルンの少女
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