●● 2004年2月3日 0時 4分 ●●
●● 冬木市 オフィス街 テナントビルの一室 ●●
"セイバーの迎撃を受け、ランサーが撤退──それと入れ替わるように、新たなサーヴァントが衛宮邸に接近する。"
"消去法から推測するに、クラスはライダーかアーチャー。マスターは、腕に抱えている遠坂家の娘──遠坂凛だろう。"
"接近に気づいたセイバーが、塀を跳躍して逆襲を掛ける。遠坂凛を庇ったサーヴァントはその一撃を防ぎきれず──"
"──強力な魔力奔流を確認。"
"同時に、斬り捨てられたかに見えたサーヴァントが霊体化"
"……遠坂凛が令呪を使用して緊急避難させたようだ。"
"続いてマスターである遠坂凛に刃を向けたセイバーを、士郎が制止。"
"遠坂と何か話した後、士郎は彼女を家屋へと招き入れる。"
"・・・・・・・・・・・"
"・・・・・・・・・・・"
" ・・・・・ "
" ・ "
" ・ "
・
・
・
使い魔との視覚共有および無線カメラの映像で、その一部始終を確認していた久宇舞弥はふぅと大きく息をついた。
完全に、後手に回った。
士郎も魔術回路を持つ以上マスターに選ばれる可能性は考慮していたが、まさかそれとは無関係に他陣営サーヴァントに襲われる事態は想定していなかった。
自宅に仕掛けておいた盗聴器の傍受スイッチを入れる。雑音まじりで聞こえてくる会話では、戸惑う士郎に対して凛が聖杯戦争の概要を説明していた。
「──とりあえず、危険は無いということでしょうか」
盗聴マイクから聞こえる凛の声は、多分の呆れを含んでいるが士郎に対する敵意は無い。教会へ向かうことを提案する彼女に士郎は同意して、強化で破損した銃の代わりを土蔵へと取りに行こうとする。
『って、なんで家の中に銃器が当たり前に転がってるのよ!』
『え、遠坂の家には無いのか? 荒事もこなす魔術師の家ならこれくらい普通だってかあさんが──』
『普通じゃないわよ、この銃刀法違反者! ……あー、でも、ちょっと納得したわ。
要はここって、魔術師じゃなくて典型的な魔術使いの家なのね』
ウガー、と吠える凛の声を無表情で聞きながら、舞弥は追加の
一匹は教会へ向かう士郎たちの道中警戒、市中に飛ばした残り二匹は他のマスターの動向探索だ。
舞弥の魔術技量で視覚共有できる使い魔はせいぜい二匹まで、だが指定したルートを飛ばすだけなら二十匹近くの同時使役が可能。その全てに無線カメラを括りつけ、撮影したデータを手元にあるノートパソコンの画像認識技術で解析すれば──彼女の索敵能力は一流の魔術師にも匹敵する。
その成果は、すぐに現れた。
教会にたどり着いた士郎たちが、セイバーを残して中に入ってから──数分後。
予め登録しておいた人物の発見を、パソコンのアラート音が舞弥に知らせる。
見つけたのは、アインツベルン陣営──あの人の娘であるイリヤスフィールと、彼女に何かを命じられている傭われらしい若い男。
男と別れ、軽やかな足取りで進むイリヤスフィール──その先が教会であることを確認した舞弥はノートパソコンを引っ掴み、聖杯戦争中のセキュリティーハウスとして借りているテナントビルの一室から飛び出した。
●● 2004年2月3日 1時 28分 ●●
●● 冬木教会 ●●
「よろこべ、少年。君の願いはようやく叶う」
呪うように、祝うように、教会の神父である言峰綺礼が言を紡ぐ。
「正義の味方には、倒すべき悪が必要だ」
自身の根底を照らし揺さぶるその声に、衛宮士郎の足が止まる。
「衛宮くん、早く!」
先行した遠坂凛の、責めるような声。
それに促されて迷いを振り切り、教会を出た士郎を待ち受けていたのは──昨夜出会った、銀髪の少女。紫紺のコートに身を包み、白のマフラーをはためかせ、コートと同色のロシア帽からヘッドセットマイクを覗かせている。
士郎より4〜5歳は年下、若いというより幼いという形容が相応な年頃だが、士郎を見つめるその瞳にはしっかりとした意志がある。
「お話は終わった? お兄ちゃん
私はイリヤ──イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
「アインツベルン!? それって、爺さんの──」
「ふーん、この名前は知っているんだ。聞いたのはキリツグから? それともヒサウマイヤから?」
名前に反応した士郎に、少女の双眸がスイと窄まる。
「でもまぁ、どっちでもいいか。
とりあえず殺すから──やっちゃえ、バーサーカー」
少女の声に反応し、実体化するサーヴァント──巨人と見紛う巨躯を持った、巌のような大男。
それが、吠える。
足が、竦む。
歯の根が、合わなくなる。
息を吸い込んだはずの肺が、空気を認識できなくなる。
自分を殺したランサー。
それと互角に打ち合うアーチャー。
両者を正面から退けたセイバー。
いずれも人の理から外れた者たちだが、それらと比してもなお規格外。
英霊の中の英霊。化け物を超えた化け物。
天をも震わす咆哮を上げて、身の丈よりある石斧を振りかざし、20mはあった間合いを一足で踏破。士郎を叩き潰そうとするバーサーカーを──セイバーが迎撃する。
それは最早、剣戟ではない。
踏み込みによって地面が抉れ、振るった剣圧で樹木が吹き飛び、着地の衝撃で墓石が破砕される。
バーサーカーとセイバー、二人の英霊を核として振るわれる災害。
だがそれは両者の拮抗を示すものではなく、
「チィッ、やっぱりセイバーが分が悪いか。手伝いなさい、衛宮くん」
「あ、ああ──くっそっ!」
「ふーん、宝石魔術に……自動拳銃?
あはは、じゃあお兄ちゃんたちとも遊んであげる!」
愉快そうに笑うイリヤは数本の頭髪を引き抜くと、それを媒介に鳥型の戦闘使い魔を錬金する。凛が射出した宝石はその使い魔に弾かれて、士郎が構えた拳銃の射線もあっさり遮られる。
「どうしたの? 撃たないの、お兄ちゃん」
「撃ちたくなんか、ない! だけどこのままサーヴァントを止めないっていうのなら──」
「うん、撃ってみていいよ。拳銃弾なら50口径でも問題なく弾けるし、シュトルヒリッターは独立駆動式だから礼装魔弾の呪いでも私にまで効果は及ばないもの」
士郎のハッタリも意に介さず、堂々と向き合うイリヤスフィール。宝石によるガンドを完封された凛も、今は歯噛みするしかない。そうする間にもサーヴァント同士の争いは、セイバーが着実に追い詰められ、
「もー、つまんないなー。もっとなにか『必殺技!』とか『最後の切り札!』みたいなのは
──って、バーサーカー!?」
セイバーとの戦闘を打ち捨てて、バーサーカーがマスターであるイリヤの元へと戻る。その一拍後、イリヤから数メートル離れた地面が轟音と共に砕け散った。
「遠距離狙撃!? これって、アーチャーが、」
「ううん、あいつは今負傷してて、戦闘できる状態じゃない」
士郎の疑問に、凛は首を横にふる。と同時に、二回目の着弾──イリヤの脇を掠めようとした銃弾は、バーサーカーの石斧によって弾き飛ばされる。
「──聞こえた」
「え、何が?」
「発砲音だ。着弾から数秒遅れてる」
つまりこの攻撃は、サーヴァントではなく現代兵器によるものである可能性が高い。
同時に着弾から発砲音が聞こえるまでの時間差から計算すれば──
「仕事よ、シグマ。北北西方向からの狙撃を受けたわ。
距離は1800から2200──狙撃ポイントは駅前ビル群、探し出してカウンタースナイプしなさい」
同様の判断に至ったのだろう、イリヤがロシア帽から覗き出ていたインカムマイクに向かって指示を出す。彼女が割り出した狙撃距離は、士郎が咄嗟に計算したものとほぼ同じものだ。
「全く、とんだ邪魔が入っちゃったわね。
でも安心して。シグマがすぐに片付けるから、そしたらまた続きをやりましょう」
「続きって──」
三度目の銃撃を石斧で打ち払うバーサーカー──彼が防御する限り、遠距離からの銃撃などイリヤの脅威にはなりえない。
対して一時の休息を与えられたセイバーは、傍目でも疲労が見て取れる。
「ええ。狙撃ポイントはそのビルでいいわ。セラとリズもサポートに入って、確実に仕留めなさい」
四度目の銃撃をバーサーカーが弾いたことも意に返さず、インカムで指示を送るイリヤ。
そして五度目の銃撃が──訪れない。ほぼ等間隔で襲っていた銃弾が、四発目を最後に鳴り止む。
それはイリヤのインカムの向こうにいる『シグマ』が、狙撃手との戦闘に入ったことを意味していた。
一緒にいる傭兵の影響で、現代兵器にも理解があるイリヤ。
原作通りの服装に加えて、ロシア帽から覗いている通信用ヘッドセットマイクがワンポイントアクセサリとなっています。
次回、
魔術使いの戦い