Fate/dear my family   作:和間

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【10ヶ月前】入学式後の校舎裏

●● 2003年4月7日 10時46分 ●●

●● 穂群原学園、前庭 ●●

 

「あれ、あの子って……」

 

 入学式を終え体育館から出てきた新入生たち、その一人に目をやった美綴綾子は呟いた。

 どこかで見たような……という彼女の疑問に答えたのは、同級生である衛宮士郎。

 

「ああ、慎二の妹の──」

「え、マジで!?」

 

 問題部員である間桐慎二とは似ても似つかぬが──そういえば弓道部の試合の時、彼の傍で見た気もする。でもそれなら、

 

「ねぇ、キミ! 弓道に興味ある? 兄貴がやってんだから興味あるよね」

 

 将来有望な部員候補を逃してなるものか、と来期主将を嘱望されている少女は勧誘活動を開始する。

 

「そうだ、名前は、」

「さくら、です」

「さくらね。うん、じゃあ弓道部に──」

 

 逃すまいと手を取って、グイと身を寄せ顔を寄せる。強引な距離の詰め方だが、馴れ馴れしさは感じない──むしろ好感を抱かせるさっぱりとした気風は、彼女を苦手とする慎二さえ認めざるを得ぬ天性のものだ。

 そのまま入部届にサインさせそうな勢いで詰め寄った美綴は、

 

「──後で体験入部でもいいからさ、必ず来てよね。絶対向いてるから」

 

 そこから一転、スイと身を引く。

 少々面食らってはいる(まあ、上級生から話しかけられれば当然だ)が、本気で嫌がっているわけではない新入生。なのに美綴が勧誘を打ち切ったのは、まったく別種のセンサーが彼女に反応したせい。

 

 いやそもそも、傍らにいる同級生の鈍さを考慮しておけば、初めから分かった話なのだ。

 

 弓道部員である慎二の妹。だけど自分が知らないその存在を、休部中の士郎がなぜか知っていて。しかも「妹」と紹介された時、彼女は僅かにたじろいで──けれど覗いた彼女の瞳には、それを覆して余りある決意が見て取れて………………

 

 となれば、もう。

 美綴の乙女センサーがビービー警報を発しなかったら、嘘というものである。

 

「弓道場で待ってるから──それと、頑張んなさいよ!」

 

 桜の背中をパシリと叩き、後ろにいた同級生(衛宮士郎)の前に押し出す。たたらを踏んだ桜は目を見開き、けれど美綴を振り返らずに頷いて──

 

「あ、あの──先輩!」

「ん、どうした桜?」

「この後、いいですか。お話したいことがあって」

「ああ、今日はバイトもないから大丈夫だけど──ここだとまずい話か?」

 

 いやー青春だなあ、と耳をそばだてていた美綴が、友人の鈍さに「おい!」と突っ込む。

 ああまで思わせぶりに話を振られれば、気付きはしなくても何かしら感じるモノはあるのではないか?

 

 けれど桜は士郎の反応を予期していたようで、なおも食い下がって彼から約束を取り付ける。時間はこの新入生歓待も落ち着くだろう30分後、場所は──

 

「校舎の裏、か。うんうん、青春だねー」

 

 内心を代弁する声に思わず振り返った美綴が、目にしたのは弓道部顧問の女教師だった。

 

 

 

 

 

 

●● 30分後 ●●

●● 穂群原学園、校舎裏 ●●

 

「で、何やってるんですか、藤村先生」

「いや、美綴さんたちこそ」

 

 校舎裏の小道、から少し離れた木立の陰で美綴と大河がジト目を向け合い、

 

「拙僧は怪しげな素振りの二人を見咎めて……」

「柳洞くんの様子がおかしいから気になって付いてきたのですが──何が始まるんでしょう?」

 

 きまり悪げな柳洞一成に、遠坂凛が小首を傾げる。

 

「さすが女狐、尾行はお手の物というわけか」

「あら、そういう生徒会役員さんの職務には、他の生徒の監視も含まれているのかしら」

「二人とも、シー!」

 

 互いに天敵と公言する同級生二人のいがみ合いを、美綴が小声でたしなめる。

 

「ほら、来たわよ!」

「来たってだれが──って、桜!?」

「ふむ、知っているのか遠坂嬢?」

「え、ええ。たしか間桐君の妹さんだったはずよ」

 

 剥がれかけた猫を、すぐに被り直す凛。彼女の言葉通り、校舎裏には間桐桜が落ち着かない様子で立っていた。

 

「相手は──ほう、衛宮か!」

「? 二人がなんで校舎裏に──まさかあの子、脅されて、」

「まさかは貴様の頭だ、阿呆! それとも狐には人の心の機微を解することは難いのか?」

「あの子衛宮の知り合いらしいよ。呼び出したのもあっちからだし──女子生徒が先輩を校舎裏に呼ぶ理由なんて決まったようなもんじゃん」

 

 本当に尾行(つけ)て来ただけらしい凛に説明しつつ、美綴は彼女の反応におやと眉尾を持ち上げる。

 ああ、そういうこと──と聞き流した凛は数瞬の間を置いて硬直し、次いで瞳を見開いたのだ。

 仰天という言葉が相応しいその様子は、「どちらが早く彼氏を作れるか」を彼女と競っている美綴に自身のリードを確信させる(まぁ美綴も、「好いている男」すら未だ見つけられていないのだが)。

 

「わるい、待たせたな桜」

「いえ。私も、いま来たところですから」

「で、話ってなんだ?」

 

 意外な初心さを発揮した凛。何故か興奮気味に「そこだ、いけー桜ちゃん!」と拳を振りかざしている大河。

 その他3()()が見つめているとは露知らず、いよいよ桜は決心(告白)を声として士郎に伝達する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの──わたし!

 好き、なんです──先輩のことが」

 

「兄さんの友達としてじゃなくて、もちろん同じ学校の上級生としてでもなくて──1人の男の人としての、先輩が。

 だから、教えて下さい。先輩は私のこと、どう思っているんですか?」

 

「それで、もし、ほんの少しでも──私のことを女の子としていいなって思ってくれているのなら。

 私を先輩の恋人に、して──もらえませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うむ。なんとも直球であるな」

 

 桜の告白を盗み聞いてしまった一成が、額の汗をきまり悪げに拭う。

 彼と同様、仄かに顔を上気させた美綴は、同時になるほどと頷いた。

 

 誤解の抱きようがない、懇切丁寧に逃げ道を一つずつ塞ぐような言葉選び。

 それは想いを伝えることだけに特化して、逆に言えば「告白」自体による好感度上昇を見込んでいない。

 

 桜自身はきっと気づいていないが、その背景にあるのは強い確信だ。

 

「好きです」と伝えた勢いではなく、既に築いている関係から自身を選んでもらい得るという自負。

 士郎に糸を纏わり付かせ、絡め取ろうとする絡新婦(じょろうぐも)──そんな姿を清純そうな下級生に幻視して、でもこれでいいのかも、と美綴は考える。

 

 あの朴念仁なお人好しは、これくらい周到に追い詰めないと分からない。

 だけどそんな彼でも、今の桜の告白は「俺も好きだよ──友達として」などでは逃れようのないもので。

 だから士郎が選び得る回答は、「Yes」or「No」の二択だけ──

 だがそれはあくまで『告白された衛宮士郎が選び得る回答』であって、

 

「はぁっ!? そんなの、認められるわけないんですけど!」

 

 と異議を唱える間桐慎二が、美綴たちとは別の木立から現れようとは誰も予想していなかった。

 

「に、兄さん!」

「慎二? どうしてここに、」

「どーだっていいんだよ、そんなこと」

 

 桜の驚愕と、士郎の戸惑い。それを煩わしがるようにウェーブがかった髪を払い、慎二は士郎を睨みつける。

 

「それよりさー、エミヤ。ちょっと怪我して可哀想だからって桜を手伝いにやらせてみたら、なに調子に乗ってくれちゃってんの?

 こんな出来損ないでもさぁ、桜は僕の妹なんだ。それを部活もやらずにフラフラバイトで小遣い稼ぎばっかしてるようなやつに、任せられるわけないだろ」

 

 彼の言うことにも一理はある。衛宮家の家計を舞弥が支えている現状、学生である士郎は生活費の心配をする必要もないのだから──などと考えるお人好しは、もちろん当の士郎を除けばどこにも居はしない。なにせ士郎が弓道部を辞めたのは、『士郎の肩傷は礼射の時に見苦しい』という慎二の難癖がきっかけだ。

 兄に怯えて縮こまりかけた桜がそれでも毅然と顔を上げ、口を開く、その前に──

 

「へー、そりゃいいこと聞いたわ」

 

 我慢の限界を超えた美綴もまた、木立から踏み出した。

 

「な、なんだよ美綴!? どうしてお前がここにいるんだ?」

「どうだっていいんでしょ? そんなこと。

 まぁちょっと、話があって衛宮を探してたのよ。そうですよね、藤村先生」

「いやー、あはは。そうなのよ〜……………………ごめんね、桜ちゃん」

「藤村さ、──先生!」

 

 あっさり覗いているのがバレた大河を、桜が恨めしそうに見やる。

 

「でさ、衛宮──あんた弓道部に戻ってきなさいよ。

 『嫌がるだろう』ってあんたが心配してた慎二も、むしろ復帰に賛同してるみたいだし」

「はぁ!? 誰がそんな、こ、と──」

 

 慎二の抗議を遮ったのは、獲物を前にした肉食獣のように鋭い美綴の視線。

 

──『部活もやらずにフラフラ』と言うなら、よもや復帰に異議を唱えたりはするまいな?

 

「ま、まぁ、衛宮がどうしてもって言うなら、桜に相応しい男に僕が鍛えてやってもいいけど──」

 

 彼女の圧に怯んだのではなく。ただ込められた意図を読み取っただけと自身に言い聞かせ、慎二は前言を翻す。

 とはいえ考えてみれば、慎二にとってそれは決して悪い話ではない。

 

「でも入部し直すなら、他の一年と同じ新入部員扱いだぜ。衛宮の緩んだ根性を先輩としてビシバシ叩き直してやるから、覚悟しとけよ!」

「いや俺は、まだ入部し直すなんて一言も──」

「なに、衛宮? お前、桜のことがどっか気に入らないわけ?」

 

 ──どうしてそうなる!

 しかも慎二の後ろでは、密かに憧れていた学園のマドンナが明らかに殺気を帯びた瞳で睨みつけてるし!

 

 慎二と凛に責められて、美綴と大河には期待を寄せられ。

 何故か四面楚歌に陥った士郎は助けを求め、傍観者の立ち位置にいた同級生男子へ視線を向けるが、

 

「今回ばかりは拙僧も慎二に同意しよう」

 

 フムと思案の表情を浮かた一成は、説法するように口を開く。

 

「詰まるところ、衛宮。お前自身はどうしたいのだ?」

「それは──」

 

 そう、それは。結局の所、とても単純な話。

 

 ──衛宮士郎は、間桐桜のことをどう思っているのか?

 

 そんなこと、問われるまでもなく分かりきっていた。

 

 

 

 

 

●● 2003年4月8日(翌日) 7時13分 ●●

●● 穂群原学園、弓道場 ●●

 

 たまたま早く目が覚めて一番に登校したその部員は、着替えを終えて射場に入ったところであくびを呑み込んだ。

 

 玄関扉の音に振り向いた彼が目にしたのは、予想外の──それでもどこかで来ることを期待していた同級生。しかもその傍らには、見知らぬ女生徒が付き従っている。

 

「あれ、衛宮。部活復帰するのか!

 それにその娘、どうしたんだ?」

「ああ、彼女は慎二の妹で──俺の、恋人だ」

 

 衛宮士郎の返答に、間桐桜は恥ずかしそうに──けれど嬉しそうに俯いた。

 




士郎と桜、正式交際開始!
加えて慎二のちょっかいのせいで、士郎は弓道部にも復帰決定!

……本作の慎二は色々と酷いところは原作通りですが、ときどき異常な幸運値を発揮します。
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