高校に入学してWEB小説同好会なるものに入ってみたけど思ってたのと違う。 作:スポポポーイ
きっかけは深夜アニメだった。
中学時代、友人との会話の中で何気なく上がった話題に端を発する。当時、僕も含めて友人間で流行っていたソシャゲがアニメ化されるというのだ。それまでアニメと言えば朝か夕方に放送されているような子供向けアニメしか意識していなかった僕としては、”深夜アニメ”というのは実に魅力的なワードだった。
親に内緒でこっそり夜更かしをしているというドキドキ感。それまで静止画と顔差分のみだった大好きなソシャゲのキャラクターたちが、動いて喋ってストーリーを紡いでいくというワクワク感。無駄に気合いの入った製作陣による神演出と期待の新人らしい声優さんによる見事な神演技。僕がそのアニメにどハマりするのも自明の理だったと言える。
はじめはそのアニメしか観ていなかった。しかし、あるとき気付くのだ。僕が視聴しているアニメの次の時間帯に放送されている別なアニメの存在に……。
いつしか僕は目的のアニメを観終わった後の惰性として、別なアニメも観るようになっていた。もし、そのときに放送されていたものが駄作や地雷、ハズレと呼ばれるような作品だったのなら、今の僕はいなかっただろう。けれど、幸か不幸かそのアニメはすんごい面白かった。それはもう神作だった。そして僕は知るのだ。
そのアニメの原作が、ライトノベルであると……。
元々、本を読むのは好きな方だった。僕は大して抵抗を感じることもなく、なけなしのお小遣いを叩いて原作のライトノベルを購入する。すると今度は別なライトノベル作品が気になりだし、インターネットでその作品を調べてみた。するとどうだろう、なんとWEBの小説投稿サイトに無料で掲載されているではないか。
そうして僕はライトノベルを購入して読む傍ら、ちょっとした時間潰しとしてWEB小説も嗜むようになるのだった。
* * *
「ねぇ、ちょっと聞いてよ」
「……またか」
「いいから聞きなさいってば」
放課後の部室。今日もまた御神楽先輩の不機嫌ボイスが部室内に響き渡る。
「一時期さ、異世界グルメものって流行ったじゃない?」
「あぁ、異世界で地球……というか現代日本の料理を振舞って絶賛されるパターンな」
「そうそう。唐揚げにカレー、ハンバーグ、デザート類ならプリンとかアイス、ケーキだとかが王道かしら。深夜に読んでると飯テロされてスゴーく困る」
確かによくある。不思議なスキルで地球から材料を取り寄せたり、魔法を駆使して力技で醤油や味噌を作り出したり、現地の食材から地球と似たような食材を探して再現したりと話のパターンは様々だ。
「つまり腹が減って不機嫌だと、そういうことか? ……小学生か」
「誰がお子様か。違うわよ。そういうグルメ系の話の中でもさ、料理上手な主人公が地球には存在しない食材に四苦八苦しながらも試行錯誤していく展開ってあるじゃない? まぁ、別に主人公が料理上手である必要はないんだけど。とにかく、異世界の食材で地球の料理を再現するようなお話」
「確かにそういう話はよくあるが……それが?」
御神楽先輩に負けず劣らずな不機嫌フェイスはそのままに、町谷先輩が訝しそうな目をしながら聞き返す。
「ああいうのってさ、作者も設定に拘りがあるのか、やたらと凝った食材を用意することが多くない? もしくは地球にある食材と同じなんだけど、名前が違うとか」
そんな御神楽先輩の問い掛けに、町谷先輩は何かを思案するように黙り込み、出流原さんはお約束のように我関せずを貫いて、僕は僕で思いついたことをそのまま口に出していた。
「……リンゴに似た果実で『アッポーレの実』とか、砂糖に似た調味料で『シュガール粉』みたいなヤツですか?」
「そうそう、そんな感じ! もっと凝った設定の作品だと、見た目は木の実だけど味とか食感はお米にそっくりだとか、魔物からレアドロップする骨を削ると胡椒になるとかね」
僕が即興で考えて列挙してみた食材を耳にして満足そうに頷いた御神楽先輩が、更に具体例を挙げてみせる。
おそらくは先輩の方もいま適当に考えついた食材を言っているのだろうけど、確かにそういう設定の異世界食材はありそうだ。
「でね。そういう独自の世界観みたいなものに凝ってる作品を読めば読むほど気になるんだけどさ」
「……知らない食材が溢れかえってストーリーに集中できないとかか?」
「そこは大丈夫。一気読みしてるときは大抵の設定は覚えてられるし。まぁ、さすがに半年くらい作品から離れると忘れちゃうけど」
御神楽先輩がさらっと記憶力自慢をしてくる件。
いやでも、僕だって集中して読んでるときならそれぐらい余裕……と思ったけど、先輩が毎日同時並行して読んでるWEB小説の数を考えると、なんだか自信が無くなってきたぞ。というか、それって正に能力の無駄遣いなのではなかろうか。
「御神楽先輩ってテスト前の一夜漬けとか得意そうですよね」
「なに突然? まぁ、実際得意だけど」
「……偶にそれを過信してテストのヤマを外して大失敗するけどな」
「うっさいわね! それは今どうでもいいでしょ!?」
僕の率直な感想にキョトンとした様子の御神楽先輩だったけど、そこはかとなく自慢げに肯定してくれた。まぁ、即行で町谷先輩にオチをつけられていたけども。
後輩にドヤ顔できたと思ったら、すぐさま知られたくない過去を詳らかにされて恥ずかしかったのか、顔を真っ赤に染めた御神楽先輩が町谷先輩に喰ってかかり、その町谷先輩はと言えば涼しい顔で平然と受け流している。……なんだろうこれ。喧嘩してるとみせかけた痴話喧嘩? 実はイチャついてるだけ? 年齢イコール彼女いない歴な僕に対する新手の嫌がらせだろうか。とりあえず爆発すればいいのに。
「……で、奈穂美先輩は結局なにを言いたかったんでしょうか」
僕が鬱々とした気持ちでリア充へのヘイトを溜め込みながら某検索サイトで『リア充 爆破 方法』とワード検索していると、いつの間にやら黒い気配を纏った出流原さんが冷たい声音でピシャリと二人の言い争いを終わらせた。
あれおかしいな。これ僕の知っている出流原さんと違うぞ。顔は無表情なのに、そこには明確な怒りの波動を感じる。端的に言ってヤダ怖いです誰か助けて……。
「ん、んんっ! 話が脱線したわね」
「……だ、だな」
さすがの先輩方もこれには驚いたようで、額に冷や汗を浮かべながら頬を引き攣らせていた。その気持ちはよく分かる。だって当事者じゃないはずのに、僕もそんな顔してるって自覚があるもの。出流原さんを怒らせたらダメ、ゼッタイ!
「えっと……。そう、あれよ。つまり何が言いたいのかというと、どうして独自の食材や調味料には拘るくせに塩と水はそのままなのかしらってこと」
まだ先ほどの出流原さんショックから抜け出せていない影響なのか、若干早口で捲くし立てた御神楽先輩の論題。しかし、それに対する僕らの反応はというと……。
「……うん?」
「……はぁ?」
「……?」
上から僕、町谷先輩、出流原さんである。全員、見事に疑問符を頭に生やしながら戸惑っていた。
「だってさ、よく考えてみなさいよ。さんざっぱら地球と同じ食材は存在しないよアピールしといてよ? いざ調理工程の描写に入ったと思ったら、『まずはお湯を沸かして~』とか『このドラゴン肉に岩塩とペッパーナの粉末を塗してっと……』だとか言い出すの。そこまで拘るなら、塩と水も凝った名前つけなさいよって思わない?」
「いや、それは……」
すごーく不満げに語る御神楽先輩。
何か言い返そうとした町谷先輩も思わず途中で閉口してしまうほどの不満顔だ。具体的にはほっぺたをパンパンに膨らませてブーたれている。……お子様か!?
「……でも奈穂美先輩。例えばですけど、料理のレシピを解説するときに毎回『ここでソールト麦を石臼で挽いたものを振りかけて~』だったり、『この野菜をウォータルから絞った果汁で煮詰めて……』なんて文言が何度も出てきたら、それってものすごく読み辛くありません?」
僕と町谷先輩が御神楽先輩の幼児退行っぷりに戦慄しているのを他所に、まさかの出流原さんからぐうの音も出ないような正論が飛び出した。
「えっ、そう?」
「唯でさえ空想上の食材だらけで調理風景が想像し難いのに、その上でもっとも登場頻度が高いと思われる……というか、ほぼ必須と言えるお塩とお水までオリジナルにしちゃうと、もはや何が何だか……」
そこまで聞いて、何となく御神楽先輩と出流原さんとの間にある隔たりみたいなものを理解した僕は、困惑したような表情で見つめ合う二人に口を挟んでみる。
「多分ですけど、同じグルメ系の話でも方向性が違うんじゃないですかね」
「方向性って……よくバンドが解散する原因のやつ?」
「なんで今あえてその例えを放り込んできたのかは分かりかねますが、間違っては無いです」
余計なボケをブッこんでくる御神楽先輩は放っておくとして、僕は自分の考察を述べてみせる。
「御神楽先輩がイメージしてるような世界観だと、未知の食材を研究、試行錯誤の果てに新たな調理法を発見、それを更に研磨して地球の食文化に昇華させる。その辺りに物語の焦点を当てている感じじゃないですか?」
「んー、間違ってはないわね」
「それに対して出流原さんのイメージしてるのは、名称は異なるけどほぼほぼ地球と同じ食材を利用した調理モノ。現実世界にもそのままレシピを使い回せそうな世界観じゃない? 主に飯テロに主軸を置いているような雰囲気の小説」
「……ですね」
僕の推論に二人が頷いてくれたところで、それまで黙って話を聞いていた町谷先輩が『ああ、なるほど』と声を上げた。どうやら町谷先輩も僕の考えに納得してくれたらしい。
「赤見が言いたいのはあれだろ? 未知の食材を開拓していくことに面白さを感じているコイツと、既知の食材で如何に美味しそうな料理を作り上げるかに楽しみを見出している出流原じゃ、食材に求める方向性が違うってことだろ」
「ですです!」
「……言われてみれば確かに。赤見くんの言う通りね」
「そうですね」
なんだかスッキリしたような表情で頷き合う二人をみて、僕も満足気にウンウン頷いてみせる。我ながら、ちょっと今回は役立てた気分で嬉しい。普段からこうならもうちょっと僕に対する評価も上がるんだろうか。……そうやって、すぐに底の浅い考えに行きついちゃう辺りがダメなんだろうなぁ。
「……ならあれだな。鉱物なんかも同じ理屈か」
「は? 何、急にどうしたのよ?」
「いやな、お前や出流原の話を聞いてたら、ふと思ったんだよ。異世界モノだと鉱物なんかもそんな感じだなって」
そう言って今度は町谷先輩が嬉々として語り出す。
……僕は知っている。常日頃、御神楽先輩のWEB小説トークに対して辛辣な受け答えをすることが多い町谷先輩だけれど、決して無視する事だけはしないということを……。何だかんだで、町谷先輩も語りたいということなのかもしれない。
「ミスリルだとかアダマンタイト、オリハルコンなんて異世界モノならド定番のファンタジー物質は別枠としても、生産が絡むようなストーリーだとオリジナル鉱石みたいなのがよくでてくるだろ?」
「あるわね。魔鉄とか火炎石とか聖光石とか、そういう感じでしょ」
「御神楽先輩。重力鉱とか雷石なんてのも定番ですよ!」
「あるわー。確かによくある。よくある、ね?」
「……あるある、な。お前、最近お笑いの動画とか観ただろ。具体的には二人とも眼鏡かけてる芸人のやつ」
「新展開だぁ!」
「ヤメロッ!」
ほらー、また先輩方だけでイチャつき始めたじゃないですかー! やだーーー!
……あれかな。これはもしや僕の覚醒待ちなんだろうか。今日という日をここに刻めばいいのだろうか。シソ○ヌのコントは魅力的なワードが多すぎて、隙あらば日常生活でも使いたくなるけれど、そんな機会は滅多にこないんだよね。ボクシングの話とか大好きです。
「……で、町谷先輩は結局なにを言いたかったんでしょうか」
とか何とか適当なことを考えていたら、出流原さんが第二形態へと移行しそうになっていた。これにはさすがの先輩二人もビックリ。……いや、学習しましょうよ。僕も人のことは言えませんけど。
「あー……。要はな、さっき奈穂美や赤見が言ったようなオリジナル鉱石に拘るなら──」
「待ってください! 町谷先輩って普段は奈穂美先輩のこと”なほみ”って呼んでるんですか!?」
「そこは今いいだろ…………って、出流原、お前もかっ!?」
なん…だと……!? なにそれ卑怯。出流原さんだけズルい。ここは僕も乗るしかない、このビッグウェーブに……っ!
「……第五話、『なほみ』」
「赤見までここぞとばかりに便乗してくるなっ! 俺はツッコミじゃねぇ!?」
やった! やったぞ! 言ってやったぜぇ!! ……なんかもう今日は満足です。あとは消化試合だな、これ。
僕と出流原さんが満面の笑みを浮かべながら額の汗を拭い、一仕事終えた感を演出しているのを先輩二人が微妙そうな表情で見てくるけど気にしない。
「……あたしやあんたが言えた義理じゃないのは重々承知してるんだけどさ、この二人も人畜無害そうな面して大概よね」
「さり気なく俺を同列に含めたことには異議を唱えるが、こいつら二人に関しては概ね同意だな」
あ、そういうのいいんで。続き話して、どうぞ。
「はぁ……。ともかく、俺が言いたかったのは異世界なのにどの物語でも金銀銅は必ず存在するし、扱いも大差ないなって話だ。けど塩や水と同じで、そこら辺の金属まで独自色を出しちまうと、色々と設定が面倒だろうし、そこに物語の主軸を置いていないストーリー構成なら別に構やしないんだなって自己完結しただけだよ」
どことなく黄昏たような雰囲気を醸し出す町谷先輩が、若干遠い目をしながら思いの丈を語ってくれた。
なんだか珍しく町谷先輩ターンだったのに、ノリと勢いだけで妙な雰囲気にしてしまった罪悪感が微かに……。ごめんなさい。
静まり返る部室の空気。申し訳なさから微妙に居心地悪そうにしている僕と出流原さん。そんな状況を見兼ねたからだろうか、御神楽先輩が思案顔でとある提案をしてくれる。
「ねぇ、物は相談なんだけど……」
結局、その日はWEB小説を読まず、備品のノートPCを使ってネット動画を漁り、同好会メンバーでコント動画を鑑賞するのだった。『別れ』のコントは笑って泣けて実に秀逸だと思う。