IS Let's make you a happy days 作:AK74
「さて、と」
目の前に迫るレーザーを[心眼]の弾道予測の補助を最大限に使い避けつつ、観客席の方を見る。
避難を終えているのか、誰一人として残っていない。
おそらく、簪や凪沙がロックされたドアをISで壊して無理やり道を開いたんだろう。
もう、時間を稼ぐ必要もないか。
そう考え、数発しか残っていないマシンガンを放り投げ、[白雪]を両腕で握る。
[白雪]の物理的じゃない重さに左腕が痛むが、気にしてもられない。
理不尽とも言える超攻撃力を持つ零落白夜が一撃入れば終わりだ。
「お遊びは終わりだ。ポンコツ、機械の限界を教えてやる」
[臨界]からスラスターと、[白雪]に出力過剰限界までにエネルギーを流し込む。
[白雪]がエネルギー刀に変化していくのを確認し、瞬時加速を最大出力で吹かす。
速度に気づいたのか、今までにないくらいの量のレーザーを放たれる。
だがな。
「簪の弾幕の方が何倍も濃かったよ!!」
一瞬で何十メートルもあった距離を詰め、発射準備段階だっただろう右腕を切り落とす。即座に[白雪]を翻し、振り抜く。右腕と下半身を切り落とすことに成功。
崩れ落ちるが、本能がまだだと告げてくる。
―――――敵ISの再起動を確認。警告。ロックされています
予想通り、まだ終わっていなかった。
最後の抵抗と言わんばかりに、バーストモードに変形していた残った右腕を俺に向けていた。
「悪いが、予想はできてたよ。
―――簪!!やっちまえ!!!」
「まかせて!」
敵ISの背後から俺たちがいる場所に向け、青白い光が撃たれたことを確認すると、全力でその場から退避、ギリギリで爆発から逃れる。
煙が晴れた時には、ISだった残骸だけが残るのみ。
「だからいっただろう?それが機械の限界なんだよ」
”ふん、倒したか。まぁいい。戻ってこい”
「了解」
通信を切ると俺はピットへと向かった―――
「あちゃ~。やっぱり壊されちゃったか・・・・・」
世界のどこかにあるラボ。そこで一人の女性――篠ノ之束が頭を書きつつ、モニターを眺めていた。
モニタリング先はIS学園。
つまりISを送り込んだのは、束以外の誰でもない。
ISの核たるコアを作れるのは束しかいないのだから。
「ま、あっくんが言ってたとおりだし、いいか」
ぼそりと呟くと、キーボードを叩き通信を入れる。
「あっくん、やっぱり言ったとおりの結果になったよ。やっぱりいっくんはISに関しては天才に値するかな?あの洞察力は凄い」
”そうか。アイツの事だからゴーレムくらいは倒せると思っていたけどよ。戦闘はどんな感じに進んでいた?”
「えーっと、まずは対戦相手を逃がして観客席の生徒を逃がすために時間稼ぎ、そしてそれが終わると瞬時加速を全力で使って、零落白夜で一閃。右腕と下半身を切断できたけど、左腕が残っている。
ソレは更識簪の単一仕様能力の援護で撃破。
気づいたかもしれないけど、一発の被弾も許していないよ」
”いいねぇ、初見でよくそこまでいけたな。俺でさえあれを倒したのはギリギリだったのによ。正直羨ましいかな”
羨ましいという声とは裏腹に、とても嬉しそうな弾んだ声が聞こえてくる。
よほど自分が育てた弟子がそこまで行ったのが嬉しいのだろう。
”やっぱりよ。あの時のより弱くしていたといえ、あっさり撃破されるってのもがっかりするだろ?あの無人ISだってお前からしたら大切な存在だろ?”
「・・・・・まぁそうだけどね。あそこまで強い相手と戦えて終わるならいいかなって」
”ま、お前がそこまで言ってくれるなら喜ぶだろうよ”
「・・・・ひとついい?」
”どうした”
「なんでそこに行ったの?そこには臨海学校の時に行くし、私が福音を意図的に暴走させたところだよ?特に理由があるようにも見えない。なんで?」
束にとって、つい最近向かった場所は、思い深いところだ。
上げきれないほどの思い出が詰まっている場所だが、そこまで都会でもない。
わざわざ急いでいく必要があるとは思えないからだ。
”・・・・・・・いいだろう。俺にだって用事はいろいろあるのさ。2年前のフランスでも、どこにでもな。それが今回の急用ってことだ。さっさと終わらせてIS学園に行かないと、一夏が大変なことになるしな”
「あっくん。もう遅いよ。左腕骨折してる」
”・・・・・・・・・・・・・・・謝っとくか。
あぁそうだ。お前に言っときたいことがあるんだった”
「何?」
”福音を暴走させるのはやめようと思うんだ”
「え?」
いきなりの言葉に言葉に詰まった。
”一夏は凪沙と幸せにくっついてんだろ?それに9月のこともある。アイツに死なれちゃ困るんだよ。一夏が死んだら泣くやつは沢山いるはずだ。凪沙ともうまくやってるんだ。恋人にいきなり死なれるのはどれだけ辛いかわかるだろう?”
「え、でも・・・・・・・・・」
”人は死ぬときはあっさりと死ぬんだよ。お前も分かる筈だ。俺だってそれを経験したんだ。凪沙にそんな目に合わせるのはダメだ”
秋羅の言い分もわからないことはない。
束自身、恋人を失った身だ。それがどれだけ辛いことか身にしみて理解できる。
だが、今更中止だと言われても困るだけ。
その日に向けて着々と準備をしてきたのだ。
今更・・・・と思うのも仕方ないだろう。
”安心しろ。紅椿はしっかり箒に渡せばいい。だがそのまま、あんなふうに渡すだけじゃ混乱を招くだけだ。だからIS学園で箒を鍛えてやり、第四世代機テストパイロットにふさわしい実力を付けさせればいいだけだ。だからお前は7日までに紅椿を仕上げてくれ”
「・・・・・分かったよあっくん。だけど1つだけお願いしていい?」
”なんでもいいさ。おれが出来る範囲でな”
「箒ちゃんのことお願い。いっくんと仲直りさせてあげて。いっくんの勘違いを直してくれるだけでもいいの」
”分かった。任せてくれ”
通信が切れる。
束は大きなため息を1つくと、モニターの電源を落とす。
「箒ちゃん・・・・・・・・・・」
束が見る先には、一夏たち織斑家と箒たちの篠ノ之家が楽しそうに笑い合っている写真があった。
一夏と箒。
その手は親友という言葉では言いきれないほどの友情を感じさせるかのように繋がれていた。
一夏は笑顔で、箒は不器用な笑みで。
「分かった。任せてくれ」
束にそう伝えると忙しいからという嘘をついて通信を切る。
「・・・・・・大変だなぁ」
今までも沢山しなきゃいけないことがあったけれども、これほどまでに大変だったことは一度もなかった。
これも9月が近づいている証拠というのだろうか。
見上げる先にはISの臨海学校では常連となりつつある、ひっそりと佇む1軒の旅館がある。
やっぱり懐かしいという感情が心を満たす。
20年ぶりかに見たのに変わっていないというのがなんとなく嬉しくもある。
福音が暴走したり、紅椿を初めて見たり、千冬と初めてキスをしたところだった。
懐かしくないわけがなかった。
だが決して遊びできたわけではない。ここにあの情報が本当ならいるはず。
そんな不確かなソレを確かめるためにここに来た。
いればいいそんな思いが心の隅に存在する。
いなければただの徒労でしかない。
だが、もしいるならば。
束が安心できるに違いない。それだけは確信できた。
不意に腕時計を見る。
既に30分が経とうとしていた。
「いない、か」
ここまで時間が経っているということはいないということなのだろう。
そう、思うしかできないと感じたときだった。
「よう。秋羅」
「・・・・・・・・・おせぇんだよ。シスコン」
居た。
織斑零夏が。
凪沙が謹慎部屋に入れられたと聞き、姉さんに抗議するも案の定ボッコボコにされた次の日。
「・・・・・・・・・・・・・何なんだよこの書類の量は?」
目の前のテーブルに積み上げられた書類の量は、向かいに座る虚さんの顔すら見えなくなるほどだ。
なぜ、こんなに書類があるんだ・・・・・・・
「ごめんなさい一夏君。お嬢様があまりこの手の仕事をしなくて・・・・・・・、他にも優勝賞品や参加賞はどうなっているとかの抗議のとかいろいろ・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・凪沙、あまり仕事していなかったのか」
「ごもっともです」
喋りつつも俺たちはペンを動かす手は止めない。そうでもしないと期限までに終わりそうにもない量があるからだ。
凪沙に言って少しでも仕事するようにしてもらおうかなぁ・・・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カリカリカリ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カリカリカリ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カリカリカリ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
カリカリカリ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・だぁぁぁぁぁぁぁっ!!やってられるかこんなもん!!!」
「・・・・・・・・・・一夏君、それ言ってしまったらおしまいですよ?」
「ウッ」
確かに虚さんの言うとおりなのかもしれないけれども、俺はこんな仕事ははっきり言って苦手なんだい。
細かい事が嫌いだ。これには異議は認めさせない。
「・・・・・・・・・・多い、ですねぇ」
(ぐぬぬぬぬぬ)
ため息をつく虚さんは、と~~~っても大変そうだ。
「・・・・・・・毎日じゃなければ手伝いに来ますよ」
「ほんとですかッ!?」
がばぁッ!!と俺に詰め寄って手を握り、ブンブンふり回され俺は、苦笑いする他なかった。
「久しぶりだな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・フン」
それだけで言葉が続かなくなった。
十数年じゃ聞かない長い期間を得ての再開は余りにも長すぎた。
だが、その長い沈黙を破ったのはシスコンと呼ばれた人物、零夏だった。
「なんの用だ。お前がここに来たってことは探し当てたんだろうな?」
「・・・・・まぁ、な。最初、お前が居るかもしれないって知って確かめたくなった。今まで一夏はアンタの”生まれ変わり”だとばかり思っていたからな」
「一夏・・・・・・。あぁ、世界初の男性IS操縦者と言われていた奴か。確か千冬の弟なんだろ?」
「あぁ。性格に難アリ、だけども」
「難アリ?」
そこに疑問を抱いたのか、零夏が怪訝な表情になる。
秋羅からすれば、その顔もひどく懐かしい。
「おう。アイツはガキの頃にいろいろあってな。人とのコミが苦手なんだよ」
「・・・・・・・俺に似てるな。そんな所」
「正直、アンタにに過ぎていたから総錯覚したのかもしれないんだよな」
「フン、一夏という奴はもういい。ここに来た理由を教えてもらおうか」
秋羅はいきなり言われ、一瞬だが言葉に詰まる。
いざあってみれば、なんて言ってやろうか、と考えていたことがすっかり頭から抜けていた。
「・・・・・・・・・束に会う気はないか?」
だから、単純にいうことにした。
「・・・ッ」
束。
その言葉で冷静な態度を貫き通していたのが崩れる。零夏にとって、束という存在は余りにも大きすぎる存在だったのだから。
「アイツは荒れたままだ。お前があの日死んで以来、ここでもずっとな。表面上はいつものアイツだ。だけど心の奥底じゃお前を求めてる」
「・・・・・・・・俺の存在はまだ教えていない訳か」
「そうだ。まだ教えてはいない。お前はもうアイツのことを覚えていないとか言うつもりはないよな?」
「そんなはずがないだろうが。俺の大切な人だったのに忘れる奴が居るか。忘れたことなんて一度もなかったさ」
顔を秋羅から背ける零夏だったが、その顔は先程までの冷静だった面影はどこにもない。
何かを、こみ上げる何かをこらえているかのようだった。
「なら会いに行ったらどうだ?今更遅いも何もな―――」
「仕事がある。帰れ」
言葉を遮り立ち上がると零夏は無言で歩き出した。
その姿は現実から目を背けているかのようだ。秋羅の記憶じゃ、こんな姿を見たことなんてなかったはずだ。
「9月。アンタはどうするんだ?逃げるのか」
「・・・・・・・・・・俺にそんな権利なんてないんだよ」
それだけを言うと零夏は立ち去ってしまう。なぜかそれを止めることができなかった。
「・・・・・・弱くなりすぎだって」
誰にも聞こえないはずなのに、ぼそりと呟いた。
これで一応一巻分は終わりです。
あと、感想をもらえるとありがたいです。