IS Let's make you a happy days 作:AK74
「っあ・・・・・・・・」
がくんとISを装着しているのにもかかわらず膝から崩れ落ちる。疲労のせいで体中まともに動いてくれない、それに焦点すら定まらなくなりかけていた。
「どうした一夏。早く立つんだ、倒れたからといって敵は待ってくれないぞ」
姉さんは化け物か。そう言いたくなる位無茶苦茶な強さだった。改めて世界の頂点に立つものの実力を感じる。そしてまだ本気どころか、試合時特有の張り詰めた気迫がなく、あしらわれているのは誰から見ても分かる。
「うぐぁっ・・・・・・!」
打鉄の初期装備の近接ブレードと杖に体に鞭打ってどうにか立ち上がる。たったそれだけの動作で息が上がり、姿勢制御がおぼつかなくなり倒れかけるが、根性で耐える。
「それでいい。さぁ構えろ、まだ休憩の時間じゃないぞ。まだ1時間もある」
(まだ・・・まだぁっ・・・!)
口答えする気力すらないなか、長い時間をかけてブレードを構る。秋羅兄なら容赦なくこんな状態でも打ち込んでくる分、まだ甘い方だ。
視界の端に、へたり込んだ凪沙たちの姿が見える。皆俺の訓練に付き合ってもらった結果だ。
ただ、俺が撃破した訳じゃない、全員が長時間にわたる訓練による疲労でへたり込んでいるだけで、(内二人が目を回している)。
5時間渡る訓練をかけても誰一人として撃破出来なかった。いい所でエネルギーシールドを3割削った程度、悪いときなんて何も出来ずに撃破されたこともある。
このメンバーで俺が誇れるのは、この馬鹿げたとまで言われる体力だけだがそれも限界を通り越している。
「一週間でできる事など皆無に等しい、できる事をやると言ったのはお前のはずだ」
「わかっ・・・てる・・・・・・!」
できる事。それは限界近くで訓練を続け体力を底上げし、30分しかないオルコットとの試合で常に全力を出せるようにする事。
これ位しか手段がないが、単純でシンプルだからこそ有効な事だってある。それにこの訓練に近いような事ならば、散々秋羅兄にやられてきた。
もうここまで来ると、集中が切れ掛かっていてなおかつロクに力もこめられない、そのため一瞬でも姉さんから目を放せば、即撃破に持ち込まれてしまう。
そのため集中を切らす事ができない。時間がたてばたつほど、勝ち目がなくなっていくような無茶苦茶な訓練だ。
「よし行くぞ」
もう何度目か分からないほど聞いた言葉を姉さんは口にして、訓練の5時間を感じさせない速度で突撃してくる。
「ッ・・・!」
とっさに真横へとスラスターを吹かし回避し正面に姉さんを捕らえる。避けられたのは殆どカンでしかない、何度も喰らっていてようやく掴んだ感覚だ。
「甘い!」
――――ッ!!??
瞬きする前までは姉さんの背中が見えていたはずなのにもかかわらず、次の瞬間には極至近距離
”姉さんのもっとも得意とする戦闘距離。そして姉さんに一番許してはいけない間合い”に踏み込まれていた。
「くっ!」
とっさに姉さんから遠ざかるようにスラスターを吹かそうとするが、この間合いを許した時点で終わりだった。
素直に回避をあきらめ迫り来る一太刀を完全とは言わない、ただ直撃をだけは防ぐために左上に限界までブレードを握り締め、振り上げる。
(側面ならッ!)
何も刃同士をぶつけ合う必要なんてない。どんなに速くても、側面から一撃を入れればいくらか軌道は逸れ、隙が出来る。そう思ったとき。
「!?」
IS俺に接続しているハイパーセンサーがニヤリと笑う姉さんの顔を捉えた。
その時、振り上げたブレードがむなしく”空を切った”
「まだまだだな、一夏」
その言葉を理解するよりも早く、がら空きとなった懐に、強固なISのシールドをもってしても防げない衝撃が走り、気が付けば俺はアリーナの地面に仰向けで倒れていた。
(はは・・・指の一本すら動かないや)
この状態じゃISを動かすイメージすら出来ない。自力でISを解除するのはたぶん無理だ。
・・・・・・・・・・空、青いなぁ・・・。
「ち、千冬さん。無反動180度回転(ゼロリアクターン)と短期加速(ショートイグニッション)の組み合わせはさすがに・・・・・・」
声からして凪沙だろうか?姉さんに何か言っていた。
「何を言っている更識、一夏は限界を試すと言ったんだ。それなら、それに最大限に答えるのが礼儀だろう?」
「それは・・・そうですけど・・・・」
この調子じゃ自力で部屋に戻るどころか、歩く事すらできない。どうしようかなぁ・・・・・・。
「ほら一夏、さっさと立て。休憩はまだ先だぞ」
「・・・・・・指の、一本・・・動かせ、ない・・・・・・」
「軟弱者が」
ガツンッ!!
「ガハッ!!??」
いきなり腹部にぶち込まれたかかと落とし、ISのシールドがあるからどうって事ないだろう。
――――そう考えていた時期が俺にもありました。
割とマジでそう考えていたが、姉さんには常識が通用しなかった。ISのシールドがあったのにもかかわらず、生身で受けたような衝撃。戦車の主砲すら防ぐシールドがあったのにもかかわらず。
「グフッ!ゴホッ!」
「一夏っ!?」
動かせないと思っていた体が無意識に動いてうずくまる。呼吸がまともに出来ず、目の前がちかちかと光りまともに見えない。
「千冬さん!さすがにやり過ぎですよ!」
「これくらいでへこたれているようじゃ、オルコットには到底勝てない。この程度じゃ一方的に弄られて終わる、勝つ事など無理だ」
さすがにこの言葉でカチンと来た。ただ姉さんにカチンときたわけじゃない、これだけやっても”勝つ”ことに届かないおれ自身に。
絶対に”勝ち”たい。
絶対に”負け”たくない。
(負けて・・・たまるか・・・!)
そう思うと倒れてなんていられない。
「一夏?」
「負けたく・・・・ねぇんだ・・・!」
火事場の底力と言うのか限界のはずなのに、いくらか余裕が出来た気がする。
――――まだ、いける。まだ、戦える。
PICを使わず2本の足でしっかりと地面に立ち、酷使して所々傷が残る近接ブレードを構える。
「凪沙、危ないから離れてろ」
「でも・・・・・・」
「大丈夫。まだ戦える」
凪沙を俺の近くから離れさせる。やろうとしているのは単純だ、姉さんと戦うだけ。
そんな俺を見た姉さんは満足そうに笑う。
「いいぞ一夏、お前の限界を出し切るんだぞ」
とてつもない疲労の割に自然と体が、思考が冷静になってくる。
そうだ。秋羅兄が言っていたじゃないか
”どれだけ冷静に対処していくかが、勝つための鍵だ”
正面に姉さんの姿を捉える。
いつか絶対に超える目標。
こんなところでつまずいていたら、絶対に届かない。足元どころか、その姿を見る事さえかなわない。断言できる。
「こい!」
その言葉と同時にスラスターを吹かして姉さんに突撃し、ブレードを力の限り振るう。
そして幾度となく、吹き飛ばされた。
「先輩。織斑君はオルコットさんに勝てるんですか?」
「ん?」
夜、書類を片付けていると山田先生がそんな事を言ってきた。
ふむ、気分がいいことだし答えるとしよう。(注・理由はお察しください)
「いきなりどうしたんだ?」
「心配なんですよね、織斑君。オルコットさんは代表候補生で、織斑君はISに触れて1ヵ月もない上に、練習期間が一週間だから勝てるのかなって」
「大丈夫だと私は思っている。少なくとも、一方的にやられる事はないだろう。それに、一夏は更識簪と戦い、3割エネルギーを削ったからな」
「え?簪さんって代表候補生ですよね!?それで3割!?」
「そうだ。姉の凪沙に対しては2割もだ、到底じゃないがIS初心者に出せる記録ではない」
「・・・・・え?こ、国家代表から2割も・・・・・・?」
「だろう?そこまで行くとは私も思っていなくてな、驚かされた。一夏はまだまだと言って、自分がしたことのすごさをまったく理解していないが・・・」
国家代表は名前の通り、その国最高のIS操縦者という事。それになるのには並大抵の事では慣れない。あまりの厳しさに、候補生どまりのままという者が殆どになる。
その厳しさから分かるように、国家代表はそこらへんにいるIS乗りとは実力が違いすぎ、話にならないほどだ。
それなのにも関わらず、一夏は3割と言う驚愕の量を削り取った。相手は専用機、自信は訓練機なのにも関わらずだ。
普通なら手も足も出ないで終わる。代表が本気を出せばなおさらだ。
そして更識は一夏と”本気”で戦っていた。
この事をIS委員会に報告でもすれば、混乱するのは間違いない。
「一夏は将来化ける・・・・・・。これまでに例がないほどにな」
「だけど、そうしたら絶対に問題が起きますよ?」
「その通りだ。ISは女にしか使えないはずなのにもかかわらず、出現したイレギュラー。それが世界の頂点に立つことがあれば」
「世界が揺らぎますね・・・・」
「まったくだ」
まだ未来の事なのだが、心配で仕方ない。もしかしたら”私では勝つことが出来なるかもしれない”そう思えてならない。
「まぁ、まだ先の事だ。今心配しても仕方ない。それでどうだ?ここまで聞いてもまだ心配か?」
「いいえ。なんだかオルコットさんがかわいそうになってきました」
「ふふっ、勝つかどうかはその日になってみないと分からないがな」
――――一夏、お前は何処まで行けるんだ?
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
一人の女性の視線の先には、少し灰色のかかった白のボディを持つISが一機あった。
空色のワンピースにエプロン。ついでにウサミミヘアバンドという出で立ちは、紛れもないISの開発者”篠ノ之束”だった。
今の篠ノ之束の姿を、彼女を知る者が見たとしたら驚愕の表情を浮かべるのは間違いないことだろう。
なぜなら束は”目の前のISを目にして”悩んでいる”からだ。
普段の天真爛漫で他人には興味を示す事のない姿からは、想像もできない。唇をかみ締め、目を伏せているなど”普段”の束なら見れない。
「まだ悩んでいるのか束。もう作っちまったんだろ?後戻りは出来ないぞ」
「それは・・・・・・分かっているんだけどね、あっくん」
あっくんと呼ばれた長身の男は目を閉じて、腕を組んでいるだけなのにもかかわらず、威圧感があった。
「束。お前がそのISに途方もないほど思い入れがあるのは分かる、どうせ一夏にあげていいのか迷っているんだろ?」
「・・・・・・うん」
男は意図もたやすく束の心情を読み取り、そして続ける。
「そのIS”白騎士”だっけか。初めて作ったコアを核に、そのアーマーから武装。しまいにはその名前をつけた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「まだ、振り切れていないな?あのシスコンのこと」
「”れーくん”のこと悪く言わないでよ。確かに”れーくん”シスコンだったかもしれない、でも初めて私を対等に見てくれたんだよ?自分の未来をつぶしてまで」
「未来、ねぇ。確か自分の親殺したんだよな、事故に見せかけて。必要ないって言われた妹を守るために、か」
「うん。”れーくん”は優しかったのに親はクズだった。自分の都合で子供の未来を勝手に決めてさ、いらないからって娘を殺そうとしたんだよ?」
男がわしゃわしゃと頭を掻いた。
「・・・・・・なんで俺等しかいないんだろうな、この世界に。もうあれから24年か、精神年齢と体があってねぇや。今頃あんな事がなけりゃ、俺はおっさんか・・・」
「あっくんは”れーくん”の妹を目の前で殺されてもうそんなになるんだ・・・・・・」
「まぁ・・・な。気が狂いそうになったよ。でもそのときには俺も一緒にやられて、今にいたっちまった。今年の9月か」
「あっと言う間にあの時と同じ時間になっちゃったんだね」
「そうだな・・・・・・。アイツらには隠して、裏で色々やってきたけどあんまり効果なかった。ムダだったよ今までが」
「”白騎士”いっくん使いこなせるかな?」
「さぁな。それは一夏しだいだ。一応アイツの事は鍛えてきた、一夏を利用してるってことは分かりきってんだけどな・・・・・・」
「”れーくん”何処にいるの・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・?」
その言葉はあまりにも小さすぎて、そばにいた男にすら届く事はなかった。
行方不明の恋人を想う。そんな姿を束はしていた。
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