異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake 作:白華虚
個性把握テストが終了し、いよいよ緊張の結果発表が訪れる。
相澤は、口頭ではなく、端末を使ってその結果を一斉開示した。
「……おっ、1位か」
1位に自分の名前を見つけ、出久はガッツポーズする。
「まあ、当然だわな」
そんな自分の幼馴染に、笑いながら爆豪も声をかけ、2位に自分の名前を見つけては同じくガッツポーズしたのであった。
そして。
「あ、ああ……。オイラが……オイラが最下位……」
最下位に自分の名前を見つけた実は、真っ白に燃え尽きて膝をついていた。
出久は、そんな彼を一眼見て可哀想だな、とは思うも、未来を知っているのでそれまでである。
そんな燃え尽きた峰田を見ながら、相澤はポツリと呟いた。
「因みに、最下位除籍は嘘な。君達の全力を引き出す為の合理的虚偽だ」
『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
「見事に引っかかってくれてありがとう」とでも言うかのような笑みを浮かべた相澤に言われ、生徒達の叫びがグラウンド中に木霊する。
__まあ、"最下位除籍は嘘"っていうのが嘘なんだけどね__
出久は感情を感知出来るが故、そのことも知っていたのだが、安心した生徒達を再び絶望させて、上げて落とすようなことはしたくなかったので黙っておくことにした。
また、爆豪も何となく出久が知っていたことと同じことを察していたので、「嘘つけ」と呟いていたのであった。
★
そして、放課後の自由時間を迎えるや否や……。
『緑谷ぁぁぁ!お前の"個性"を教えろぉぉぉぉぉ!』
「うわぁぁぁっ!?朝の光景の繰り返しぃ!?」
彼の"個性"を既に知っている心操と爆豪、それと孤高の狼のような雰囲気を漂わせる、右側が白、左側が赤い髪が特徴のサラサラヘアーの少年、轟焦凍以外の全員が詰め寄ってきた。
まあ、当然こうなることも出久にとっては予想済みであるし、知っていた。
出久は取り敢えず彼らを落ち着かせてから、自分の"個性"について説明を始めた。
「えーっと、僕の"個性"は"異世界巡り"って言ってね。ランダムに選ばれた、僕のいる世界とは別の世界に住む8人の人達の精神に入り込んで……その人達の人生を経験出来る"個性"だよ。そこで経験したことは、全部自分に蓄積されて反映出来るんだ」
「へえ……なんか凄え面白そうな"個性"だな」
「因みに、僕が色々使っていたのは、その人達が扱っていた力な訳だけれど……僕の"個性"はあくまでその力を"使う"ことじゃなくて"蓄積する"ってだけだからね。そして、僕の"個性"って色々特殊らしくてさ。例えば、"個性"を消されたり、無効化されるようなことがあっても、蓄積した力自体は消せないってお医者さんが仰ってた」
「チートかよ……!?エグいぞお前!」
「8人か……。それ以上に力を蓄積したり出来るのか?例えば、二段階目がある云々みたいな感じで。"個性"も、使えば使ったりする程進化したりするもんだしさ」
"個性"が"テープ"であり、セロハンテープのロールのように変化した肘が特徴の少年、瀬呂範太が尋ねた。
「うーん、どうなんだろう……。僕自身もこの"個性"についてよく分かってないんだ。何せ、この"個性"発動条件が特殊過ぎるんだよ」
「特殊?扱いが難しい"個性"なの?」
元気に腕をブンブンさせながら、葉隠が尋ねる。
「扱いが難しい……ってよりリスクがでか過ぎるんだよね。何せこの"個性"さ、僕が
『は!?』
あまりにも重過ぎる条件に、生徒達は息を呑んだ。
「ケロケロ……辛いことを聞いたらごめんなさいね、緑谷ちゃん。今、貴方が力を扱えるってことは一度は"個性"が発動してるってことでしょう?何があったの?」
恐る恐る挙手して、申し訳なさそうな顔をしながら蛙吹が尋ねる。
「気遣ってくれてるんだね……ありがとう、梅雨ちゃん。えっと……中学3年の時にさ、僕を無個性だからっていじめる奴らがいて、学校の屋上から突き落とされてさ。大怪我を負って死にかけたんだよね。それが原因」
「!」
出久は、過去の事実を捏造しながら話した。というのも、このクラスの人達は皆優しいし、真実を知ったとしても今や変わり果てた爆豪を見て、彼を許してくれるだろうが……それでも自分の幼馴染が責められるのは見たくなかったのである。
__ごめん、出久。気ィ遣わせちまった__
彼を自殺に追い込んだ原因を作った張本人である爆豪は、彼が自分を庇ってくれていることを悟り、申し訳なくなって内心で謝罪した。
「……成る程な……。条件が満たされず、"個性"が発動したこともなかった故か……」
出久が無個性だと言われていた原因を察した障子が呟く。
「うん、そういうこと。まあ……いじめられてる原因は、無個性でヒーローになりたいって言いながらも、体を鍛えすらもしていなかった僕にもある訳だけど」
『え……』
出久は、自分のリュックから長年愛用する分析ノートを取り出しながら言った。
「僕、4歳の頃からずっとこういうノートを書き溜めてるんだ。無個性だったけれど、ヒーローを諦めきれなくて、現実から目を逸らしたくてさ」
「将来の為の分析ノート……。ごめん、緑谷君。私達も見ていい?」
「ん、いいよ」
「ありがとう」
麗日がその中身に興味を持ったらしく、ノートを見ていいかを尋ね、出久は許可を出し。
無事許可が出た為、麗日はそのノートを開いて1ページ1ページをめくっていった。他の生徒達もその中身が気になるのか、彼女の背中越しにノートを覗き込んでいた。
「凄っ……!凄すぎるわ、これ……!」
「ああ……。少なくとも、現実から目を逸らそうなんてだけで作り上げられる物じゃないぞ……!」
「……!」
「そりゃ緑谷が強くなる訳だ……」
ノートを覗き込む全員が、感嘆の声を漏らし、出久の分析力に脱帽する。
現実から目を逸らす為の努力ではあったものの、それを否定しないクラスメート達の優しさに、出久は感謝した。
「いじめる当事者達からすれば、生意気にも程があったんだろうね。『ほぼ諦めてるも同然のくせして、無駄な努力をするなよ』って感じで。"個性"を通して8人の人達に出会うまでは、僕はそんな小心者でしかなかった」
(……そうか。昔のお前と俺は……同じだったんだな、緑谷)
心操は彼の話を聞きながら、かつて彼が自分に手を差し伸べてくれた理由が分かった気がした。
他人を蹴落としてでも這い上がらなければならない。それを理解しつつも、周りから『
出久は、心操にかつての自分のようにはなって欲しくなかったのかもしれない。何より心操の場合、出久よりもヒーローに対する執念が強かった。
そんな彼が、ヒーローになれないのは惜しいと、そう思って放っておけなかったのかもしれない。
__ありがとな__
それに気づいた心操は、恩人に礼を述べていた。
「でも……僕は彼らがいなければ、"ヒーローは初めっからヒーローじゃない"っていう大切なことに気が付けなかった。だから彼らには……感謝してるよ」
そう言って、笑顔を向けた出久を見て、皆は確信した。
__目の前で彼に救けられた耳郎も、手を差し伸べられた心操も、彼に全てを許された爆豪も、彼の姿を動画を通して見た他の者達も。
かつては皆、彼のことを絶望を照らす、眩しい太陽だと思っていた。例えるならば、オールマイトのような。
しかし、今……彼の陰りのある笑顔を見て、それは違うのだと確信した。
__彼は、眩しい太陽ではない。闇の中に静かに、淡く光り輝く月なのだと__
暫しの間、教室に沈黙が流れる。それを破ったのは……耳郎だった。
「ねえ……そんな緑谷を変えてくれた人達のこと、ウチは知りたいな……」
「!いいよ。皆、僕の恩人なんだ。皆にも、是非とも彼らの話を聞いてほしい」
陰りのない、優しい笑みに戻った彼を見て、生徒達は皆ホッとしながら、彼の話に耳を傾けたのであった。
★
そして、しばらく教室に滞在していた所、相澤にそろそろ帰るように声をかけられたことで、各自連絡先などを交換してから解散した。
帰ろうとする出久に一番最初に声を掛けたのは……。
「ねえっ、一緒にいい?」
幼馴染の爆豪でもなく、共に訓練をして親しくなった心操でもなく、クラスの中でも一際彼と親しい飯田と麗日でもなく、耳郎だった。
「!やっぱり君、あの時の……。うん、いいよ。そういえば、まだ名前聞いてなかったよね。僕は緑谷出久。君は?」
「ウチ、耳郎。耳郎響香。宜しくね、緑谷」
「うん、宜しく!」
そんな風に会話を交わす2人を、出久に鍛練を付けられた者同士として仲良くなった爆豪と心操はそっと見守っていた。
「……耳郎のあの顔よ、出久に思う所がありそうな顔だよな」
「ああ。なんつーか、色々感情が絡まってる感じだな」
そして、いつの間にやら飯田と麗日もその様子を見守っていたようで、2人も同じようなことを思った。
「うむ、積もる話がありそうな感じだ。2人共互いの顔を知っているようだしな」
「そうやねえ。私達は私達で帰ろっか。それに、耳郎さん……緑谷君のこと話す度にチラチラと気にしとる風だったもん」
「へえ……」
「後、個性把握テストの長座体前屈の時にさ、緑谷君が芦戸さんと葉隠さんに囲まれとる時あったやん?その時も、なんか羨ましそうにしとったもん」
「ふむ……同じ女子である麗日君が言うのなら、きっとそうなのだろうな。ここは2人きりにして時間を作ってあげた方が良さそうだ」
「そうだな。それがいいだろ」
「出久も隅に置けねェ奴だな」
そして、出久と帰ろうとしていた4人は空気を読んで4人のみで帰ることとなり……彼は耳郎と2人で帰ることになった。
「……緑谷、ウチのこと覚えてくれてたんだね」
「そりゃもう。ヒーローらしく救けた人は、君が一番最初だから」
耳郎は、それを聞いて嬉しくなった。
そして、自分の変化にも気がついている。何せ、彼を見る度に動悸が止まらない上、チラチラと彼のことばかり気にしてしまう。
__やっぱりウチ……好きなんだ__
耳郎は既に、出久に対して恋愛感情を持っていることを確信していた。
だからこそ、誰よりも早く彼に声を掛けたし、陰りのある笑顔を見せた彼に対して不安に思い、気にかけた。
さっきからドキドキしてばかりで頭が真っ白になりつつある耳郎に、出久の方が声を掛けた。
「やっぱり耳郎さんもヒーロー志望だったんだね。あの時はびっくりしたよ、『また会える?』って聞かれたもんだから」
「!そ、そっちまで覚えてなくていいから……!」
出久の発言で、恥ずかしいことを思い出してしまった耳郎は、すぐさま顔を耳を真っ赤にして、その顔を両手で覆ってしまった。
顔を覆ってしまった耳郎を見ると、出久は度々、彼女が他人とぶつからないように彼女の華奢で小柄な体を自分の方に寄せてやった。
「ッ!?ちょっ、緑谷!?」
耳郎側からすれば、好きな相手に突然触れられているのだ。たまったものじゃないだろう。
そんな彼女に、出久は微笑みを向けながら言う。
「ごめんよ、耳郎さん。でも、余計な世話焼くのはヒーローとして当然だし」
「……ズルいよ、あんた……」
彼の微笑みを見ながら、聞こえないようにと耳郎はそっと呟いた。
そして、同時に言わなければならないことがあったのを思い出した。
「そうだった……。ね、緑谷」
「ん?」
「…………大丈夫?どうしようもなくなったら言ってよ。ウチら友達だし、ヒーローになるんだし……あの時、あんたがやってくれたみたいにウチもあんたのこと救けたい」
少し悩み、どう言うべきかと言葉を絞り出した結果が……その言葉であった。
それを聞いた出久は、微かに目を見開いた。
__そっか。気づいてくれてるんだ、耳郎さん__
その言葉の意図を、出久は察している。
実の所、出久自身にも自分の心に陰りがあるのは気がついている。真っ当なヒーローというより、ダークヒーロー。自分はそんな狂気じみたものを持っていると、自覚している。
それに気がついたものは、今まで誰一人いなかった。彼の笑顔にはたまに陰りが生まれるのだが、オールマイトも、自分の母も、周りにいる者は誰もそれに気がつかなかった。
幼馴染である爆豪すらも、それに気がついたのは今日が初めてである。こうして自分を気にかける発言をしてくれたのもまた、耳郎が初めてだ。
「……ありがとう、耳郎さん。気づいてくれたんだね」
「だって、あんたの笑顔……たまにどこか曇ってるんだもん……。それを見たら分かるよ。色々含みがあるのは」
気がついて気にかけてくれたこと、それだけがただただ嬉しかった。今はまだ友達でしかないかもしれない。でも……確実にこの感情は変化するだろうと、出久は確信めいたものを持っていた。
「……じゃあ……気がついてくれた君の前でなら……弱くなったっていいのかな……」
優しい笑みを浮かべながら、一人呟く出久だったが、聴力もいい耳郎の耳は、その呟きを捉えた。
「いいんじゃない?ウチが全部受け止めるよ。支えてあげる」
耳郎は、心を嬉しさで満たしながら、愛おしそうに彼の手を握り、出久もまた、暖かいものを感じ取っていた。
「……返事はまだ待っててね」
「へ?」
「受け継いだ力のことも説明したけどさ、忘れてない?僕が感情も察知出来ること」
「あっ…………」
「もしかして、忘れてた?」
「うん……すっかり忘れてた……」
「ふふ。可愛いね、耳郎さん」
「う、うるさい!ウチは可愛くなんかないから!」
「そんなことないと思うけど。……あ、言い忘れてた。耳郎さん」
「なっ、何?」
そんな会話を交わした後に、出久はふと思い出したようにそう言って、彼女ににこやかな笑みを向けた。
「頑張ったね。怖いのを我慢しながら女の子を庇った君は、凄くかっこいいヒーローだったよ」
「っ〜〜〜!?」
そう言われた耳郎は、真っ赤に染まった顔と耳を必死に逸らし、
(ほら、やっぱり可愛いじゃないか)
出久は内心で一人呟きながら、満足そうに笑っていた。