異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake 作:白華虚
放課後。出久は爆豪が大抵オールマイトと密かに会話を交わしている場所でもある仮眠室に呼び出しを受けて、そちらに向かった。
「失礼します」
「やあっ、緑谷君。わざわざ来てくれてありがとう」
実際に室内に入ってみれば、そこにいたのはソファに腰掛ける根津に、相澤。それと……トゥルーフォームのオールマイトだ。
「オールマイト、そちらの姿で大丈夫なんですか?」
彼にとって、こちらの姿を知られるのは好ましくないことだと知っている出久はソファに腰掛けながら尋ねた。
「ああ。大丈夫さ、緑谷少年。雄英のプロヒーロー達は皆この姿のことは知っているからね」
「……やっぱ緑谷は既に知ってたんだな。因みに、爆豪がオールマイトさんの弟子だってのも校長のカミングアウトで知らされてるから悪しからず」
「成る程、そうだったんですか」
相澤の発言を聞きながら、チラリと根津の方を見ると、「''個性''の継承の件は話していないから大丈夫なのさ」と目線のみで伝えていた。
「ありがとうございます、校長先生」と出久もまた目線のみで伝えた後、早速話し合いに入った。
「緑谷君。これが雄英のカリキュラムな訳だけれど、どう思うかな?」
「拝見します」
根津からの手渡しでカリキュラムを受け取った出久は、ここ1週間のカリキュラムを重点的に見ていった。その中でも出久が注目したのは……2日後にUSJという施設で行われるという救助訓練だった。
「あの、校長先生。USJっていうのは……」
「雄英の校舎から少し離れたところにある施設だよ。嘘の災害や事故ルーム……略して、USJと我々は呼んでいるのさ!」
(……権利的に大丈夫なんでしょうか、それ)
某有名なアミューズメントパークと略称が同じであり、権利的な問題を気にしたのは置いておくとして、出久は引き続き根津の話に耳を傾ける。
「その名の通り、災害や事故現場を再現したゾーンがいくつかあってね。救助訓練を行う際に活用させてもらっているよ。緑谷君、やはり君も……襲撃を仕掛けてくるならそこだって思ったんだね?」
「はい。見る限り、A組が単独でここを使用するみたいですし……僕が挙げた条件にも当てはまっていますし。それと……
「!本当か!?」
相澤の声に頷きながら、出久は続ける。
「相澤先生には少し申し上げましたが、校舎に侵入してきた二人からはオールマイトに対しての強い殺意を感じました」
「!言ってたな……。つまりは、クラスが単独しかいない上、授業を担当する教師も少なくなる。更に担当教師の中にはターゲットとなるオールマイトさんがいて……」
「邪魔者は少なくなるから、私を殺すのに最適のタイミングってことだね?」
出久の言葉を思い出した相澤の発言に続き、オールマイトが言う。二人の考え方に「その通りです」と出久は頷いた。
「そういうことならば、襲撃を仕掛けてくる理由も十分にあるってことか……」
「はい。あくまで可能性が高いって話ですけれど。僕の未来予知は、せめて5分前にならないと発動しませんから……それに頼るという選択肢は無しにした方がいいと思います。備えあれば憂いなしともよく言いますから、対策するに越したことはないです」
「そうだね。緑谷君の言う通りだ。スケジュール上の調整が難しいところもあるけれど……最大限の対策をしよう」
その後、何十分にも渡って小会議が繰り広げられ、救助訓練にはスペースヒーロー''13号''を同行させることに決まった。たった2日の猶予しかない故、スケジュール調整を行って他の教師も同行させるということはどうにも難しいことだった。いざ襲撃された時には、対応出来る者で対応するしかないだろう。
「今出来るのはこんなところか……。相澤君、オールマイト。我々雄英が
「勿論です。生徒達を危険な目に遭わせる訳にはいきませんので」
「そして、緑谷君。もしもの場合には君にも動いてもらうことになると思う。生徒の君にまで重荷を背負わせてしまうことになるけれど、どうか生徒達を守ってあげておくれ」
「ええ。許可証を受け取った時点で了承済みですよ」
「!……そうかい……。ありがとう」
「緑谷、わざわざ放課後に時間取らせて悪かったな。今日は帰っていいぞ」
「了解です。では、失礼しました」
出久が仮眠室を出た後、組んだ手を額に当て、肘をつきながらオールマイトが溜息を零した。
「……どうしたんですか、オールマイトさん。急に溜息を
「いや、私もまだまだ未熟だって思ってね……。なんということだ……。今更になって、緑谷少年の陰りに気がついてしまった……!」
相澤に尋ねられたオールマイトが言及したのは、出久の持つ陰りについてだった。「何故もっと早くに気がついてやれなかった」と後悔丸出しで、彼は何度か呟いている。
そんなオールマイトを見ながら、根津も注いだ紅茶を口にしてから彼の担任である相澤に尋ねた。
「成る程、その事だったかい。私もさっきの緑谷君の笑顔を見て気がついたばかりだったよ。……相澤君は?」
「個性把握テストの時点で気がついてましたよ。校長先生やオールマイトさんも、彼奴の出てる動画をご覧になっているでしょうが……あの動画で彼奴は言ってるんですよ。『俺はそんな理不尽な格差のない社会を創り上げる為に戦う。あんたのような人の心をも救えるヒーローになる』と」
「対峙した
相澤もまた根津の注いだ紅茶を口にし、一息おいてから言う。
「……まあ、幸運なことがあるとするのなら……。彼奴自身も自分の陰りに気がついていて、必死に足掻いていること。陰りに気が付き、彼奴を支えようと動いているクラスメートがいることですかね」
「そうか……緑谷少年は、素晴らしい友を持ったな……。私達がしっかり彼を見守り、正しく導いてやらないとな。緑谷少年の目は、本気の目だ」
「そうだね。オールマイト、まるで君が平和に懸ける執念のようだよ」
「……否定出来ません」
「まあ、何にせよ……彼奴程の人材が
痛い所を突かれて萎縮するオールマイトを他所に、相澤がした発言。根津もオールマイトも、彼の一言に頷いていた。
★
「……」
耳郎は、教室で一人出久のことを待っていた。本当は麗日や飯田に、心操と爆豪も一緒に待とうと誘っていたのだが……。
「私達のことは気にせんで、二人きりの時間楽しんでおいでよ!」
「うむ。それに、俺達は少し用事があるからな。緑谷君に宜しく頼むぞ!」
と、麗日と飯田は微笑ましそうに耳郎を見ながら言ってどこかに行ってしまい……。
「あー……悪い、耳郎。誘いは嬉しいんだけど、俺達は自主トレがあってな」
「ま、そういうことだ。それに、出久の方も何やかんやで耳郎のこと気にしてるし、お前が待っとったら嬉しいだろ。戻ってくるまでにトレーニングの方終わったら、また来るわ」
と、心操と爆豪もトレーニングに向かってしまった。結局、4人は事情と気遣いとが入り混じって、彼女の誘いを遠慮するという形をとった。
「……はあ〜……。嘘でしょ……?ウチ、そんなに分かりやすいのかな?麗日達にも絶対バレてるじゃん!ウチが緑谷のこと好きだって……!」
微笑ましそうに自分を見ていた麗日と飯田のことを思い出しながら、耳郎は悶々としていた。
「……まあ、個性把握テストの時とかもチラチラあいつのこと見てたし……葉隠と芦戸に囲まれてる時なんか、羨ましいって視線向けてたし……バレても仕方ないんだけどさ」
(緑谷、早く戻ってこないかな……。あんたの顔が見たいよ……)
出久の顔を思い出していた耳郎に、声をかける者がいた。
「おォ、まだおったんか」
声のした方を見れば、トレーニングを終えたのであろう爆豪の姿がある。
「!爆豪?心操は一緒じゃないの?」
「心操は帰った」
「じゃ、爆豪はなんで来たの?バッグまでわざわざこっちに持ってきて」
「別に。出久のこと、一人で健気に待ってる恋する乙女の話相手にでもなってやろうかと思ってな」
「だっ、誰が恋する乙女だ!」
爆豪の爆弾発言に、耳郎は顔を真っ赤にしながら大声を上げた後、「否定はしないけどさ……」と呟きながら再び座った。
「否定しねェのな」
「うっさい!……どうせ、ウチがチラチラと緑谷のことばっか見てるのも知ってるくせにっ」
「よく分かったな。既に二回は『早よくっつけ』って思った」
「っ〜〜〜!?もうっ、やめてよ!あんまり
「お〜、怖ェ怖ェ。しっかり恋しとる奴の反応だな」
「っ……もうっ!」
爆豪に揶揄われては、顔を真っ赤にしたまま頬を膨らまして、耳郎はそっぽを向く。
爆豪には、出久が彼女のことを可愛いというのも納得がいった。
(サバサバしとるように見えて乙女だもんなあ。そりゃ可愛いわ)
そっぽを向いたままの耳郎を微笑ましく見守っていた爆豪だが、直後真剣な面持ちになって口を開いた。
「耳郎。出久から目ェ離すなよ」
「へ……?ど、どしたの……急に。な、なんかヤンデレみたいだけど、まあ……離す気は……ないよ?緑谷のことは大好きだし……」
耳郎の答えを聞いた爆豪が安心したような目をしている。
「お前も分かったろうがよ……出久の奴、とんでもねえもん抱えてやがる」
「うん……。それはなんとなく分かったよ。個性把握テストが終わった後に見たあの笑顔は……こういう言い方はあれだけど、なんか闇を抱えてるっていうか……」
「強ち間違ってねェと思うぞ、耳郎の表現は。いつの間にか彼奴、精神までタフになってやがるが……その分、一人で抱え込んで耐えてやがる。
拳を握りしめる爆豪。彼の紅い瞳が、耳郎の瞳を射抜く。
「!」
「耳郎。出久は……真っ先に自分の闇に気づいてくれたお前になら、弱み曝け出すと思う。俺らからも色々手ェ差し伸べてみるがよ、宜しく頼むな」
「!うんっ、任せといて。緑谷に誓ったもん。ウチが全部受け止めてあげる、支えてあげるって」
「……そうか。んじゃ、約束な。俺らで出久は支えてく」
「うん」
爆豪も耳郎も笑い合い、指切りを交わす。そこに、丁度話題に出された本人がやってきたようだ。
「あれっ、耳郎さん。かっちゃんも。いつの間に仲良くなったの?」
「あっ、もう。やっと来た!今仲良くなったの」
「おう。つかお前よォ……」
「……またなんか抱えたでしょ?」
「!」
先程話題に出したばかりだからか、二人は敏感だった。実際、出久の目にはまた陰りが生まれており……その奥底には地獄の業火の如く正義の心が燃え盛っていた。
「……勘がいいね、二人共」
自分の奥底に正義の心が怒りと化して燃え盛っている上に、また社会の闇を一つ垣間見たのは出久自身にも自覚があった故、否定はしなかった。
「……っとにお前なァ」
爆豪は、自分の座っていた椅子からその重い腰を上げ、溜息を
「あだっ!?」
「敢えて何があったのかは聞かねえがよ……一人でどうしようもなくなったら、俺らに言いやがれ。一人で抱え込んで選択肢を間違えるような馬鹿な真似してみろ。ぶん殴るからな」
「!」
覚悟の一切揺るがない、爆豪の紅い瞳が出久の緑色の瞳を射抜く。
(流石かっちゃん)
内心で彼に感心しながら、出久は彼に感謝を述べた。
「うん……分かってるよ。ありがとう、かっちゃん。もしもの時は宜しく頼むよ」
「……ケッ。そのもしもの時が来て欲しくはねェけど、任せとけ」
ニッと笑いながら言った後、爆豪は耳郎を見ながら言う。
「俺以上にお前のこと真剣に心配してる奴がいること、忘れんなよ」
一言そう言った後、「先に校門で待っとくから、ちゃんと話してこい」と言い残して彼は一足先に教室を出ていった。
「……ごめんね、耳郎さん」
「うん……。あんた、お人好しだからこそヒーローらしくて皆に好かれるんだろうけどさ……一人で色々抱え込みすぎるのは本当にやだよ……?ウチ……そのせいで、あんたが
「!耳郎さん……っ!?」
耳郎が出久を抱きしめ、その胸に顔を埋めた。彼女の心からの叫びに心を打たれていた出久は、抱きしめられたまま硬直する。
「ウチは……耳郎響香は、それくらい緑谷出久のことが大好きなの……!それくらいあんたに夢中なの……。緑谷っ。ウチさ、自分の全部を懸けてあんたを支える!あんたの抱えるもの、全部受け止める!だから、約束して……!ウチの側にいるって……。そして……ウチをあんたに夢中にさせた責任を取って……」
埋めていた顔を上げた耳郎は……真っ赤になっていた。出久と耳郎の身長差は20cm。それ故に、耳郎は自然と上目遣いで出久を見つめることになる。
「っ……!?」
彼女の可愛らしさに対し、どうしようもない愛おしさが出久の中に湧いてきた。
「ふぇっ!?み、緑谷!?」
愛おしさに突き動かされ、出久は耳郎のことを勢いよく抱きしめ返す。
そのまま彼は、彼女に想いを告げた。
「耳郎さん……ありがとう……。そこまで僕の為に尽くしてくれるんだね。大丈夫、僕自身も陰りに屈するつもりはないし、君が僕を支えてくれる限り……僕は君の側にいるよ。責任だって、絶対にとるから」
「……!うんっ……。うんっ……!」
出久に抱きしめられたまま、耳郎は嬉しそうに彼の胸元に擦り寄っていた。
「……もう。本当可愛いな……」
★
「ふふ……やっぱり響香ちゃん、緑谷君のこと好きだったんだねえ」
一人……ある少女が、手を繋いで教室を出る出久と耳郎の背中をこっそりと見守っていた。
「それにしても……緑谷君ったら、本当お人好し」
そう一人呟いた彼女は、握りしめた拳を胸に重ねていた。
「……緑谷君……。自分の中の陰りに絶対負けないでね。君がいたから、私も勇気が出せるんだ。けじめはつけてみせるから……」
__だから、緑谷君。私のことも救けて……。ずっと待ってるよ__
ただ一人、自分の全てを……真実を知る少年の優しい笑顔を思い浮かべながら、彼女は気合を入れた……。