異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake   作:白華虚

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21話 巨悪との邂逅と第二ラウンド

「せ、先生……!?なんでここに……!?」

 

「微かな嫌な予感と、いい出会いがありそうな予感がしてね。少し無理をして、ついつい僕自身が出向いてしまった。弔、落ち込むことはない。君はよくやってくれたとも。……今回は流石に相手が悪かったね」

 

死柄木を宥めるように言葉を紡ぐ、スーツ姿の男。死柄木からは、正直子供大人のような小物の雰囲気しか感じない訳だが……そのスーツ姿の男からは、かつて承太郎も戦った相手であるDIOのような圧倒的カリスマ性と威厳が感じ取れる。

 

死柄木達のバックについているのはこの男なのだと、出久は確信していた。

 

そして。

 

(こいつは……ヤバい……ッ!)

 

冷静に振る舞う出久に対して、相澤は息が詰まる感覚を覚えて冷や汗を流していた。

 

その反応になるのも当然だ。出久の場合は、これ以上の悪意や威厳を持つ相手を何人も知っている。だからこそ、ここまで冷静でいられるのだ。

 

この男を見た瞬間、体が無意識の内に鳥肌を立て、対峙を拒否する。警鐘を鳴らして、「逃げろ」と何度も警告してくる。

 

これは、決して相澤が弱い訳ではない。スーツ姿の男がそれだけの巨悪であり、出久が彼以上の巨悪に触れたことで悪意に慣れ過ぎている。……たったそれだけのことである。誰であっても、巨悪を前にして動けない今の相澤を責めることはない。否、出来やしない。

 

「さて……初めまして、緑谷出久君。君程の男だ、どうせ知られることだろうから……名乗らせてもらうよ。僕の名は、オールフォーワン。今回は弔や黒霧が世話になったね。君のことは、僕ら裏社会の人間にもしっかり伝わっているよ。君はあの時、ヒーローの卵でないながらも凄まじい戦闘力を持ち合わせていたね」

 

オールフォーワンと名乗ったスーツ姿の男は、腕を大袈裟に広げながら語る。

 

「そして、何より君の理想は素晴らしい。理不尽な格差のない社会……だったね。君は他のヒーロー達と違って、この社会の闇から目を背けようとしない!手を差し伸べようとしている!綺麗事を並べるあの男よりもずっと素晴らしい人材だ!」

 

感情感知能力からも、嬉々とした声からも分かるが……オールフォーワンの称賛は本心なのだろう。同時に、彼からもまたオールマイトに対する深い憎しみを感じ取った。

 

オールフォーワンは、マスクの下で不敵な笑みを浮かべながら続ける。

 

「その目を見ても分かるよ。君は幾つもの闇を見て、目を逸らさずにそれを本気でなんとかしようとしているね。陰りを抱えながらも、眩いヒーローとしての道を歩まんと、足掻いている……!なんて素晴らしい喜劇だ!だからこそ僕は……君が欲しい」

 

「!それが目的か……!」

 

出久の陰りに、オールフォーワンもまた気がついている。そして彼は、出久を(ヴィラン)側に引き込もうとしているようだ。

 

出久が戦闘態勢を取るのと同時に、彼は再び口を開く。

 

「おっと、落ち着いてくれたまえ……緑谷君。僕は戦いに来たんじゃあないさ。弔達の回収とその他諸々のついでに、君に会いに来たんだ。すぐにここから立ち去るから、安心しておくれ。一先ず……黒霧は返してもらうよ」

 

そして、オールフォーワンは己の指先を紅い稲妻のような模様が刻まれた触手らしきものに変化させると、それを黒霧を押さえつけている爆豪に向けて解き放った。

 

「ッ!?」

 

オールフォーワンの放つ凄絶な悪意に今まで硬直状態だった爆豪だが、その触手らしきものが迫るのを見た途端、反射的に回避行動を取った。先程爆豪がいた場所を、件の触手らしきものが通過していく。

 

「!」

 

そして、爆豪が離れた上、周りが硬直して動けないのを良いことに黒霧はオールフォーワン達の隣にまでワープする。

 

「へえ……やるね、金髪の彼」

 

「申し訳ございません、先生……。失敗した上に、金の卵如きに押さえつけられてしまいました……」

 

「気にしないでくれたまえ。まだまだ機会はあるさ」

 

オールフォーワンは、爆豪の行動力に感心しながら、申し訳なさに謝罪をした黒霧を励ましていた。

 

「それに、緑谷君がいるのを見越して新手は用意しているよ。連れておいで、黒霧。なあに、心配は要らない。ここで失った分はすぐに取り返せるさ」

 

「!承知しました」

 

オールフォーワンの頼みに、黒霧は再び己の体を黒い歪みに変化させて何処かへと消え去る。

 

そこから数分と経たずに戻ってきた黒霧は、再びゲートを展開させ……。

 

「へっへっへ、俺達の出番か!」

 

新たに何十人もの(ヴィラン)達と、出久が倒したものよりも小柄な脳無を連れてきた。

 

「新手……!」

 

「緑谷出久君。もっと僕らに君という人間を見せてくれたまえ。君ならば、この程度の相手に命を奪われたりはしないだろう?勝てるかは別かもしれないがね。今回の脳無はそう簡単にはいかないが……君には期待している。また会えることを願っているよ」

 

そう一言残すと、オールフォーワンは黒いゲートの向こうに消えていく。

 

「緑谷出久……今度は必ず殺す。お前は俺が殺すんだ。精々死なないようにしろよ」

 

死柄木もまた、殺意に満ちた目を向けながら彼の背中を追って消えていった。

 

「では……我々はこれにて。ご機嫌よう。……今回の借りは、必ず返させていただきます」

 

2人がゲートの向こうに消え去ったところで、2人を追ってか……黒霧もまた何処かへと消え去った。

 

「……すみません、相澤先生。逃しました」

 

「いや……謝るな……。あれ程の相手が何もしなかったのが奇跡だ……!」

 

戦場である広場には、新手の敵達と出久に相澤の姿だけが残る。

 

ようやく息を吐いて、呼吸も安定してきた相澤は、ゴーグルを掛け直しながら構えた。

 

「……緑谷、まだやれるか?」

 

「大丈夫です、やれます」

 

「分かった。……もう少し手を貸してくれ」

 

「了解です」

 

巨悪が立ち去ったのに一安心する暇はなく……すぐさま第二ラウンドが開戦した。

 

 

「っぐ……!」

 

こうして出久は再び現れた、別の脳無と対峙することになった訳だが……結論から言って苦戦していた。

 

まず、この脳無の攻撃には全く意志が篭っていない。感情を持たないのだから当然なのであろうが……見聞色の覇気による未来予知は封じられているのである。

 

それを察した彼は、回避行動を取る訳だが。

 

「っ!」

 

(引き寄せられるっ……!?)

 

体が脳無の方へと引き寄せられ、体勢を崩されてしまうのだ。それならば、と体を炎に変化させて攻撃を透過して……備えとして、念能力の技術の一つである"硬"に気の一点集中を重ね掛けして防御力を高めた。

 

しかし。

 

「がっ!?」

 

攻撃は透過されることなく、出久に命中する上に高めた防御力も意味を為さなかった。

 

(内部に浸透して、破壊する攻撃っ……!?俺の武装色の覇気とは違うけれど……似たようなことが出来る"個性"か……!)

 

いくら出久が強けれど人間だということには変わりなく、体の内部はそれ程丈夫ではない。

 

よって、彼の強力な防御を突き抜けて内部に浸透する攻撃というのは、出久であれど痛手になっていた。

 

「っ……!?」

 

更に、脳無は動きを止めた出久の頭を鷲掴みにする。次の瞬間……赤い靄のようなものが出久の体から溢れ出して、脳無の体に吸収されていくではないか。

 

「!緑谷!」

 

「ぐはっ!?」

 

己よりも、生徒の身の安全に重しを置く相澤は、自分の行手を塞ぐ(ヴィラン)達を一掃すると出久の頭を鷲掴みにする脳無へと肉迫して右ストレートを繰り出す。

 

彼の繰り出したストレートが命中するかと思われたその刹那。脳無の肉体が形を変えて、本来それが命中したと思われる部位が抉り取られたように凹んでしまった。

 

「ッ!?肉体の変形!?」

 

それを見た相澤は"抹消"を発動して、出久を鷲掴みにしている腕に回し蹴りを叩き込んだ直後に彼を抱えて距離を取った。

 

「大事ないか?」

 

「何発か体の内部に一撃貰ってますけど……致命傷ではないです……。オールフォーワンって奴が言ってた通り、そう簡単にいく相手じゃないですね……!」

 

微かに弱った様子がありながらも、出久は立ち上がって分析を述べる。

 

「取り敢えず、分かる範囲だと……彼奴も複数の"個性"を持ってます……。"引力"、実体を捉える"個性"……"実体捕捉"とでも名付けましょう。それと、"内部破壊"に、"活力吸収"と、"肉体変形"ってところです……」

 

「……さっきの奴より遥かに"個性"の数が多いな。本体のスペックは劣るが、その分"個性"を詰め込むことで揉め手に特化したタイプか……!」

 

「そういうことです。あと彼奴……"衝撃反転"も持ってます。物理攻撃の威力をそっくりそのままにして返す"個性"です」

 

「実質、物理は通用しないってことになるのか。……緑谷、なんとか突破口を見つけるぞ」

 

「はい……!」

 

出久から吸収した活力で、力を増した脳無が突っ込んでくる。活力を吸収されていようが、これを喰らうほど柔ではない出久も相澤と共に回避行動を取った。

 

それを見た脳無は、活力を吸収したことで弱っていると見越した出久の方に視線を向ける。

 

そうしたことにより、再び出久の体が引き寄せられた。

 

(!俺の方だけが体を引き寄せられる……!視線を向けた対象1人だけしか引き寄せられないのか!)

 

分析をしながら出久は、最大限まで気を高めて空中に留まり、引力に抵抗する。

 

「お生憎様……こっちは、お前と似たような力を持った相手との交戦経験がある……!それと似たような力だと仮定すればっ!」

 

そして、体の左側に左手を持ってくると、その手の甲に右掌を添える構えを取った。

 

紫色のエネルギーが左掌に集中し……。

 

「持ってけ……ッ!ギャリック砲!」

 

それが紫色のエネルギー波となって一直線に解き放たれる。

 

エネルギー波は見事に脳無に命中した。

 

(よし……!やっぱり、彼奴の"引力"の"個性"も技すらも引きつけてしまうんだな。異世界の皆の経験が役に立ってる!こちとら、一度喰らった技を二度も喰らってやる程甘いつもりはないんだ!)

 

「だぁぁぁぁぁっ!」

 

そこから畳み掛けるように気弾を連射すると、脳無は迫りくる気弾を防ぐ体勢を取った。

 

(物理に乗せられた衝撃以外は反転不可能って訳か。緑谷の分析通りだな)

 

脳無の様子から"衝撃反転"の仕組みを把握した相澤は、ナイフを投擲して脳無を攻撃する。

 

押し寄せ続ける気弾を依然防いでいる上に、突き刺さったナイフによって動きを止めている脳無は隙だらけだ。

 

(ここで一気に叩き込む!)

 

「蛍火!」

 

この隙に少しでもダメージを稼ぎたいと思った出久は、自分の掌から緑色の小さな火球を放出して脳無の周りを囲むように隙間なく配置した。

 

何がなんだか訳の分からない脳無は、辺りを見回してその緑色の火球をじっと見つめている。

 

その次の瞬間。

 

「火達磨!」

 

出久の掛け声と同時に脳無の周囲に配置された火球の全てが、一気に脳無に押し寄せて文字通りその肉体を火達磨にした。

 

脳無の皮膚を焼いて爛れさせ、大火傷を負わせる程に高温の炎。それは着実に脳無にダメージを負わせているのだが……。

 

「ッ!?こいつも再生持ちか……!?」

 

見れば、脳無の焼け爛れる皮膚がみるみるうちに新しいものに変化している。

 

脳無は、何度も何度もその腕を振り払って炎を掻き分け、活路を開くとその掌から巨大な水弾を放った。

 

「水の弾丸!?」

 

出久は、咄嗟に衝撃波を伴う拳でそれを破裂させようと試みる。そのまま水弾は破裂するように思われたのだが……。

 

「ッ!?がぼっ……!?」

 

「!?緑谷!」

 

衝撃波が接近したのに乗じて、水弾は二股に分かれて出久に接近すると彼の周囲を覆い尽くして、彼を水の監獄に閉じ込めてしまった。

 

(くっ、早く脱出を……!霞の呼吸・壱ノ型 垂天遠霞!)

 

背中から取り出した剣を用いて繰り出す、垂直方向の突きによって水を突き破らんとしたが、その形は加えられた衝撃に合わせて自在に変化するものであり、破ることは敵わなかった。

 

(ッ!無一郎君が戦った、玉壺が作り出していた水の壺と同じっ……!?ならッ!弐ノ型・八重霞!)

 

かつての無一郎と違い、波紋の呼吸も会得しているおかげで更に肺が強靭になっていた出久には、もう一撃型を繰り出す余裕があった為、幾重にも重なる霞を斬り裂くような連撃を繰り出したが……一瞬斬り裂かれた水はすぐさま元の形を取り戻してしまう。

 

その刹那に、出久はメルエムから受け継いだ学習能力によって察した。

 

(ダメだ……!内側と外側……その二つから同時に衝撃を加えないと……!)

 

__それも、水を吹き飛ばすか、突き破るかが可能なくらいの__!

 

内心での気づきに一言加えながら、どうにか突破口はないかと探る。

 

(っ、かっちゃん……!)

 

辺りを見回して、USJの入り口の方向に目を向けてみれば、爆豪が迫真の表情で何か__恐らくは、出久の名前であろう__を叫びながら掌からの爆破を巻き起こして、猛スピードでこちらに向かってきていた。

 

(かっちゃんなら、これを巻き起こせる程の風圧を……ッ!?)

 

"ワン・フォー・オール"による身体能力を扱える爆豪とならば、この水の監獄を打ち破れると確信した出久だったが、突如凄まじい圧力が押し寄せた。

 

(ッ!?水圧が増してっ……!?)

 

「がはっ……!?」

 

上下左右、凡ゆる方向から押し寄せる圧力。それによって、出久は辛うじて残していた酸素を吐き出さざるを得ない状況に陥ってしまった。

 

(まずい……型を繰り出す為に残した酸素が……!もう……保た……ない……。ご……め……ん……かっ……ちゃん……耳郎……さん……)

 

酸素を全て消費してしまった出久の視界が揺らぐ。凄まじい圧力によって、体が押し潰される感覚に襲われる。

 

出久は、自分の幼馴染と咄嗟に頭に浮かんできた……自分のことを全力で支えると言ってくれた愛おしい少女のことを思い出しながら、彼らに謝った。

 

(こんな……ところで……っ、終われ……ない、のに……!)

 

ただただ何も出来ず、死を待つしかない状況に悔しさを感じたその瞬間……。

 

「!」

 

一瞬、水の監獄が打ち破られ、自身の体が外気に触れた感覚がすると共に。

 

__誰かが自分の元まで駆け寄るのを目にして、出久は己の唇に柔らかい感触を感じた__




21話でした。

勝己君達にも活躍の場を設けたいと思ってこんな形になりました。なんとか揉め手はないのか、揉め手は!と試行錯誤したらこうなったんですけれど……ちゃんと揉め手になっているのだろうか。

さて、次回の話で完全に決着をつけようと思っております。お楽しみに!
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