異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake   作:白華虚

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23話 激闘の終わり

出久とオールマイトが脳無を撃破した数分後。

 

「1年A組クラス委員長、飯田天哉!只今戻りました!」

 

遂に、飯田が雄英の教師達を引き連れてUSJに戻ってきた。

 

残った(ヴィラン)達は教師達によって見事に制圧され、生徒達も全員が合流を果たす。

 

出久は一先ず周りを見渡し、誰一人怪我がなさそうなことを喜んだ。

 

(13号先生に怪我させたことだけが心残りかな……)

 

取り敢えず、彼女には波紋によって流した生命エネルギーによる応急処置を行っておいた。しっかり療養すれば問題はないだろうが、それでも自分が彼女のピンチに駆けつけられなかったことは……確かな心残りだ。

 

そんな様子の出久を見兼ねてか、相澤は彼の肩に手を置きながら言う。

 

「そう責めるな、緑谷。確かに13号は怪我を負ってしまったがな、お前は……それ以上に多くを救けた。お前は俺達全員を救けてくれたんだ。俺だって、お前が居なきゃ大怪我負ってるさ。オールマイトさんだって、余計な無茶したかもしれない。……未然に防げたことだってあるんだ。どうか、今は誇ってくれ」

 

「相澤先生……。ありがとうございます……」

 

(いい先生で、いいヒーロー。相澤先生が担任の先生でよかった)

 

そんな彼の言葉を微笑んで受け取りながら、出久は思っていた。

 

本人も言う通り、出久が居なければ相澤は間違いなく大怪我を負っている。彼は単なる人間なのだ。それ故、1体目の脳無にはパワーとスピードの両方で劣る。

 

出久が居なければ、腕をへし折られていたかもしれない。目元に傷が残って、"個性"を使用する際に更なる支障が出るかもしれない。そんな可能性だってあり得たのだ。実際、出久は相澤がそんな傷を負う未来も視ていた。

 

__そうか。救けられた人だっているんだな__

 

相澤の言葉もあって、出久は前を向けた。

 

そんな彼に、ズンズンと迷いない足取りで歩み寄る者達がいる。

 

彼らは出久の近くまで来ると。

 

「「済まねえ、緑谷!(済まねえ、出久!)」」

 

正座をした後に額を地面につけ、見事な土下座を披露した。因みに、その彼らとは切島と爆豪である。

 

「へ?」

 

二人の突然の行動に、出久は呆けた声を上げた訳だが……その後の言葉で、この理由が分かった。

 

「俺達が無闇に飛び出したせいで……皆散らされて、緑谷達に迷惑かけちまった!皆にもきっと怖い思いさせた……!ごめんっ!」

 

「済まねえ……!俺達の行動がなけりゃ、出久達であの靄野郎に対処出来たのに……!」

 

2人は出久だけでなく、他の生徒達にも頭を下げる。

 

そんな彼らを見ながら、生徒達は顔を合わせる。その中で真っ先に発言したのは、八百万だった。

 

「落ち込まないでくださいまし、お二人共!切島さんは……同じ倒壊ゾーンに飛ばされた私を守ってくださいました!その後だってずっと!そんな切島さんのお姿は、立派なヒーローそのものでしたわ!」

 

彼女に続いて、蛙吹と峰田も発言する。

 

「爆豪ちゃんは私達を救けてくれたわ。貴方が居てくれたから、私と峰田ちゃんもここに居られるのよ」

 

「そうだぜ!お前が居なけりゃ、オイラ達死んでるぜ!?お前は紛れもなくオイラ達のヒーローだぞ!」

 

更に、出久が彼らの言葉を引き継ぐように発言した。

 

「それに……捉え方さえ変えてしまえば、君達は(ヴィラン)を目の前にしても恐れずに立ち向かった、勇気あるヒーローってことにもなる。確かに、無謀だって見方をする人もいるかもしれない。でもね、少なくとも僕らはそうは思わない。君達は立派だったよ」

 

言い終えると共に、出久は微笑む。彼の一言と微笑み……それだけで2人は救われた気がした。

 

「ううっ……皆ァ……優しいな……!このお詫びは絶対にするから!」

 

「……ありがとな」

 

調子を取り戻したらしい2人を見て、出久はホッとする。

 

そして、いつの間にやら自分の隣に立っている轟に声をかけた。

 

「君が脳無との戦いに来なかったのは少し意外だったよ」

 

「……お前だけじゃなく、相澤先生やオールマイトも居たからな。水ん中閉じ込められてピンチになってた時は助太刀に行こうとも思ったんだが、俺じゃどうしようもなかったし、爆豪達が真っ先に向かってたしな。彼奴らの助力さえ受けちまえば、緑谷ならあの程度のピンチ乗り越えられるだろって思った」

 

伏し目になりながらそう言った後。

 

「お前が戦った相手が強敵なのは知ってるが、十分な数の実力者がいる所にわらわら集まってたって仕方ねえ。それをやるくらいなら、戦闘手段のない奴を救けに行った方が合理的……だろ?」

 

自分以外の誰かへの憎しみが微かに篭ったそのオッドアイで出久の瞳を射抜きながら言った。

 

「心配はしてねえけど、俺以外の奴に負けんなよ。お前を倒すのは俺だ。……雄英には体育祭がある。そこで決着つけてやる」

 

「……うん」

 

それだけ言った轟は、背中を向けて他の生徒達と共に歩き去っていった。

 

「そんなこと言うなら、僕を見て欲しいんだけどなあ……」

 

そんな彼の背中を見ながら、出久は一言呟く。勘も良い出久は、轟の瞳が自分ではない誰かを写していることを察していた。

 

何をどうすればそうなるんだろう、と彼がこうなった理由を出久は考えるのだが……

 

「出久っ。行こ?」

 

「!うん……そうだね」

 

動こうとしない出久の様子を見兼ね、彼の手を引きながら声をかけてきた耳郎に答えて微笑みを向けたところで一度思考を中断した。

 

(……さっきから思ってたけど、いつの間にか名前で呼ばれてる……っ!?ああ〜……マジか、耳郎さん……)

 

……苗字ではなく、名前で呼ばれることに対して心臓をバクバクさせ、愛おしそうに手を繋ぐ彼女の可愛さを見にしみて感じながら。

 

「っああ〜……マジかぁっ……」と時折呟きながら口元を隠す出久と、そんな彼を見ながら、頬を赤く染める耳郎。2人を見た芦戸と葉隠は「!後から事情聴取!」と張り切っていたし、上鳴と峰田は「緑谷ぁぁぁぁぁ……!ぢぐじょおおお……!」と血涙を流していたとか。

 

因みに。血涙を流す峰田と上鳴を、精神世界のレイと承太郎がドン引きした目で見ては、エースが腹を抱えてゲラゲラ笑い、無一郎がゴミを見るような目を向けて、メルエムはコムギと軍議をしていてどこ吹く風、そして他の3人は憐みの目を向けていたとかいないとか。

 

 

雄英の校舎に戻った後、出久達は警察の方々に事情聴取を受けていた。

 

出久は、オールマイトの長年の親友であるという警部、塚内直正からの事情聴取を受けている。

 

出久は、自分の知り得る限りの情報を話した。それを一つ一つ丁寧に聞き取り、メモを取る塚内の顔色が変わったのは……出久がオールフォーワンについての情報を話した時だった。

 

「オールフォーワン……!?生きていたのか……!?」

 

「生きていた……?」

 

「ああ……突然済まないね、緑谷君。君はあのことも知っているしな。その上、君本人が狙われているときた。……これは話しておく他なさそうだ。心して聞いてくれ、緑谷君」

 

「はい」

 

塚内の口から話されたのは、オールフォーワンという巨悪の真実だった。曰く、オールマイトの活動時間を大幅に減少させる原因となった例の傷を負わせたのはこの男だとのこと。

 

オールマイトが深手を負いながらも倒した相手……のはずだったが、巨悪は生き延びていた。

 

「……成る程、そういうことでしたか……。取り敢えず、今の僕に言えることがあるとしたら、彼奴は昔程の力はないってことでしょうか」

 

「何か根拠があるのかい?」

 

「USJに襲来した時に、彼奴自身が言ってたんです。『少し無理をして、ついつい僕自身が出向いてしまった』って。それに、僕の力が見たいのなら……離れた場所で高みの見物でもしていれば良い。でも、彼奴は黒霧と呼んでいた靄男と、弔と呼んでいた、体中に手を取り付けた男を回収したら、脳無や加勢の(ヴィラン)達を置き土産にしてあの場を去っていった。塚内さんの仰った相手の傷の負い具合から鑑みても……オールマイトにだけは会いたくなかったんじゃないかと」

 

オールフォーワン本人の発言を思い出しながら、出久はそう推測する。

 

「ふむ……。彼奴にとっても、オールマイトとの戦いで深手を負ったことには違いないのか。貴重な情報をありがとう、緑谷君。それはそうと、君は確か……ある対象の生命エネルギーのようなものを感じ取って、その位置を探れるらしいね。気……って言うんだったっけ?」

 

出久の推測を聞いた後に、礼を述べてから塚内が尋ねる。彼の質問に、出久は包み隠さず答えた。

 

「はい、そうですね。……一応、逃げた3人のいる位置は掴んでますよ。良ければ、後日にでも場所を割り出してお伝えします」

 

「可能なのかい!?悪の芽は少しでも早く摘んでおきたいが……」

 

悩む様子の塚内。ヒーローとしての本格的な資格を持たない出久に危険なことはさせたくないというのが本音なのだろうか。

 

そんな彼に、出久は提案する。

 

「大丈夫ですよ、修羅場はいくつも乗り越えてるんで。それに……すぐに奇襲を仕掛ける必要はないです。どうせ仕掛けるのなら、一度で終わらせるのが望ましい。ですから、万全の準備を整えてからにしましょう。僕だって、多くの人を救いたいですから」

 

彼の提案を聞いた塚内は、少し目を見開くも、しばらくしてから微笑んだ。

 

「そうか……。本当に済まない。それと、ありがとう緑谷君。こちらでも、オールマイト達を交えながら色々と策は練っておくよ。もしかすると、君にも協力してもらう日が来るかもしれない。……その時は、どうか宜しく頼むよ」

 

「はい、喜んで」

 

そして、互いに笑みを交わし合った2人は握手を交わした。

 

「君に随分と時間を使わせてしまったな。わざわざ付き合ってくれてありがとう」

 

「いえ、お気になさらず。……そうだ、塚内さん。少し気になることがあるんです」

 

事情聴取を行なっている部屋を退室する前に、一つ頼むべきことがあったことを思い出した出久が声を上げる。

 

「ん?どうしたのかな?」

 

「……宜しければ、校長先生にも話を通していただきたいのですが……。___という方の遺体がどうなったのかを調べていただきたいんです」

 

「!遺体が……!?もしや、脳無関連のことかい?」

 

「そうです。……僕には感情感知能力がある上に、超直感もあります。脳無の正体が、元は普通の人間であることを知った上に、彼奴の感情を感知してからというものの、胸騒ぎが止まらなくて」

 

「……分かったよ。君が言うことならば、どんな些細なことでも見逃せない。根津校長先生にも話を通しておくよ。調査の結果が出たら、彼に伝えておく」

 

「!ありがとうございます」

 

礼を述べた後、一礼してから出久は退室した。また一つ社会の闇を垣間見た上、救けるべき人が増えた。その事実に、出久は拳を握ってもっと強くなることを誓っていた。

 

その後、出久が教室に戻ると。

 

「……あれっ、耳郎さん。自分の事情聴取終わったはずなのに残ってたの?」

 

「あっ、出久。……うん。出久と一緒に帰りたかったし。本当はさ、爆豪達も誘ったんだけど……USJからの帰りで手を繋いでたところ見られて、見事に察されて……」

 

「気を遣われちゃったんだね」

 

「そういうこと」

 

出久の机に腰掛けながら、耳郎が1人教室に残っていた。

 

そんな彼女を見ながら、出久は言うべきことがあると思い出して彼女に歩み寄り、その小柄で華奢な体を抱きしめた。

 

「んぇっ!?い、出久!?」

 

「……昼は心配かけてごめん。それと、ありがとう」

 

「!……いーよ。ウチもやっと出久のこと救けてあげられたし。本当は……あれだけでも足りないくらいに救けてもらってるんだけどさ」

 

彼の温かみを感じながら、耳郎もまたその体を抱きしめ返す。そのまま、彼の耳元で囁いた。

 

「ね、出久。覚えてる?」

 

「……心配かけさせたら、いっぱいお詫びしてもらうってあれ?」

 

「正解。……出久。ウチね、初めてを出久にあげちゃったの」

 

「ッ!?……うん……。そう……だね」

 

USJで人工呼吸を行った時の、互いの唇の感触。それを思い出した2人は同時に顔を赤くする。

 

そして、バチリと彼らの目があった。

 

__熱の籠もった目。耳郎のそれは、期待の込められた目だ。

 

「……出久なら、ウチの言いたいこと全部分かるよね?」

 

「っ……」

 

期待に満ちた目のまま、微笑んだ耳郎は更に魅力的に見えた。

 

「うん……」

 

(……ここまでさせて、引くのは駄目だな)

 

出久が頷いたのを見ると、耳郎は「頑張れ」と一言囁いて目を閉じた。

 

こうして目を閉じた彼女を見ていると、その顔立ちの綺麗さが際立っているのが分かる。

 

(僕には勿体ないくらいだ)

 

そんな彼女の綺麗な顔立ちをいつまでも眺めていたいものだが、いつまでも焦らす訳にもいかないので……出久は彼女の頬に右手を添えた。

 

手が添えられた瞬間、耳郎が体をピクッと跳ねさせて反応する。その瞬間すらも可愛さに溢れていて、出久の中には愛おしさが溢れ返っていく。

 

そして……2人の顔が近づき、その唇同士がそっと触れ合った。

 

まるで幼い子供のような、小鳥同士の戯れのような初々しいキス。

 

ほんの少しの間、唇を触れさせた後。出久は顔を離し、耳郎も目を開ける。

 

(……足りない)

 

(……出久も同じこと思ってるのかな?もっと……触れてたいな、触れてほしいな……。これじゃ足りない……)

 

__普通の恋人同士なら、これで満足いったのかもしれない。しかし、2人の互いを想う気持ちは並大抵の恋人のそれではなかった。

 

耳郎は、自分の全てを懸けて出久を支えると誓っているし、出久にとっても、彼女は単なる恋人とは言えない程に大切な存在となりつつあった。出久が正しい道に居るように、と心の底から願い、自分の抱える陰りをも受け止めるとまで言ってくれた少女。USJでは、命まで救けてもらった。

 

そんな少女に対しての想いが深くなるのも当然といえば当然だろう。

 

キスを交わす前以上に熱を持った2人の目が合う。目を合わせただけで、今なら互いの言わんとしていることが分かる気がした。

 

「……出久。好きにしていいよ?もっと……しよ?」

 

「!」

 

目の前にいる少女は、今も自分の全てを受け止めようとしてくれている。そんな献身的で可愛らしい彼女に対する愛が溢れてやまない。

 

「……大好きだよ、耳郎さん」

 

「うん……ウチもだよ、出久」

 

人間としての本能なのか、この先のキスまでも理解してしまった彼らは……愛を伝え合う熱いキスを時間の許す限り交わしていた。

 

 

 

(ああっ……見てはいけないものを見ている気分ですわ……!緑谷さん、耳郎さん……!お二人が情を交わしなさっているところを覗き見するだなんて……。私は悪い子ですわ……!)

 

「うぎぎぎぎ……緑谷ぁぁぁ……!あの色狂いめぇぇぇ!許ざん!オイラが邪魔をしてやる!喰らえ!グレープ……!」

 

……そんな2人の様子をこっそりと覗いている八百万と峰田。丁度、事情聴取が終わって、教室に戻ってきたところなのだろう。八百万は顔を赤くしつつも興味津々で、峰田は暴走しかけている。

 

「い、いけませんわ、峰田さん!お二人の邪魔をしては!」

 

「煩え!止めるな八百万!どうしても止めてえなら、オイラにお前のヤオヨロッパイを揉ませろぉぉぉぉ!!!!!」

 

「へっ!?な、何を仰って……っ!?きゃっ、お、おやめくださいまし!」

 

「うへへへ!このどさくさに紛れて、オイラの欲望が実現され……る''っ!?」

 

突如、欲望を実現させる為に暴走していた峰田の元に……プラグが突き刺さった。

 

「……さっきから丸聞こえなんだけど。峰田、マジ最低。あんたのせいで色々台無し」

 

そのプラグを突き刺した人物は、耳郎である。

 

「んだとぉ!?こんな教室でイチャコラしやがって、この色狂い共め!こんなザマで立派なヒーローになれると思うなよ!?ホデュアッ!?」

 

「文句が言いたきゃ、出久に勝ってからにして」

 

「やめてくれよ耳郎!オイラを殺す気か!?」

 

何度も踏みつけられる峰田を他所に、出久は八百万に声をかけた。

 

「……八百万さん、今見たことは秘密だよ」

 

「もっ、勿論ですわ!申し訳ございません……お二人がこれからだという時に邪魔をしてしまって……」

 

「ご、誤解だよ。一線越える気は無かったし」

 

「まあっ、そうでしたの?申し訳ありません、早とちりでしたわ!」

 

「……ウチは、越えてもよかったんだけどな」

 

「「!?」」

 

「お、お前みたいなちっぱいが緑谷を満足させられる訳が……ゴハァッ!?」

 

耳郎の呟きに硬直していた出久だったが……峰田の言葉を聞いた瞬間、すぐさま彼の顎に蹴り上げを叩き込んでいた。

 

「峰田君は一度口を閉じようか。君の発言一つ一つが女の子達にとって失礼に値する」

 

「い、出久……!」

 

(愛されてますわね、耳郎さん)

 

……愛を伝え合うことに意識を置きすぎた結果、このようなトラブルも起きてしまった訳なのだが、2人の愛情が更に深まったのは確かだ。

 

 

一方、あまり人の出入りのない街中のバーにて。

 

「いやはや、流石緑谷君。あの脳無すらも倒してしまうとは。それに、見事仲間達やオールマイトと協力して理不尽を覆した。素晴らしい喜劇だ」

 

''遠視''の''個性''で撤退した後も、ことの顛末を見届けたらしいオールフォーワンが、大層愉快そうに呟いていた。

 

本来、生命維持装置がなければ長時間まともに動けない体なのだが……出久が、如何にして脳無に対応するのかを見届けたくて仕方がなかったらしい。

 

「済まないね、ドクター。折角僕らで開発した傑作だったというのに、回収は叶わなかったよ」

 

オールフォーワンがモニターの先にいる人物に話しかける。__とは言えどその顔は映し出されていないのだが__

 

『いいんだ、気にしておらんよ。流石にあれは強すぎる。あのまま脳無の回収に向かっていれば、オールマイトを連れて追ってきたかもしれん。仕入れた情報じゃ、儂等の生命エネルギー……気と言ったか。それを感じ取ることで、儂等の位置を把握出来るんだろう?』

 

ドクターと呼ばれた人物。彼こそ、このオールフォーワンと共に脳無という化け物を造り出した張本人なのだが……オールフォーワンの失態を気にしてなどいない様子だった。

 

「その通り。もしかすると……ここも既にマークされているかもしれないな。だが、すぐに奇襲をかけられる心配はないだろう。緑谷君は傲りの''お''の一文字すらも自分の辞書にないような少年だ。万全の対策を練った上でプロヒーローと共に奇襲を仕掛けてくるはずだ」

 

『いいのか?』

 

「ああ、いいとも。僕は彼の成長が楽しみで仕方がないんだ。泳がせることで更なる成長をして、更なる社会の闇を見て……それでもなお、光り輝く為に足掻いてくれるというのなら、一層良い。それに。より眩しく輝いた彼が闇に堕ちた方が、楽しいだろう?」

 

『はっはっは!そうか、オールマイトへの嫌がらせでもあるのか。君は変わらんなあ』

 

将来を見据え、出久が堕ちた瞬間をイメージしているのか、ドクターもオールフォーワンも大層愉快そうに笑い合っていた。

 

そんな彼らに反し……死柄木は大層苛立っている様子だった。

 

「くそっ……くそっ……!」

 

ターゲットであったオールマイトにすら会えずに撤退したこともそうだが、何よりの原因は……緑谷出久だった。

 

(緑谷出久……!なんなんだよ、あのガキ……!1体目の脳無を易々とぶっ倒した上に、先生が送った2体目の脳無もぶっ倒しただと……!?ふざけんなよ、あのチートが……!何より気に入らねえのは、ヒーローの卵が先生に気に入られていたことだ……)

 

死柄木から見ても、オールフォーワンは出久に対して絶大なる期待を寄せている。それは明らかなことであり……彼にとっては、自分だけに向けられていたはずのその期待の視線。それを横取りされたような気分だった。

 

加えて、その緑谷出久はヒーローの卵ときた。……死柄木にとって、オールフォーワンは恩師であり、自分を救けてくれたヒーローで、唯一自分に期待を寄せてくれている人。

 

そんな彼に、見捨てられてしまうのではないか。もう目を向けてくれなくなるのではないか。そんな不安が、余計に彼を苛立たせていた。

 

「殺す……!緑谷出久……!必ず殺す……!」

 

血が流れる程に首を掻き毟る死柄木。その様子を見兼ねたオールフォーワンは、彼を諫めるように声をかけた。

 

「弔、今回は失敗してしまったね。けれど、大丈夫だ。君はまだまだ成長出来る。まずは精鋭を集めよう。そうして、少しずつ君の力を、君という恐怖を知らしめるんだ。僕らは自由に動けないからね。今回のように上手くいくとは限らない。……今、僕らには君というシンボルが必要なんだ」

 

「っ……」

 

「大丈夫、僕がいる。見捨てやしないさ。これからも期待しているよ、弔」

 

不気味でありつつも優しい声色。死柄木にとっては心の安らぐ声でオールフォーワンは一言言い残すと、黒霧に頼んで自分の拠点に戻っていった。

 

 

 

「珍しいですね。貴方がヒーローの卵である男に興味を持つなど」

 

拠点にオールフォーワンを送り届けた黒霧が、再び人の形となりながら言った。

 

「ああ……確かにそうかもしれないね。だが、彼には悪意を持つ者にすらも安らぎを与えて、その心を救うような魅力とカリスマがある。思わず僕自身まで惹かれてしまったよ」

 

「……成る程。眩しい輝きを持ちながらも、どこか貴方に似ていると……そう思ったのはそれが理由なのですね」

 

納得して頷きながら紡がれた黒霧の言葉に、オールフォーワンは笑った。

 

「はは、長年僕の近くにいるだけあって、君は判るんだな。弔も、成長すれば分かることだろうさ。僕が緑谷君を気に入った理由というのがね。僕はね……弔が全てを壊し、緑谷君が一から創り上げることによって成り立つ、新しい世界を見てみたいんだ。……黒霧、これからも弔を宜しく頼むよ」

 

「仰せのままに。では、失礼致します」

 

彼の頼みを引き受けると、黒霧は再び黒いゲートの姿となってバーに戻っていく。

 

「……」

 

彼を見送った後、オールフォーワンは自分の内心で言葉を紡いだ。

 

(やはり彼女は裏切ったか。……いや、無理もない。緑谷君がいた時点で予想は出来ていたことだし、支障は無い。社会の闇に呑まれた者に光を与えようとする……。それが彼だ。まあ……僕のように救いようもない悪は別なのかもしれないがね。だが、それで良い。彼女の思いを利用した僕らへの怒りを滾らせて、是非とも成長しておくれよ、緑谷君)

 

巨悪もまた、光にも闇にもなれる出久の将来を大変楽しみにしていた。

 

「さて……彼には感情感知能力もあるんだったね。そうなると、心の声にも触れられる訳か。……揺らいでしまった可能性もあるな。予め対策をしておくとしよう」

 

巨悪は、今日もまた闇に潜んで力を蓄え続ける。

 

__復讐と、理想の実現の為に。




23話でした。

今更ですが、USJにて飛ばされた場所とメンツが変更されてるので補足しておきます。

出久君→山岳ゾーンへ
勝己君→出久に投げ飛ばされたことで峰田の近くまで吹っ飛び、そのまま近くにいた彼と梅雨ちゃんと共に水難ゾーンへ
切島君→出久に投げ飛ばされたことで八百万の近くまで吹っ飛び、近くにいた彼女と共に倒壊ゾーンへ
八百万さん→出久に投げ飛ばされた切島君を咄嗟に受け止めたことで耳郎ちゃん達との距離が離れてしまい、切島君と共に倒壊ゾーンへ
心操君→咄嗟に背後に飛んで靄の範囲から逃れたことで、入り口のポジションに

原作とは違う並びで並んでいたと……そう思っていただければと思います。

次回から体育祭編……といきたいんですが、もう1話小話でも挟もうかと思っております。もうしばらくお待ちください。では、また次回!
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