異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake 作:白華虚
「さーて、実況していくぜ!解説アーユーレディ!?イレイザー!」
「あー、はいはい。つか、なんで俺なんだ。適任は他にいるだろ」
出久の選手宣誓以来から最高潮のテンションのままのプレゼントマイクが、隣に座るイレイザーヘッドこと相澤に尋ねる。一方で相澤は気怠げに返したが……その目線は、例の狭いゲートに向けられていた。
そのゲートは、彼方此方に無数の氷が広がっており、何も対処をしなかった生徒達は全員足元を凍らせられている。また、後ろで押しくら饅頭状態に陥って、未だに突っ掛かっている者達もいた。
障害物競走、その序盤の見どころはスタート直後の
というのも、スタート直後。轟が他の足止めをする為に足元から冷気を発生させ、氷結を巻き起こしたのだ。障害物競走でスタートを切る為に通る必要がある例のゲートは、非常に狭い。
こんな中で一斉にスタートすればどうなるだろうか。……当然、爆豪らの予想通り押しくら饅頭状態に陥り、まともに動けなくなるに決まっている。
そんな状況は、瞬間的に氷結を発生させる轟にとって非常に好都合であった。聡明な彼は、ここが最初の
(……しかし、上には上がいる)
そうして他の足止めを試みた轟であったが……全員が全員彼の思惑通りになる訳がなかった。
相澤は、空を飛びながら最前線を行く出久や、彼に続いて轟の氷結を潜り抜けた者達に目を向けながら己の生徒達が如何にして動くのか……微かに期待を抱いていた。
★
「オラァァァ!出久待てやァ!」
「やはり速いな緑谷君……!そう来なくては!」
「クラスの連中は当然として思ったより避けられたか……」
競技開始直後、空を飛んで最前線を行く出久は、爆豪を始めとする、轟の氷結を逃れた者達から一斉にその背中を追われていた。
轟の氷結を逃れた者の多さに感心する出久だったが……最初の障害物を目にした彼は足を止めた。
『さあさあ……お手並み拝見だぜ!第一関門はこいつ!ロボ・インフェルノだ!』
「入試の時の0Pか」
やたらと道が開けているので、何かおかしいとは思っていた出久だが……これでその謎が解けたというものだ。
目の前には、あの試験会場において最も高いビルを遥かに凌ぐ大きさをしていた0P
どこからお金が出るんだ、と言いたくなる出久だが、それは置いておくとして。
「取り敢えず、さっさと道は切り開かせてもらう」
明確な悪意を持たない鉄の塊如きに出久が足を止める理由などどこにもない。
「南斗水鳥拳奥義、
次の瞬間、出久は凄まじい速度で空を飛ぶと同時に、勢いを殺すことのないまま鋭い貫手を繰り出す。0Pの胴体には抉り抜かれたように巨大な風穴が空き、その巨躯は呆気なく地面に伏せられた。
それと同時に。
「折角ならもっと凄えもん用意してもらいたいもんだ。……クソ親父が見てるんだから」
轟も、遅れをとるまいと恨みに満ちた鉄仮面のような無表情を見せて冷たい声色を発すると、右腕を振り抜くと同時に大氷結を展開。0Pを凍らせて動きを止めるのだった。
ついでに言うと、轟の凍らせた方は不安定な体勢だったこともあってか、地面に倒れ込んで巨大かつ不動の障害物と化す。轟は、地面に崩れ落ちたただの瓦礫と化した0Pを一瞥すると、引き続き飛行して最前線を行く出久の背中を追って走っていった。
『うおおおお!A組、緑谷と轟!0Pを易々突破しやがったぁぁぁ!楽勝かよぉ!?』
『当然だろ』
出久と轟が0Pを撃破したことに対し、プレゼントマイクは歓喜の声を上げ、相澤はヒーロー科なんだからこれくらいやって当然だ、という風に冷淡な反応である。
「す、凄え……」
「あんなのを易々と……。ヒーロー科、レベルが違いすぎる……」
……人には、同調行動というものがある。これは、ある集団からの圧力によって人間が行動を他人に合わせるように変化させることを言う。
0P
それらによって、普通科に在籍する、恐怖を経験したことのない者の1人が足を止めてしまった。同じような境遇にある他の者達も、それに同調して次々と足を止めてしまう。
彼らは、悪い同調に乗ってしまった者達だ。
無論ながら、いい同調行動もある。今ここに……出久や轟に同調して、0Pの群れを突破する為に行動を起こす者がいた。
「
プラチナブロンドの髪に、闘志で満ち満ちた紅い瞳。次世代の平和の象徴……爆豪勝己である。
「っしゃ、オラァ!チョロいぜ!」
「ひえ〜、勇ましいな。爆豪」
「まさしく修羅」
榴弾砲の如き、凄絶な爆破で0Pを爆ぜさせた爆豪に、爆破されたそれの上を乗り越えた常闇と瀬呂が感心と呆れまじりに声をかけた。
呆れまじりなのは後者の瀬呂な訳だが、わざわざ倒さずとも乗り越えればいいじゃないか、と言いたいのであろう。
それを察した爆豪は……
「あァ!?テメェ、まさかこいつらの上から行けばいいとか言わねェだろうな!?んなことやってみろ!俺のことアピール出来ねェだろうが!」
と、カッと目を見開きながら怒号をぶつけた。
「ひえ〜、怖い怖い」と呟きながら、瀬呂達も自分のやり方で0Pを突破する。
ある宇宙ゴミが人工衛星に激突して、それが宇宙ゴミとなり、それがまた人工衛星に激突……というような宇宙ゴミによる破壊の連鎖のように、0P
「うおおおおおおっ!俺はもう……逃げない!臆さないっ!」
飯田もまた、勇猛果敢に動き出す。まさかまさかの、彼は振り下ろされた0Pの腕に乗っかってはその上を駆け抜けるというプロ顔負けな芸当を披露し……。
「だあっ!」
エンジンブーストによって加速をつけ、威力を増した飛び蹴りでご丁寧に0Pの頭部を蹴り壊した。
「うむ……!爆豪君達と鍛えた成果だ!」
"個性"のみならず、飯田は脚力そのものの強化も行なっていた。それ故に、0Pの頭部程の強度を誇る物体でも蹴り壊す程の威力を持つ蹴りを放てたということである。
更に。
「ここっ!」
「霞の呼吸・壱ノ型 垂天遠霞」
先程から耳郎は、0P以外の仮想
「……成る程。確かに、体術よりもこっちのが馴染むな。元々は剣術に乗せて繰り出される型ってのも納得だ。……剣ってのは流石に難しいだろうし、今度棒状のサポートアイテム申請しとくか」
「もう先を見通してんの?で、麗日!これでやれる!?」
心操が感心混じりに手にする瓦礫を見ながら言うのを見て耳郎は苦笑し、直後に一転して麗日に呼びかけた。
「うん……!大っ丈夫!」
呼び掛けられた、当の本人だが……彼女の周りには大量の瓦礫が浮かんでいる。どうやら、辺りを走り回って瓦礫と化した仮想
「ありがとう、心操君、響香ちゃん!」
「余計なお世話はヒーローの本質って言うしな。俺らも程々に見せ場作れてるし、
「いいのいいの、気にしない!お礼は予選突破してからでいーよ」
耳郎と心操は、麗日のお礼を受けると彼女に軽く手を振りながら「後からまた会おう」と言わんばかりに応援に満ちた瞳を向けて、先へと向かっていった。
彼女は何をするのだろうか、と好奇心に満ちた子供のような視線を周囲から集める麗日は……。
「方向、位置……いずれも良し!行くよ〜……!必殺っ!彗星ホームラァァァァァン!」
軽くした状態で手にした瓦礫を振るい、予め浮かばせておいた瓦礫達を野球ボールのようにして打ち出した。名前の通り、彗星の如く0Pに押し寄せる瓦礫達。それらが余すことなく0Pの胴体に激突する。
キャパを超えるダメージを叩き込まれた0Pは機能停止し、ぶつかる瓦礫の勢いによって体を押され、地面に振動を起こしながら倒れ込んだ。
「ッッ……よっしゃー!爆豪君達との特訓の成果がしっかり出てる!」
ガッツポーズを取りながら先に進む麗日の姿を、他のA組の生徒達は驚愕6割、感心4割で見ていた。
「す、すっごいな麗日……!いつの間にか強くなってる!」
「響香ちゃんに心操君も勢い凄かったよね!緑谷君と爆豪君も言わずもがなって感じ!」
「流石だな……。この日の為に鍛練を欠かさず積んできたのであろう」
「私達も負けられませんわ!同じヒーロー志望なんですもの!」
「百ちゃんの言う通りね……!どちらにせよ、あの黒いスーツの男の人に比べたらロボなんてどうってことないわ」
0Pを破壊した集団の進撃に触発され、他の生徒達も第一関門突破の為に動き始めた。
そんな一足先を行くA組生徒一同の行動に対し、相澤はこう言及する。
『USJの事件を経て上の世界を肌で感じた者、恐怖を植え付けられた者は対処し、凌いだ者は各々が経験を糧とし、迷いを打ち消している』
と。
そんな相澤の発言を耳にした生徒の反応は様々であり。B組の者達は負けられない、と対抗心を燃やし、普通科などに在籍する者達はそのレベルの違いを明確に分かってしまったのであった。
……特に。
「凄えな、A組……!熱いっス!物間にはああ言われたけれど……こんなもの見せられたら黙っていられねえ!おっしゃあ、頑張るぞ!!!」
この、四白眼に切島の如く熱血を宿して拳を握る、ヒーロー科の中でも群を抜く身長と、鍛え抜かれた体が目を引く丸刈り頭の少年は一層燃えていた。
★
『おいおい、第一関門チョロいってか!?先頭の緑谷は既に第二関門に辿り着いてやがる!なら、こいつはどうする!?落ちればアウト!それが嫌なら這いずりな!第二関門、ザ・フォール!』
対する出久は……既に第二関門に到達していた。その関門の最初と最後以外は全てが孤立した、広さが様々の小高い崖がある。一つ一つの崖の間には非常に細いロープが張られているが、その幅が非常に狭いのは言うまでもないだろう。
ただし。
「俺には関係ない」
空を飛べる出久には、関門が関門となることなどなかった。彼は、舞空術によって空を飛ぶという芸当が可能なのだ。これならば落下の心配など微塵もない。
……そう思われたのだが。
「ッ!?」
突如猛烈な勢いの西風が吹き荒れた。咄嗟のことであったので、出久は数m吹き飛ぶも……空中で受け身をとって事なきを得る。
『第二関門もチョロいかと思いきや、そう簡単にはいかねえぜ!その風速、毎秒100m!時速になおせば300kmを軽く超える猛烈な西風を再現した装置があるからな!地面から10m以上の高度にいる対象の体温を観測して、そいつに向けてターゲットを向けたら最後……第二関門を突破するまで、30秒ごとに風を吹かす仕組みだァァァァァ!』
『ここを突破する方法はよく考えることだ。まあ空中で受け身取れたり、問題なく動ける奴は時間がかかるだけで落下の心配はないだろうがな』
「毎秒100m……ジェット気流か!」
普段から学びを重ねて様々な情報を得ている出久は、プレゼントマイクの解説を聞くと、その西風の正体を探り出しては考えた。
ジェット気流……上空10000m前後で吹き荒れる、強い西風のことだ。広い意味では偏西風であるのだが、特に冬季に所定の高度において毎秒100mに達する風速を持つ西風を指す。プレゼントマイクの解説通り、時速になおせば300kmを軽く超えてしまい、台風の進路を変える程の風力を持つ。簡単に言えば、新幹線が突撃してくる並みの猛烈な西風なのだ。
(さて、簡単にはいかなくなったぞ)
風速100mという風を受けた人間が、その風力に耐えるなどまず出来ることではない。空中で受け身を取れる方法と、空中に留まれる方法があって良かったと……出久は初めて思った。
当然だが……この場にいる生徒達の多くが、頂点を勝ち取らんとして全力で挑んでいる。彼らが立ち止まってくれる訳などないのは明らかだ。加え、上位何名までが予選を突破出来るのかということは生徒達に全く知らされていない。それ故、焦りすぎは良くないが、安心せずに程良く焦る必要はある。
第二関門を突破するまで、ターゲットに30秒ごとに風を吹かす風圧装置。脱落はなけれど、厄介には変わりない。
(よし、法則は決まった……!)
出久はすぐさまここを突破する為の法則を定めると、彼は地面に降り立って駆け出した。
『おおっ!?緑谷、地面に降り立った!地道にロープを渡る気なのか!?それとも……崖と崖を跳び移っていく気か!?』
モニターを通してこれを観戦する観客のみならず、実況のプレゼントマイクや解説の相澤すらも出久の行動に注目した。
出久は、波紋の呼吸と全集中の呼吸その常中や反復運動によって増した身体能力によって次々と崖と崖を跳び移っていく。
当然ながら、風圧装置は出久をターゲットにしており、30秒が経つごとに出久に向けて強風を吹かす。
「……ここだ……っ!」
出久は、強風が吹き付けるタイミングを明確に見極めると……
「風の呼吸・参ノ型 晴嵐風樹ッ!」
己の周囲を取り巻くようにして風圧を巻き起こし、強風を見事に相殺するのであった。
『んなぁっ!?緑谷、なんてセンスだ!空中だろうが、平然と強風に対処しやがった!』
『戦い慣れした上、空中での行動に慣れている彼奴だから出来る芸当だな。装置も壊さずに風を防ぐ方法があるとは、合理的なことだ』
プレゼントマイクが仰天すると同時に、相澤は感心した様子で出久を見守り、会場中では彼のセンスの高さに歓声が巻き起こっていた。
因みにだが、出久が使用したのは全集中の呼吸、その無数に分かれた流派の一つで霞の呼吸の派生元でもある風の呼吸だ。
実は……この2週間の特訓の中で、出久には"個性"を用いて出来ることが更に増えた。その出来ることというのは、己の精神世界に留まる人物達の精神を辿ることで彼らに関連のある人物の精神世界に本人を連れてお邪魔するというものだ。
関連のある人物達からは、経験を受け取ることは出来ないものの……彼らの扱う技や技術などは実際に学び取ることが可能であった。
そうする中、出久は無一郎伝いで、白髪と傷だらけの体に、かつては血走っていた目が特徴であった元風柱、不死川実弥との出会いを果たし、彼から風の呼吸の九つある型の全てを学び取ったのだ。
__今や、彼も時折出久の精神世界に遊びに来る程の仲である。因みにだが、無一郎も出久も彼の人生を体感することがなくとも、彼の目が優しくなったことから鬼が滅されたことを察して安心したとか__
出久は、技術を学ぶことを、関わりを持つことを承諾してくれた実弥に大層感謝した。
「っくそっ、速え……!」
ロープを凍らせながら滑り抜き、出久の背中を追う轟だが、そもそもの速さが出久に敵わず、彼は悔しげに呟きながら歯を食いしばっていた。
「チッ、そう高いところは飛べねえってか……!なら、低空飛行すりゃいい話だよなァ!」
一方、爆豪は両掌から断続的に爆破を起こすことで、出久のようにして高度が高いところを飛行していたものの……プレゼントマイクの解説や出久の様子を聞き逃さない上に見逃さず、高度を落として低空飛行にシフトチェンジした。
彼の"爆破"は、己の汗腺からニトログリセリン擬きを分泌してそれを爆発させることで発動させるものであるが……汗をかけばかくほどその威力は増す。
ここにきて、程良く汗をかいてきた爆豪の本領が発揮される。ただでさえ圧縮で放たれる爆破による空中飛行は凄まじい速度を誇るが……汗をかくことによって余計その速度が増していく。遂に彼は、轟を抜いてその前に出た。
「ッ!?お前っ……!」
やはり、爆豪のことは無意識に眼中から外していたのであろうか。自分のプランが全て崩れ去ったかのように轟は驚いた表情をした。
「だから言ったろ。テメェのナメた態度、後から後悔させてやるってよォ!」
轟を追い抜いた爆豪は、してやったりと白い歯を見せて不敵な笑みを浮かべると、ついでと言わんばかりに轟に爆破を放って彼を妨害した。
更にその先を見てみれば、
「ッ!?」
(俺は……何やってんだ!)
轟は酷く動揺した。まるで、嘘をついた時のように呼吸が深くなった。心拍が上がって、息が詰まるような感覚がする。勿論嘘をついた訳ではないのに、汗が吹き出た。自分が頂点を取れないことを察した動揺による汗ではないはずだと……そう信じるしかない。
このままでは自分の望みを果たせなくなる。そんな予感がして、彼は必死で自分を鼓舞しながら前を目指した。
そして、出久はいよいよ最終関門に到達する。
最終関門が賜った名は……"怒りのアフガン"。単純に言ってしまえば、一面地雷原のエリアである。第一関門の時ほどではないが、ここも開けたエリアであり、地面には所々何かを掘っては埋めたかのような細工の跡がある。
(成る程、目を酷使すれば地雷原の位置は分かるってことか。それにしても……これは先頭であればある程不利になるな)
先頭である以上、地雷を踏んでその罠に引っ掛かった者は誰もいない。そうなれば、当然仕掛けられている地雷の数も多い訳だし、多くに注意を向けなければならない。避けるべき地雷が多いのだ。
"円"によって地雷の位置を事細かに把握したはいいが、出久はなんとなく嫌な予感がしていた。
「空飛べば関係ないっちゃないんだけど……。…………試してみるか」
何事にも仮説の検証は大切なことである。後続のためにも……というつもりはないが、やるに越したことはないだろう。もし、出久の仮説が当たっているとしても、彼には避けることなんぞ易々と出来る。
空中に浮いて数秒後。最終関門の地雷原エリア、その外側にある草叢やら、木陰やらから発射音が聞こえた。
視線をそちらに向けると、ミサイルやら、無数のゴム弾やらがこちらの方に飛んできているではないか。
出久は飛んできたゴム弾を一つ残らず鷲掴みすると同時に、指先を細かく動かしてミサイルを一つ残らず細切れにすることでそれらに対処した。
『おいおいおいおい!マジかよ緑谷ァ!お前対策に用意したギミックも易々と防ぎやがった!』
愕然としながら声を上げるプレゼントマイクに、『それは本人に言うもんじゃないだろ』と呆れの表情を向けた相澤はギミックの解説に入った。
『通称"怒りのアフガン"。まあ、見ての通りの地雷地帯だ。威力自体は大したことないが、体勢を崩したらどうなるかはお察しだろう。で、飛行系の"個性"持ちや、生徒の中でも特に規格外などこかの誰かさん対策として、空中に数秒いた対象を捕捉して、ミサイルを放つ発射装置に、ゴム弾を放つ連射型の対空砲も今年は設置させてもらった』
『地上に降りればターゲットは外れるが、再び空中に行けば標的にされるからな!地上を行くか、空中を行くか。状況に合わせて合理的に判断しろ!』
『おい、俺のセリフ取るな』
まさしく、瞬時かつ合理的な判断がここでは求められる訳だ。
第二関門での風圧装置も出久対策ではあるのだろうが……念には念を入れよというやつである。出久があれを突破することも考慮済みだったのだろう。
この対策を提案したのは出久の担任である相澤なのであろうが、自分に向けて細心の注意を払う彼の姿勢は尊敬すべきだ。
策を練り出す必要がある訳だが……出久は後ろに焦点を当てた。
(緑谷も爆豪も、丸刈りの彼奴もスピードを上げて空中を行くことは出来ない……!これならまだ追いつく可能性がある!)
まず、注目すべきは轟だが……彼は、もはや手段は選べないと思ったのだろうか。後続に道を作ることにはなるが、地面を凍らせながらこの地雷地帯を駆けていた。
「ッ、クソ!うぜェんだよクソミサイルとゴム弾!俺ァ出久を抜くんだ!邪魔すんなァ!」
次に爆豪。彼は……ミサイルとゴム弾に愚痴をぶつけながら、器用にもそれらを避け、撃ち落としている。流石にスピードは落ちているものの、空中に留まれていること自体が称賛すべきことだろう。
自分を追い抜くことを豪語するのを見ていると、公開処刑同然で恥ずかしいなと思った出久だが、それは置いておく。
「うおおっ!?ゴム弾とミサイルが!想定外の妨害っスね!?でも……そうこなくちゃ面白くないっスよねェ!!てか、金髪のあんた!A組の爆豪だろ!?飛んでくる奴、全部避けるって凄えセンスだ!」
「だっ、誰だテメェ!?そういうテメェも風で軌道変えてんのかァ!?やるじゃねェかよ!」
最後に……轟を抜き、今や爆豪と並び立ってワイワイと会話を交わしながらミサイルやゴム弾を防ぐ、丸刈り頭の少年。
少なくとも、出久は彼に見覚えがなく、恐らくはB組の生徒なんだろうと考えた。
一先ず出久は、己に時間がないことを察した。トップを勝ち取るには、これ以上ここで立ち止まることは許されやしない。
ならば……。
「俺も手段は選べないよな」
ここで出久は、
「スタープラチナ・ザ・ワールド」
己のスタンド、スタープラチナの速度が光速を超え、辺りの時が止まる。
スタンドを使用して、DIOを始めとした人物達と修行を繰り広げたおかげで、スタープラチナの成長性は既にDで完成の一歩手前にある。
現在、時間停止が可能な時間は4秒というごく僅かな時間ではあるが……人間を遥かに逸脱した速度で移動が可能な出久には十分な時間であった。
「
彼は、地面一帯に波紋を流しながら地雷地帯を駆け抜け……その終わりに足を踏み入れた。
「……そして時は動き出す」
こうする必要はないのだが、洒落たような演出がてら出久は指を鳴らしながら時間停止能力を解除する。
「っ!?緑谷が……消えた!?」
「!?ど、どこ行った出久!?」
「緑谷が居なくなった!?凄え!どうなってるんスか!?」
「俺に聞くな!知らねェ!クソッ……出久め、まだ力隠してやがったのか!」
『なっ、何が起こったぁぁぁぁぁ!?気がついたらA組緑谷……最終関門を突破しているぞ!?』
「「「!?」」」
当然ながら、時の世界に同じく入門した者でなければ出久の動きを目で見ることは出来ない。それ故、後ろにいた爆豪と轟に丸刈り頭の少年にも、実況のプレゼントマイクに解説の相澤、果てには観客やプロヒーローにまでも、気がついた時には出久が最終関門の終わりまで瞬間移動したようにしか認識出来ないのだ。
目の前の目標が遥か先に立っていることで、爆豪も轟も魚が水を離れたようであり、混乱状態に陥って、一瞬動きが止まった。__ただ1人、丸刈り頭の少年は緑谷の凄さに感動しているらしかったが。因みに、動きを止めた点は同じくである__
しかし。
__カチッという、何かの起動音があちこちから聞こえたことで、3人は正気に戻った。
次の瞬間、辺り一帯の地雷が次々と爆発を起こす。
「どわっ!?」
「っぐっ!?」
「地雷が爆発したァァァ!?何が起こってんスか!?」
当然ながら、棒立ち状態だった3人は体勢を崩してしまう。後続の者達も、その多くが足を止めるか、大きく体勢を崩していた。
『What!?緑谷が最終関門突破したかと思ったら、次々と地雷が爆発し始めたぞ!?イレイザー!説明してくれよぉ!』
プレゼントマイクは、地雷原が次々と爆発していく光景に混乱し、縋るようにして相澤の肩をグワングワンと揺らした。
『情緒不安定か』
そんな彼の謎なテンションもあっさりと受け流し、相澤は解説に入る。
『まず……最終関門を突破したのは、時間停止能力のおかげだろうな』
『じっ、時間停止!?』
『緑谷の扱う力の一つに、スタープラチナという……守護神みてえな見た目した、簡単に言えば幽霊のような存在がいる。こいつの特殊能力が、その時間停止能力なんだそうだ。止められる時間は4秒とごく短いが……緑谷は本気を出せば人間を逸脱した速度での移動が可能。やろうと思えば、更に速度を出す方法もある。その短い間で最終関門を突破出来てもおかしくない』
『おぉぉぉぉい!チートじゃねえか!
相澤の解説とプレゼントマイクのリアクションを聞きながら、出久は会場が観客達の驚愕の声で埋め尽くされていることをあっさりと予想して、ゴール目掛けて駆けていた。
続いて、地雷の連鎖爆発の件についても説明を求めるプレゼントマイク。彼に呆れ顔を向け、『お前はガキか』とチョップを加えながら、相澤はそちらの解説も行った。
『緑谷の扱う力に、波紋という……特殊な呼吸法によって生み出す、太陽のエネルギーと同じ性質を持つ生命エネルギーがある。
肉体操作術や、治療、身体能力増強辺りが主な使用法だが……こいつを流した対象の機能をトチ狂わせて操ったりすることも可能らしくてな。恐らくは、その応用。地雷に高出力の波紋を流すことで機能を狂わせ、意図的に操ったんだろう』
『ト、トリッキー!?単純に強い上に搦め手も!?流石は緑谷だ!』
そうこう解説を続けているうちに……出久は後ろにいた爆豪達を大きく引き離して、ゴールまで残り50mの位置まで来ていた。
『さあ、解説もそこそこにしようか!雄英体育祭1年ステージ!序盤から他を追随する活躍を見せ、圧倒的な実力……その片鱗を見せつけたこの男が今!1番にスタジアムに還ってきたぁぁぁぁぁ!』
プレゼントマイクの実況と同時に、ゴール地点のスタジアムに足を踏み入れた出久。彼は観客達の目線を一斉に浴びると同時に……開会式の時のように右腕を掲げ、人差し指で天を指し示して直立する。
『見ろ、オーディエンス!マスメディア!こいつが障害物競走をトップで通過した我らが英雄……緑谷出久だァァァ!』
開会式の時に見せたスタンディングもあって、観客達のテンションは最高潮まで鰻登り。出久は、心地の良い歓声の津波を余すことなく浴びた。
古代ローマでは、国家の勝利に貢献した司令官を民衆の前で讃える凱旋式というものがあったらしいのだが……その時に讃えられる司令官もこんな爽やかな気持ちなのであろうか。
出久は、最初にマスメディアの向けるカメラに向けて微笑むことで、テレビを通して観戦しているであろう母と耳郎の両親に。
次は教師用の席にいるオールマイトに微笑むことで彼自身に、自分の勝利をアピールした。
2番手でゴールする爆豪が辿り着くその時まで歓声は続いていた訳だが……彼がゴールするや否やオールマイトを意識したスタンディングをすることで、会場のテンションは再び最高潮へ逆戻りしたのであった。
因みに。
「おいコラ出久ゥ!時間止めれるとか聞いてねェぞゴラァ!」
「ごめんて、かっちゃん」
「テメェ!まだ力隠してんじゃねェだろうな、オラァ!余すことなく俺に教えやがれ!ぶん殴るぞ!」
「分かった、分かったから、かっちゃん。ステイステイ」
「犬とガキ扱いやめろやぁぁぁ!」
スタンディングを終えて、オールマイトに白い歯を見せつけてニッと笑みを向けた後に爆豪は、出久に詰め寄って口論(一方的)を巻き起こした。
高校生らしいというか、幼馴染らしいというか……。そんな光景に、彼らの事情の諸々を知るオールマイトは微笑ましそうに……父親のような暖かい笑みを浮かべて2人を見守っていたのだった。
「……13号君」
「どうしましたか、オールマイトさん」
「父親ってこんなあったかい気持ちになるのかなあ……」
「…………へ……?」
「何がどうしてそうなったんですか、オールマイト」
だいぶ長くなってすいません。
ちなみに、障害物競走の順位は以下の通りです。
1位 緑谷出久
2位 爆豪勝己
3位 夜嵐イナサ
4位 轟焦凍
5位 飯田天哉
6位 塩崎茨
7位 骨抜柔造
8位 常闇踏陰
9位 心操人使
10位 瀬呂範太
11位 切島鋭児郎
12位 鉄哲徹鐵
13位 尾白猿夫
14位 泡瀬洋雪
15位 蛙吹梅雨
16位 障子目蔵
17位 砂藤力道
18位 麗日お茶子
19位 八百万百
20位 峰田実
21位 芦戸三奈
22位 口田甲司
23位 耳郎響香
24位 回原旋
25位 上鳴電気
26位 円場硬成
27位 凡戸固次郎
28位 柳レイ子
29位 拳藤一佳
30位 宍田獣郎太
31位 黒色支配
32位 小大唯
33位 鱗飛龍
34位 庄田二連撃
35位 小森季乃子
36位 鎌切尖
37位 物間寧人
38位 角取ポニー
39位 葉隠透
40位 取蔭切奈
41位 吹出漫我
42位 発目明
43位 青山優雅
はい、順位や本編をご覧いただければ分かるでしょうが、設定改変致しました。今後の物語のことを考えてですので、ご了承下さいませ。
因みにですが、一部キャラは順位が変動しております。
11/6 順位に上鳴君が入っていなかったので、急遽変更しました。……本当にすまん、上鳴君……。
では、また次回。