異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake 作:白華虚
さて、少し時間を遡ろう。各生徒達に与えられるポイントが発表された後、騎馬戦のルールの詳細説明が行われた。その中でも特異的だったのは、騎馬が崩れた場合、鉢巻を全てを奪われた場合のいずれでも脱落にはならないことだ。崩れても、騎馬を組みなおせば競技を続行出来るし、鉢巻が全部奪われようとそれを奪い返さんが為に、同じく行動が出来る。
そんな説明を聞きながら、前者はヒーローとしての不屈の精神を、後者はよく言われる、「ヒーローとは
そして、ルール説明の後に15分間のチーム交渉兼作戦会議の時間が設けられた。
時は金なり。時間は有限且つ、金のように貴重で浪費するなど言語道断なものだ。
出久は即座に行動を開始して、予め声をかけると決めていた4人に声をかける。
「飯田君、麗日さん、心操君、響香さん」
出久に声を掛けられた4人は、やはり期待通りに声を掛けてくれたと言わんばかりに誇らしそうな表情をして彼の方を見た。
「君達いずれと組んでも、最善になる策は用意してる。それを分かった上で……君達の気持ちを聞かせてほしい」
出久は彼ら一人一人と目を合わせながら、その内の誰かを強制的に誘うのではなく、選択肢を与えた。
飯田、麗日、心操、耳郎の4人に与えられた選択肢は二つ。出久と組んで、確実に勝ちを取りにいくか、自分を追い込んででも己の意思で勝ちを掴み取りにいくか……だ。
一番最初に選択したのは、耳郎だ。
「ロックな展開でいくなら、挑むって選択肢だって思う。でも……ウチは決めたんだ。全部を懸けて出久を支えるって。出久の隣だけは絶対譲れない。競い合うのは他に譲ってしまったとしても、支えるのだけは絶対譲れないし、譲らない。だから、出久。ウチはあんたと組むよ。勝ちに行こう」
彼女は、そう述べると白い歯を見せながらニッと頼もしく笑ってみせ、その拳を突き出した。
「ありがとう、響香さん。よろしくね」
出久もまた微笑みを浮かべて、彼女と拳を合わせた。次は……残った3人が選択する番だ。
彼らはいずれも笑顔であり、出久と組むことを選び取った耳郎の意志を尊重し、称賛しているようであった。出久自身、彼らの目線や感情感知能力によってそんな感情を読み取っていた。
3人は顔を合わせて頷き、最初に飯田が一歩歩み出て、眼鏡のブリッジを指で押し上げながら答える。
「緑谷君、お誘い感謝する。君のような人に頼ってもらえることは、嬉しいし……凄く誇りに思っている。しかし、俺は思うのだ。君に頼り切りのままでは、成長出来やしないと!未熟者のままだと!思えば、君は入試の時からそうだった。君は常に俺の遙か先を歩いている男……。だからこそ、俺は君に挑戦する!」
飯田から感じるのは、強い競争心。あの目はまさに、自分をライバルとして見る目だと出久は直感した。そんな彼に、威風堂々たる強者としての強い意志の宿った目を向けて出久は頷く。
(承ったよ。全力で来い、飯田君)
出久の目を見た飯田もまた感謝の笑みを浮かべながら、ゆっくりと頷いた。出久の心の声は、実際に聞こえていなくとも飯田に伝わったことだろう。まさしく、以心伝心だ。
飯田に続いて、心操が歩み出る。
「お前には返し切れない恩があるよ。お前と組んで、お前に貢献することでその恩を返すってのも一理ある。でもな……俺は、戦闘に向かない''個性''を持つ者として、もう一皮剥けなきゃいけない。お前にレールを敷いてもらって、ここまで来れたその恩は……お前に頼らず、己の策でここを勝ち抜くことで返す」
強く拳を握り締めながら告げた心操の瞳には、確固たる意志が宿っていた。鋼の如く、簡単には揺らがない上に、折れない意志。自分の向上の為に、出久に挑む姿勢は周りも尊敬すべきものだ。オールマイトも言っていたことだが、貪欲に上を目指すか否かという姿勢は、社会に出ると大きく響く。今も、心操は一歩、また一歩と上を目指しているのだ。
出久は、そんな彼の意志をまた一つ汲み取り、頷く。そして、彼にもまた視線のみで、全力で来いと伝えた。言われなくともそうする、と言わんばかりに心操も満足気に笑いながら頷き返している。
最後は、麗日の番である。彼女は、両拳をグッと握り締めながら、普段の麗かさとは一風変わって……ヒーローになりたい理由を語った時のように凛とした目を出久に向けて、口を開いた。
「実はね、緑谷君。ここ2週間の特訓って、体育祭の為だけにやってるものじゃなかったんだ。勿論、体育祭で強くなった自分を見せるっていうのもあったけれど……!1番の目的は……
麗日は胸を張りながら、ビシリと出久を指差して言う。彼女は、再び拳を握りながら続けた。
曰く、3人も個性把握テストの後の出久の話を聞き、出久の中の陰りに気がついたのだそう。そして、彼が何かをたった1人で抱え込んでしまいやすい人物であることも察したのだ。その時から出久に頼ってもらえる人物になる為に彼らなりに特訓を積んでいたが、USJ事件を経て、その思いが強くなったのだそうだ。
飯田は、もっと速く、強くなる為に。
麗日は、もっと強く、今度は自分が出久を救ける為に。
心操は、もっと強くなり、恩を返すと共に隣で戦えるようになる為に。
それぞれが新たな理想を胸にして、実現の為に行動を起こそうとする中、その意志を感じ取る者がいて、歩み寄ってくれた。まさしく類は友を呼ぶであるが……その意志を感じ取った者こそ爆豪である。
爆豪は、常に全部を懸けて出久を支えんとする耳郎にも己の教えられる全てを授けんとしており、この2週間の特訓に彼女を誘うことは予め決めていた。放課後、自主トレを積極的に行っていた爆豪は、度々特訓を積む飯田達の姿もまた目にしていたのだが、彼らの姿勢からもまた、耳郎と同じように意志を感じ取った。そうして、彼は「どうせやるなら全部巻き込んでしまえ」方式で3人も特訓に誘ったのだった。
ここまでの経緯を語った麗日は、凛とした目にやる気を満ちさせながら言う。
「緑谷君に頼ってもらえる人になる為には、まず、私が君に頼りきりな状況から抜けないといけない!だから、ここで緑谷君に挑んで、見せつけるんだ。麗日お茶子はこんなにやれるんだって!君を救けるに相応しいくらいになれたんだって!私は……緑谷君に挑む!」
そんな彼女の目を見ながら、出久は思った。本当に見違えたな、と。
これまでの麗日は、ヒーロー志望であれど、守ってやるべき可愛らしい少女であった。しかし、彼女は今、強い意志を宿した1人の女戦士のように逞しくなっている。
3人の意見を聞いた出久は、優しい笑みを浮かべた。
「うん……3人の意志はよく分かったよ。なら、俺から言えるのはたった一つ。飯田君、麗日さん、心操君。全力で這い上がって、来い。負ける気はないからこそ、敢えてこう言わせてもらう。最終種目で待ってる」
優しい笑みのままながらも力強いその一言は、3人を更にやる気にさせる。この様子なら、騎馬戦でも最高のコンディションを発揮出来ること間違いなしだろう。そして、5人は互いの健闘を祈って拳を合わせ、それぞれの行動に移る。
出久と組むことを決めた耳郎は、麗日達の背中を、共に高めあった仲間として誇らしく思いながら清々しい笑みで見送った後、彼に尋ねた。
「さてと……出久、次のメンバーはどうする?出久のことだから、いくつも作戦考えついてると思うし、心配はしてないけれど」
出久は彼女に尋ねられると、次点のメンバー候補での最善の策を練りながら言う。
「策は勿論、いくつも考えついてる。余裕って訳じゃあないけど、俺は敢えて自分を追い込もうと思ってる。だから、彼を誘うつもりなんだけれど……」
「出久。俺と組め」
出久が次に目をつけた者を探していたその時。背中越しに声が掛けられた。
「はは……まさか、そっちから来てくれるとは思ってなかったよ。かっちゃん」
出久が目をつけていた且つ、声を掛けてきた者の正体は爆豪。出久が自分と組まざるを得ない提案をせんとする交渉者と言うに相応しい、確信に満ちた笑みを浮かべた彼に出久は尋ねた。
「じゃあ……その心は?」
爆豪は、白い歯を見せつけて口の端を吊り上げ、紅い瞳が今にも獲物を見定めた狼の如く光り輝かんとしていると錯覚させる程のギラついた闘志をそこに宿しながら答えを出した。
「……
爆豪の口から出たのは、日本古来から親しまれている、神事や祭であり、武芸や武道、娯楽でもある相撲だった。超常黎明期以来、オリンピックのように衰退してしまった、数あるスポーツの一つではあるが……未だに親しまれているものであるし、数々の大会の記録がDVDなどで残っていたりもする。
天長地久。古きものを愛する姿勢が変わることなく維持し続けられているのは、まさに敬意を表するべき日本人の心だ。
閑話休題。そんな超常黎明期以前に流行っていたものの名前が出たことを、耳郎は疑問に思った。耳郎自身、相撲の名前自体は聞いたことがあるし、出久が空条承太郎という人物の影響でそれが好きであることも知ってはいるが……それと、爆豪が出久にチームを組むよう持ちかけてきたことに何の関係があるのだろうか?
そんなことを思いながら、出久を見てみると……彼はハッとしながらも、大層満足そうに笑っていた。爆豪もまた、笑みを深めながら続ける。
「んで出久よォ、お前は相撲が好きだが……特に好きなのは
その言葉を聞いた出久は、彼の意図を察して、彼が言わんとすることを引き継いだ。
「つまり……俺と君とで組めば、狙いは一点集中。追い込まれて、そういう状況にならざるを得ないと」
爆豪も、彼の言葉に肯定しながら続ける。
「そうだ。それに、騎馬戦でお前に勝ったって意味はねェ。勝つんなら、最後の最後……真っ向からの実力勝負でこそだ。それならよ……ここで俺ら2人が揃えばどうなるか、他の奴らに見せつけてやろうってな」
そこまで聞くと、出久は自分の考えることを全て判っていることへの感謝を含めた笑みを浮かべて、爆豪と握手を交わした。
「Great。君は最高だな、かっちゃん。君が幼馴染で本当に良かった」
幼馴染として居てくれた感謝や、自分の考えを見抜く洞察力への感心の入り混じった笑顔を爆豪へと向ける出久。彼のそんな笑顔を見た爆豪は、また一つ許された気がして、安堵の笑みを溢した。
「……むうっ……」
そんな風に気持ちの通じ合える爆豪に、耳郎はヤキモチを妬いていたとかいないとか。
ここで、出久は一度自分のチームに集った戦力を整理することにする。
「まず……騎手はかっちゃんだね」
「おう、分かった。機動力だな」
やはり、機動力のある爆豪が騎手であることは確定だろう。騎馬から離れた場合でも、彼の圧倒的センスと技術ならば、騎馬にまで戻ってくることも可能なはずだ。
爆豪は、掌で爆発を起こした後に拳を掌に打ち付けながら、その役目を喜んで請け負っていた。
「そういうこと。狙いに行ける時は、鉢巻奪っても良し。響香さんは、妨害と得点源。左翼担当だね」
「オッケー。……余程鉢巻奪いたい相手がいるんだね……」
精密さと不意打ちの凶悪コンボが強みである耳郎の役目は、この二つが最適だろう。
耳郎はその役目を請け負いながらも、自分にまで鉢巻を奪うよう頼む出久から、微かに溢れる怒りのようなものを感じて苦笑していた。
「うん、ちょっと
((絶対皮肉野郎(物間)のことだ))
笑顔であれど、目が笑っていない出久を見て、微かな恐怖を感じながら2人は怒りの矛先を察していたという。
「右翼は俺で、補佐役。全ての経験を懸けて、皆を支えるよ。カバーは任せてくれ」
出久の言葉に頷きながら、2人も結論を出す。
「機動力や得点力は十分だよね」
「他も出久で補えるが、強いて言うなら欲しいのは……」
「うん……防御力だ。でも、心配ない。最適な人材には目をつけてる」
残り、一つの人物の役目は防御。それも他の追随を許さず、ちょっとやそっとでは揺らがず、隙を作らない程の。
幸運なことに、それを担える人材がA組には存在している。その人材というのが……常闇だったという訳だ。
「フッ、良いだろう。その提案、承った。俺としてもお前と共に戦えることは至上の喜び。俺を使ってみせろ」
「ああ、使ってみせるさ」
常闇もまた、誇らしげに出久の提案に乗り、互いに握手を交わし合った。
常闇の''黒影''は、そうそうダメージを受けやしない。彼自身の説明を聞く中でも、その弱点はたった一つ。光のみであることが分かった。闇が深くなればなる程、力が増すが、制御が利かなくなる。逆に光がある中ではパワーは劣るが、精密性に長ける。その精密性や防御力は役に立つこと間違いなしだ。
こうして、出久の騎馬に堂々たるメンツが揃ったのである。
★
いよいよ幕を開けた騎馬戦。予想通りと言うべきか、当然と言うべきか……周りの騎馬は殆どが出久達に向けて突き進んでいた。まさに猪突猛進。1000万ポイント奪取の為に向こう見ずに彼らの方へ突き進む姿は、直線的に突進する猪のようだ。
「実質、
「はっはっはー!いただくよ、爆豪君!」
その集団の先頭を突き進むのは、葉隠の騎馬と……小さい黒目に、眉毛も覆い隠してしまう程にバサバサのまつ毛、髪の左側をかき上げ、バックにしたような銀髪といった、ワイルドな見た目が特徴の少年、鉄哲徹鐵の騎馬だ。今はA組にギラついた敵意を向けているが、彼自身は物間のようにタチの悪い人物ではないので悪しからず。
因みに、切島と非常に似た性格と''個性''を持つ彼を見た、その張本人は……「''個性''もキャラもだだっ被りじゃねえか!」と涙ながらに嘆いたそうな。
よくよく見ると、葉隠の騎馬を担当する砂藤、口田、青山は顔を微かに赤らめている。そして、見てはいけないものを見たかのように必死に目を逸らしているようだった。
その原因は、騎手の葉隠自身にある。実は彼女、自分の腕の位置を悟らせない為か、上の服を全て脱ぎ捨てているのだ。彼女の状況を察した出久ら一行は、彼女を乗せることになってしまった3人にご愁傷様です、と言いたくなった。
「早速襲来とはな。追われし者の
さて、余談は置いておこう。
迫り来る騎馬の数々を前に、常闇は騎手である爆豪に選択を委ねる。
「逃げの一手だ」
ここで易々と1000万を渡す訳にはいかない。選ぶのは逃げ一択。逃走経路とその方法も、15分の間に練り尽くした。その準備の為、爆豪は叫ぶ。
「出久ゥ!
「任された」
まさに、これから摩訶不思議な手品を披露せんとする奇術師のように出久は微笑む。彼の両掌には……猫のような可愛らしい肉球があった。
その状態で爆豪、耳郎、常闇の3人に触れながら出久は油断なく声を上げる。
「響香さん、5秒後。地面が沈むから、爆音波の用意」
出久の指示に頷きながら、耳郎はプラグを構える。すると……出久の発言した時間ぴったりに、地面が柔らかくなり始めた。
鉄哲の騎馬において先頭を担当する、歯が剥き出しで、骸骨のような顔の少年、骨抜柔造の"個性"で引き起こされた現象だ。
分かっていたこと故、動揺はない。耳郎は、出久の指示をすぐさま行動に移し、地面にプラグを突き刺すことで爆音波を放つ。
衝撃が加わったことで、纏わりついていた地面は水のようにして引き離されていく。水のようにと言えども、見る限り引き離されたそれには粘性があり、どちらかと言えば沼のようだ。確かにこれなら、相手の拘束に最適な"個性"である。
地面が引き離されたその瞬間。
「ニューハンプシャースマッシュ!」
爆豪は、自身の後方……更に言えば、地面に向けて空振りの拳圧を放った。
オールマイトが急速移動の手段として用いるのがこの技である。
彼のような鍛え抜かれた巨躯を瞬く間に移動させる程の拳圧を放てるとなれば、現在浮くことによって、オールマイトより体重が遥かに軽い、出久や衣類のみの重量となった彼らの騎馬が空中に浮くのは当然のこと。
爆豪達は、空中に浮いて急速移動を行って騎馬の包囲網から、見事に抜けた。
そんな光景を見た鉄哲が、架空の生物を現実で目にしたかのような驚きの表情を見せながら言う。
「う、浮いたァ!?爆豪がオールマイトみてえな超パワーの"個性"を持ってるのは聞いたことがあるが、いくらなんでも無理があるだろ!?」
鉄哲の疑問は当然だ。いくらオールマイト並みとは言ってもそれまでのこと。爆豪の扱える''ワン・フォー・オール''の最大出力は、特訓の成果があれども未だ43%。半分にすら満たないのだから、オールマイトと同じような芸当が出来るはずがない。
しかし、そんな芸当を可能に出来る人材が爆豪の騎馬に存在する。その人材こそが、他ならぬ出久なのだ。
原理は分からないと言えど、先程の芸当を可能にしたカラクリに察しがついた、格子柄のヘアバンドと逆立てた黒髪が特徴である、泡瀬洋雪が声を上げた。
「多分だが……A組の麗日が瓦礫浮かせてたろ?緑谷はあれと同じで、3人を浮かしたんじゃないか?なんで同じことが出来るのかは全く察しがつかないが……」
彼の発言を聞き、鉄哲も骨抜もその顔に更なる驚愕の色が浮かぶ。
その表情は、さながら長期休暇に出された宿題が全て終わったと思って油断していたら、休みの最終日にもう一つ宿題が残っていることに気がついて……しかも、それが1日では到底終わらない物であった時のようだ。
出久の''個性''の詳細を知らない彼らからしてみれば、障害物競走で解説を行った相澤から聞いた、時間停止や波紋が''個性''そのものだとしか考えられないのであろう。だからこそ、泡瀬の推測を聞いて、こういう反応を見せたのだ。
因みにだが、泡瀬の予想は的を得ている。
出久はメルエムの力により、当然ながら麗日からも"
緑谷の''個性''は何なんだ、と頭を抱える鉄哲。そんな彼らの会話の中に、ようやく茨の髪の毛を持ち、吊り目気味な目や端正な顔立ちが目を引く少女……塩崎茨が参加した。その雰囲気は、女騎士やシスターのように凛然且つ清らかであるが、その表情は獲るべき標的を逃がした狩人のように悔しげだった。
どうやら、爆豪が額に巻きつけた鉢巻を奪わんとしたが、常闇の操る''黒影''に妨害されたようである。
「すみません。虚を突いて獲ろうとしましたが、逃がしてしまいました……。やはり、私達にとっての最も困難で、巨大な試練は緑谷さんですね。何せ、A組の皆さんと違い、我々は彼の''個性''の全貌を知ることが出来ていない」
塩崎の嘆きは最もだ。彼らもまた、ヒーロー志望として出久の動画に目を通してはいるが……あの時、出久が用いたのは、見聞色の覇気や透き通る世界に、メルエムの能力といった目に見えない力ばかりであり、"個性"を用いず、単なる高度な技術で敵を叩きのめしたようにしか見えない為、見抜けないのは無理もない。
''個性''に関する情報の有無は、ヒーローとして活動する時も重要な役割を果たす。
実験や検証で得た知識が力になる、という本来の意味とは少し異なるが……これもまた知は力なり、だ。
この言葉を生み出したのは、哲学者であるフランシス・ベーコンだが、彼らのような哲学者は後世に受け継がれる程の偉大な功績や言葉を残している。まさしく偉大な人物達だ。
閑話休題。事前に"個性"を知ることが出来なかったのであれば、実戦の中で見抜くしかない。事実、プロヒーローになれば、実戦の中で見抜かなければならないことが多かろう。出久の"個性"を見抜くことも、将来に繋がる経験だと思えば、何も辛いことなどない。
それに、"個性"の得手不得手で相手に背中を向けるような者が立派なヒーローになれるのだろうか?……いや、なれはしない。そんな状況では、かつてのヘドロ事件や、出久の出ている動画の時のように情けないヒーローへの道を一直線に進んでしまうこと間違いなしだ。
鉄哲達もまた、動画を通して出久の姿を刮目し、真のヒーローに憧れた者達。ここで背中を向ける選択肢などない。
「"個性"が不明だからって逃げていたら……腰抜けだって笑われてしまうな」
一同は、骨抜の言葉に頷いてやる気を出す。
「おっしゃあ!諦めるにゃ早すぎる!俺らだってヒーロー科だってこと、見せてやるぞ!」
そして、鉄哲の言葉と共にやる気という名の炎を燃焼させながら、進撃を開始。
葉隠の騎馬の先頭である、青山のレーザーを気功波で相殺して着地する、出久らの背中を追った。
そんな鉄哲らを見て、成人を迎えた誇らしき息子や娘に向けるかのような慈悲に溢れた笑みを出久が浮かべているとは、彼らにも知る由のないことだ。
★
『さあ、まだ開始2分と経ってねえが早くも混戦!各所で鉢巻の奪い合いが起こってんぜ!
戦国時代の最中であるかのような混戦具合の中、プレゼントマイクの実況が会場中に響く。彼の、わざとトップ以外を狙うことを勧める発言はまさに煽り文句。
そんなかったるいことをやるくらいなら、トップ一択だと出久らを狙う者たちは余計に闘争心に火をつけた。
そして、今……闇から標的を狙う狙撃者の如く、彼らに狙いを定めたものがいる。
「奪い合い?違うぜ!これは一方的な略奪よぉぉぉ!」
その男の名は、峰田実。その声に反応し、爆豪は声の聞こえた方を振り向くが……声の聞こえた方に居るのは、障子のみであり、彼が肉弾戦車の如く全速力で突進してきている姿が目に入った。その様は、ラグビーを行う際、同じような調子で体格のいい男子達が何人飛びかかってもなお勢いを落とさなかったジョナサンの姿を出久に想起させた。
「あァ?峰田の野郎はどこにいやがる?」
声の方向から、峰田の居場所を探らんとする爆豪だったが、彼が結論を出す前に出久が行動を起こした。
「はあっ!」
出久は腕を振り払うと、斬撃波の如く炎を飛ばす。それで何かを燃やすと同時に言った。
「皆!峰田君の居場所は、障子君の背中!皮膜の中だ!それと、その中には梅雨ちゃんもいる!」
「ちくしょう!オイラの髪の毛を燃やすだなんて、なんてことをしやがるんだ、緑谷!ああ、正解だよ!障子の皮膜に隠れてんのさ!」
居場所がバレた峰田は、バレたのなら仕方がないと言わんばかりに、仲間を出し抜いた裏切り者のようにして下卑た笑みを浮かべながら言う。
直後に、ピンク色で鞭のような長さの何か……即ち、蛙のように長い舌を伸ばして爆豪から鉢巻を奪わんとしながら蛙吹も顔を覗かせた。
「緑谷ちゃんにバラされたばかりだけど、私もいるわよ。流石に獲れなかったわね。凄い反射神経だわ、爆豪ちゃん」
「伊達に予測能力鍛えてねェんでな!」
そんな中でも引き続き投げられる峰田の髪の毛だが……はっきり言うと、場所さえ分かればどうにでもなる。再び投げられたそれも、爆豪の放った爆破弾によって灰となってしまう。
再び自分達が囲まれ始めている故、爆豪達は離脱を決意する。峰田が癇癪を起こして動きを止めている間に、再び出久が自分以外の3人を浮かし、爆豪がニューハンプシャースマッシュで拳圧を空振りすることで急速移動を行う。
上空に浮かんだ爆豪達だが……ここで大胆な行動に出ることにした。
「っしゃ……出久、
「了解。ちゃんと回収するから、安心していってらっしゃい」
お前達は互いを信頼し合った夫婦か、とツッコミが入りそうなやり取りを交わした爆豪と出久。
出久の返事を聞いた爆豪は、一安心して
『!?な、なんだ!?爆豪、急に騎馬から離れたぞ!?ミッドナイト、ありゃ有りなのか!?』
突然の爆豪の行動に、実況のプレゼントマイクやら、解説の相澤やら、観客の一般人やプロヒーローやら……会場の全員が注目する。
騎馬戦なのに、肝心の騎馬を離れるという行動はなんとも容認し難い故、プレゼントマイクは主審のミッドナイトに判断を委ねたようだが……。
「テクニカルなので有りよ!地面にさえ着かなければ大丈夫!」
なんと喜ばしいことか、ミッドナイトは有りだと答えた。
これで、何も憂いはない。存分に行動を実践出来るというものだ。
「いくぞゴラァァァァッ!」
爆豪は、一騎討ちに挑む武将の如く猛々しい叫びを上げると……両掌から圧縮爆破を放って高速飛行を開始する。
先程のミッドナイトの言葉からして、地面に落としてしまえば、相手が何を企んでいようと関係ないと考えたのだろう。遠距離を攻撃出来る"個性"を持つ者達は、爆豪を撃墜せんとした。
……しかし。
「だ、駄目!全部避けられてる!」
爆豪は出久や、とあるヒーローのお墨付きである得意の予測能力を用いて、迫り来る角やら、峰田の髪の毛やら、体のパーツらしきものやら……その全てを巧みに避けていく。
更に言うと、彼の周囲を囲うようにして、二つの気弾が旋回している。爆豪を地球だと例えるのなら、旋回する気弾はその周りを周回する人工衛星だ。
この気弾を操作しているのは勿論出久なのだが、恐ろしいくらいの念の入れようである。これでは、余計に迎撃のしようがない。
爆豪を迎撃せんとした騎馬の者達は、彼の企みを現実にしてしまった。
「なっ!?しまった!」
そう第一声を上げたのは、鉄哲である。彼は爆豪の接近を許してしまい、鉢巻を奪われてしまったのだ。
爆豪は、休む間もなく己の視界に入る鉢巻を次々奪い去っていく。そして、彼は遂に目的を成し遂げた。
『んなぁっ!?爆豪、己の騎馬から半径6m程か!?その範囲内にいる騎馬の鉢巻を、全て奪い取りやがったァァァ!なんてチャレンジャーな奴だ!』
そう、プレゼントマイクの推定した範囲内の騎馬の鉢巻を全て奪い取ったのだ。範囲を絞ったのにも理由があり、その理由は己の回収に関わっている。
「出久!
爆破を巻き起こして、既に着地を終えている出久達の方へと後退する爆豪。それを見た出久は掌を
更に、彼を大空の炎で覆うことで周囲と"調和"させ、彼の体重を大気と同じくらいに一時的に軽くする。
そうすることで、何の負担もなく爆豪を受け止められるという訳だ。
『おおおっ!緑谷、なんてスムーズな回収だ!見てるか、オーディエンス共!A組爆豪、多くのポイントを奪い取って、自分の騎馬に生還しやがった!』
プレゼントマイクの発言と共に、会場からは火山から噴き出たマグマの如く凄まじい勢いで歓声が巻き起こる。プロヒーロー達も、爆豪に出久、その両者の技術に舌を巻き、感心していた。
「お疲れ、かっちゃん」
「おう。役立ってんな、おばさんの"個性"」
「うん、俺もそう思ってる」
出久と爆豪の会話で察しがつくことだが、実は爆豪の回収において出久が使用した"個性"は、出久の母の持っている、物を引き寄せる"個性"なのだ。
無論ながら、出久は彼女の"個性"も習得しており、"個性"伸ばしの鍛練を行うことで引き寄せられる対象が物体のみならず、人も可能になると共に、引き寄せられる対象の重さの限界を4t、範囲を最大半径6mにまで拡張しした。
爆豪が奪い取った鉢巻が、いずれも半径6m以内の騎馬のものばかりであるのはそういった理由である。
爆豪は奪い取った鉢巻を首に巻き付けながら、ラストダンジョンで勇者を待ち受ける大魔王のようにして大胆不敵に笑い、叫んだ。
「奪われた鉢巻……取り返したきゃ、全力で取り返しに来いや!俺らは逃げねェ!真っ向から迎え撃ってやんよ!」
やる気に満ちた爆豪の叫びは、迫力があった。まさに言霊が宿っている……ということであろうか。
何にせよ、奪え返すには覚悟をして挑まなければならない。それを察した生徒達は、息を呑んで、冷や汗のようなものを流していた。
第二種目騎馬戦、8分経過時点。爆豪チームの所持ポイントは……1000万1705。誰にも文句を言わせぬ、圧倒的持ち点だ。
ご愛読ありがとうございます!初期の騎馬の持ち点や組み合わせ等、原作と異なっていますので、多少のネタバレにはなってしまいますが、下に紹介しておきます。
爆豪チーム
騎手:爆豪勝己……210P
先頭:常闇踏陰……180P
右翼:緑谷出久……1000万P
左翼:耳郎響香……105P
計、1000万495P
轟チーム
騎手:轟焦凍……200P
先頭:飯田天哉……195P
右翼:八百万百……125P
左翼:上鳴電気……95P
計、615P
切島チーム
騎手:切島鋭児郎……165P
先頭:夜嵐イナサ……205P
右翼:芦戸三奈……115P
左翼:瀬呂範太……170P
計、655P
心操チーム
騎手:心操人使……175P
先頭:尾白猿夫……155P
右翼:発目明……10P
左翼:麗日お茶子……130P
計、470P
峰田チーム
騎手:峰田実……120P
騎手:蛙吹梅雨……145P
騎馬:障子目蔵……140P
計、405P
葉隠チーム
騎手:葉隠透……25P
先頭:青山優雅……5P
右翼:砂藤力道……135P
左翼:口田甲司……110P
計、275P
鉄哲チーム
騎手:鉄哲徹鐵……160P
先頭:骨抜柔造……185P
右翼:塩崎茨……190P
左翼:泡瀬洋雪……150P
計、685P
物間チーム
騎手:物間寧人……35P
先頭:円場硬成……90P
右翼:黒色支配……65P
左翼:回原旋……90P
計、290P
拳藤チーム
騎手:拳藤一佳……75P
先頭:柳レイ子……70P
右翼:小森希乃子……45P
左翼:取蔭切奈……20P
計、210P
鱗チーム
騎手:鱗飛龍……55P
騎馬:宍田獣郎太……70P
計、125P
小大チーム
騎手:小大唯……60P
前騎馬:凡戸固次郎……85P
後騎馬:吹出漫我……15P
計、160P
鎌切チーム
騎手:鎌切尖……40P
前騎馬:角取ポニー……30P
後騎馬:庄田二連撃……50P
計、120P
以上となっております。次回もお楽しみに。