異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake   作:白華虚

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31話 生き残れ、若人(中編)

『騎馬から、まとめて鉢巻を奪い去った1位の爆豪チーム!ただでさえ狙われまくっているってのに、更に自分達を追い込んでいく気か!?オーディエンスに対するサービス精神旺盛だな、おい!』

 

現在進行形でありとあらゆるチームから狙われている爆豪チームを見ながら、プレゼントマイクが実況する。

 

別に、爆豪達には観客達を楽しませるつもりなどない。彼らはただただ自分を追い込み、好みの状況を作り出してから自分達を見せつけようとしているのみである。

しかし、スポーツの試合などでもそうだが、あまりに一方的で一瞬で終わってしまうような試合はつまらないものである。(正確には人によることであろうが)

 

そういう場において、人々は膠着状態での高度な駆け引きや、互角と互角による白熱の勝負、ピンチに陥ってからそれを覆す奇跡……。そういった状況を大事にし、楽しむものだ。

それを考慮すると、爆豪らの陥っている状況はそれに当てはまる訳であって、意図せずにプレゼントマイクの言う通り、「オーディエンスに対するサービス精神旺盛」な振る舞いとなっているのである。

 

今も迫る騎馬の動きを何らかの方法で止めたり、鉢巻奪取の為に迫る鉄哲の腕を()なして、風圧を叩き込んで後退させたり、出久が炎を放出したり、光り輝く球体を放ったり……。爆豪達は圧倒的な力の差と自分達の強さを見せつけていた。

 

そんな白熱の勝負を見せつける彼らにもっと注目していたいところだが、試合全体に目を向けて凡ゆる状況をお届けするのが実況というもの。

 

残り7分となった現在の時点で、各チームのランキングを伝達しようとして、それをスクリーンに表示し、目を通したプレゼントマイクは……予測済みでもあった故か、半ば無理矢理テンションを引き上げながら声を上げる。

 

『分かってたけど、分かってたけど!爆豪以外パッとしねえ!殆どのチームが0ポイントじゃねえか!あっ、でも、いくつかポイントを保有してるチームもあるみたいだな。よし、そっちを見ていくか!心操チームが595ポイントで、轟チームが775ポイント、それで物間チームが……ってあれ?』

 

物間チームのポイント数を読み上げようとしたところで、プレゼントマイクは、高校受験の結果発表の際に、自分の受験番号を無事に見つけでもなお自分の合格を信じられない受験生かのように目をパチクリさせ、直後に一転して、ようやくそれが夢ではないと分かった時のように驚きの声を上げた。

 

『切島……えっ、0()()()()()!?いつの間に獲られた!?』

 

自分のクラスメートの状況を実況されると、流石に気になるものだ。爆豪達は、迫る騎馬を凌ぎながらスクリーンの方に目を向けてみる。

 

するとどうだろう。まさにプレゼントマイクの実況通り、切島チームの持ち点が0ポイントになっていた。

 

出久は、その他のチームの持ち点をザッと目に通すと……コムギ譲りの自慢の記憶力によって記憶していた、全チームの初期の持ち点と現在のポイント数とを統合させて、即座に結論を出した。

 

「……物間君のチームに獲られたな」

 

出久の言葉に、常闇、耳郎、爆豪の3人は耳のみを傾け、更に爆豪は尋ねる。

 

「物間……。あん時の皮肉野郎か!」

 

「その通り」

 

出久は、爆豪の質問に肯定で返す。そうして依然、前から迫る騎馬に注意を向けていたが……ここでその対象と方向が増えた。

 

「敵意が隠せてない。爪が甘いよ」

 

自分達の鉢巻を奪い取らんとする対象に既に気がついていた出久が、対象を妨害する為に掌から気功波を放出する。

 

それを見た相手は、切島のように肌を硬化させて出久の気功波を受け切った。

 

「……大したものだね、緑谷出久」

 

「物間……!早速ウチらも狙いにきたんだね……!」

 

自分達に迫りつつあった対象とは、金髪に整った顔立ち、灰色の瞳をしたタレ目が特徴の優男風の少年……。言わずもがな物間率いる一行だった。

 

彼の立つ方向に騎馬の方向を変えると、物間達の来た方向から切島の騎馬も追ってきていることが確認出来る。

 

(……ここばかりは邪魔されたくない)

 

無論だが、迫りくる騎馬達は出久が物間に対して抱く心情を大人しく察してくれやしない。出久自身も、それはよく分かっている。しかし、この場ばかりは邪魔をされる訳にはいかなかった。

 

故に。

 

「死ぬ気の零地点突破・初代(ファースト)エディション」

 

出久は自分達、切島達、物間達。この計三つの騎馬を囲うようにして、円周上に死ぬ気の炎を放つと、それをノッキングするように不規則に輝かせた後に急速冷却する。そうすることで氷を形成し、氷壁の包囲網を完成させた。その高さは5mであり、厚さは30cm。まさに、氷の城壁と言うに相応しい強度の壁であった。

 

高密度のエネルギーである死ぬ気の炎を冷却させることによって形成した氷は、同じ死ぬ気の炎でしか溶かせない。いくら氷だからと言って、普通の炎や熱では断じて溶かせないのだ。即ち、轟が左の力を使ってこの城壁を溶かそうと試みても、決して溶けないし、城壁の外に残った騎馬にはこれを破る程の火力を引き出せる者が誰一人としていない為に邪魔が入ることはない。

 

多くの騎馬が0ポイントである中、心操チームと轟チームはポイントを保有している。彼らは四面楚歌の状態に陥り、絶好の獲物となってしまうことだろう。

彼らには申し訳ないが、物間に制裁を加え終えるまで耐えてほしい、と出久はそう考えながら物間の騎馬を睨みつけていた。

 

「やっと追いついたぞ、物間!俺達のポイント、取り返させてもらうからな!そんでもって、簡単に許されると思うなよ!」

 

物間の騎馬の背後に立つ形になった切島チームの騎馬。その騎手である切島が、硬化させた拳と拳を打ち合わせて、ガチン、と金属音を鳴らしながら、かつて敗北したライバルにリベンジマッチを果たしにきた主人公のように宣言する。

 

発言から分かると思うが、彼が怒っているのは明らかである。実際、出久は彼から怒りの感情を感じ取っていたし、感情感知の技術がない爆豪、耳郎、常闇から見てもそれは鮮明に分かることだった。

それに、彼が怒るなんてことは滅多にない。性格から想像するなら、彼が怒る時というのは友を傷つけられた時や、馬鹿にされた時だと思われる。

 

……切島一行と物間一行の間に何かがあったことだけは確かだ。

 

リベンジマッチを果たしに来た主人公のようでもあり、死んだ両親の敵討ちに臨む主人公のようでもある切島に、出久は子供を諭すようにして声を掛ける。

 

「切島君、落ち着け。怒りに身を任せていたら取れる物も取れなくなる。怒るな、とは言わないけど冷静さを忘れるな」

 

出久に声を掛けられた切島は、ハッとするようにかぶりを振った後、悔しそうに拳を握りしめた。

 

「悪ィ、緑谷……。でも、こいつは……!」

 

そんな悔しそうな切島にチラリと目線を向けた後、呆れたようにため息を吐きながら、口を開く。その態度は、まさに他人が気に入らないからといって理不尽な嫉妬をぶつける嫌味な男のそれである。

__まあ、"まさに"ではなく、彼は本当にそういう男なのだが__

 

「ふ〜ん。自分のポイントがまとめて獲られたっていうのに他人の心配?余程自分達の実力に自信があるんだね。やっぱり調子に乗ってるんだなあ」

 

……口から出てきた言葉はあまりにも理不尽だった。この場にいる物間以外の全員が、「は?」という呆れと怒りの入り混じった呆けた声を上げそうになった。

 

物間の騎馬の先頭にいる短く切った茶髪に楕円形の目が特徴の少年、円場硬成。

右翼にいる真っ黒な肌と二重瞼に、銀髪が特徴の黒色支配。

吊り目気味で少々三白眼をしている整った顔立ちと、焦茶色の短髪が特徴の少年、回原旋。

 

3人もまた、揃いも揃って「何をやってくれてんだ、こいつ」と言わんばかりに唖然として、自分の死を確信した時の人間のようにして顔を真っ青にし、冷や汗をダラダラと流していた。

 

競技の最中だからと言って、友達を思いやることの何が悪いのだろうか?そして、他人の心配をすることをどう解釈すれば調子に乗っていると結論付けられるのだろう?

どうやら、この男……物間寧人は相当に拗れた人間らしい。

 

そんな一同の心情など露知らず、B組の戦略を自慢げに語り始める。

 

曰く、第一種目だと言うくらいなのだから、予選段階から極端に数を減らすのは考えられないと結論付けたらしい彼らは、予選を突破出来る目安を40位以内だと仮定した。

そして、その順位以下にならないよう走り、後方からA組の生徒達の"個性"や性格を観察したらしい。

 

全員の総意ではない__その例が、上位に食い込んできた鉄哲、塩崎、骨抜、泡瀬の4人であろうと思われる__らしいが、本人が自負する通りいい案だ。相澤ならば、きっと「非常に合理的だ」とこの作戦を褒めるであろう。

 

しかし……それとこれとは別だ。やはり、物間はヒーロー志望としてよろしくない性格の男だ。今もまた、「単純なんだよ、A組は」と嘲笑を浮かべて、鉢巻を奪われた切島のことを例に挙げて揚げ足をとろうとしている。

 

物間の嫌味は、更にエスカレートする。今度は夜嵐のことをネタにし始めた。

 

「君らA組に、夜嵐まで影響されちゃったじゃないか。彼は僕らのクラスの優秀な人材。知ってる?夜嵐は、推薦入試を1位で通ってるんだよ。君らのクラスの推薦入学者達より上って訳さ。そんな強力な人材を唆して……よくもやってくれたね」

 

ここまで来ると、流石に傍観は出来ないようだ。好き勝手言われ、拳を握りしめて、ワナワナと震えている夜嵐をチラリと見た後、芦戸も頬を膨らませて、ぷりぷりと怒った様子で口論に殴り込みを入れてくる。

 

「ちょっと!あんたさ、さっきから黙って聞いていれば、変な言いがかりつけてくれちゃって!調子に乗ってるのはそっちじゃないの!?アタシ達に影響された訳じゃなくて、夜嵐は初めっから熱くていい奴だよ!なんなのさ、夜嵐を自分のクラスの兵器みたいな扱いして!」

 

そして、瀬呂までもが遂に殴り込みを入れ始める。

 

「そうだ!夜嵐だって人間なんだぞ!夜嵐は、自分の意志で俺達と組むって決めたんだ!こいつの決定権をお前が握る資格はないだろ!何様だ、お前!」

 

「A組……」

 

嘘偽りのない、心の底からの優しさに溢れた言葉を投げかける同じ騎馬のメンバー達。夜嵐は、彼らに対して更にいい印象を持ったという。

 

……言うまでもないが、瀬呂と芦戸は出久達も思っていることを見事に代弁してくれた。彼らの言葉に嘘偽りなどないことを、皆が知っている。彼らならば、きっと自分が死の間際に追い込まれた真実を知ったとしても、爆豪のことを受け入れてくれる……。出久は、そんな確信さえしながら、様子を(うかが)っていた。

 

様子を(うかが)って口出ししないのは、敢えてのことだ。出久は今、物間の本質を見極めんとしているのである。

 

A組の生徒達の意見は正論そのもの。物間以外の3人には、そんなことは当然のように分かっている。流石にこれは見過ごしておけず、回原が口を開いた。

 

「物間、いい加減にしろ!流石にその言い方はないだろ!一回頭を冷やせ!」

 

回原は、物間の為を思って忠告した。それなのに、本人はそれも気に留めなかった。

 

「ん?大丈夫だよ。怖がる必要なんか無い。A組は単純な連中ばかりだ。向かってきたとしても凌げるさ」

 

そうして微笑む彼からは、傲りしか見えない。調子に乗っている云々言っている割には、A組を見下してもいるではないか。

 

(何がしてェんだ、この陰気臭え野郎は……)

 

何が何だか分からない彼の態度に、爆豪らも嫌気が差してすらいる。

 

……そして、物間はとうとう地雷を踏んでしまう。

 

「ついでに爆豪君……だっけ。君さ、1年前のヘドロ事件の被害者だよね」

 

ヘドロ事件……。今年の雄英に入学した生徒達なら、誰もが知っていることだ。この場にいる全員……特に、爆豪本人と出久が顕著に肩を跳ねさせて反応を示す。

 

「可哀想にね。ヒーロー達にいつまで経っても救けてもらえなかったんだろう?今度、参考程度に聞かせてよ。(ヴィラン)に襲われて、体を乗っ取られた時の気持ちをさ」

 

これを聞いた瞬間、出久の中の何かがプチンと切れたのだが、更に悪いことに物間の嫌味はここで終わらなかった。

 

「そうだ、耳郎さんと緑谷もか」

 

「ウ、ウチ?」

 

「うん。是非とも教えておくれよ、(ヴィラン)を目の前にして、『死ぬ』って思った時の気持ち」

 

「……は……?」

 

……出久の怒りは限界を通り越し、耳郎以外の全員の何かもプチンと切れてしまう。

 

「緑谷は、(ヴィラン)を倒して色んな人に持て囃されて……どんな気持ちだったの?きっと爽快だったんだろうね。そりゃ調子に乗る訳だ」

 

そしてここで……爆豪と耳郎の何かが、プチン、どころか、ブチンッ、と筋繊維が切れたかの如く裂断してしまった。

 

流石に、ここまで来ると気配などを感じ取れない人間であっても、「ヤバい」と感じるものだ。回原達は、必死に物間に訴える。

 

「おいっ、やめろって物間!洒落にならないから!」

 

「この事件一つで注目度が違ってしまう。本当に理不尽だよね」

 

「やめろ!」

 

「あーあ。きっと貴重な経験が出来て、得をしたって思ってたり、一歩先にいるって自慢げになってるんだろうなあ……。でも、僕らだって__」

 

「やめろっつってんだろ、この馬鹿!!!!!」

 

何度言葉で言っても止まらない。そうなれば実力行使しかない。

回原は、物間の脛を思い切り拳で殴りつけた。

 

「いっ!?か、回原。急に……な、に、を……」

 

ようやく落ち着いた物間であったが、何もかもが手遅れだった。

 

「物間寧人、本当に君は呆れた奴だな。どうやら君は……言葉で訴えようとも分かってくれない残念な人間らしい」

 

そう一言放ったのは出久だが……その一言一言に威圧感と冷たさがのしかかっている。それを聞く物間達は、北極の海の中に放り投げられたような感覚がしていた。

 

「2週間前にも言ったろ?俺達はそういった経験を好きでやってる訳じゃないんだって。君は、何度他人の命を冒涜したと思う?……3度目だ。命の大切さがよく分かっていないらしいな」

 

出久の髪が逆立ち、金色に染まる。瞳は西洋の国に生まれた王子のように光り輝く碧眼となり、彼の周囲には金色のオーラと青白い火花が纏われていた。

 

「物間寧人、覚悟しろ。君は俺達を怒らせた」

 

物間達は、死を錯覚し、体の底から震え上がる。

 

今ここに、出久達の逆襲が始まる……!

 

 

 

 

 

 

 

 

飛び交う黄色の光弾。吹き荒れる風圧、響き渡る爆音……。氷の壁の中はまさに戦場と化していた。

 

「逃がすと思ってんのか、皮肉野郎!テメェの根性へし折って、叩き直してやっからよォ!!!」

 

狂戦士(バーサーカー)……否。悪鬼の如き笑みを浮かべた爆豪が、空中に飛び上がり、物間の騎馬向けて猛進する。

 

その様は、まさに獲物を前にして理性を失った獅子のようである。

 

「つ、円場!ガード!」

 

「ふざけんなよ、防げる訳ないだろ!あんな獲物を見つけたライオンみたいな勢いで突っ込んできてる奴!ちくしょう……こうなったら自棄(ヤケ)だ!全部お前の責任だからな、物間!」

 

しかし、物間達も大人しくやられる訳ではない。獅子から死に物狂いで逃げる兎やら、シマウマやらのように無駄であろうがなんだろうが、生き残る為に抵抗をする。それと同じだ。

 

円場の"個性"は"空気凝固"といい、吹き出した空気を固めて透明の壁を作り出す"個性"だ。それを用いて、爆豪の攻撃を防がんとするも……考えが甘かった。

 

「そんな薄い壁で……防げるってかァ!?甘ェわ!普段より生クリーム100倍増しにしたケーキみてェにな!デトロイトォォォ……スマッシュ!

 

橙色の火花を放つ、爆豪のストレートパンチが真正面から円場の作り出した壁を粉々に砕いてしまう。本来、爆豪本人の力のパンチのみでこれは砕けるレベルの強度ではあるが……こうしたのは見せしめの為だ。

 

「くそっ、破られた……!なら、せめてポイントを……!」

 

首に鉢巻を巻きつけたまま突っ込んできたのを好機と見たか、物間が爆豪の首元に手を伸ばすも、爆豪は爆破を起こして宙返りし、更に、空中でバク転をしながら、海面からジャンプしたイルカのように美しく、華麗な動きで自分の騎馬の元に後退していく。

 

「っな……!?センスありすぎるだろ、何だあの動き!」

 

「正に火花散らす舞踊……!」

 

「ばっか、感心してる場合か!」

 

自分達の何もかもが通じないことは予め分かっている故、物間達は当然慌てる。感心した様子の回原と黒色を円場が叱喝しながら、彼らは脱兎の如く逃げ出さんとしたが……そうは問屋が卸さない。

 

「逃がす訳ないでしょ!ウチのことはいくら好きに言ったっていい……!でも、出久のことを馬鹿にするのだけは絶対許さない!

 

次なる刺客である耳郎が、彼らの進行先にプラグを突き刺し、爆音波を流す。そうすれば、当然ながら地面には亀裂が入り、物間達の足場が崩れ去ってしまう。

 

「あ、足場が……!逃げ場なくなったぞ!」

 

「ま、不味いな……これは……」

 

物間達の目の前にいる騎馬はどちらも自分達の敵。味方など誰1人いない。これぞまさしく四面楚歌。彼らは、絶望的な状況に陥っている。

 

ここに来て事態の深刻さを自覚した物間だが、今更遅い。回原達は、揃いも揃って「もっと早く気づけよ、馬鹿!」と叫びたくなった。

 

そして、更に言うと……出久達の攻撃はまだ終了していない。

 

「常闇君」

 

「御意。黒影(ダークシャドウ)()()()()()()()()()()!」

 

「アイヨッ!」

 

「ッ!?」

 

出久に促され、常闇が黒影(ダークシャドウ)に指示を出す。因みにだが、指示の内容はそのままの意味だ。今、黒影(ダークシャドウ)は出久のスタープラチナを覆い尽くす衣のようにして、それに覆い被さっているのだ。

 

黒影(ダークシャドウ)は、基本中距離戦闘が得意であり、伸縮自在。そして、スタープラチナは基本他人が触れることは不可能なのだが、それと似通った存在である黒影(ダークシャドウ)ならば触れることが出来る。即ち、スタープラチナの短い攻撃範囲をカバーすることが可能なのだ。

 

「ひっ」

 

物間が恐怖に満ちたような声を上げて顔を痙攣(ひきつ)らせるが……出久は承太郎の精神を受け継いでいるが故、こういった場合にあっても一度ぶちのめすと決めた相手は、必ずやぶちのめすというタチにある。

 

ならば、どうなるのか。結論はこうだ。

 

「常闇君、よろしく」

 

「ああ……お互いにな。黒影(ダークシャドウ)、スタープラチナの動きに合わせろ」

 

「ヨッシャア、ヤッテヤルゼ!」

 

「覚悟しろ、物間寧人。……やれ、スタープラチナ!!!!!」

 

「ふ、防げ!円場!」

 

「俺1人じゃ無理に決まってんだろ!お前の責任なんだから、お前も手伝えよ!」

 

『「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァァァッ!!!!!」』

 

物間達に向けて繰り出されるのは、スタープラチナのパワーとスピードが合わさって繰り出される、黒影(ダークシャドウ)の伸縮自在の腕を用いた拳撃のラッシュ。

 

爆豪のパワーで砕ける空気の壁なのだ。スタープラチナのパワーは、パンチ一撃一撃がそれを遥かに凌ぐ。防ぐことは叶わない。

 

「ぎゃあああああ!?」

 

「も、物間ぁぁぁ!!!だから言ったのにぃぃぃ!」

 

二重に張った空気の壁が粉々に砕け、攻撃を阻むものがなくなった為、物間は黒影(ダークシャドウ)のラッシュを諸に喰らって滅多打ちにされてしまい、後ろに大きく仰け反って騎馬から落下しかける。

 

そして……騎馬の体勢を立て直す必要がある訳だが、それ即ち。物間達の動きが完全に停止するということだ。

 

「今だ、切島君!」

 

「ああ……任されたァ!男らしくないとか言ってる場合じゃねえ!絶対取り返す!」

 

今こそ、最大の好機。切島達がポイント奪取の為に動き出した。

 

推薦入試には筆記試験もある訳だが、その総合成績1位の座についた夜嵐は当然頭も良い。その脳内に、ポイントを取り返す為の策を既に練っていた。

 

「まずは……瀬呂!テープを!」

 

「おっしゃあ!」

 

まずは、瀬呂が左肘からテープを射出して数メートル先の地面に貼り付ける。

 

「そんで、芦戸!進行方向に弱めの酸化液!」

 

「りょーかい!」

 

次は、進行方向に芦戸が弱めの酸化液を放出する。これで滑りを良くし、より勢いをつけられるようにする訳だ。

 

「推進力は……俺に任せとけ!追い風だァァァ!!!!!」

 

そして、極め付けに夜嵐が"旋風"によって風を操り、追い風を巻き起こして爆発的なスピードを得て、物間達に向けて一直線に猛進する。

 

身長が190cmもある夜嵐が、自動車の如く凄まじいスピードで突っ込んでくるのだ。肉弾戦車というに相応しいその様を見れば、誰しも一瞬であれど怯むものである。

 

物間の場合は、その時間が長かった。だからこそ……。

 

「どぉりゃあああ!元々お前が持ってたポイントまで、まとめて掻っ(さら)っていくぜェェェ!夜嵐や緑谷、爆豪に耳郎……!俺らの熱いダチを馬鹿にした報いだァァァ!!!!!」

 

勢いに乗っかったまま、切島は自分のポイントの奪還及び、物間の所持していたポイントの奪取にも成功したのである。

 

『おおおおおっ!?爆豪チームの援護もあったが、切島チーム容赦無し!物間チームの所持ポイントをまとめて掻っ(さら)っていった!つか、物間本当に何した!?戦意失ってんぞ!』

 

『またA組(ウチ)の連中怒らせたんだろ。懲りてない彼奴の自業自得だ。性格が性格だから庇いようが無い』

 

プレゼントマイクの実況と、2週間前の放課後の出来事を思い出して__相澤の場合は自分の目で見た訳ではなく、物間らB組の担任であるブラドキングに事情を説明され、謝罪されたことで知ったのだが__うんざりしながらの相澤の解説を背景に、勝鬨(かちどき)の声を上げて鉢巻を掲げる切島達。

 

そんな彼らを見て、出久達は安堵に満ちた優しい微笑みを交わし合った。

 

「出久、満足したか?」

 

「うん、十分だよ。俺の我儘に付き合ってくれてありがとう、3人共」

 

物間が戦意を失っているのを見て、もう手出しされることは無いと確信した出久は、憑き物が取れたように、見慣れた優しい笑みを浮かべる。

 

礼を述べられると、他の3人も偉業を成し遂げた後……例えば、魔王に仕える幹部の討伐を終えた勇者一行のようにして笑った。

 

「流石にあそこまで言われちゃ、黙っておけない。それにね、彼氏のこと散々馬鹿にされて黙ってる彼女なんていると思う?絶対いないよ」

 

「緑谷は、俺達のクラスにおける至上の英雄。物間の言うような性格をした男ではないことを俺達はよく知っているからな」

 

「そうだ。……お前が俺らの為にブチギレてくれるような優しい奴だってのは、俺が1番知ってんよ」

 

自分で言うのも何だが、出久は自分自身がお人好しだというのを自覚している。中学3年、精神世界から戻って以降はずっとそう言われている為に自覚が深まった訳なのだが……自分の我儘に付き合ってくれた3人も十分なくらいお人好しで、良い人である。

 

それは言わずもがな切島達にも言えることであるし、こんな良い人の溢れたクラスで居られることに出久は感謝していた。

 

「さァて、それじゃあ最終決戦と行こうや」

 

爆豪が掌から爆破を起こした後、そこに拳をぶつけながら勇者御一行のリーダーである、勇者本人のように宣言する。__ただし、その表情は狂戦士(バーサーカー)であるが__

 

「そうだね。待ってるだろうし……早く行ってあげようか」

 

出久は、彼に賛同して闘志に満ちた不敵な笑みを浮かべると……辺り一帯を薙ぎ払うように死ぬ気の炎を放出して、自分達の周囲を覆っていた氷壁を焼き払った。

 

これ程派手な芸当を行えば、人は自然とそちらに注目するものだ。多くの騎馬が足元を凍らされて動けない中__十中八九轟の仕業だろう__唯一生き残って轟チームと対峙していた心操チームと、それと対峙する轟チームの両方が振り向いた。彼らの視線先には、氷壁が無くなり橙色の炎が地面から吹き上がってメラメラと燃え盛っているという、戦火の中にある荒野のような光景が広がっている。

 

死ぬ気の炎が、爆豪の顔を淡く橙色に照らし出す。その状態で、彼は多くの騎馬から鉢巻を奪い去った時のように叫んだ。

 

「待たせたなァ、心操、轟ィ!逃げやしねェ!真正面から迎え撃ってやるからよォ……かかってこいやァァァ!!!!!」

 

 

 

 

第二種目、騎馬戦。現在の残り時間は5分30秒。今ここに、最終決戦の幕が上がる。




以上、31話でした。騎馬戦はもう1話続きます。

次回、騎馬戦の決着です!そして物間君、ボコボコにしてごめんよ。

次回もお楽しみに!
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