異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake   作:白華虚

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33話 憎しみへの固執

「悪ィな、わざわざ時間取らせて。……なるべく、手短に終わらせる」

 

人気のない通路にて、自分達と向かい合うように立った轟が言う。

 

騎馬戦を終え、昼休みの時間となってからすぐに、出久と爆豪は轟に声を掛けられた。

 

そうして連れられてきたのが、この人気のない通路だった訳だが……ここは、不良が(たむろ)している場所なのかと言わんばかりに人の通りがない。外側には「学校関係者専用入口」と記された看板が立て掛けてあるので、当然と言えば当然である。

 

ここまで移動するのにも人目を避けるようにして移動してきたし、場所もそうすることが出来る場所を選んだ。人間がこうするのは、大抵人に聞かれたくない、若しくは聞かれる訳にはいかない話をする時だ。

 

左手を見つめながら、轟は言った。

 

「気圧された。自分(てめえ)の誓約を破っちまうくらいに」

 

騎馬戦の最中に、炎を使ってしまったことに関して言っているのだろう。確かに思い出してみれば、残り1分辺りのラストスパートのタイミングで、彼は左腕から炎を吹き上げていた。

 

その直後にハッとしながら炎を収めていた辺り、無意識だったのであろう。

 

そして、彼は騎手として爆豪の放つ威圧感を諸に浴びたから。出久とエキシビションマッチで対峙して、そのヤバさをどこかで分かっていたからこそこうなったんだと結論付け、更に周りを不安にさせない立ち振る舞いから、オールマイトと同様の何かを感じたと語った。

 

そう語る彼を見ながら、未来を視て彼の発言内容を知った出久は別として、それを読めない爆豪は息を呑んだ。もしや勘づかれたのか、と警戒しながら、冷静を装って頭の中で最もらしい言い訳を探し、作り上げる。

 

2人の内心など露知らず、轟は黒と水色の凍てつく瞳で2人を射抜きながら告げた。

 

「お前ら……オールマイトの隠し子かなんかか?」

 

「…………隠し子?」

 

そこは弟子と言うところじゃないのか、とツッコミを入れたくなった爆豪は、口を半開きにし、ポカンとしながら思わず聞き返してしまった。

 

(……まあ、バレてないなら好都合だな)

 

バレないようにホッと一息吐きながら、爆豪は轟の推測を否定する。

 

「隠し子なんて御大層なもんじゃねェよ。第一、居たらあの人の場合は公表するだろ。……いや、もしかしたら『危険に巻き込まないため』とか言ってしねェかもしれないが」

 

「僕らは、見込まれて特別に色々と見てもらっている。それだけさ」

 

爆豪の発言に出久も一言付け加え、轟の目を見つめ返す。

 

バチッ、と電撃が走るかのようにして彼と出久の目が合った。轟も出久も、互いに目を逸らすことなく、相手の目を見据える。

 

数秒の沈黙の後。轟は一旦、目を閉じて、直後に再び目を開いた。

 

「分かった、深くは詮索しねえ。詳しく言えないなら言えないで良い。お前らにはオールマイトとの繋がりがあって、だからこそ余計に負ける訳にはいかねえ相手だと分かった……。()()()()()()()()

 

納得した様子を見せながら、轟はその瞳に地獄の業火のようなジリジリと燃えたぎる憎しみを宿して右手を握りしめる。

 

見聞色の覇気の感情感知能力によって、出久はそれが轟の心の奥深くに氷の棺として存在しているとともに、1000年もの間生き残り続けた、大樹の根のようにして彼の心に巻き付き、根付いているようであることを感じ取った。

 

正直、これ程に深く根付いた憎しみの念は頻繁に感じるようなものではない。感情に対して非常に敏感な人ならば、体調を崩してしまいそうだ。それ程に、轟の憎しみは深く、ドス黒かった。

 

微かに眉を(ひそ)めながらも、出久は自分がずっと聞きたかったことを尋ねることにする。

 

「正直、こうして話す機会をそっちからも受けてくれたのはありがたいよ、轟君。……僕が、いや、僕らが聞きたいことは一つだけ。君がそこまで左側を使わないことに拘る理由は……何だい?」

 

人間の中にある第四の欲求、知欲。それに満ちた瞳で出久の緑色の瞳が轟のオッドアイを射抜き返す。

 

「……ああ、これから話そうと思っていた。緑谷と爆豪をここに呼んだ理由は、それを知ってもらう為……だからな」

 

これまでは余談。ここからの話が本題であった。

 

轟が左を扱わない理由。それは、2人の最も知りたかったことだ。だからこそ、爆豪と出久は今一度、轟と真剣に向き合う。その緑色と赤色の瞳に宿っているのは、何を聞かされようが絶対に逃げないという覚悟だ。

 

まるで、爆豪と出久を焦らすかのように風が吹いて、木の葉を揺らす。風に揺らされ、カサカサと立つ木の葉の音だけが耳に入り、一陣の風が通路を爽やかに吹き抜けた。

 

「…………俺の親父は、お前らもよく知っているであろう、万年No.2のヒーロー……。エンデヴァーだ」

 

風が止み、木の葉の揺れる音が聞こえなくなると同時に、轟の口から開口一番に放たれたのは……彼の父親の正体であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

フレイムヒーロー''エンデヴァー''。「事件解決数史上最多」という輝かしい実績を持つNo.2ヒーローだ。雄英高校の出身である彼は、卒業直後からトップヒーローに近しい実力を持っており、破竹の勢いで名を馳せ……20代では、既にNo.2の座に上り詰めていたという。

 

No.2の座に上り詰めたのも、彼の凄まじい上昇志向故だ。そんな彼は心の底から、現No.1ヒーローであるオールマイトを超えようと考えていた。

――恐らくだが、オールマイトを本気で超えようとした……若しくは、超えようとしている人物は出久、爆豪、そして、エンデヴァーの他には存在しない――

オールマイトという目標が、彼の上昇志向を燃え上がらせたと言っても過言ではない。事実、爆豪や出久も彼のトップを求めることを止まない姿勢は尊敬している。

 

しかし。時間が経てば経つほどに、エンデヴァーは己とオールマイトとの間にある巨大な壁を強く意識してしまった。そして、みるみる精神をすり減らしていき……自分ではオールマイトを超えられないことを悟った彼は、挫折してしまった。

 

結果、彼は()()()()()をすることとなる。その残酷な決断を行った結果が――轟焦凍という15歳の少年だった。

 

轟曰く、自分はエンデヴァーにとっての最高傑作……つまりは、道具であるらしい。

この''個性''蔓延る社会において、第二、第三世代で起きた前時代的発想から生まれた、己の''個性''を強化し、後世に残す為だけに配偶者を選ぶ個性婚と呼ばれる社会問題。

 

エンデヴァーのした残酷な決断とは、その個性婚によって、己の''個性''と妻となった女性の''氷''の''個性''……その両方を持った子供を授からんとすることであったのだ。

 

4人の子供を授かった末に、彼の望みを叶えたのが轟だったのである。

 

''半冷半燃''。片方の持つデメリットを、もう片方で打ち消すことの出来る強個性を持った轟は、5歳の頃からヒーローになることを強要され、虐待と言っても過言ではない厳しい特訓を課せられてきた。

 

幼い轟にとっての唯一の支えは母親だった。しかし、轟の母は、ヒーローへの夢と父親への恐怖を抱いて苦しむ轟と、あまりの上昇志向と執念によって半ば暴走する夫のエンデヴァーとに板挟みにされてしまい、限界を迎えて精神を病んでしまう。

 

そして、とある日のこと。彼女は……。

 

「お前の左側が醜い」

 

当時の轟が、恐怖を抱いて体を硬直させてしまう程の悍ましい表情と憎しみに満ちた声でそう言って、煮え湯を浴びせたのだそうだ。

 

その件によって残ってしまった、顔の左半分の火傷を掌で覆いながら述べる轟の姿は、とても悲しく、寂しいものであった。

 

出久も爆豪も、絶句した。

 

――こんなことが現実で起きるのか、と。

 

境遇があまりにも重すぎる。爆豪からすれば、自殺未遂によって''個性''の存在を明らかにした出久の境遇も十分に重い。しかし、轟の境遇はそれと同じくらいに――出久にとっては、自分以上に――重かった。

 

轟に煮え湯を浴びせた母親は、エンデヴァーによって精神病院に隔離されてしまった。

 

そんな、妻を除け者にするような酷すぎる扱いに、轟は「こいつがお母さんをおかしくしたんだ」と強い憎しみと恨みを抱くようになり、「こいつのような屑にはなりたくない」とエンデヴァーを拒絶するようになった。

 

詰まるところ、轟が左を使わず、右の力だけで体育祭を勝ち抜くことに拘るのは、エンデヴァーを完全否定する為なのである。

 

(……血と、憎しみへの固執……か……)

 

オッドアイに、業火の如く憎しみを燃え滾らせながらエンデヴァーを完全否定することを宣言した轟の目を見ながら、出久は思った。

 

血筋とは、いくら切っても切り離せないものだ。

 

ジョナサンから始まった、ジョースター家とディオの因縁は承太郎の代……正確には、その後まで続いているし、エースも海賊王であった父親、ゴール・D・ロジャーの悪評ばかり聞いていた故か、彼の息子であることをコンプレックスにして、血筋をひた隠しにしていた。無一郎もまた、戦いの中で己の先祖であった黒死牟と邂逅している。

 

どれだけひた隠しにしようと、忘れることを試みようと、血筋がついて回る。

 

轟は、己の血筋すらも嫌っていることだろう。血筋と憎しみに囚われるのは、それを忘れてはいけないことを無意識ながら自覚しているからこそだ。

 

しかし。父親を完全否定する為にヒーローを目指すのは、あまりにも虚しすぎる。完全否定したとして、彼はその先……どうするつもりなのだろうか?

 

「俺が話したかったのはそれだけだ。……昼休みなのに悪かったな」

 

話したいことは話し切ったからか、轟は背中を向けてこの場を去ろうとする。

 

出久が彼を引き止めようとするよりも前に……。

 

「ふざけんじゃねェッ!!!」

 

「っぐっ!?」

 

爆豪が、獲物に狙いを定めた猛獣のように飛び掛かって、彼の頬を殴った。

 

バキィッ、という痛々しい殴打音が響き、轟が尻餅を突く。それでもなお、爆豪の衝動は止まらなかった。

 

「かっちゃ――」

 

「テメェッ!半分の力だけを使って勝ち抜いて、父親を完全否定だと……?ナメたこと言うなや!」

 

「落ち着いて」と出久が爆豪に制止をかけるよりも前に、彼の言葉を遮るようにして、爆豪は声を荒げる。

 

「半分の力を使って勝ったら!?()()()()()()()()()()()()!言ってみろや!」

 

爆豪は、轟の元にズカズカと歩み寄ってその胸倉を掴み上げた。

 

「んなもん、No.1ヒーローになって――」

 

苛立ちを露わにしながら、答えようとする轟だが……爆豪は、カッ、と目を見開きながら吠える。

 

「なれる訳ねえだろ!No.1を、オールマイトをナメんじゃねえ!あの人だけじゃねえ……!プロは皆、全力で人を救けてる!

()()()()()()()()()()()!人間だから!失った命に対して責任を取れる程大層な存在じゃねェから!!!だから、皆が皆!全力で、最悪の事態を避ける為に気張ってんだ!!!」

 

辺りに恐ろしい程の静寂が流れる。これは、爆豪の心からの叫びだった。

一度、出久を失いかけ、自分の命も失いかけ、オールマイトの偉大さと覚悟を今一度知った彼だからこそ説得力のある叫びだった。

 

熱意に満ちて、ジリジリと火花を散らす爆豪の心の熱りを覚ますように、そよ風が吹き抜け、爆豪のプラチナブロンドの髪を揺らした。

 

そのそよ風をきっかけに、熱りが冷めたのだろう。爆豪は、哀しみに満ちた目をしながら、轟の胸倉を離す。

 

「……半分の力だけじゃ通用しねェ、クソ強え(ヴィラン)が出てきたらどうする気だよ。それで一般人死なせて、テメェは責任取れるんか?……そうだとしたら、羨ましいぜ」

 

羨みと自責の念に満ちた、酷く優しい声色で爆豪は言った。

 

「……悪ィ、先行く」

 

見ている出久の方も辛くなってしまいそうな哀しい瞳のまま、爆豪は背中を向けて一足先に戻っていった。

 

(かたわ)らに視線を移せば、瞳を揺るがせ、呆然と立ち尽くす轟の姿がある。

 

出久は彼の隣に立って、憐れみに満ちた瞳で空を仰ぎながら言った。

 

「……轟君。俺の言いたいことも、かっちゃんとほぼ同じさ。一度失われた命は絶対に回帰しない。だから、ヒーローは巨悪に足掻くんだ。轟君、これだけは覚えておいてほしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだってこと。……俺だって怖くて仕方ない。考えてみてくれ」

 

――君のお母さんや、大切な人を失った時のこと。

 

「っ!?」

 

轟の瞳が大きく揺らぎ、彼は咄嗟に振り向く。

 

出久は、既に背中を向けて、みるみる歩き去っていくものの……その背中には、膨大な哀しみを背負っている。轟にとっても、そんな気がした。

 

「…………俺は。俺は……どうすればいいんだ……」

 

轟が震える声で残した虚しい呟きは、風によって掻き消された……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほんっとうにうちの馬鹿がすいませんでした……」

 

「止められなかった俺らの責任だ……。本当に済まんかった、緑谷……」

 

あの後、食堂に足を運んで自分の分の席を確保してくれていた耳郎達と共に昼食をとっていた出久だったが……突如、物間の騎馬にいた回原と、オレンジ色のサイドテールにどこか男勝りで姉御肌な性格が印象的な少女、拳藤一佳に頭を下げられていた。更に、その場には回原と同じく、物間と組んでいた円場と黒色までいて、彼らも一緒になって頭を下げている。

 

「……と、取り敢えず、顔をあげようか……。皆に注目されちゃってるし」

 

「そ、そうだね……」

 

出久に顔を上げるように促されると、拳藤達は周りを一瞥し、苦笑しながら席に着く。

 

腰を落ち着けてから話を聞いてみると、彼女達はブラドキングに熱血指導という名の説教を受けている物間の代わりに、謝罪に来たのだそうだ。

 

一先ず、彼らと話をして分かったことがある。やはり、B組にも根はいい人ばかりだということだ。

 

言い方はアレだったが、A組の活躍を羨ましがっている者もクラスの中には居り、拳藤はB組が全体的にピリついていたことまでも頭を下げて謝罪してくれた。見聞色の覇気による感情感知能力を使用してみても、全く悪意は感じられない。彼らが物間に影響されていない辺り、出久は密かに感謝していた。

 

「いやあ……うん。本当に物間には困ったもんだよ……。耳郎と爆豪もごめんね」

 

色々と話を交わした後、拳藤は両手を合わせながら耳郎と爆豪にも謝罪をする。

 

「ウチは……その、自分よりも出久をネタにしてああいうことされる方が耐えられないし……。だから、ウチ自身のこと言われるのは全然平気」

 

両手で握り拳を作りながら、はにかんだように笑みを浮かべて耳郎は言った。

 

そう言った彼女の髪を撫でながら、出久は微笑みを向ける。

 

「ありがとう、響香さん。でも……そういう風に言われるのは、僕が耐えられない」

 

「もうっ、出久はいつもウチのことばっかなんだから……。大切にされるのは嬉しいけどさ……」

 

辺りの空気が一気に柔らかくなるかのような甘いやりとりを交わす出久と耳郎にチラリと視線を向けた後、爆豪も口にした激辛の坦々麺を水で押し流してから言う。

 

「まァ……そういうこった。俺にとっても、ありゃ黒歴史だが……出久んこと馬鹿にされるよか遥かにマシだ」

 

命を冒涜するような発言をされた本人達すら、自分のことは後回しで出久のことを庇う。

 

幼い子供に向けるような慈愛の瞳で頭を撫でて来る出久の手を、反抗期の年頃の少年のようにして払い除けようとする爆豪。2人のやりとりを見ながら、拳藤は思わず笑ってしまった。

 

耳郎や爆豪、出久のみならず、彼らと食事を共にしていた飯田や麗日も呆気に取られながら、まじまじと彼女の顔を見つめた。

 

彼らの視線に気がついた拳藤は、野に咲く一輪の花のような可憐な笑みを浮かべる。

 

「いやー……ごめんごめん。私さ、正直あんたらに恨まれても仕方ないなあって思ってたの。物間の発言の内容が内容だった訳だしさ。あんな発言する奴をほったらかしにしちゃってる私達にも失望されたんじゃないかな……って思った」

 

顔を曇らせ、俯き気味になりながら語った後、彼女は再び顔を上げて微笑んだ。

 

「でも、それが杞憂だったって分かって、ホッとしてる。ありがとうね、緑谷。私達を見限らないでいてくれて」

 

彼女の言葉に対し、数秒ポカンとした後に、出久も微笑み返す。

 

「僕の方も感謝してるさ。君達が物間君に影響されることなく、自分を強く持ち続けてくれたこと」

 

その時、麗日が何か思い出したかのような顔をして尋ねた。

 

「そうだ、拳藤さん……やったよね?聞きたいんだけど、どうして物間君は、あんなに緑谷君につっかかるん?あの時の発言とかからして、物間君も緑谷君の動画見てるっぽいのに。物間君も、緑谷君に憧れてここに来たんとちゃうんかな……?決めつけるのは早いかもしれないけど……」

 

麗日に尋ねられると、回原が腕を組みながら目を閉じ、数秒考えたかのような素振りを見せる。

 

「…………俺らにも、はっきりとは言えないんだが……。なんというか、緑谷を否定しているというか、拒絶してる感じはあるよな」

 

回原の口から出てきたのは、出久に対する拒絶であった。

 

回原自身も、本人の語る通り、はっきりとは分かっていないという様子で、気難しい顔をしていた。

 

「拒絶……」

 

考え込むように拒絶という単語を呟く出久を見て、円場が補足した。

 

「物間はさ、心がアレなんだよな。小さい頃に''個性''のことで色々と馬鹿にされたらしくてな。彼奴の''個性''は''コピー''って言うんだけど、近くに''個性''を持った奴がいないと無個性同然な訳」

 

彼は、手で何かをはたくかのような動作をしながら、彼の''個性''の発動条件が他人の体の一部に触れることだと明かした。

 

「成る程……。それで、爆豪の爆破を防ぐ時にあんたの''個性''を使ったってことか」

 

息を吹き付けて、円場と共に空気の壁を作っていたことを思い出しながら、耳郎が呟く。円場もまた、肯定を示しながら続きを話した。

 

「んで、こっちからも聞きたいんだけど……緑谷って無個性?まあ、騎馬戦見る限り明らかに違うとは思うが……」

 

そして、彼は出久に視線を向けた後、苦笑を浮かべながら尋ねた。

 

「いや、そこは円場君の予想通り''個性''持ちさ。僕の''個性''は――」

 

尋ねられた出久は、躊躇うことなく己の持つ''異世界巡り''の全てを話す。

 

その全貌を聞いた円場達は、黒色を除いた全員が顔を痙攣らせていた。

 

「死にかけたりして意識を失うことで初めて発動したって……。苦労したんだね、あんた……」

 

微笑みから一点、同情を示した拳藤に礼を述べてから、今度は件の動画の際に使用した力を説明する。

 

「あの時に使用したのは、主に三つ。一つは、見聞色の覇気って言って、相手の感情を感知したり、相手の気配を感知したり出来る。極めれば、未来視も可能だよ」

 

「二つ目は、透き通る世界。ある一種の境地って感じなんだけれど……他人の身体を透かして見ることが出来るんだ。それで、骨格や筋肉、内臓の動きを見て、高度な予測が出来る」

 

「三つ目は、個性因子の捕食。本人には影響が出ないくらいに微量の個性因子を、自分から発するオーラで捕食するんだ。それで、相手の''個性''の詳細を把握出来るし、自分自身が本人よりも性能を引き上げて扱うことも出来る」

 

この世にいるはずもない、架空の生物を目撃したという話を聞いた時のように、話を聞いた4人は口を半開きにして何度も瞬きをしていた。

 

――その場にいた、耳郎や爆豪らが、彼らの反応は当然だとしみじみと頷いていたのは余談である――

 

だが、常闇と何処か共通点のある雰囲気の黒色は立ち直りが早かった。

 

「ケヒヒ……成る程なァ。使う本人にしか認識出来ない、神秘なる不可視の力……。確かに、俺達から見れば、強さを極めた無個性の人間が戦っているようにしか見えなかった。無個性なはずなのに、あれだけ強い。所謂(いわゆる)、根強い嫉妬ってやつか」

 

常軌を逸する出久の力に対し、目を輝かせている気さえするような様子で彼は推測をした。

 

「……それで、体育祭で実際に見てみたら、無個性じゃないって分かったと。しかも、緑谷の"個性"と物間の"個性"は他人の力を借り受けるって点で似てるもんなあ……。個性因子の捕食をしてから使う力に関しては、本人の性能を上回る。一見したら、物間の上位互換だもんね」

 

黒色の推測に、拳藤も付け加えた。

 

「無個性同然でも強いのに、"個性"は強力。しかも、自分の上位互換。自分を上回る要素が多い。……確かに、嫉妬するのも分かる」

 

出久が思い浮かべたのは、かつての無個性同然であった自分だった。

 

"個性"があると判明するまでは、"個性"のある者達全員に大きさは違えど、嫉妬を抱いたものだった。……それが強力でない"個性"か否かは関係なく、それを持つ者全員にだ。

持つべきものを持たざる状態で生を授かった者からすれば、それを与えられたこと自体が羨ましかったのだ。

 

物間からすれば、もしかすると同族嫌悪からこういった行動に出て、出久を否定している節があるのかもしれない。

自分の性格の中で恥ずかしい部分が頭に浮かんだり、相手との差を強く意識したりだとかが根底にあると同族嫌悪が起こるらしいが、それが物間の中に起こっていると考えても違和感はないだろう。

 

事情が分かると、物間の印象がただの嫌味野郎から変化した。

 

(何かかけてやれる言葉はないのか……)

 

出久としても、はっきり言ってしまうと物間寧人という人物は嫌いな部類だ。

 

しかし、だからと言って悩む彼に手を差し伸べないというのは、ヒーローとして相応しい振る舞いではないはず。

 

それを理解しているからこそ、出久は物間に手を差し伸べる方法を早々に模索していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休みを終えると、最終種目発表に移るのだが……その前にレクリエーションが行われることになっている。

 

この種目は、全員参加――とは言え、最終種目出場者に関しては、参加する・しないは自由である――となっており、予選落ちした生徒達の唯一の見せ場とも言える。

 

しかし、プロヒーローも観客もおまけ程度にしか考えていない為、見せ場というよりかはただの娯楽のような楽しみと言った方が正しいのかもしれない。

 

そんな中……。

 

『どうした、A組!?どんなサービスだ、そりゃ!』

 

『何やってんだ、彼奴ら……』

 

試合会場のスタジアムに、思わぬサービスを見たことによる驚きを見せたプレゼントマイクの声と、白い目を向けながら呆れを前面に出した相澤の声が響いた。

 

一部の男性の一般客に関しては、口笛を鳴らして、女性で言う黄色い悲鳴に近いものを上げているのだが、その訳はA組の女子生徒にある。

 

彼女らは皆、黄色いポンポンを手に持ち、アメリカから招かれたチアガール達のように、胸部に「UA」と刻まれ、腹部を露出した橙色を基調にしているノースリーブのトップスと、同じく橙色が基調のミニスカートといった格好をしているのだ。

 

腹部のみならず、彼女らの程よく引き締まり、艶めかしい太腿や脹脛まで露出されている故――透明である葉隠の場合は見えないので、妄想の範疇を越えないが――か、年頃の少年達にとっては刺激が強いらしい。男子生徒の一部は顔を赤くしながら凝視していたり、そっと顔を逸らしたりしていた。

 

「……な、何があったの?」

 

呆気に取られ、目を見開きながら、出久が尋ねると……壊れた機械がギギギ、と音を立てるかのようにゆっくりと首を向けた八百万が死んだ魚のような目を向けてきた。

 

「緑谷さん……相澤先生から、何か聞いておりませんか……?た、例えば、午後は女子生徒全員が、チアガールの格好をして応援合戦をしなくてはいけない、とか……」

 

「……僕は何も聞いてないけれど」

 

彼女の質問に否定を返した出久は、クラス委員長である飯田に視線をやる。相澤のことだ。本当のことならば、クラス委員長である飯田にも伝えているはず。

 

結果、出久の視線に気がついた飯田が出した結論は……否定であった。出久の意図を察したのか、彼はふるふると首を振ったのだ。

 

更に。

 

「……合理的にいく相澤先生だ。事実なら、伝え忘れたりしねェだろ」

 

爆豪が八百万の方を向き、真顔で言った。

 

……言われてみれば、爆豪の言うことは最もだ。

 

合理性をモットーとする相澤ならば、そういった競技があると知った瞬間、生徒達に伝えそうなものである。

 

彼らの発言から、一つの結論を出した八百万は顔を俯かせ、体をわなわなと震わせた。その様は、噴火直前の火山のようにして、爆発しそうな怒りを堪えるかのようだ。

 

「峰田さん、上鳴さん、騙しましたね!?」

 

直後、彼女は両手の黄色いポンポンを振り上げながら、普段から吊り目気味である目と美麗な眉を鋭く吊り上げ、怒りを見せて抗議した。怒りのあまり、彼女の顔は熱りで赤く染まっており、蒸気でも発しそうな勢いだ。

 

「……どういうこと?」

 

微かに眉を(ひそ)めた出久は、耳郎に尋ねた。

 

「あ、あのね――」

 

ポンポンで今の自分の格好を恥ずかしそうに覆い隠す耳郎から聞いた話によれば、出久と爆豪が轟との会話に時間を使っている間に、峰田と上鳴の巧みな言葉の罠に()められてしまったらしい。

 

「ふーん……。成る程ねえ……」

 

出久の中に湧いてきた感情は、二種類の怒りだった。

 

一つは、何も知らない少女達を(おとし)めたことに対する、1人の紳士としての怒り。

 

もう一つは、耳郎響香という1人の少女を愛する1人の男としての怒りだ。

 

「響香さん」

 

「な、なあに?」

 

互いに頬を染めて、サムズアップし合う峰田と上鳴をチラリと見た後、出久は自分の着る上着を耳郎に被せた。

 

「ふぇっ!?い、出久っ!?」

 

「着てて。正直言うと、君の綺麗な肌を他所の男に見られるのはたまったもんじゃないんだ」

 

「ふぁっ……!?」

 

馬鹿正直に爆弾発言を残し、耳郎の頭を撫でてから、出久はターゲットを件の2人に向けた。

 

スタープラチナまでも発現させて、一歩一歩、地面を踏み締めながら歩く姿はメルエムを彷彿とさせる、王の威圧感を発していた。

 

あまりの威圧感故だろうか。上鳴は肩を跳ねさせて、真冬の海に放り投げられ、1日中そこに漬けられていた後のように顔を真っ青にして、体をガクガクと震わせていた。

因みにだが、感情感知を行なったところ、峰田はいやらしい妄想に浸っていることが分かった。妄想に夢中で、出久の存在には気がついていないらしい。

 

「すっ、すいませんでしたァァァ!ちょっとした出来心だったんです!許してください!」

 

一足先に気がついていた上鳴は、ダイナミックな土下座をして誠心誠意を込めた謝罪の意を示す。……しかし。何事でも謝罪のみで済むのなら、この世に警察やヒーローは要らない。

 

出久には、上鳴に情けをかけるつもりはない。

 

彼は無言のまま忍び寄って……。

 

「へばあっ!?」

 

上鳴が顔を上げたタイミングで、彼の顎を勢いよく蹴り上げた。

 

「上鳴君。君は最終種目にも出るんだし、あまりにボコボコにした結果、後に響くのは困るからね。これで勘弁してあげるよ」

 

出久からの、上鳴に対するせめてもの慈悲である。地面にドサリと落下し、ボールのように跳ねて気絶する直前、一撃で済んで良かった……と上鳴は密かに思ったそうな。

 

「うへ、うへへへへ……」

 

上鳴が気絶したことにも気が付かず、峰田は依然下卑た笑みを浮かべて、間抜けさを全面に出した半開きの口からダラダラと涎を垂らしていた。

 

悪気しかない峰田の態度は、出久の怒りを加速させる。元より、彼が体育祭の中で愚行に走ったのは2回目だ。故に、今度は慈悲もなく容赦しないことを決めていた。せめて……せめて、()()()()()()()で勘弁してやろうと思っていたが、その選択肢は無くなった。

 

たった今、出久は彼を徹底的にブチのめすことを決めた。そんな彼の怒りを感じ取ったのか、切島や瀬呂が峰田に対して合掌したのは、また別の話。

 

「――スタープラチナ・ザ・ワールド」

 

出久の呟きがスタジアムに響き渡った瞬間、スタープラチナの速度は瞬く間に光速を超え、辺りの時が停止する。

 

「峰田君。怪我のないように加減してあげるから……そこは感謝しなよ?」

 

出久が峰田に対して向けたのは、怒りを覆い隠した貼り付けの笑み。仮に峰田が止まった時間の中を認識出来るとしたら、身の毛がよだっていたことだろう。

 

出久とスタープラチナは、同時に構えを取る。

 

そして。

 

「『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!!!オラァッ!!!!』」

 

一糸の乱れもなく、シンクロした動きで裁きのラッシュを叩き込んだ。打ち込まれた拳の数は、300発を優に超える。

 

「そして、時は動き出す」

 

最後の一撃を叩き込むと同時に、出久は指を鳴らして時間停止を解除した。

 

「ほでゅあっ!?あばばばばば!?うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

次の瞬間、峰田は300発超えの衝撃に襲われて吹き飛び、泡を吹きながら気絶。壁に激突するや否や、そのまま地面に倒れたのであった。

 

『はあ……原因はそいつらか……。上鳴は、まあ……最終種目があるから勘弁してやるとしてだ。誰でもいいから峰田を俺の所に連れてこい。動けないよう、徹底的に拘束した後でな』

 

相澤は、溜め息を吐いて眉間を押さえながらそう指示を出す。

 

その指示に則り、出久は瀬呂へとアイコンタクトを送る。出久からの視線を受け止めた瀬呂は、無言で頷くと神業とも言うべき、一つの業を極めた職人のような動きで峰田を拘束する。そして、「オイラは性犯罪者予備軍です。女の子を(おとし)め、他人の彼女に手を出しました」という看板を首から下げられた状態で爆豪に首根っこを掴まれて、実況・解説席送りとなった。

 

「やれやれって感じだね」

 

泡を吹きながら気絶した峰田の背中に冷たい視線を送った出久の呟きと、溜め息のみがそこに残った。

 

観客やプロヒーローを含め、その場の全員が出久を怒らせるのだけはやめようと考えたのは言うまでもないことだ。

 

 

 

 

「ねーねー、耳郎」

 

「なっ、何?芦戸」

 

「思ったんだけどさ、緑谷……()()()()()()()()()()()()()()()()よね!?」

 

「!?ちょっ、言わないでよ!考えないようにしてたのに!」

 

「愛されてるのね、響香ちゃん。ニヤケが隠せてないわよ」

 

「つ、梅雨ちゃんまでやめてぇ……!」

 

「そこまで決まってるのか……。ふーん……やるねえ、緑谷君……!」

 

騒動の結果、峰田の株が暴落した一方で出久の株は鰻登りした。

 

B組の女子達においては、この紳士っぷりを男子達に見習ってほしいと思うと共に、峰田と上鳴に騙されたA組の女子に同情していたとか。

 

そして、相澤は、峰田の問題児っぷりに対して、1人静かに頭を抱えたという。これには流石のプレゼントマイクも同情したようで……。

 

「今度……飲みに行こうぜ」

 

と相澤の肩をトントンと叩きながら、呟いていた。




33話でした。まさかのトーナメントの組み合わせ発表は次回に回すことになりました……()

勝負の組み合わせがどうなるのかは、次回をお楽しみに!
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