異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake   作:白華虚

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35話 心操人使:オリジン

雄英体育祭を行う際には、リカバリーガールの出張保健所と言って、控え室の一つを保健室に改造させた場所が設けてある。

 

生徒達が、怪我を恐れずに体育祭の場で戦い抜けるのも彼女のおかげだ。

 

横に薄水色のカーテンが付いているベッドのすぐ側にある濃い水色の椅子に、その小柄な体で腰掛けながらリカバリーガールはホッとしたように言った。

 

「取り敢えず……話は聞いたよ。試合の最中だったってのに大したもんだね。よくやってくれたよ、緑谷」

 

1人のヒーローでもあり、医者である者として当然だろうが、彼女は耳郎の容態を案じていたようだ。今、耳郎に何も問題ないことを知って安心したのだろう。その顔には、暖かい笑みが浮かんでいた。

 

「いえ、ヒーローとして当然ですから」

 

礼を述べられると、出久も目を細めて微笑んで、会釈する。

 

いつになってもヒーローとしての振る舞いを忘れない彼を見て、リカバリーガールは感心したように微笑んだ後に、白いシーツのベッドに横たわる耳郎を見やった。

 

「命に別状があったりはしないから安心しな。今回の試合、あんたは過集中状態になったんだろうね。過集中は、超集中状態って言われるゾーンとは、また訳が違ってね。ゾーンは準備した上で入れるのに対して、過集中は前触れもなく、無意識に入るもんさ」

 

水色の椅子に腰掛けたまま、リカバリーガールは医者の本領を発揮して説明をしていく。

 

ゾーンの場合は、意識的にそれに入ることを選び、準備を整えておく。それに対して、過集中は、読んで字の如く、過度に集中しすぎることだ。リカバリーガールの発言通り、後者の方は無意識のうちに介入する状態。

それもあって、過集中状態にあると気が付かないこともあり、倒れてしまうのだそうだ。また、生活における衣食住にも悪影響を及ぼすこともある。

 

そして、ゾーンと過集中状態。これらは共通して人体に多大な疲労を(もたら)す。

 

ゾーンに介入した時は、脳を継続的にフル回転させている。それ故に莫大なエネルギーを無理矢理消費しているも同然で、ゾーンから抜け出たらフラフラして全く立てなかったという体験談もあるらしい。

 

過集中状態には、虚脱――過集中が続いた後に、その反動のような形で極度の脱力状態になってしまうこと――が必ずついて回る。ゾーンと似たようなものだが、こちらも一つのことに没頭する故に疲れを感じにくくなるのだ。健康面に負担が掛かるのは当然のこと。試合の後にぐったりとした状態になり、立とうにも立てなかったのはアドレナリンのこともあるが、それももう一つの原因だろう、とリカバリーガールは分析していた。

 

「――とまあ、ゾーンや過集中状態に入ると集中力が高まるとか言って、メリットばかり挙げられるけれど……実際はリスクが伴うのさ。虎穴に入らずんば虎子を得ず、ってやつだね。将来活用するつもりなら、どっちにせよ程々にしておくことさね。程々にしておくのが丁度いいってもんさ」

 

「強いてアドバイスするなら、ゾーンに入る前には無理を通さずに達成出来る目標を定めておく。そして、過集中を防ぐ為には、なるべく時間を意識しておくことさね」と柔らかい笑みを浮かべながら付け加えて耳郎に手を出すように促すと、彼女の掌の上にいちご味のドロップを一粒乗せた。

 

試合に全力で挑み、健闘したことに対する労りだろうか。他人に努力が認められるというのは嬉しいことだ。耳郎は小さい頃から音楽をやっていた故、そのありがたみをより分かっている。

 

リカバリーガールに一言礼を述べたところで、耳郎はハッとして声を上げた。

 

「そういえば、出久!次、心操と轟の試合だったよね。行かなくていいの?」

 

「あっと、そうだったね」

 

耳郎に尋ねられ、出久は次の試合のことを思い出した。耳郎の側にも居てやりたいが、友である心操の成長も是非ともこの目で見届けたい。

まるで、物事を分析して自論を導き出さんとする哲学者のように考え込む出久を見て、耳郎は思わず笑ってしまった。

 

「いーよ、ウチのことは気にしないで行ってきなって。どっちにしたって、ウチはまだ動けないし。……出久に抱えてもらっただけで、満足……だよ?

 

耳郎は、冬を越えたばかりの野原に芽吹いた一輪の花のように愛らしい笑顔を浮かべた。これこそ、俗に言う「守りたい、この笑顔」というものなのだろうか。

 

最後の方は小声で言いながら、自分で言っていて恥ずかしくなったのか、口元を掛け布団で覆って、桃のように頬を染めてどこか困ったような顔をしながら、はにかみ気味に出久を見た。

 

大して飾り気もない保健室が桃色に彩られ、甘い雰囲気が漂った気さえしながら、出久は彼女の懐の大きさに感謝した。

 

「そっか……ありがとう、響香さん。リカバリーガール。響香さんのこと、お願いします」

 

「はいはい。ちゃんと見ておくから、安心しな」

 

失礼しました、の一言と共に扉を閉めることも忘れずに、忙しなく出て行った出久の背中を見送りながら……。

 

「若いねえ……」

 

リカバリーガールは、自分の若い頃でも思い起こしているかのようにしみじみと呟いていた。

 

出久の背中を見送った後。耳郎もリカバリーガールから貰った、いちご味のドロップを口にした。

 

(……甘い)

 

口の中で転がすかのように舐める度に、甘いいちごの味が口いっぱいに広がる。いちごとは、勝手に甘酸っぱいものだと思っていた耳郎だが、決してそうとは限らないことが分かった。――甘く感じるのは、今の自分の感情もあるかもしれないが。

 

(いつも手慣れた振る舞いなのに、ウチを抱えた時……出久も心臓バクバクしてた。……ちょっと可愛いかも)

 

耳郎の頬が愛おしさで緩む。心地よい春風のように安らぎに満ちた笑顔。彼女自身、こんな表情を見せられるのは出久の他にはいないだろうな、と思う。

 

こうした甘い感情で心が満ちていることすら恥ずかしくなってきたようで、耳郎は熱を帯び始めた顔を隠すかのようにボフン、と布団の中に潜り込んでしまうのだった。

 

「青春してるねえ。それにしても耳郎。あんた、いい彼氏を持ったもんだね」

 

「……はいぃぃぃ……」

 

リカバリーガールの言葉で、彼女もこの場にいたことを思い出す。いつの間にやら自分だけの空間に入り込んでいたことを、布団で体を覆ったままの耳郎は恥じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

入場口までの長い廊下を、1人の少年が一歩一歩踏み締めながら歩く。オールバックにした、男らしい紫色の髪。そして、髪に近しい色の瞳には静かな闘志が宿っていた。まさに、これから闘技場で激戦を繰り広げる歴戦の勇士と言わんばかりの立ち振る舞いだ。

目の下にあるくまは、ここに至るまでの日々で己を追い込んできた証だろうか。

 

彼の名前は、心操人使。言わずもがな、雄英体育祭最終種目の第二試合。その出場者の1人だ。

 

彼は、この最終種目に臨むにあたって大いなる決意をした。その決意とは――轟を救けることである。

 

実の所、轟の身の上を聞いていたのは、出久と爆豪のみではない。彼、心操と()()1()()いる。聴力は最期の最期まで残り続けるものだという話や気絶して聞いていないはずの話の内容を知っているという話を聞いたことがある心操だが、今ではそれも納得がいく。何故ならば、彼もその経験者――特に後者の方――だからだ。

 

覚えているだろうか?心操は、エキシビションマッチで轟と行動を共にしたことがあるのだが、彼は八百万に続いて2番目に気絶した。確かに彼は気絶したのだ。

 

しかし。その頭の片隅に、朧げながら記憶が残っていた。轟が「右の力だけで這い上がって、クソ親父を見返すんだ」と激情を露わにしていた記憶が。そこに加えて、騎馬戦の時の自分の煽りに対する取り乱しようときた。

 

――気になるに決まっている。父親に対する憎悪が満ちた言葉を何度も聞かされたら、気になるに決まっているじゃないか。

 

''洗脳''という(ヴィラン)向けだと言われ続けてきた''個性''を持った彼は、比較的両親に愛された方だ。そうして社会から淘汰されるのが分かりきっている''個性''を持った彼を、心操の両親は愛しても愛し足りない程に愛し、彼の唯一の理解者として守り抜いてきた。

 

自分の''洗脳''をヒーローに向いていると認めてくれた友達が出来たと報告した時も、両親は自分のことのように喜んでくれた。

 

心操にとっては、両親は子供を愛するもの。それが当たり前であった。

 

だから、轟の話を聞いた際には稲妻のような衝撃が走った。今まで自分が抱いていた常識が空や雲だとしたら、轟の話は眩い稲光。稲光は空や雲を見事に裂き、焼き尽くし、真っさらにしてしまったのだった。

 

(そんなこと、あっていいのかよ)

 

今でも思う。轟が自分以上に重く暗い人生を歩み、幾ら消そうとしても消せない、真っ黒のインクのような葛藤を抱え続けていることを本能的に理解した。

 

出久はよく言っている。「余計なお世話はヒーローの本質だ」と。今回、自分がやろうとしていることが余計なお世話であることに間違いはない。頭が固く、秘密主義的な人間からすれば、他人の家の事情に首を挟むなと思われることかもしれない。

 

しかし――

 

「差し伸べたくなっちまったもんは、仕方ないだろ」

 

誰かに言う訳でもなく、心操は1人呟いた。

 

上に行けば行く程、将来の道が拓ける。今回の雄英体育祭がそういった行事であることは知っている。もはや、心操は負けてもいいと思っていた。轟を救えればいいと、そう思っていた。

 

自分の勝利を投げ出すだなんて愚かだと、何処かの誰か――主に、2週間前の放課後に出久を煽りに煽った金髪の少年、物間――には言われるかもしれない。だが、真っ当にヒーローを目指す心操からしたら、轟の葛藤は勝利と引き換えに捨てることが出来ないものだった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それこそが、''真のヒーロー''だ。

 

それに、心操の中には、出久や爆豪も自分と同じ選択をするという確信があった。

出久は厳しさと優しさを併せ持つ言葉で、轟を覆い尽くす氷を(ことごと)く溶かし、呪縛を砕くだろうし、爆豪は厳しい言葉ばかり投げかけながらも、真正面から氷を粉々にし、呪縛を引きちぎるだろう。

 

(友達救ける為に勝利を捨てたって……たまには良いよな)

 

内心で1人問う。当然答えが返ってこない。だが、2人が言ってくれている気がした。

 

――君(お前)の思うがままにやれ、と。

 

己の握り締めた拳を一瞥し、想いを強めて顔を上げた、その時だった。

 

目の前……廊下の角から、筋肉がよく浮き出る紺色の戦闘服(コスチューム)を身につけたオールマイト並みの体格をした大男が、歩みを進めてきた。その存在感に心操の視線は自然とその男の顔へと導かれる。

野心に満ちた水色の瞳と四白眼に、仮面の如く目元を覆う真紅の炎と、彼の強さを誇示するべく炎と化して燃え盛る髭。

 

「エンデヴァー……!?」

 

紛れもなく、轟の父親であるNo.2のフレイムヒーロー……エンデヴァーだった。

 

息を呑みながら、緊張気味に発された心操の声を耳にしたエンデヴァーは、彼の方を振り向いた。

 

「おお、いたいた」

 

彼の口から開口一番に発された言葉はそれだった。恐らくは、自分の息子の対戦相手である心操を探していたのだろう。自分の息子の強さを自慢しにでもきたのだろうか、と心操は微かに身構えた。

 

エンデヴァーは、心操に肩の力を抜くよう促すと、厳格に言葉を紡いだ。

 

「君の活躍、見せてもらった。恐らく、君の''個性''は戦闘に向かないと思われるが……それに頼らずともウチの焦凍と渡り合える――いや、下手をしたら圧倒出来るかもしれん強さ。焦凍にはない繊細な技術。それらを取れば……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

エンデヴァーの発言は、心操が思っていた内容とは違っていた。自分の強さを褒めるような発言だった。彼は言葉を紡いだ後、「因みに君の''個性''だが、ヒーローとしては是非とも欲しい''個性''だと思っている」と付け加えた。

 

No.2のプロヒーローにも''個性''を認めてもらえた。心操とて彼の実績は知っている故、全く嬉しくない訳ではない。しかし、彼が何を言いたいのかを図りかねていた故、素直には喜べなかった。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

戸惑い気味に会釈した心操を一瞥すると、エンデヴァーは厳格さに野心を隠すことなく乗せた声色で次の一言を放った。

 

「……ウチの焦凍には、オールマイトを超える義務がある。一度、己を追い込んだ相手である君が相手ならば、()()()()()()を捨てて、実力を発揮することだろう。君との試合は、テストベッドとしてとても有益なものになる」

 

そして、No.2さながらの威圧を乗せて、傲然たる覇者のように言った。

 

「くれぐれもみっともない試合はしないでくれたまえ」

 

プロヒーローとしての威厳に晒され、体が固まりそうになった。獅子に睨まれた兎のような気分になる。……しかし、それ以上に心操は、エンデヴァーの言葉に敏感に反応した。

 

言いたいことを言い終えたエンデヴァーは、一言謝罪を述べてから背中を向けて去っていく。

 

「……何が、()()()()()()だ」

 

聞かせなければならない、という義務感と一種の怒りを乗せた声を心操が発する。この場を去ろうとしたエンデヴァーは、肩を跳ねさせながら足を止めた。

 

「人間なんだぞ。癇癪持ったっておかしくないだろう?自分で追い込んだくせして、何がくだらん癇癪だ」

 

エンデヴァーが振り向き、厳格さに満ちた瞳が心操の瞳を射抜く。しかし、心操は止まらない。彼の瞳に宿った確固たる意志は、厳格さという風に晒された程度で消えるような貧弱な炎ではなかった。

 

「あんたにとって、轟は何なんだ?自分の望みを叶える為の道具か?それとも、分身か?違うだろ。轟は、()()()()()()だろ。あんたは、俺の強さをこう評したよな。『オールマイトを思わせるものだった』って。あくまで、オールマイトのようであるだけでオールマイトそのものじゃない。当たり前のことだ」

 

「……轟だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。轟だって、自分の意志を持つ1人の人間だ」

 

轟を救ける意志は、業火の如く燃え盛る。エンデヴァーすらも、微かに気圧される程の意志の強さが心操の紫色の瞳から発された。

 

心操は強い意志を宿したまま、入場口に真っ直ぐと歩いていく。その強い足取りは、優勝を志したプロスポーツ選手のようであった。

 

その場には、心操の背中を硬直したまま見送ったエンデヴァーのみが残される。彼の瞳は揺らぎ、確かな動揺が見て取れた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『一回戦第二試合!いきなりビッグマッチだ!!!障害物競走でも比較的好順位!騎馬戦では轟と渡り合い、翻弄したァ!''個性''の都合上、アレなやり方はするが、本当は真っ当にヒーローを志す熱い奴!何気に結構注目されてんぞ!A組ヒーロー科、心操人使!

 

遂に訪れた最終種目の第二試合。騎馬戦でぶつかり合った者同士の対戦でもある故か、観客達の盛り上がりは一入だ。

 

プレゼントマイクの選手紹介と共に、闘技場の中心の白い線に立つ。心操は、辺り一帯に漂う霞のような呼吸音をさせながら、軽く準備運動をしていた。

 

VS(バーサス)!予選、二つ揃って4位!推薦入学者の実力は伊達じゃねえ!ある意味こいつは、騎馬戦の時のリベンジマッチか!?同じくヒーロー科、轟焦凍!

 

対する轟。彼はジャージのポケットに手を入れ、目を伏せていた。

 

彼が白い線に立ったことで、心操は直感する。彼が何らかの理由で激昂している状態にあると。

 

別に、出久のようにして感情を感知出来る訳ではない。それでも、生物の本能が言い聞かせてきた。この激怒状態の男は非常に危険だ、と。

 

無論、そんな怒りに満ちた轟の様子を察していたのは心操だけじゃない。

 

 

 

 

「……まずいな」

 

観戦席に戻ってきた出久が、たった一言言葉を溢す。

 

「緑谷!戻ってきたのか!お疲れ!」

 

彼の一言を聞いたクラスメート達は、一言たりとも周囲の発言に注意を向けていたかのようにして敏感に振り返り、切島を筆頭にして雪崩の如く出久に押し寄せ、彼に労りの言葉をかけた。

 

出久は、彼らの言葉に対し、一つ一つ丁寧に対応しながら自分の席に移動した。

 

「お疲れ」

 

「うむ、相手が誰であれ手を抜かない緑谷君は流石だな!」

 

ようやく腰を落ち着けた出久に、飯田と爆豪が声を掛ける。彼らとグータッチを交わした後に、麗日が気になってたまらないと言わんばかりの科学者のようにして尋ねる。

 

「それで緑谷君!何がまずいん?」

 

彼女が尋ねると、他の生徒達も一斉に出久に注目した。皆が一斉に注目してきた為、出久は一瞬肩を跳ねさせてから答えた。

 

「轟君……相当荒れてるからね……。要するに、怒ってるってこと」

 

轟が怒っていることの何がまずいのだろうか、と生徒達は首を傾げて顔を見合わせる。聡明な八百万や飯田、冷静な判断力に優れる障子や常闇、蛙吹は察しているようであった。

 

そんな、察している者の1人である爆豪が口を開く。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、手ェ上げろ」

 

百獣の王かつ、肉食の動物の代表格のライオン。爆豪に尋ねられると、それが怒りで理性を失った様子を生徒達は自分なりに想像する。

 

――涎を垂らして猛烈な勢いで襲ってくる。凄まじい脚力で追いかけられて、瞬く間に捕まってしまう。鋭い爪や牙で傷つけられる。異名に相応しい威圧感を放って、唸り声を上げる。

 

それぞれの想像を終えたクラスメート達は……その全員が挙手した。無論、爆豪も含めである。

 

周りを一瞥した後、爆豪は手を下ろすように促し、再び轟に目を向けながら続けた。

 

「そういうこった。怒りってのは、生物に衝動的な……とてつもねえ力をくれるもんだ。動物然り、俺ら人間然り。……キレた人間程、怖ェもんはねえよ。ライオンどころじゃねえ。頭は回るし、何をするか分からねェからな。1発目からデカいのが来るぞ

 

出久も爆豪の言葉に頷きながら言う。

 

「轟君は恐らく速攻で決めに来る。()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()。まずは、そこが関門だね」

 

クラスの猛者達が言ったからこそ、言葉に納得感がある。A組の生徒達は、生唾を呑みながら選手達に目を向けていた。

 

 

 

 

闘技場の上に立ち、炎に照らされながら、心操は中学生の頃を思い出していた。

 

――昔からそうだ。

 

自分の''個性''のことを話すや否や、心操のクラスメート達は、決まってこう言った。

 

「どんな人間でも操れるだなんて、悪いことし放題じゃないか!」

 

一部の男子は鼻息を荒くしながら興奮したように言っていたし、その例外でも興味6割、嘲笑4割くらいの視線を向けていた。女子にも、犯罪者的思考の持ち主なのではないかと疑いの目を向けられていたものだ。

 

その度に心操は、今や癖となった首元の後ろの部分に手を置く仕草をし、苦笑しながら流してはいたものの……心が打ちひしがれているのは変わりなかった。

 

(そんな生活を送って、自分の''個性''が嫌いになって……9月頃だったか)

 

遠回しに(ヴィラン)向けの''個性''だと言われ続けて、うんざりしている中。心操は件の動画を……出久が単騎で(ヴィラン)を打ちのめす動画を目にした。

 

その強さも憧れるべきものだった。今だって、出久の強さに憧れている。

 

しかし、1番憧れたのは……彼の理想だった。(ヴィラン)の放った、社会の闇が垣間見える悲痛な叫びに対して放った理想。

 

――俺はそんな理不尽な差のない社会を創り上げる為に戦う。あんたのような人の心をも救えるヒーローになる――

 

思い起こせば、あの(ヴィラン)も自分の''個性''のことで悩んだ結果、(ヴィラン)としての道を歩むことを決めたのだったか。心操は、必然的に(ヴィラン)と自分を重ね合わせた。

 

それを経て、心操のヒーローに対する憧れが強く燃え上がった。同時に、彼ならば自分の''個性''を認めてくれるのではないか、という淡い希望を抱いた。

当時の心操は、ただ誰かに背中を押してほしかったのだ。

 

それでも、彼が自分のことを認めてくれる保証はない。だからこそ、''個性''のことは己のコンプレックスであり続けて。彼は葛藤の日々を依然として送っていた。時間が過ぎる度に、''個性''のことだけではなく、己の強さの磨き方も葛藤の中身に加わっていった。

 

そんな心操の癒しは、家族の存在と景色のみだった。葛藤を振り払う為に、休日はサイクリングに出かけ、どこかの絶景を見に行くことをよくやっていたものだ。――それは今でも続けている習慣だが――

 

秋に見頃となる花と言えば、彼岸花――彼岸=死のイメージを嫌って、敢えて曼珠沙華とも呼ばれる――がある。心操の出身である埼玉県には、約500万本もの曼珠沙華が咲き誇る名所があり、彼自身も何度もそこに行ったことがあった。

 

心操自身、曼珠沙華の鮮やかな紅い花が好きだった。まるで、熱血さをモットーにする真っ当なヒーローを見ているかのような……そんな色に惹かれたのだ。

 

そして、ある日。海のように一面に咲く曼珠沙華が作り出した絶景を見る為にその名所を訪れ、心操は運命の出会いを果たした。

 

見知らぬ他人であるにも関わらず、()は声を掛けてくれた。

 

「――ここの彼岸花……あっ。地元のこの辺じゃ、曼珠沙華って呼んでるんだっけ?本当に綺麗だよね。一切の色の混ざりがない、鮮やかな紅。僕も好きなんだ」

 

植物学者の如く、しゃがんで曼珠沙華をじっと見つめる心操の隣にしゃがみ、彼は何気ない会話を切り出した。

 

気配もなく、隣にしゃがんでいたことに肩を跳ねさせながら、心操が声のした方を向くと……彼は苦笑しながらも笑顔を向けた。

 

「こんにちは。ところで君、疲れ切った顔してるね。……僕で良かったら、話を聞くよ?僕、緑谷出久って言うんだ。君は?」

 

……言わずもがな、彼というのは出久のことである。

 

彼は、心操の悩みを真摯に聞いてくれた。まず、そうして悩みを聞いてくれるのが嬉しかった。悩みを聞いてくれるのは、家族以外に誰1人いなかった心操にとって、出久の存在は安らぎだったのだ。

 

心操の''個性''のことを事細かに聞いた出久は言った。

 

「成る程……''洗脳''か。(ヴィラン)向けだとは思わないな」

 

「えっ?」

 

呆けた声を出しながら出久を見ると、彼は腰掛けていたベンチから立ち上がって秋空を仰ぎながら続ける。

 

「''個性''の価値っていうのはね、それだけじゃ決められない。それがヒーロー向きか、(ヴィラン)向きかを決めるのは……その''個性''を持つ本人の扱い方さ。どんな''個性''だろうと世間的に見て正しい使い方をしていれば、それはヒーロー向きになる」

 

直後、彼は地面に落ちていた紅葉を拾い上げ、それで空を見透かした後に心操の方を振り向いた。

 

「君の''個性''は素晴らしい''個性''だよ。(ヴィラン)を戦わずして制圧出来る、優しい''個性''だ」

 

そして、出久は白い歯を見せて朗らかに笑いながら、心操の1番欲していた言葉を投げかける。

 

「大丈夫さ、心操君。君はヒーローになれる

 

(そして、俺は……あまりに嬉しくてワンワン泣き喚いて……。緑谷は俺が落ち着くまで側にいてくれたんだったか)

 

脳内で過去の思い起こしを終えたところで、自分的には恥ずかしかったところまで思い出して、頬が過熱されたパンのように、徐々に熱を持ってきた。

 

恥ずかしさを振り払う為に、一度目を閉じて、深呼吸を行う。

 

……熱りが覚める。保冷剤で体を冷やすかのように、徐々に体が程よく冷えていく。

 

そして、目を開く。精神が研ぎ澄まされたところで、主審であるミッドナイトと目が合った。

 

彼女に目線のみで準備万端であることを伝える。心操の瞳から静かな闘志を感じ取ったのか、ミッドナイトも生徒を試合に送り出す部活の顧問のように、激励を送る表情を向けた。

 

轟の方も既に準備万端。それを確認したミッドナイトは、プレゼントマイクに合図を送る。

 

『おっ!?両者準備が整ったようだぞ!第二試合も、さっきのに負けないくらいの激アツのバトルにしてくれよ!それでは、第二試合!』

 

『レディィィ……!スタァァァァァト!!!!!』

 

プレゼントマイクが試合開始のコールを行った瞬間。

 

(わり)ィな……!」

 

怒気に満ちた声を発し、目の前の相手を射殺さんとする眼力の轟が右足で地面を強く踏み込んだ。

 

瞬きをする間もなく、心操に超質量の氷塊が雪崩の如く、土砂崩れの如く押し寄せる。

 

それを目にした瞬間、心操は地面から飛び立つ鳥のように、天高く跳躍した……!




本格的な試合は、また次回ということで。今回は導入まででございました。

まあご覧いただければ分かりますが、心操君の過去に独自解釈やらなんやらかんやらを入れております。

いよいよ大激戦の幕開けとなる訳ですが、果たしてどうなるのか……。次回をお楽しみに!
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