異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake   作:白華虚

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5話 精神世界からの帰還

出久の体感時間で、5年の時が経過した。

 

「そろそろ戻るんだね」

 

「はい。現実の僕の体の傷も治ってきてるみたいだし、これ以上弱っていくお母さんを見ていられませんから……。それに、僕を待ってくれている人がいますし、安心させてあげないと」

 

彼の発言通り、出久はいよいよ現実世界へと戻ることを決意したのである。

 

この計5年間の鍛練の結果、出久は格段に強くなった。与えられた能力をどれだけ扱えるかという点のみならず、本人の技量やフィジカルという点から見ても同じくだ。

 

3年が経過した時点から、進歩したこともいくつかある。

 

一つ。この精神世界において、自分の出会った人物達が戦ってきた敵の幻影を作り出し、強さを実物と全く同じにして戦うことが出来るようになった。

 

二つ。無一郎が死の間際に見えるようになった、相手の筋肉や内臓の動きまでも把握出来る領域、"透き通る世界"に足を踏み入れた。

 

三つ。トランクスが戦った相手、ゴクウブラックの幻影との戦いを通して、超サイヤ人2へと変身可能になった。

 

その他の技術においても、メルエムの驚異的学習能力があるおかげか、一部の技術は本人を超えるレベルで扱えるようになった。

 

「今の緑谷さんを見たら、皆驚くでしょうね」

 

精神世界での5年間を振り返りながら、しみじみと言った綱吉の発言に、全員が頷いた。

 

「初めて会った時に比べれば、本当に見違えたね」

 

「そうだな。俺の見込みは間違っていなかった」

 

「本当ですね、承太郎さん。僕自身も、自分が自分じゃないみたいですよ」

 

「出久のおかげでコムギも成長したようだ。礼を言おう」

 

「皆さまのおかげで色々な経験が出来ますた。ありがとうございます。軍議だけが取り柄だったワダすですけれども、新しい取り柄が出来ますた!」

 

「コムギさんの集中力のおかげだもんね、出久が透き通る世界に入れたのも」

 

「それのおかげか、覇気の精度の上げ方も凄えもんな。見聞色って、極めればあそこまで辿り着くんだな……。俺も初めて知ったぜ」

 

「改めて思いましたけど、皆さんの持ってた力って僕らでいう"個性"以上にとんでもない力ばかりですよね。凄いです」

 

出久もまた、己の鍛練の日々を思い起こす。確かに辛いことは沢山あったけれど、この経験は確実に己の糧となった。

 

「出久、俺達はずっと君のことを見守っている。君が最高のヒーローとなれる日を待っている」

 

「!はい……!ありがとうございます!皆さん、お元気で!」

 

恩人達に礼を告げた所で、出久の意識は再び暗転した……。

 

 

「んん……」

 

出久が目を覚ますと、そこは見知らぬ天井であった。

 

少しずつ視界がはっきりして周りを見渡してみれば……そこは病院だと分かる。

 

(ああ……。跳び降りた後、ここに運び込まれたんだな)

 

周りの景色から、出久はすぐに己の状況を把握する。そして、自分の体を見た。

 

「……凄いな……。ちゃんと鍛えた成果が出てるや。戻ってくる前と同じ。鍛えててよかった……」

 

自分の体は、精神世界で鍛え上げて作り上げたそれそのもので。出久は少しホッとした。

 

「!」

 

そして、ふと目を向けてみると……自分の眠るベッドに伏せて眠る母の姿があった。

 

その姿は、昔のようにすっかりと痩せていて……どこか儚さが兼ね備わっている。

 

「お母さん……ごめんね、心配かけちゃったね……」

 

そんな母を、出久は己の恋人や子供に向けるかのような優しい笑みを浮かべながら撫でた。

 

「んん……?」

 

すると、その感触に気がついたのか、出久の母は目を覚ました。目を擦りながら目覚めた出久を見て、彼女は硬直する。

 

「出久……?」

 

「うん……。ごめん、お母さん。沢山心配かけて。ただいま」

 

「ゆ、夢じゃ……ないよね……?」

 

「夢じゃないよ。ほら、触れるでしょう?」

 

声を震わせる母の手に、出久は己の手を重ねながら言った。

 

「うぅ……出久ぅぅぅ!お帰りぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

「わっ!?」

 

重ねられた自分の息子の手の温かさ。それに安心して気が抜けたのか……出久の母は、出久に抱きつきながら涙の滝を流したのであった。

 

 

(出久……!出久っ!)

 

少年、爆豪勝己は走っていた。己が疲れることなど露知らず、ただ全力で走っていた。

 

彼が向かっているのは、近所の病院。母親伝いで出久が目覚めたことを伝えられた爆豪は、無理を言って学校を早退させてもらい、目を覚ました幼馴染の元へ向かっているのだ。

 

彼の内心は、ただ出久に謝りたいというその一心だけであった。

 

件の病院に着き、何度も通い詰めている幼馴染の病室前まで着くと……そこには己の両親と出久の母がいた。

 

両親は、爆豪がやってきたのに気づくと……

 

「勝己、行っといで」

 

そう言って快く彼を病室の前に立たせてやった。恐らく、爆豪と出久にも積もる話があることを考慮して、席を外してくれているのだろう。爆豪は、3人に密かに感謝した。

 

「……」

 

爆豪は緊張気味に病室の扉を開ける。

 

その先にいたのは……。

 

「!かっちゃん。いらっしゃい」

 

ベッドの上で、己を笑顔で迎えた幼馴染の姿であった。

 

「っ……」

 

彼が目覚めたことと己を笑顔で迎えてくれた安堵、こんな健気な幼馴染を死に追い込んでしまったことへの罪悪感、己の行動への悔い……。

 

様々な感情が溢れ出し、彼はボロボロと涙を流しながら、額と膝をついて許しを請うた。

 

「ごめん出久っ、ごめん!俺がくだらないプライド持ったせいで、お前には散々辛い目に遭わせちまったっ!俺が心無い発言したせいで、お前のことを追い込んじまった!許されねえことしたのは分かってる!それでも……」

 

「それでも」。その先を言う前に、出久が声をかけた。

 

「うん……いいよ、許すよ。かっちゃん」

 

「!」

 

「君はずっと僕の憧れの人だ。そりゃ腹立つことだってあったけどさ、それでも変わらないんだよ。君が憧れの人だってことは。君は……昔から凄い人だったから。君さえ良ければ、これからも友達でいておくれよ」

 

「……いいんかよ。元々自殺教唆した奴が友達でも……」

 

「いいんだよ。確かにかっちゃんは、許されないことをしたかもしれない。でも、君がそれを反省して変わったんなら、延々とそれを掘り返して責め続けるのはおかしいと思ってる。君が変わったことを素直に認めて見守っていく……。それが礼儀じゃないかな?」

 

そこまで言ってから、出久は爆豪と同じ目線になって手を差し出した。

 

「今の君を許さないってことは、否が応でも君のことを認めないってことだ。それってさ、失礼にも程があるだろ?僕は、そんなかっこ悪い人間には絶対にならない」

 

そう言う幼馴染の顔が、爆豪にとってはどうしようもなく眩しかった。

 

__やっぱお前にゃ敵わねェや。出久、お前は出来る奴だな__

 

内心で吐露しながら、爆豪は幼馴染の差し出した手を握り返す。

 

「ったくよォ、どんな仕打ちでも覚悟してきたってのに……少し話さねえ間に逞しくなりやがって……。わーったよ、俺で良けりゃ仲良くし殺すわ」

 

「ふふ、そのワードセンス、かっちゃんらしいね」

 

「そーかよ」

 

「そうだ、かっちゃん。髪、切ってくれないかな?君、こういうのはセンスあるだろ?」

 

「美容師じゃなくて俺頼みかよ。しゃーねェなあ、やってやんよ」

 

「!ありがとう、かっちゃん!」

 

最初に幼馴染にしてやることは、まさかの髪切り。どこか奇妙ではあるが、爆豪にとっては十分であった。

 

「……かっちゃん。僕ね、"個性"があったんだ」

 

「あァ?あったんか?」

 

「うん。"異世界巡り"って言ってさ、命の危機に陥るとかして、意識を失うという特殊条件に当てはまった時のみ発動する"個性"だったんだよ」

 

「んだ、そのひでえ"個性"。メリットあるんかよ?」

 

「ちゃんとあるよ。リスクが高い分、凄い収穫があった。自分とは違う世界にいる特定の人物8人の精神に入り込んで、その人物の人生を経験して、その経験を自分にも反映出来るんだ。その人達が使ってた力が僕も使えるようになるんだ。僕はこの力で君やオールマイトをも超えて、最高のヒーローになるよ」

 

「……そうかい。心配すんな、既に俺のことは超えとるわ」

 

「やってみなきゃ分かんないさ。近々、試してみようよ」

 

「わーった、やってやらァ。生まれ変わった俺を見せ殺すからよ、覚悟しとけや」

 

「うん、楽しみにしてる」

 

幼馴染の髪を切ってやりながら話を交わす爆豪。その笑顔は、一切曇りのないものだ。

 

__出久、俺のことちゃんと見てろよな__

 

己の内心で吐露した言葉。それに対して、出久もまた「うん、ちゃんと見てるよ」と内心で答えたと、爆豪には何故だかそう思えた。

 

 

退院の手続きを終えた出久は、荷物をまとめて爆豪やその両親、それと己の母親と共に病院を出た。

 

モサモサとしていた髪の毛はボリュームが減ってショートヘアーとなり、揉み上げと後頭部は刈り上げて整えられて、すっかりスタイリッシュさが増している。__所謂(いわゆる)、ツーブロックだ__

 

そんな彼は今……。

 

「済まなかった、緑谷少年!私の発言で厳しい現実を突きつけた結果、君を追い込んでしまった!」

 

骸骨のように痩せ細った、真の姿を晒すオールマイトに土下座で謝罪をされ、困惑していた。

 

「い、出久。知り合いの方?」

 

彼の母もまた困惑して尋ねてくる。

 

「えっと……うん。色々あってね」

 

己もまた彼の所業に困惑しながらも答え、爆豪は提案した。

 

「……取り敢えず、人気のねえとこ行かねェ?ここじゃまずいだろ、色々。悪目立ちしてんぞ、あんた」

 

「はっ!?それもそうか、爆豪少年!」

 

「……そういう訳だから、親父とお袋。おばさんのこと頼むわ」

 

「はいはい、任せといて」

 

「積もる話もあるでしょうし、ゆっくりで大丈夫ですよ」

 

「申し訳ない、ありがとうございます」

 

痩せ細った姿のオールマイトと気軽に話す爆豪の両親。彼らを見て、オールマイトの事情を既に知っているのであろう爆豪本人に出久は尋ねる。

 

「……かっちゃん。光己さんと勝さんも、オールマイトの事情を知ってるの?」

 

「そういう訳じゃねェが、あの人はオールマイトの所属している事務所の事務担当の八木さんっつー話で通してんだ。俺とオールマイトとの間で関係が出来た以上、何も話さねェ訳にはいかねェしよ」

 

「……成る程ね。それでは八木さん、移動しましょうか。お母さん、また後で」

 

「出久……」

 

「大丈夫、今度はちゃんと帰ってくるから」

 

出久の言葉にホッとした表情の母。彼女の表情を確認したところで、出久は爆豪とオールマイトと共に人気のない場所へと移動したのであった。

 

「……それで、オールマイト。どうして急に頭なんて下げたんですか。恐縮すぎてビビりましたよ」

 

「いやあ……。一刻も早く君に謝らなければいけないって気持ちが先行してね。改めて済まなかった、緑谷少年。私の言葉が、君に自殺を決断させる大きなきっかけとなってしまった……。私達ヒーローは、毎日命がけで戦っている。そんな中、"個性"無くして明日を生きていける保証はない。私は……己の発言で"個性"のない君が、偉大であれど無謀な夢のせいで命を失うという光景だけは見たくなかったんだ……。それに、実を言うと君を試す意味もあってな……」

 

「……えっ。試されてたんですか?僕」

 

「そうなんだよ。君が私の後継者に相応しいのかどうか、それも見極めんとしていたんだ」

 

「後継者……?」

 

オールマイトは、更に隠していた秘密を話した。その秘密というのは、勿論"個性"のこと。

 

己の"個性"が代々引き継がれてきたものであること、爆豪をその後継者に選んだこと、その候補に出久もいたこと……。

 

異世界で様々な経験をした故か、大々的に驚愕した訳でもないが、やはり彼から話されたことは全て驚きの事実であった。

 

「成る程……そういうことでしたか。オールマイト、自殺を試みた僕自身が言うのもあれですけれど、気にしないでください」

 

「!?し、しかし!」

 

突如の発言に、オールマイトが抗議の姿勢を見せるも、出久はそれを制しながら発言を続ける。

 

「自殺のおかげ、というのは言葉が悪いですけれど……学べたことも多くありますので。僕、気づいたんですよ。一番ヒーローをナメていたのは、一番ヒーローに憧れていた僕自身だって」

 

「「!?」」

 

この発言には、爆豪もまた驚いていた。それには、かつての出久からは想定出来ない発言がその口から飛び出したことも起因するであろう。

 

「命の危機に瀕して意識を失うことで、僕の"個性"は初めて発動しました。僕の"個性"は、異世界に生きた人物の精神に入り込んで、彼らの経験を自分のものに出来るってものなんですけれど……僕はそこで色々なものを見てきました。その中で気づいたんです」

 

「……ヒーローは初めからヒーロー足らしめるんじゃない。果てない努力がなきゃそれを成せないってことに」

 

「出久……」

 

出久の発言は至極当然のことである。天賦の才能を賜り、初めから何でもかんでも出来るという人間は到底いない。

 

幸か不幸か、彼の身近にはその例に当てはまらない、爆豪勝己という天才や、ヒーローとして圧倒的矜恃を保ち続けることの出来るオールマイトがいた。

 

__そんな人間を見てきたばかりに、出久の中でその当然のことは霞んでいたのかもしれない。

 

彼は拳を握り締めながら続ける。

 

「僕、プロヒーローの"個性"や戦い方をずっと分析してきましたけれど、その前に体を鍛えるっていう当然のことをやっていませんでした。口先ばかりでいつまでも動き出そうとしなかった。そりゃ、馬鹿にされて当然ですよね。僕の行動は周りからすれば現実逃避で、夢を諦めた人間がやるそれと同じだったんですから」

 

そして、己が見てきた全てを振り返るように空を仰ぎ見た。

 

「貴方だって、他の活躍してるヒーロー達だって、初めからヒーローだった訳じゃないし、初めから強かった訳じゃない。凄まじいくらいの努力を積み重ねてここにいる。……僕はやっとそれに気づきました。僕が見てきた人達だってそうでした。例外もいましたけれど、皆が望みを成す為に……若しくは強くなる・強く在る為に努力を積み重ねていました」

 

出久は、かつて己が見てきた人物のように強い信念を宿した瞳でオールマイトを見た。

 

「貴方の一言がなければ、僕は何も気付けないままでした。自分の精神世界で、遅れを取り戻そうと必死に努力したからこそ、今の僕があります。オールマイト、どうか自分を責めないでください」

 

「緑谷少年……」

 

__君は一体、何を見てきたんだ!?__

 

以前とは見違える程の出久の心の強さに、オールマイトは驚愕した。同時に、目の前の少年が自分以上の修羅場を潜り抜けてきているという気さえした。

 

そう感じているのは、爆豪も同じこと。

 

__眠ってる間に何を見たってんだ。まるで、お前がお前じゃねェみてえだ。いつの間にか追い抜かれちまった__

 

幼馴染との実力の差をなんとなく察して、どこか寂しいような嬉しいような、そんな複雑な感情を抱いた。

 

「HAHAHA!参った参った。いつの間にやら、君は強い少年になっていたようだね。緑谷少年、そんな君に折り入って頼みがある。君もまた秘密の共有者となって、爆豪少年が未来の平和の象徴となるまで協力してはくれないか?」

 

しばらくして、オールマイトが笑いながら言う。

 

平和の象徴からの頼みに、出久もまた笑って答えた。

 

「はい、そりゃもう喜んで。僕で良ければ、いくらでも力を貸しますよ」

 

「……ありがとな、緑谷少年」

 

「んじゃ……俺はもっと強くなって、出久が困った時には力を貸し殺すわ」

 

「貸し殺すって、また独特な言葉回しだね。かっちゃん」

 

こうして出久は現実世界へと舞い戻ってきて、ヒーローの夢へとまた一歩踏み出すのだが……

 

(あれ、僕の服のセンス、ダサすぎ?)

 

家に帰宅した直後、そう思ったのだとか、思わなかったのだとか。

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