異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake 作:白華虚
出久が目覚めてから月日は流れ……夏の暑さが収まり、すっかり涼しくなり始めた。木の葉は、夏らしい緑一色から、少しずつ黄色に染まったり、枯れ始めていたりとそれらしい様子を見せ始めている。
出久は目覚めるや否や、己の進路先を国立雄英高等学校に決めた。雄英は、日本一の人気を誇るヒーロー養成校で、その偏差値は79。まさしく入学するには高難易度の高校である。加えて、倍率はそこのヒーロー科だけで毎年300倍を叩き出す。その人気の高さが顕著に表れているであろう。
"個性"によって出会った人物達から与えられた力を
「私なんか足元にも及ばなそうだな、HAHAHA!」
と満足そうに笑わせた程だ。また、オールマイトの師匠である人物にも、
「これ程の人材がプロヒーローにおらんのが惜しいな。将来が楽しみだ」
と好評を貰った程でもある。
そちらに心配はなかったが、教師や母親が心配したのは勉強面の方であった。
何せ、出久は4ヶ月眠っていた。受験生にとって、この遅れはあまりにも致命的だ。爆豪が必死になって彼に勉強を教えている場面をしばしば見るとはいえど、彼らは出久が本番に間に合うのかどうか、些か不安を感じていた。
しかし、何も心配する必要はない。
出久には、メルエムから授かった驚異的学習能力に、コムギから授かった凄まじい集中力と記憶力、更には歳を重ねて海洋学者となり、海洋生物研究の第一人者にまで上り詰めた承太郎の頭脳もある。また、承太郎は高校の頃から然程勉強していなくとも、テストで高得点ばかり叩き出す天才型の男でもあった。
それらを併せ持つ出久が学習に本気で取り組めばどうなるのかは、言わずもがなであろう。現在でも彼は
今や、出久と爆豪は"折寺中の星"として生徒達から尊敬の念を集めている。
__出久の場合は、生徒会長を務めてもいる為、余計に注目が集まっているのだ__
そんな彼は今、息抜きがてらショッピングに来ていた。
彼が来ているのは工具店。目的としている物は、上質な工具である。
「……トランクスさんの機械いじりの趣味がすっかり移っちゃった訳なんだけど……やばいな。やり始めたら凄い楽しいや」
そう呟きながら工具を手に取っては、品質を見定めていく出久。
彼の発言にもあった通りなのだが、彼は今やトランクスの趣味であった機械いじりにもハマってしまった。どのくらいハマったのかと言われれば……ヒーローの"個性"や己の数々の経験を参考にしながら、サポートアイテムを独自に作ってしまう程だ。
トランクスの趣味が機械いじりである所以。それは、彼が生きた世界での厳しさにある。彼が生まれた時には、既に人造人間が暴れ回り、街は荒廃していた。過去の歴史を変えて未来を救う為、彼の母であるブルマが手をつけたタイムマシン作りに彼自身もまた、やれることを探しながら手を貸していた。
そうする内に、機械いじりに楽しさを感じ、それが彼の趣味へと変化したのである。逆に言えば、街が荒廃していた上に修行の日々を過ごしていた影響で、楽しめることがこれしかなかったということにもなる。
機械いじりをする度に、出久は彼の生きた人生の辛さを痛感しながらも、自分が平和に生きていられることに感謝していた。
__まあ、出会った人物達から移ってしまった趣味などは、トランクスの機械いじりのみならず、他にもあるのだが__
「ありがとうございましたー!」
彼は探し求めていた工具を見つけ、嬉々としながら店を出た。そして、その帰り道の途中、彼の耳に爆発音が届く。
__嫌な予感がする__
綱吉から受け継いだ出久の超直感は、確実に何か事件が起こっていることを彼に確信させた。
綱吉が扱っていた頃から、この超直感は外れたことなど一度もない。故に彼は、全速力で現場へと向かうことにしたのであった。
★
「!」
向かった先に広がっていたのは、凄惨な光景だった。
車が破損し、ガソリンが爆発したことで辺りには炎が燃え広がっている。逃げ惑う人々に、避難を終えて、暴れ回る
「ヒャッハァァァァァ!俺は最強だァ!」
「ぐわぁぁっ!?」
当の暴れ回る
「うわぁぁぁん!怖いよぉ!」
「大丈夫……。ウチが守るからね……!」
その近くには、小さな女の子を守るように抱き抱える、耳朶がプラグに変化した少女がいた。
取り敢えず、何事にも情報収集が肝心である。
「あの……何があったんですか?」
出久は、近くにいた男性に何が起こっているのかを尋ねた。
「ああ……今、暴れ回ってる
出久に尋ねられた男性は、冷や汗を流して光景を見守りながら、彼の質問に答えた。
(成る程な。ヒーロー側の実力不足で膠着状態……いや、劣勢になってるのか)
その話を聞いてから、出久はなんとなく状況を察することが出来た。
そして、改めて現場の方に目を向けてみる。
「オラオラァ、雑魚ヒーロー共が!どうしたどうしたぁ!?このままじゃ、あの嬢ちゃん達を俺が殺しちまうぞ!」
「っくそぉ……っ!?ごはぁっ!?」
「ダメ!相手が強すぎるわ!」
「オールマイト程じゃないとは言え、この衝撃波が厄介すぎる……!」
「実力が釣り合わねえくせに生意気にヒーローなんざ名乗ってんじゃねェよ、雑魚共が!このままくたばれェェェェェ!!!!!」
「ぐぁぁ!?」
「きゃあああああ!?」
……ヒーロー側が劣勢に立たされているのは明らかであった。
__それでもヒーローなら。彼らにヒーローとしての自覚があるなら、立ちあがってくれるはず__
出久は、己に"個性"を扱って自在に戦える資格がないことを理解している。故にそう願って、事の
しかし。
「ぐはっ……ダメだ……。俺達じゃ……勝てない……」
「あれに勝てるヒーローの救援を待つしかないわ……」
「あの子達には持ち堪えてもらうしか……」
ヒーロー達は、己が敵わないことを知って弱音を漏らし始めた。一部は、既に少女達を救うことを諦めているようにも見える。
「……!」
出久は……この状況を知っていた。現場のヒーローの状況は、ヘドロ
(何を……してんだよ……!あの子達が死んでもいいってのか!?命を失ってまで救けろとは言わないけれど……それを失う覚悟を持って誰かを救けるのが、それを最後まで諦めないのがヒーローじゃないのか!?)
気がつけば彼は、歯を食いしばり、爪が食い込んで血が流れる程に拳を握りしめていた。
「っ、まずい!」
こうしてヒーロー達が動けない間に、
「っ、来るな!絶対……絶対この子だけは死なせない!」
女の子を庇いながら、耳朶がプラグに変化した少女は勇敢に言い放つ。
しかし、その声は震えていて、目は涙で潤んでいた。
(あの子……。自分が怖いはずなのに、それを我慢してまで……)
出久もまた、それに気づいていた。
彼女の状況に気がついていたのは
「いいな、嬢ちゃん。自分が怖いの必死で我慢して、自分より弱い奴を庇ってる!もしや将来はヒーロー志望か!?いいなァ、熱いぜ!けど、嬢ちゃんがヒーローになれることはねえな。何故って?情けねえヒーロー共のせいで、これから嬢ちゃんが死んじまうからだ!」
「やめろ……!やめろぉぉぉぉぉ!」
ついに、
「死ねェェェ!」
「ッ!」
__ならば、誰が動くのか。
その少女の目は、救けを求めていた。救けを求める彼女の意思は、少年を突き動かした。
__
__一つの想いを胸にした瞬間、その少年の体は勝手に動いていた。
★
耳郎響香は、ヒーロー志望の少女だ。彼女の趣味は、楽器を弾いたり、歌ったり、音楽に通ずること全て。因みに、特に好きなのはロックである。
両親は音楽関係の仕事をしており、ロックが好きだったりするのも2人の影響だ。
それほどに好きな音楽の道に進むか、小さい頃に人を救ける姿を見てからずっと憧れていた、ヒーローの道に進むか。彼女は思い悩んでいた。そして悩みに悩んだ末、彼女はヒーローの道を歩むことを決める。
音楽の道を進まないことに申し訳なくなって泣き出した耳郎を、父親は叱ったりすることなく笑いながら慰め、彼女の母親と共に己の娘の夢を応援すると決めた。未だ自分の趣味がヒーロー活動に根付かないことに劣等感を持っているも、彼女は着実に一歩ずつ、ヒーローの夢へと歩みを進めている。
そんな彼女は今日、新しくリリースされるロックバンドのCDを買いに出かけていたのだが……。
「ッ!?」
その道中で件の事件に巻き込まれた。
「てめえら全員逃がさねえぞ!俺の強さを見届けやがれェ!」
突然現れた
「に、逃げろぉぉぉぉぉ!ヒーローを呼ぶんだ!」
その所業を見た瞬間、人々は逃げ惑う。勿論、耳郎も逃走を試みたが、彼女の目は捉えてしまったのだった。
「うぇぇぇん……。パパァ、ママァ、どこぉ…….?」
くぐもった泣き声を上げながら、腰を抜かしてしまった幼い女の子の姿を。
「あァん?どうした嬢ちゃん、逃げ遅れたのか?安心しろ、すぐに楽にしてやるからな!」
そんなか弱い少女にも、
それを見た耳郎の体は、勝手に動いていた。
__な、なんで勝手に!?いや、そんなことはどうでもいい!今は__
(あの子を救けなきゃ!)
勝手に動いた自分の体に戸惑いつつも、すぐさま思考を切り替えて耳郎は駆ける。
そして、女の子を抱き抱えると同時に、咄嗟の判断で"個性"でもある"イヤホンジャック"によって変化した自分の耳朶を地面に挿すことで、そこから自身の心音を地面に向けて、衝撃波として放った。
「うおっ!?」
すると、地面が砕けて
この隙に、耳郎は女の子を抱き抱えたまま
「大丈夫だよ、ウチが守ってあげる!」
そして、震える女の子に彼女は笑顔で声をかけた。
「
「ほら、ヒーローも来てくれた!」
「!ほんとだぁっ!」
それと同時に、タイミング良く駆けつけてくれたヒーロー達。彼らを見て、耳郎も安心したのだが……相手取った
そして、彼らは今……動けなくなった。
「っ、来るな!絶対……絶対この子だけは死なせない!」
自分が庇っている女の子を守る為、必死で啖呵を切ったものの......本当は怖くて仕方がない。
それでも、自分はヒーローになるんだ、と言い聞かせて彼女は退かなかった。
しかし、
「死ねェェェ!」
「ッ!」
耳郎は、自分の死を覚悟した。
(ウチの命に変えても、この命は守るんだ……!)
しかし、覚悟とは反対の感情もあった。
__怖い__
__死にたくない__
そして、瞳を涙で潤ませながら、彼女は祈った。
__お願い……誰か、救けて__
最高のヒーローに救いを請うように。必死で救けを求める、魔王に捕らわれた異国の姫君のように。
__その願いが届いたのだろうか。
「ゴブェッ!?」
バギィッ、という痛々しい音と共に、何かが地面に倒れる音がした。
「ふぇ……?」
耳郎が気の抜けた声と共に目を開くと……。
「もう大丈夫、俺がいる。怖い思いをしながらよく頑張ったね。君達のことは、俺が救ける」
自分の目の前に立っていたのは、額にオレンジ色の炎を宿し、橙色の瞳の据わった目をした、緑髪ツーブロックの少年であった。