異世界を巡った少年のヒーローアカデミア:Remake   作:白華虚

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7話 緑谷出久:トゥルーオリジン(後編)

(良かった、間に合った)

 

出久は、自分の背後にいる少女達を見て安堵していた。

 

綱吉が使用していた戦闘形態である、ハイパー死ぬ気モードを発動している影響で目が据わっているものの、その瞳は優しさに溢れていた。

 

「ははは……驚いたぜ。まさか、ヒーローでもねえただの学生に殴られるとはなぁ?」

 

出久が殴り倒した(ヴィラン)が、微かに切れて血の流れる口元を拭いながら立ち上がった。

 

出久もまた、彼を"倒すべき敵"だと見据え、構えを取る。

 

それを後ろから呆然と見ていた耳郎にも、彼が戦う気満々であるのはすぐに分かった。

 

「だ、だめ!ヒーロー達が束になってかかっても、全然敵わなかった相手なんだよ!?あんたが死んじゃう!ウチのことはいいから……逃げて!」

 

「……その女の子は君が守っているけれど、ヒーロー達が動けない今、誰が君を守ればいいの?」

 

「!」

 

見知らぬ自分の身を案じてくれる彼女に、出久は感謝した。しかし、依然彼の中に退く選択肢はない。

 

「俺が今ここで逃げたら……君は死んでしまうだろう。逃げる選択肢を取ったら、俺は絶対に後悔する。俺は……人生に悔いを残したくないんだ」

 

そこまで言った出久は、耳郎の方に顔を向け……。

 

「だから......守らせておくれよ」

 

エースのように、にこやかな笑顔を見せてそう言った。

 

「おお......かっこいいな、小僧!けどなァ、実力を(わきま)えた方がいいと思うぜ!?なんたって俺は……最強なんだからよォ!」

 

そんな出久を見て、狂喜の笑みを見せた(ヴィラン)が虚空に拳を打ちつけ、衝撃波を放ってきた。

 

「っ、逃げてぇっ!」

 

目の前の少年が衝撃波に呑まれ、ボロボロになる姿を想像した耳郎が悲痛な叫び声を上げる。

 

その状況下にあっても、出久は冷静であった。

 

「……最強……か」

 

そして、彼は両腕を交差させたまま顔の前に構え……

 

「はあっ!」

 

バッ、と思い切りその両腕を広げると共に気合を解き放ち、衝撃波を掻き消した。

 

「……は?」

 

全く以って想定していなかった現実に、(ヴィラン)は呆けた声を上げる。そんな彼に、出久は言った。

 

「最強だなんて、笑わせないでくれよ。オールマイトの足元にも及ばないあんたがそう自称するのは……少なく見積もっても100年早いんじゃあないか?」

 

__マグレだ。マグレに決まってる!俺はこんな小僧には負けない!__

 

挑発的な発言を受けた(ヴィラン)は、必死に出久の行為をマグレの物だと自分に言い聞かせた。

 

というのもこの(ヴィラン)、相手にしてきたのは下級のヒーロー達ばかり。それ故に己を最強だと過信している。当然、ランキングの上の方に立つヒーロー達と戦った経験など一度もない。

 

その矜恃が、"ただの中学生"に崩された。その事実を、彼の脳は受け付けなかったのだ。

 

故に。

 

「クソォォォ!何度もマグレが通用すると思うなよ!ナメんじゃねェェェェェ!」

 

彼は激昂しながら、再び出久に攻撃を仕掛け始めた。

 

今度は衝撃波を放つのではなく、己の拳で殴りかかっていく。

 

対して出久は、透き通る世界に足を踏み入れると共に、極めに極めた見聞色の覇気によって未来を視た。

 

"二重の先読み"。未来を視れる見聞色の覇気に、その未来視に頼り切りにならないよう、且つ未来視を破れる相手が出てきた時のことを考慮して、相手の器官の動きを判別して、高度の先読みを可能とする透き通る世界を組み合わせた。

 

それを発動させた出久がどうなるのか。

 

__結論は至極単純だ。

 

「ッ!?なんでだ、なんで一発も当たらねえ!?」

 

(ヴィラン)の攻撃が、一撃も出久に命中しなくなるのである。

 

視た相手の肉体の動きと、未来とを照らし合わせて……次の相手の行動の候補を絞りあげ、更にその中から最適解を見出す。

 

以って出久は、(ヴィラン)の攻撃を(ことごと)く避けていた。更にはコムギから授かった記憶力によって、その行動パターンも全て記憶している。

 

以降、(ヴィラン)の攻撃が出久に当たることはないだろう。

 

「そんな素人丸出しの動きにわざわざ当たってやると思うなよ。俺はあの子達を救ける為にここに来た。負けるつもりは微塵もない」

 

そう冷静な姿勢を崩すことなく言い放つ出久。同時にメルエムの念能力を用いて、こっそりと(ヴィラン)の個性因子を己のオーラで捕食することで、その"個性"を分析していた。

 

("個性"は"衝撃波"。見たまんまだけれど、シンプルに強い"個性"だ。彼がヒーローになっていれば、素晴らしい人材だったろうに……。惜しいな)

 

戦闘中ながら、柔軟に頭を回して思考が可能な、余裕綽々の出久。周りの野次馬達も、そばで見ていた耳郎と彼女に抱えられたままの女の子も、動けないヒーロー達も、全員が出久の動きに見入っていた。

 

(全部……全部避けてる……。凄い……)

 

戦いの技術云々は分からない耳郎であっても、彼が"凄い男"であるのは言わずもがな分かった。

 

(なんだ、あの少年……!?まるで、未来が分かっているかのような動きを……!)

 

(しかも、攻撃の途中に混じって放たれてる衝撃波を全部打ち消してる!)

 

そして、多少は戦いの技術があるヒーロー達は、彼の技量と、辺りにこれ以上被害を出さない戦い方を押し通す心意気に舌を巻いた。

 

突如、戦況が変わる。

 

「くそっ、お前に当たらねえんなら……こうしてやらァ!」

 

(ヴィラン)が的外れな方向に衝撃波を巻き起こした。彼の行動に周囲は疑問符を浮かべるが、未来視と高度な予測が可能である出久は、その意図が判っていた。

 

__そう来たか。卑劣だな__

 

そして彼は起こる未来を止めるべく、水鳥の如く舞う。

 

(ヴィラン)が衝撃波を放った先にあるのは、ビル。それも、耳郎達がすぐ近くにいるビルだ。それに衝撃波が当たるとどうなるのか。言わずもがなであろうが……。

 

「ッ!?」

 

瓦礫となってそのビルの一部が崩れ落ち、耳郎達に迫り始めるということになる。

 

「くっ……!」

 

耳郎は抱き抱える女の子を、己の小さな背中で守ろうと彼女を必死で抱きしめた。

 

しかし、彼女が想定するような未来は決して起こらない。

 

何故ならば。

 

「南斗水鳥拳奥義、千塵岩破斬(せんじんがんはざん)

 

既に出久が動き出しているからである。レイから受け継いだ南斗水鳥拳、その奥義の一つ。

 

それを以って、彼は瞬時に手先を縦横に動かすことで......崩れ落ちる残骸を賽の目斬りにした。

 

更に、残った残骸を気功波で一つ残らず塵にすることで、残骸が耳郎達に衝突することも見事に防ぐ。

 

『おお……!』

 

見事な一連の動きに、野次馬達からは感嘆の声が漏れた。

 

耳郎もまた、自分の側に華麗に降り立つ出久の動きに見惚れていた。

 

「怪我はない?」

 

「う、うんっ。ありがと……」

 

顔を向けて安否を尋ねた出久は、耳郎達の無事を確認すると、安心したように微笑んだ。

 

「ッ!?」

 

その笑顔を見た耳郎は、胸がキュンと締め付けられる感覚を覚えたという。

 

「さて……あんた、こんな凄い"個性"を持っておきながらさ。どうして(ヴィラン)になったんだい?」

 

(ヴィラン)に対して容赦ない面もある出久だが、彼はメルエムの理想も受け継いでいる。故に話し合う姿勢も捨ててはいないのだ。

 

「うるせェ……うるせェ!俺だってなあ、ガキの頃はヒーローを目指してたよ!俺はガキの頃から他の奴らより体がデカくて、強かった!あの頃は律儀にいじめられてるような奴らを守ってたよ……!でもなァ、現実はどうだ!?俺の圧倒的な力を恐れて、周りの奴らは『(ヴィラン)だ』って騒ぎやがる!」

 

出久に問われ、(ヴィラン)は拳を握り締めながら怒りに震えていた。

 

「昔からそうだよ、社会は理不尽だ!人間の域を超えたような"個性"を持ってる奴は、化け物扱いされて恐れられる!(ヴィラン)向きだとか言われるような"個性"を持ってる奴は、ヒーローを目指すことすら憚られる!(ヴィラン)になってそんな奴らをぶっ殺すことでしか……俺の居場所はねえんだよォ!」

 

悲痛な心の叫び。出久は、社会の闇を垣間見た。

 

__ああ、悲しい人だ__

 

そして、憐みを持った優しい瞳を敵に向けて言った。

 

「……そうか……それは辛かったな……。約束しよう、俺はそんな理不尽な格差のない社会を創り上げる為に戦う。あんたのような人の心をも救えるヒーローになる」

 

「っ……!」

 

「だから今は……その罪を償ってくれ」

 

出久の言葉に動揺を見せた(ヴィラン)は動きを止め、彼の拳を甘んじて受け入れた。

 

彼が、その鳩尾に放った拳は()()で意識を刈り取る。

 

「ふう……」

 

この一撃を以って事件は終わりを告げ……。

 

『おおおおおおおおお!』

 

民衆達からは歓声が上がった。

 

「……"個性"って便利な力を持つ社会になったけれど……。いいことばかりじゃないんだな」

 

出久は1人呟きながら、空を仰いでいた。

 

「君……」

 

プロヒーローの1人が、出久に歩み寄ってきた。

 

そんな彼に、出久は鋭い瞳を向ける。

 

「皆さん……ヒーローを甘く見てませんか?何をやってるんですか。勝てないって理由一つで人を救けることを諦めないでくださいよ」

 

「っ、しかし……」

 

プロヒーローの言わんとすることは分かる。だが、それでも人を救けることを諦めるヒーローなどいてはならない。救けを求める人々……彼らに安心を与える責務もまた、ヒーローには課せられているのだから。

 

「皆さんの帰りを待つ人もいるでしょうし、死んでも救けろとは言いませんよ。でも……命を懸けて誰かを救ける覚悟くらい、元々していたんじゃあないんですか?」

 

「……」

 

出久の言うことは正論である故、プロヒーロー達は押し黙った。

 

「確かに我々は醜態を晒してしまった。だが……学生である君が危険を冒す必要はなかったんだぞ……?」

 

また、あるプロヒーローが発言する。それにより……出久の中の何かがプチンと切れた。

 

「なら……大人しく待ってろってことですか!?出来る訳ない!"きっと誰かが救けてくれる"なんて考えるんじゃ駄目なんだ!一度失った命は絶対に戻ってこない!あのままじゃ、2人とも死んでいた!ヘドロ事件の時の繰り返しになった!『学生である君が危険を冒す必要はなかった』?それを自覚してんなら、しっかりしろよ!あんたらはそんな学生を守るべき大人だろう!俺らみたいなヒーローの卵ですらない学生が、動かなくても済むよう、強くあるべきなのがあんたらじゃないのか!?」

 

想いを全て言葉に乗せながら、出久は耳郎のことを言及する。

 

「この子は!自分が死ぬかもしれない恐怖に耐えながら、庇っている女の子を守り抜こうって意思を見せた!対してあんたらはどうだった!?相手の強さに屈して、救けることを諦めただろ!救けることを最後まで諦めなかった彼女の方が、あんたらの何倍もかっこいいヒーローだ!そして……自分達のやるべき責務を学生にやらせた!その時点であんたらは負けてるんだよ!本当に平和な社会を築く気が、誰かを救ける気があるのなら、しっかりしてくれよ!」

 

__出久の叫びは、その場にいた人々全員の心に刻み付けられた。

 

 

事件が終結したその後。警察も駆けつけてきて、彼らに資格を持たないながら(ヴィラン)と戦ったことを出久は咎められかけた。

 

しかし……。

 

「どうかこの少年には何も言わないであげてくれ!この少年はヒーローとしての資格を持っていない身で戦った!けれど、その行動は俺達のせいだ!俺達が弱くて、救けるべき人を救けられなくなるところを、俺達は救けてもらった!」

 

「その子は、私達ヒーローの不始末を片付けてくれたの!責められるべきは私達なの!」

 

「ヘドロ事件の時のヒーロー達と同じ結末をたどるのを、彼は俺達に代わって防いでくれたんだ!」

 

「そうだそうだ!その子がいなきゃ、女の子達は死んでいたんだ!」

 

その場に共にいたヒーロー達と、戦いを見届けた民衆の声で咎められることはなかった。

 

「……小僧。ありゃ本気か?」

 

警察に連行されながら、(ヴィラン)が尋ねてくる。

 

「本気ですよ。どれだけ長く困難な道のりかも判ってます。それでも僕はやってみせますよ」

 

「そうか……。ありがとうなァ、小僧」

 

出久がどれだけ本気なのかを悟った(ヴィラン)は、穏やかに笑った。出久もまた、微笑んで彼を見送った。

 

また、彼はヒーロー達に大層感謝された。

 

「済まない、情けないところを見せてしまった!」

 

「……自分の行動を悔いて、直そうとする意志があるのなら、貴方達はきっといいヒーローになれます。頑張ってくださいね。貴方達一人一人が誰かを救けるヒーローなんですから」

 

「……!ありがとう……私達、頑張るから!」

 

「期待してます。それじゃ、僕はこの辺で……」

 

ショッピングで買ったものを再び回収して、帰路に着こうとしたところ……。

 

「ま、待って!」

 

慌てて駆け寄ってきた耳郎に声をかけられた。

 

相当慌ててやって来たのか、彼女の息は荒かった。そして、息を整えた彼女は……。

 

「ま、また会える……?」

 

出久の名前を聞くでもなく、そう尋ねた。

 

出久自身、こういう時は名前を聞くものなんじゃないのかと変な固定概念を持っていた為、一瞬キョトンとするも……すぐに笑顔を浮かべて答えた。

 

「君がヒーロー志望なら、また会えるさ。必ずね。それじゃ、帰り気をつけて」

 

「う、うん……!あんたも帰り気をつけてね!救けてくれてありがと!かっこよかったよ!」

 

__かっこよかった、か__

 

耳郎の感謝の言葉と、「かっこよかった」の一言に出久はどうしようもなく嬉しくなった。

 

「ありがとう」

 

にこやかに笑って礼を述べながら、彼はもっと多くの人を救けられるようなヒーローになろう、と強く誓う。

 

そして、耳郎は……。

 

「……ギャップ凄い……。普段、あんな可愛い笑顔で笑うんだ……。でも、戦ってる時は……。ちょっと、やだ……さっきからウチ何考えてんの……!?ウチ、そんなチョロくないはずなのに……!」

 

プラグと化した自分の耳朶をくるくると指に絡ませて弄りながら、何度も浮かぶ戦闘モードの出久の笑顔と、普段の出久の笑顔とに悶々とした感情を覚えていたのであった。

 

 

帰宅後。

 

「出久ゥ、お前とんでもねェな」

 

「無事でよかったよぉ〜!ああでも……かっこよかったわよ、出久!」

 

何故か自分の家にいた爆豪と、泣きながらもどこか嬉しそうな母に声をかけられた。

 

「へ?とんでもないって……?」

 

「お前が(ヴィラン)と戦ったのがニュースになってんだよ。それと動画投稿サイトにもアップロードされてんぞ」

 

「!?」

 

爆豪の言葉は、真実であった。出久がすぐさまテレビと某動画投稿サイトを確認してみれば、自分の戦う姿が見事に捉えられていた。

 

動画のコメント欄には、「かっこよ」だとか、「こいつ絶対いいヒーローになるな」だとか、「強すぎね?いや、ヒーローが弱いのか?」だとか、「ヒーロー情けねえな(笑)」だとか、「ありがとう、未来のヒーロー」だとか様々な反応が寄せられていて、出久には明日から自分が有名人になってしまうことが容易に想像出来た。

 

「……全く、相変わらず凄ェ奴だよ。出久は」

 

「心配かけた?」

 

「バァカ、安心しきっとったわ。お前が(ヴィラン)なんざに絶対負ける訳がねェってな」

 

「ふふ……そっか」

 

そんな風に仲良さげに言葉を交わす2人を、出久の母は微笑ましそうに見守っていたのであった……。

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