それは結構。でもこれお前の日記帳じゃなくて、会社の日報をつける帳簿なんだよな。欲しいなら買ってやるから、こんな面倒な手順踏まずに直接言え。無駄じゃねーか1日分。
多分こんな話。
俺、”里見蓮太郎”は急いでいた。自身のイニシエーターである”藍原延珠”の涙に、さっきまでの自分がどれだけ愚かで間違っていたのかを悟らされたのだ。
この東京地区に限らず、世界中でイニシエーター…否、赤い瞳を持つ少女達の蔑称『呪われた子供達』。彼女らの評判はすこぶる悪い。ガストレアに対し為す術もなく、死の恐怖に身を震わせるしかなかった時代を生きた『奪われた世代』は勿論、イニシエーターを相棒とし、共にガストレアに立ち向かうプロモーターにすら『呪われた子供達』を毛嫌いしている者もいるのだから。彼女ら『無垢の世代』には、何の罪もないというのに。
蓮太郎は、延珠には『呪われた子供達』としてではなく、普通の人間としての人生を歩んでもらいたいと心から思っていた。だから、目の前で乱暴にパトカーに詰められ連行されて行く 『呪われた子供達』を目の前にして、蓮太郎は延珠の伸ばした手を押し止めさせた。
………しかし、そんなものは蓮太郎の勝手な願いを押し付けているだけでしかなかったのだ。自分達民警が守るべき市民である子供を…あまつさえ延珠に知人を見捨てさせ、挙句の果てには自分の言葉で延珠に涙を流させた。泣かせてしまったのだ。自分勝手な行動で、言葉で、自分の半身とも言える少女を。
だからこそ今、蓮太郎は近くで目に付いた原付を少年から奪い取る様に乗り込み、少女を乗せたパトカーを追いかけている。正直、原付とパトカーでは馬力が違い過ぎる、どれだけ車の間を縫うように駆けても、ほぼ常に蓮太郎の視界からは外れてしまっている。しかし、パトカーの後ろで時折なびくように光る
結局、警官が少女を引っ立ててきたのは、外周区であった。勿論、こんな所に警察署や派出所なんて物は存在しない。蓮太郎は無意識のうちに浅くなっていた呼吸には気付かず、原付を見えづらい位置へと音を立てないように移動させる。少女を乗せ走り去ったパトカーの中は無人。少しほっとしたような、どこか不安が増したような。
………頭の回転が鈍い。世界は『呪われた子供達』に優しくない。そして、わざわざ人目につかないような外周区へと連れてきた意味。少し考えてみるだけで、分かるはずだった。でも、分かりたくなんて無かった。蓮太郎の良心が、『そんなはずは無い』と、『彼等を信じたい』と無条件に叫んでいた。
蓮太郎は腕の震えを抑えつつ、慣れた手つきで腰から提げた40口径のスプリングフィールドXDをホルスターから引き抜きセーフティを解除。弾倉を素早く確認し
音を立てないように歩きつつ、警官と『赤目』の少女の姿を探す。少し歩いた程度で、それは直ぐに見つかった。ボロボロの鉄柵の前に立たされた少女を囲む2人の警官。そしてそこに歩いてくる4つ分の小柄な影と、幼子特有の人声高めで脳天気な話声。
……………………………………。はぁ???
「?……………ふむ。ふむ、ふむ…ふん?成程、なるほど」
「あれあれあらら?何かしら、何でしょう?」
「どこかで見たね、この状況」
「えぇそうですね。実際10日程前に見ましたね」
「あの『
「えぇ、えぇ!それはもちろん!見過ごしてしまえば、ご飯が喉を通りませんとも」
「あり、知り合いかい?それは困るな、何とも困る。”キサラギ”、”カンナ”。君たちはどう思う?」
「それってもう拒否権無いじゃないですか……ん"ん"ッッいやいやいや!もちろんカンナ的には、あの子を助けたいですともはいもちろんええッ!!!」
「私たちにはこんなの見過ごせないよね、キサラギ?」
「…………まぁ、そうだね。ミナヅキ、その芝居がかった掛け合いって、必要あったの?」
「実は、”リン”のせいで適応力が上がってちょっと怖い私が居るの」
「失礼な。でもま、キサラギもずーっと張り詰めてないで、この程度は気を抜いた方がいいよ?」
「…それはリンもミナヅキも強いから。カンナなら分かってくれる」
「えっそこでスキルポイント前衛職メイン盾極振りの私に話振ってきますぅぅぅ!?た、確かにリンさんとミナヅキさんはべらぼーに強いですけど!!キサラギさんに関してはもっと心によゆーを持たせてもいいとは思いますけどもぉ!!!」
「「ほら」」
………何なんだコイツら。いやマジで。会話が不自然に途切れたと思ったら、急に寸劇が始まったんだが。
この何とも気の抜ける会話の主は、マント…否、外套?のようなものを身に纏った子供が4人。どうやらまとめ役らしい、物理的に頭1つ分抜けたの───リンと呼ばれた、寸劇開始のカチンコを鳴らした奴───がいるが、そいつ以外は身長から見るに延珠と同じくらいの年頃。風邪で揺れる外套の隙間から、それぞれ可愛らしい服を着ていることが分かるが、皆一様に年季が入ったものではありそうだ。
それに何より、彼女達の持ち物が遊んだ帰り何てものじゃない。1人───最初の言葉の応酬を受けた子、ミナヅキと呼ばれていた───が背負っている、明らかに重量過多に見える巨大なバックパック。苛められてるようにも見えるが、どう見ても彼女達はそんな雰囲気じゃない。それよりも他の子が苛められているのではないか、と言うような会話だったが。
つまり、超人的な怪力を発揮し荷物を持っている少女は『呪われた子供達』。そしてそこに何の嫌悪感も抱いていない彼女達もまた、同じ『呪われた子供達』なのだろう。
…………なんて、呑気に頭回してる暇じゃないことに気付いたのはこの直後。警官が大声を上げて銃を4人に向け直した時だった。非常にマズい。警官が銃を撃つのも勿論マズいし、彼女達が超常の力を振るうのも危険だ。
外周区の『子供達』は、自分の持つ力を制御出来ない場合が多い。ガストレア因子をコントロール出来ないため、その特徴である赤目に染まったままになってしまうのだ。外套と、尚且つ俺からは後ろ向き。上手く見えないが、この4人組も例に漏れないと考えても外れることは無いだろう。ここは最悪を想定するべきだ。
ここで助けに出なきゃいつ出るんだよ、俺────
「オニーサン、早く逃げな…?あたし達は大丈夫。あの子を助けて逃げるから」
────こっっっっわ!!!!!
声も上げなかったし、銃も突きつけなかった。……まぁ、俺も今のは流石に奇跡だったように思う。次に音も気配もなく背後から見知らぬ声をかけられる体験があったら、またリアクションを堪えられる自信はない。
5人目なのかとも思ったが、どうにも先程聞いた覚えがある声だ。確か”キサラギ”、と呼ばれた子。決して『我が社の社長の名前が入ってるのに性格は正反対なのか』とか考えていたから覚えていた訳では無い。延珠から無理やり付けられた『破鏡』モドキのポンコツブレスレットにでも誓ってやろう。えっ嘘だろ、ヒビ入った………
キサラギは俺の横辺りまで出て来て軽く腰を落とし、じぃっと時を待つ。金属の擦れるようなカチャリという小さな
彼女の向かった先は、いつの間にか砂が巻き上がり、礫が縦横無尽に舞い散る恐ろしい様相の中心。何があったんだ。
その数秒後。リンとやらが、恐らく蜘蛛の縦糸で編みぶら下げた網に4人を乗せ、横糸を用いてスイングで移動し子供の歓声を最後に置き去っていった。…………スパイダーマンかよ、あいつ。何だったんだ。
で、ここにはもう警官しかいないわけなんだが、俺が来た意味って……出鼻をくじかれた様な気分だ。延珠になんて言えばどころか、どんな顔して会えばいいんだよコレ……
「いやー、警官は強敵でしたね…」
「銃弾見てからガード余裕でした」
「いや必ッッッッッッ死に!死ぬ気で!!ガードしてたの!!!この私!!!!なんですけど!!!!!」
「カンナ、うるさい」
「えっあっ、はい。………あぇ?キサラギさん、なぜカンナだけぇ…?」
「お前ら遊んでる暇ないぞ、そろそろ着かんと”アキ”がキレる。てか寝てる奴の見張りなんぞ要らん降りろ」
「あー…”シモツキ”に泣いちゃわれると困るよね」
「ミナヅキさん!『心配したんですよぉ〜!!』って泣く仕事取られちゃいましたね!!」
「ムツキは最近泣かんもんな、涙は溜めるが」
「うちで誰かに泣きつくのはカンナだけ」
「な、なにおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………………………」
「「「あ、落ちた」」」
落ちてオチがついて、ついでに叫んでた声が落ち着いたところで終わり
(蓮太郎の財布に対して少し)やさしいせかい
設定こそあれど続きませんとも