奈瀬
進藤とかなでちゃんの家に泊まらせて貰ったので、朝食の手伝いでもしようかと思ってかなでちゃんを探していた。そんな時、大変な場面を目撃してしまった。
「進藤……」
「んんっ、奈瀬か……どうした?」
「どうしたって……決まってるじゃない」
私の固まった顔を見て、不思議そうにしている進藤。そんな彼が寝ているベッドの横には彼に抱き合うようにして寝ているかなでちゃんがいる。まだ、ここまではいいかも、知れない。でも、そのかなでちゃんが男性用のブカブカのワイシャツをボタンもとめずに着ていて、肩からずりおちて見えているのは下も何も着ていない状態。ご丁寧に部屋の中にはかなでちゃんの服が散乱しており、下着類も落ちている。そんなかなでちゃんと抱き合って寝ている彼に対していう言葉など一つだ。
「このロリコンめっ!」
「いや、待てってくれ! これは……」
「もしもし、警察ですか……」
携帯電話を取り出して電話を掛ける。
「待てって!!」
「まあ、警察は冗談だけど、状況証拠的にアウトでしょ」
電話ではなく別のものを起動しておいた。
「陰謀だ!」
「誰のよ?」
「さあ?」
かなでちゃんの陰謀って可能性は充分にあるんだけどね。まあ、あたふたしている進藤をおちょくれたからいいかな? というか、本当にいいのか悩みどころだけどね。
「ん~おはよう……」
そうこうしているうちにかなでちゃんが起きてきたようで、服を脱いでいく。
「んっ」
「はいはい」
進藤はそれを普通に受け入れてベッドの脇に置いてあるタンスから下着や着替えを取り出して着替えさせ――
「って、待ちなさいよ! まさかそれを毎日しているの!?」
「そうだけど」
「麻痺してる! 麻痺してるからね! 色々と!」
「……問題ない……」
無表情から少し嬉しそうな表情に変えてヒカルに抱きつくかなでちゃん。どうしよう、どうしたら……こちらを見て小首をかしげてくるかなでちゃん。すごく可愛い。
「奈瀬、諦めろ。俺は諦めた」
「でも、一緒に寝たりするのはどうなのよ? 着替えは仕方ないかも知れないけど」
「俺が側に居ないと泣くからな……かなでの涙には勝てない」
「確かに納得。でも、もしもの事があったらどうするのよ? かなでちゃん、男は狼なんだから食べられちゃうよ?」
「……? ヒカルになら何されてもいい……」
「ちょ!?」
「あらら」
「……私とヒカルは一心同体。運命共同体……?」
「進藤?」
「待て!? それはかなでじゃなくてさ……」
「……ヒカル、嘘ついた……うぅ……」
ポロポロと涙を流しながら進藤の身体に頭を擦りつけるかなでちゃん。
「進藤……警察いこっか。詐欺容疑で」
「嘘じゃない! 嘘じゃないから待て! かなでも悪かった! だから泣き止め! な?」
「んっ、んん……」
録音しておいたし、和谷にも聞かせてあげよっと。
「朝ごはんを作ろっか。手伝うよ」
「ん、お願いします」
それから、洗面所で手洗いうがい、洗顔をしてきたかなでちゃんと一緒に料理を作っていく。和谷が起きてきたので進藤と二人で緒方さんと塔矢君を起こして来て貰う。
かなでちゃんの作る朝食はかなり美味しい。進藤の好みの味に調整されているのかも知れない。でも、基本的に和食みたい。それも昔の人が食べているような。イメージが全然違うね。そんな事を考えていると進藤の携帯電話が鳴り出した。
「っと、悪い」
進藤が携帯電話を見るよ嫌そうな顔をした後、しぶしぶ出た。それから話を聞いている感じ、進藤のお母さんみたい。
「緒方さん、明後日はどうするんですか?」
「なんだ、用事か?」
「ちょっとおふくろに呼ばれまして。数日は向こうで過ごす事になりそうなんで」
「わかった。かなではどうするんだ?」
「いく」
「いや、それは……」
「いく」
「いや、ばれると」
「おいおい、まさか知らせてないのかよ」
「面倒だからな」
「駄目でしょ」
「かなで」
「絶対、行く。一緒がいい」
「わかったよ」
さて、そうなると私達はどうするかね。
「そういえばかなでって文化祭とか行ったことはあるか?」
「ないよ」
「ならちょうどいいか。約束もあるからな。緒方さん、明後日、送っていって欲しい所があるんですが、いいですか?」
「ああ、いいぞ。俺は仕事があるから送りだけならな」
「奈瀬と和谷も暇なら一緒に文化祭に行かないか?」
「俺も明後日は緒方さんと一緒で仕事だな」
「私は流石に帰らないと怒られるよ」
「わかった。それじゃあ、泊まりで出掛ける用意をするか。今日は大会があるからそこまで用意できないけど」
二人はボストンバッグに着替えなどを入れていく。なんだかこの姿を見ていると夫婦みたいね。それにこれって言ってしまえば実家への挨拶なのかな?