かなでの碁   作:ヴィヴィオ

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第3話

 

 

 

 あれから少しして、私は無事に退院する事が出来た。そして、新しい家であるマンションへとやって来た。そこは高級マンションでした。セキリュティもしっかりしていて、綺麗な庭まであります。檜で作られた露天風呂まであるのです。そのマンションにある一番上の場所が私達の家になりました。

 

「景色もいいですね」

「高いんだろうな~」

 

 荷物は既に運び込まれていて、綺麗に整頓されていました。残っているのはヒカルと私の、前のかなでの小物ぐらいです。お父さんが病院に持ってきていた奴で、それ以外は基本的にありません。病院ではパジャマだけでしたしね。いつ目覚めるかもわからない娘の荷物は残念ながら家と一緒に処分されたのです。何着か母との思いである物は残っていましたが。まあ、服は明子さんが買ってきてくれたので問題ありません。

 

「進藤、かなで。どうだ?」

「緒方さん」

「凄いですね。いくらしたんですか?」

「高いぞ。まあ、ここのオーナーが先生のファンで指導碁を定期的にする代わりにかなり安くしてくれたがな」

「それはよかった」

 

 ヒカルと緒方さんがお金の事を話しだしましたので、私は逃げます。とりあえず、台所に移動します。そちらでは今日のパーティー用の料理をしている明子さんが居ます。

 

「手伝います」

「そうね。じゃあ、お願いしようかしら」

「はい」

 

 車椅子を操作してプレートをセットして机を作ります。ここのキッチンは低めな物に変えてもらっているみたいで、私でも使いやすいのですが、まだちょっと高いです。

 

「野菜を切ってくれるかしら?」

「斬ることは得意です」

「お願いね」

「はい」

 

 まな板を収納場所から取り出してプレートの上に乗せてまる。後は包丁で受け取った野菜を切っていきます。前のかなでは料理も教わっていたみたいで子供ながら結構作れます。幸い、リハビリは手を重点的にした為になんとかなっています。碁石を綺麗に置く事はまだ難しいですけどね。残念です。

 

「手付きも危なくないし、これなら大丈夫そうね」

「家事は一通り習っています。家事が駄目駄目なヒカルの面倒も私が見れます」

「駄目駄目なのね」

「はい。母親に頼ってましたから」

「まあ、うちのアキラも一緒ね。男の子だから仕方無いのだけど」

「男の子だと仕方なく、女の子だと必然?」

「花嫁修業ね。かなでちゃんは好きな人居るの?」

「ヒカルですね。行洋さんも好きです。碁を打つと楽しいですから」

「あらあら、やっぱり貴女も棋士なのね」

「はい!」

 

 切った野菜を花に加工して鍋に入れて煮ます。

 

「無駄に綺麗ね」

「食は芸術品です」

 

 佐為の古代日本の知識とかなでの現代知識を合わせて綺麗な日本食を作ります。

 

「お母さんは料理人だったの?」

「そうです。なので色々と教わっています」

「ならそっちは問題無いかしら。洗濯はかなでちゃんがしてヒカル君が干せばいいし、掃除も重たい物をどかしたりはヒカル君がすればいいわね。となると、問題はかなでちゃんのお風呂ね」

「お風呂は……一人じゃ入れません」

「入れても入っちゃ駄目よ。何があるかわからないんだから」

「はい、絶対に入りません」

 

 色々と危険が一杯です。足が動かないから滑っただけで溺死しちゃいます。佐為の時みたいに死ぬのは嫌です。あっちは池ですけど……その、溺死の感覚が自体験として覚えているのです。

 

「私が入れてあげるのも毎日は無理だし、そもそも日本に居ない事もあるからどうしましょう? 流石に一週間に一回か二回は女の子としても駄目よね」

「大丈夫です。ヒカルに入れてもらいます」

「12歳の女の子が16か17の男の子とお風呂を一緒にするのは問題があるわよ」

「? 何がですか?」

「……恥ずかしくない?」

「恥ずかしいですけど、ヒカルになら大丈夫です。何度か一緒に入ってますから」

「そっ、そうなの……」

 

 その時は私は宙に浮いたり、湯船から突然出てヒカルを驚かしたりしていましたけど。

 

「でも、やっぱり色々と問題あるわね」

「着替えもヒカルにやってもらうつもりですが……」

「そうよね、着替えも一人じゃ辛いわよね。トイレもそうだし……わかったわ。水着を買いに行きましょうか」

「水着……ですか?」

「そうよ。ビキニタイプの水着を買って、ヒカル君と一緒に入ればいいわ。その下は自分で洗えばいいからね」

「全部ヒカルに任せればいいと思うのですが……」

「辞めなさい」

「分かりました……」

 

 ちょっと残念です。

 そんな会話をしながら料理を作っていきます。出来た料理を運び、家で他の人の相手をしていた行洋さんもこちらにやって来て合流しました。それから、四人での私の退院祝いが行われました。

 

「おお、美味いな」

「確かにこの味は……」

「ヒカルはどうですか?」

「うん、美味しいよ。こないだの料亭で食べた所みたいな感じだ」

「えっへん。前の私はお母さんから免許皆伝を貰っています。プロ並の腕はありますよ」

 

 今の私では残念ながら免許皆伝並の料理は不可能なのですが、腕は多少鈍ってもそれなりの物は作れます。和食が中心ですけどね。

 

「いいな、進藤。お前、これが毎日食えるのか……しかも、佐為の指導碁付きだと……ちょっと俺と代われ」

「あははは……お断りだ!」

「緒方君もそろそろ身を固めたらどうだね」

「いや、それはまだ……」

「あら、お見合いの相手は直ぐに用意できますわよ」

「結構です! 全く、いらん事で飛び火したな」

「緒方さん、食材持ち込みなら料理しますよ?」

「それはありがたいな」

「まあ、定期的に食事会は開きましょう。あなたもどうせ入り浸るでしょうし」

「そうだな。週2、3日は居るが、それ以外は国内か国外の何処かだろうな」

 

 どちらにしろ歓迎ですね。この面子と打ち合えるのですから。

 

「あなた、二日後には韓国行きですものね」

「そうだな」

「俺は指導碁の仕事とリーグ戦で京都だな。その後はこっちに帰ってプロアマの大会の解説だ」

「って事はかなでとしばらく二人だけか」

「ですね」

「色々とサポートしてあげるからかなでちゃんとの生活になれるのよ?」

「はい、わかってます」

「そう、じゃあお風呂での洗い方とか教えないといけないわね」

「え? そっ、それを俺がするんですかっ!?」

「私が居る時はいいけど、それじゃあかなでちゃんが可哀想じゃない。もちろん、かなでちゃんは水着着用ね」

「ヒカル、よろしくね。そっ、それとも私と入るのは……嫌……? ひっ、ヒカルが嫌なら……我慢するよ……? 気持ち悪くなるけど……ヒカルの方が大切だし……」

 

 ヒカルを見詰めてお願いしてみる。するとヒカルはそっぽを向いた。その姿に悲しくなってくる。

 

「わかった、わかったから泣くな! 全く、どうなっても知らないからなっ!!」

「? 何かあるの?」

「いやっ、それは……」

「……? 言いにくいなら別にいいよ。私はヒカルになら別に何されてもいいから」

「お前はそうい事をさらっと言うなぁぁぁぁっ!!」

「?」

 

 ヒカルが何を言っているのかわからない。素直な思いを口にしただけなのに。

 佐為としての私はヒカルを信頼しているし、大切に思ってくれている。かなでとしての私も佐為との出会いを作ってくれて感謝している。その御蔭で自由に過ごせるようになったし、お父さんとも話せた。結論、融合した私達としてはヒカルに何をされてもいい。ヒカルによって与えられたチャンスと夢の続きなんだから。

 

「はっ、見せつけてくれるじゃねえか。好かれてるね、このロリコン野郎」

「違っ」

「それで、どうなんだ?」

「おっ、俺はかなでの事なんて……」

「きっ、嫌いなの……? わっ、私はヒカルの事……好きだよ……」

「嫌いじゃない。どちらかといえば好きだから直ぐに泣くなよ」

「ヒカルっ!!」

 

 私は隣に座っているヒカルに抱きついてスリスリする。ヒカルの匂いと体温がして安心する。ヒカルは生きていて、こんな私を好きでいてくれる。それだけの事なのに凄く嬉しい。冷たい水の中、苦しくてもがきながら、全てを諦めて沈んだ経験を思い出したせいかも知れない。

 

「お熱いわね」

「そうだな」

「いや、先生達も充分熱いですから……」

 

 お食事会が終わった後、碁を打ってお風呂に明子と共に入った。その後はヒカルに足をマッサージしてもらう。気が付いたら私は眠っていて、次の日になっていた。その日は皆が泊まっていったようで朝から楽しかった。緒方さんとヒカルは仕事に行き、私は行洋さんと明子さんと一緒に買い物に出掛けて色々と買ってもらった。二人と街を歩く時は本当に二人の子供になったみたいな感じがした。

 

 

 

 

 




お風呂は悩みましたが、水着くらいが限界ですね。明子さんも毎日これる訳でもないですし、行洋さんについて行きますしね。それにトイレも……筋力が無いかなで一人じゃ移動も無理っぽいですしね。

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