「なあ、ドクター。これどういうこと?」
「いや、すまない……。」
急なドクターからの連絡で食堂に向かうと、ドクターの両隣りにアーミヤとエイヤフィヤトラが座っていて、二人の前にはそれぞれパンケーキとパウンドケーキが置いてあった。
「ドクター!」
「先輩!」
「「どっちのが美味しかったですか!?」」
「……どっちも美味しかったけど。」
ドクターがそう言うと、急にデフォルメされた二人がポカポカと喧嘩し始めた。わぁ、漫画みたい。
「こらこら喧嘩すんなよ。」
襟を摘んで二人をひょいと持ち上げるとシャーシャー威嚇する。野生に戻ってたりしねぇよな?
「ちゃんと答えを出してやんねぇからこうなるんだぞ。」
「……参考までにラックならどうする?」
「俺か?俺なら……パンケーキのが好みだからそぅちを選ぶな。」
そう言うとアーミヤがふふんと得意げな顔をして、エイヤフィヤトラはしょもんと凹む。
「そんでだな、しょげた方に後で甘い言葉でも囁いてやんだよ。」
やってみろ、とドクターの膝の上に落とす。
「あ、甘い言葉か……ううむ……。」
ドクターが頭を抱えているとエイヤフィヤトラがハグをしてアーミヤにドヤ顔を向けると、今度はアーミヤがバタバタと暴れる。
甘い言葉も必要ねぇじゃねぇかよ。
「やれやれ……じゃあ選べないドクターの為に手を貸してやるか。待ってろ。」
アーミヤを椅子に座らせて大人しくしてるように言い聞かせると厨房に入った。
「ほれ、食ってみろ。」
三人の前にクッキーを置く。
「これは……ラックが?」
返事をせずにウインクで返すと三人が同時にクッキーを食べた。
「美味い……。」
「悔しいですけど……。」
「うぅ……。」
「んじゃ、このクッキーが一番美味かったって事で、もう喧嘩すんなよ。」
クッキーを一枚取って厨房の前のカウンターに向かう。
「あっ、どうだった?」
「グムのクッキーが一番美味かったってさ。」
「えへへ、良かったー!」
嬉しそうに笑顔を浮かべるグムを撫でるとクッキーを口に放り込む。うわ、うっま。
「こちらもどうぞ。」
横から個性的な見た目のケーキが刺さったフォークが差し出される。反射的に口に咥えると程よい甘さが口に広がった。
「ん〜、美味い。」
「はい、こっちも食べてちょ!」
今度はアップルパイが口に突っ込まれて、驚きながらも咀嚼する。うん、ほっとする味。
「どれが一番美味しかった?」
エクシアの言葉に動きが止まる。グムとアズリウムを見ると期待するようにこっちを見てくる。
「ふむ。」
腕を組んで考える。
グムのクッキーはサクサク感とシンプルな味が良かったし、ケーキはクリームが滑らかで甘過ぎない味わいが好みだし、アップルパイは昔から馴染み深い味でそもそも俺の好みだからなぁ。
ドクターには言ったけど優劣付け難い。
「うーん。」
首を傾げて歩き始める。
三人に見られながら食堂の出口まで向かう。
「う〜〜ん?」
「ドクターにああ言っておいて逃げるとは卑怯ではないか?」
「んげっ。」
エンシオに肩を掴まれる。チッ、真剣に悩んでる振りして逃げようと思ってたってのに。
エンシオに肩を掴まれながらカウンター席に座らせられる。
誰選んでも絶対他の二人が悲しむじゃねぇか。せめてさっきのドクターと同じ二人なら良かったのに……。
「あ、あ〜……。」
「面白そうなことしてるね。私も混ぜてもらおうかな。」
「うおっ、モスティマ。」
いつの間にか後ろからニョッキリと顔を出したモスティマが入ってきた。おいおい、やめろやめろ、ややこしくなる。
「じゃ、少し待ってて。」
思いが届かず頭を抱える。……増えた。
それから一時間くらい経ってようやくモスティマが出てきた。三人に見られてるせいで胃がキリキリしてきた。
まずいな、胃に食べ物が入る気がしない。
「お待たせ。」
「……それは?」
モスティマが手に持っていたのはバケツと大きな皿。これがなんだってんだ。
「私もこんなに大きいのに挑戦するのは初めてだから緊張するな。」
バケツの上に皿を乗せて思いっきりひっくり返すと、バケツの底にあった栓を取ると中に入っていた物が皿に落ちる。
「よい、しょっと。」
「こ、これは……!!」
モスティマがバケツを外すとプリンが現れた。
ば、バケツプリンだと!?
「優勝。」
拍手を送ると周りからジトッとした目で見られる。
「まあまあ、まずは食べてみてよ。アーツで時間進めながら作ったから上手く出来てるか不安だしね。」
「お前の作ったので不味いのがあるもんかよ。」
早速スプーンですくってみるとプルンと震える。
うんうん、さっきまでキリキリしてた胃でも食べられそうだ。
さて、一口。
「うん、美味い。」
「そう?良かった。じゃあみんなで食べようか。クリームなんかも用意してあるから、好きに使ってね。」
「じゃあグムが紅茶用意するよ!」
急に食堂がバタバタし始めた。
ドクター達や遠巻きに俺達を見ていたやつらも集まってパーティみたいになっちまった。
「そういや、なんでプリンだったんだ?」
「昔、お腹いっぱいプリンを食べたいって言ってたからね。覚えてないと思うけどね。」
「言ったような言ってないような……。」
「まあ、子供の頃の話だから仕方ないよ。」
「よく覚えてるな。」
「ラックの言った事なら全部覚えてるよ。」
「おいおい、冗談だろ?」
その言葉にモスティマが薄く笑って返す。
……ちょっと背筋が冷えた。体を一瞬震わせるとモスティマがするりと後ろから抱き着いてきた。
「うひっ!?」
「おや、寒かったかな?」
「……全くお前は。」
額を軽く小突く。こいつ、時々俺が気付けない動きで引っ付いてきやがって……。今も一瞬目を離しただけだってのに。
「はいはい、イチャイチャするのは後で!……モスティマばっかりズルいよ。」
エクシアが間に入って押し離すと、頬を膨らませる。
その様子を見てモスティマと目を合わせると二人でエクシアを撫でたりしてベタベタと触る。
「ちょ、ちょっといきなりなにさー。」
口では嫌そうだけど振り払う事もせず、嬉しそうな表情を浮かべる。
「いやいや、エクシアはいつまでも可愛いって思ってたんだよ。な?」
「そうだね。」
「紅茶出来たよー!」
おっと、エクシアを愛でるのも良いけど、折角の紅茶が冷えるのは良くねぇ。名残惜しいが止めよう。
「はい、ラックさんのは特別気持ちを込めたからね!」
「ほほーう、そりゃあ楽しみだ。」
軽く息を吹いて紅茶を飲む。
「流石、美味いな。」
そう言って隣の席にグムを座らせる。
他のみんなは既に思い思いの食べ方をしている。
その様子をぼうっと眺めていると、グムに見られている事に気付く。
「どうしたの?」
「いや、なんでも。グムも食べてみろよ、美味いぞ。」
「うん!」
最近はこういうゆったりとした日がなかったから疲れてんのかな。
今日は早めに寝るか。
「……zzz」
誰もが眠った真夜中。ラックの部屋にWが入ってきた。
「もう寝ているのね。珍しい。」
いつも遅くまで明かりが付いているからか、少し驚いた顔をすると、軽い足取りでベッドの傍に近寄るとナイフを取り出してラックの喉元に添えるが、まるで起きる気配がない。
「……自分の部屋で安心しているのか、疲れ果てたのか。どちらにせよ、警戒やドアの施錠はするべきね。でなきゃ、こんな風に寝首を掻かれるわよ。」
Wがため息を吐いてナイフを収めようとすると、手首を掴まれる。
「ちょっと、寝てるんじゃないの?それとも、寝たフリ?」
「……zzz」
部屋に入った時と同じく寝息を立てるが、手を離さず、寧ろ引っ張って腕を抱き締める。
「あたしはあんたの抱き枕じゃないわよ。……力つよっ。」
そのままずるずると引き摺られてベッドの中に入れられる。
「……せめてシャワーを浴びさせて欲しかったわ。」
Wが自分の胸に顔を埋めるラックを見てもう抜け出せそうにないともう一度ため息を吐いた。
「んしょっと。」
動かせる手を器用に使ってブラのホックを外してするりと抜き取る。
「はぁ、苦しかった。」
すると、今度はさっきは逆にラックの頭を抱く。
「あたしもあんたの事抱き枕にさせてもらうわよ。」
小さく欠伸を一つ出して目を閉じた。
「ん、んん……?」
やわこい何かに顔を覆われてる?いや、俺が抱き着いてんのか。
また誰かが入ってきたんだったらおっぱいの可能性が高ぇな。
んー……テキサスかラップランドかモスティマか?いやでもこの大きさはシージか……でもベッドには入ってこねぇしな。
にしても、どっかで嗅いだことのある匂いなような。まあ、顔見てみりゃ早いか。
片目を開いて目を上に向ける。
「あら、ようやく起きたのね。なら、少し緩めてくれると嬉しいんだけど。」
これ火薬の臭いかぁ!
「……W?なんでこんな所に。」
「たまたま通りがかって入ってみたら引き入れられたのよ。起きてるのかと思ったわ。」
「うぐ、悪い。」
「悪い?それだけ?」
「……じゃあ、なんて言やいいんだよ。」
「そうね。じゃあ、罰としてデートに行くわよ。」
「どーせ荷物持ちだろ。はいはい、付き合わせていただきますよ。」
パッと体を話すと、Wがぶるっと体を震わせて抱き着いてきた。
「今度はなんだ。」
「寒いのよ。あんた、こんな寒いのになんで暖房も付けてないの?」
「このくらいどうって事ねぇんだよ。」
抱き着かれたままずるずると引き摺りながら歩く。
「ちょっと、女性に対して酷くないかしら?あの青髪や赤髪のサンクタにも同じ事をするの?」
「お前にあいつらと同じ扱いってのがおかしな話だろ。それより出んだろ。シャワー浴びるからお前も部屋戻るか、俺が出るまで待ってろ。」
そう言うと口をへの字に曲げる。
「いやよ、一緒に入るわ。」
「あ?お前何言って━━━━」
「わ・た・し・も・は・い・る。」
「……分かった。」
なんだよ、前のこいつならもっとこう、笑いながらでもからかってくんのかと思ったのに。
「体引っ付けんな、邪魔だ。」
「嬉しいの間違いじゃない?」
おっしゃる通りで。
結局シャワーを一緒に浴びて、買い物に付き合わされた上に支払いも俺持ちになった。
買い物中は荷物で両手が塞がってる俺の腕に抱き着いてあっちこっちと連れ回された。
まあ、いつもの妖しげな笑みじゃなくて純粋に楽しそうな笑顔が見れたのが唯一の収穫か。
……仕事増やそ。
・その後の一幕
「おーい、来たぞー。」
ヴァルカンから刀と新装備が完成したという連絡がきて、部屋にやってきたんだが……。
「なんだこりゃ。」
ぐちゃぐちゃの部屋に色々な工具や部品が転がっている。入っても大丈夫なのか?
「ヴァルカーン?」
「……来たか。」
「うおっ!?」
物が置いてあって死角になっていた場所からぬるりとヴァルカンが立ち上がる。
「お、おい、大丈夫か?隈が酷いぞ。」
「……はっ、呼んだか?」
「寝ろ!」
今意識飛んでたろ。
「そうだな、そうさせてもらおう。
頼まれた物はそこにある。」
ふらふらと心配になるほどふらついた足取りで奥の仮眠スペースに向かっていく。
よく見れば、マゼランにメイヤー、クロージャまで寝ている。後、なぜだかケオベまでいる。
何日も缶詰だったんだろうな、ゼリー飲料やブロック栄養食が散乱している。
後で消化に良いもん作ってやるか。
「さて、と。これか。……え”っ。」
思わず変な声が出ちまった。
頼んでいた通り、刀と金属板に柄を着けたような剣が置いてある。それは良い。
「何この鞘……。」
なんと言うか……メカメカしい見た目になっている。なんか機能でも付いてんのか?
一旦抜いてみようと刀を握る。
『指紋認証。おはようございます、ラック様。』
「何これぇ……。」
刀が喋ったんだけど……この機能絶対クロージャが付けたろ。
『まずは付属の説明書をご覧下さい。』
「せ、説明書?ああ、これか。」
横に置いてあるやけに分厚い冊子を手に取る。表紙にはケオベが描いたであろう俺やヴァルカン達の似顔絵が描いてあった。……ちょっと感動。
それから説明書を読む。
え、鞘に納めると自動で簡単なスキャンとメンテしてくれんの?滅茶苦茶助かる。
軽く最後まで読んだ後はお粥とか胃に優しい食事を用意した。
ちなみに一番早く起きたのはケオベで腹に突っ込んで来たのは本当に痛かった。
前回と終わりが被ってるじゃあないか……次回はなんか良い感じにやります。
所で危機契約どうでした?俺はなんとか滑り込みで称号全部取れました。
今後の読みたいと思う内容
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ラックの過去話や異格イベ等
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このままで構わん