酒を飲んで、女を抱く   作:黒色エンピツ

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三十六話:鼻血吹き出すバレンタイン

 

 

 

 

今日は女の子が野郎にチョコをあげてあわよくば告白する一世一代の日、バレンタインデー。

いつもよりもロドス内の雰囲気もふわふわしている気がする。

そういう俺も少し浮ついている。

 

「あ、ラックさん。これどうぞ。」

 

「おっ、サンキュー。」

 

一般オペレーターの女の子からチョコを受け取る。よく見るちっちゃいやつもあれば気合いの入った見た目の物もある。

それを片手に持った袋に入れる

 

「いやー、収穫収穫。」

 

『過剰摂取は健康に害となります。』

 

ええい、うるせぇ。

お喋りなAIの言葉を聞き流しながら自室に戻ってベッドに腰掛けると袋を開いてテキトーに取ったチョコを口に放り込む。

 

「チョコ最高。」

 

バレンタインともなると、たまにちょっと上等なチョコをくれたりする。

ただあの気合いの入ったのは食べるのにこっちも気を張ってしまう。

 

「失礼しますわ。」

 

軽いノックと共にアズリウスが入ってきた。

 

「アズリウスもチョコくれんのか?」

 

「ええ、作ったお菓子の感想やアドバイスでお世話になってますので。」

 

その感想言うのもアドバイスも俺がお菓子を食べたいだけなんだけどな。まあ、役得役得。

 

「それでは。」

 

「ん、ドクターの所行くのか?」

 

そう言うと足を引っ掛けてこけかけそうになる。フードを掴んで止めるとジトッとした目でこっちを見る。

 

「……なぜそれを?」

 

「いやだって、もう一個箱持ってるし。」

 

俺以外に関わりある男ってあんまり聞かねぇしなぁ。

 

「最近では友チョコなんて物もありますのよ。」

 

「ふーん、変わってきてんだな。」

 

ちゃんと立たせてフードを放すと軽く服を整える。

 

「んじゃ、ケーキサンキュな。」

 

「ええ。」

 

さてと、早速ケーキを……。

 

「入るぞ。」

 

「……あ?」

 

なんだよ、人がケーキ食おうとしてるのに。

目を向けるとフロストリーフとアーミヤがいた。

アーミヤがフロストリーフに少し囁くとどこかに行った。アーミヤもドクターの所かな。

 

「そんで、どうした?」

 

「いや、その……。」

 

両手を後ろに回してもじもじとしおらしくする。

 

「チョコ持って来てくれたんだろ?ほら.こっち来な。」

 

「……。」

 

近くに来ると机の上のケーキを見て苦い顔をする。

 

「……アズリウスの?」

 

「ああ、ついさっきな。」

 

そう言うと俺から一歩離れる。

 

「あ?どうしたんだ。」

 

「やっぱり、渡さない。」

 

「おいおい、そりゃなんでだ?」

 

「……絶対アズリウスのケーキの方が美味しいから。」

 

なんだその可愛い理由は。

頭を軽く掻くと立ち上がって後ろに隠している物を奪い取る。

 

「あっ!」

 

「ほーう、ガトーショコラ。」

 

「かっ、返せっ!」

 

ぴょんぴょんと飛ぶが身長が届いていない。

それを横目に上を向いてガトーショコラをかじる。

 

「ふんふん……うん、美味ぇよ。アーミヤと作ったのか?」

 

軽く頷く。両手は服を握り締めて、緊張しているのか少し震えている。

 

「よく頑張ったじゃねぇか、ありがとな。」

 

「……子供扱いするな。」

 

軽く頭を撫でてやると小さく声を出す。

 

「こういう時くらい素直になれっての。」

 

「……ふんっ。」

 

俺の手を払うと早足で部屋から出て行く。

耳まで真っ赤にさせて、可愛いやつめ。

 

 

 

 

アズリウスのケーキを食べてコーヒーが欲しくなって立ち上がると扉をノックされる。

 

「ん、誰だ?」

 

多分、また女の子か?いやー、モテて困るぜ。

 

「よっ、ラップランド。」

 

「やあ。」

 

「珍しいな、お前がノックするなんて。」

 

いつもなら勝手に入ってくるのに。

 

「まるでボクが非常識みたいに言うじゃないか。」

 

「だって普段がなぁ?」

 

「そんな事言うならチョコあげないよ?」

 

「やっぱ、ラップランドって常識の塊だな!」

 

「調子が良いなぁ。」

 

貰えるもんは貰いたいんだよ。

 

「ボク特製のミルフィーユだよ。」

 

少し形が崩れたミルフィーユが置かれる。チョコを混ぜたみたいだ。

 

「んじゃ、いただきます。」

 

食ってる間、ずっとラップランドが俺の顔を見つめる。面白いもんでもないと思うけど、まあいいか。

 

「ごっそさん。美味かったぜ。」

 

「そっか、なら良かった。」

 

そう言うと気分良さげに皿を持って出て行く。

……珍しいな、あいつがこんなあっさり帰ってくなんて。

 

「次があるなら、期待しても良いんだよな。」

 

来年の楽しみが出来たな。

さてと、次は誰が来るのかとコーヒーを傾けると早々に扉が開いた。

 

「お、チェンか。」

 

「ふ、随分モテているみたいだな。」

 

「当然。」

 

ふふん、鼻を鳴らす。

 

「そんで、チェンは何をくれるんだ?」

 

「普通のチョコじゃつまらないだろう?」

 

そう言って置かれたのはチョコレートリキュールだった。

 

「あんま飲んだ事はねぇな。」

 

「次の飲みの時にでも開けると良い。」

 

「そうだな、サンキュー。」

 

「ではな。」

 

そう言ってチェンが歩き出す。

ふと机に目を戻すと酒の横に小さな箱が置いてあった。

 

「正面から渡してくれりゃいいのに。」

 

多分今頃耳でも赤くなってんじゃねぇのかな。

ボトルを片手に眺めていると赤い影がチラついて思わず刀を引き抜く。

 

「……なんだ、レッドか。せめてもうちょっとわかりやすくしてくれ。」

 

「わかった。」

 

互いに獲物を納めるとレッドが小さな包みを渡してきた。

 

「ケルシーからの、届け物。」

 

「ケルシーから?」

 

荷物を渡すとさっさと出て行った、本当にそれだけだったのか。

 

「さて、と。中身は何かな……あ?」

 

包みの中には今日に限っては特によく見る物が入っていた。

 

「チョコねぇ。」

 

ちょっと予想外だ。ただまあ、直接渡して来ないのは立場の事を考えてって事か?

大変ならチョコを用意してレッドに持って来させなくても……いや、これは失礼か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チョコレートリキュールをどうやって飲むかを考えていると扉が開いた。

 

「こんにちは、ラックさん。」

 

「よっ。」

 

入ってきたソラに片手を挙げて挨拶する。

 

「ハッピーバレンタイン!はい、どうぞ!」

 

渡されたのは……コーヒー?

 

「きっとたくさんチョコを貰うかなって思って、甘いものに合う物を考えてみたんだ。」

 

「そうだったのか、嬉しいぜ。」

 

丁度コーヒー飲んでたし、次はこれ飲んでみるか。

ほんと、気遣いがよく出来て偉いなぁ。モスティマにも見習ってほしいもんだ。

 

「あ、それとこれ!」

 

「ん?開けていいのか?」

 

小さな紙袋を開けると……なんだ、つけ耳?しかも俺の髪と同じ真っ白。多分ループスか?

困惑しながらソラを見ると、携帯端末をこっちに向けていた。

俺は無言でそれを装着すると、鳴り響くシャッター音。

 

「……はぁ。」

 

眉間を押さえて上を向くと、またシャッター音。

体の向きやポーズを変える度に鳴り響く。

 

「なぁ、楽しいか?」

 

「うん!」

 

「そっかぁ……。」

 

ソラが楽しんでるならいいや。それから虚無顔でソラから出される指示を元にポーズを変えていく。

これ、いつまで続くんだろ……。

 

 

 

 

満足したソラがようやく帰っていった。

この短い時間でここまで俺を疲労させるとは……。

 

「ラック。」

 

「ん、ああ、シージか。」

 

「これをやろう。」

 

シージが口からロリポップを出すと俺の口に突っ込むと部屋から出て行く。

 

「……ほれらけ?」

 

つーか関節キス……あ、でもチョコ味だ。

あいつもなんだかんだ楽しんでんのかな。

そのままロリポップを舐めていると扉をノックされる。

今度は誰だ?

 

「ごきげんよう、ラック。」

 

「へぇ、二人が来るなんてなんだか意外だ。」

 

セイロンと、その後ろにシュヴァルツが控えていた。この二人が来るのは本当に予想外だ。

 

「だって、今日はバレンタインでしょう?だから私もチョコレートを用意してみたの。」

 

「二人からも貰えるなんて嬉しいな。」

 

「手作りではないけれど、日頃の感謝は籠っているわ。」

 

「味わって食わせてもらうぜ。」

 

チョコを受け取ると、今度はセイロンがシュヴァルツを前に押し出した。

 

「ほら、シュヴァルツも。」

 

「あの、私は……。」

 

「折角用意したのよ?渡さないと。」

 

「……わかりました。」

 

そうしてシュヴァルツが机の上に置いたのは可愛らしくラッピングされた箱だった。

 

「ほー……こりゃまたイメージとは違うな。」

 

「そ、そうでしょう。ですからこれはやはり自分で……。」

 

「いやいや、新しい面が見れて良かったぜ。」

 

回収しようとするシュヴアルツよりも早く箱を確保する。ふぅ、危ねぇ危ねぇ。

 

「シュヴァルツも可愛いのが好きなのよ。この前だって一緒に出掛けた時に……」

 

「あれは、セイロン様が見ていたから私も目に入っただけで……!」

 

セイロンがからかって、シュヴァルツが戸惑いながら反論をする。こう見ると姉妹にしか見えないな。

微笑ましく見ているとシュヴァルツが少し赤くした顔でこっちを睨む。

 

「……あなたのせいだ。」

 

「おいこら、俺に矛先を向けんな。」

 

「もう、そんな顔をしていると可愛くないわよ。」

 

「ですから私は別に……。」

 

「そうだわ、今度オシャレをしてラックに見てもらうのはどうかしら?」

 

「へぇ、面白そうだな。」

 

「じゃあ早速服を選びに行きましょう!」

 

セイロンがシュヴァルツの背中を押していく。

よく分かんねぇけど普段とは違う姿が見れるならいっか。

 

「忙しいな。」

 

シュヴァルツからのチョコを一つ食べる。

……可愛らしい外箱とは裏腹にビターなのか。まあ、ほとんど甘いミルクチョコだったから丁度いいか。

ビターチョコのほろ苦さをかき消すようにロリポップを咥えた。

 

「……あん?」

 

今度は妙に部屋の前が騒がしい。

バレンタインデーだからって来すぎだろ。

 

「もー、お姉ちゃん早くしなよ。」

 

「まだ心の準備が……。」

 

「心の準備がなんだって?」

 

エンヤとエンシアが軽く言い合いをしていた。

 

「……!」

 

「あーあ、出てきちゃった。」

 

エンヤが左右を見渡す。何も無いぞ。

 

「あの、これを……。」

 

か細い声でチョコを渡される。

 

「ん、サンキュ。」

 

「……むぅ。」

 

お礼を言って受け取ると今度はぷっくりと頬を膨らませる。

疑問符を浮かべていると、エンシアが背伸びをして囁いてきた。

 

「もっと喜んであげなきゃダメだよ。折角お姉ちゃんが時間かけて選んだんだから。」

 

「喜んでんだけどな……。」

 

伝わらねぇなら行動で示すか。

割れ物を扱うようにそっと抱き締めて髪を梳かすように撫でると、耳元に口を寄せる。

 

「伝え方が下手くそでごめんな、ありがとう。」

 

「……まあ、良いでしょう。」

 

上手くいった事でエンシアにピースをすると、ピースで返してくれた。

 

「むぅ……。」

 

さっきとは違う理由でジトッと俺を見る。

 

「私からもハッピーバレンタイン!」

 

「おう、あんがとな。」

 

帽子の上からくしゃりと頭を撫でる。

 

「髪型崩れちゃうでしょ〜。」

 

きゃーきゃー言いながらも楽しそうに笑う。

そのまま撫で続けていると反対の手をちょこんと掴まれた。

 

「……私にもしなさい。」

 

「へいへい。」

 

ぱったぱったと尻尾が揺れる。感情が出るから大変だな。

数分後むふー、と満足気に息を吐くと帰って行った。

他にも箱があったし、ドクターとかエンシオ達の分もあるんだろうな。

 

「にしても大量だなぁ。」

 

まあ、ラテラーノにいた時はもっと多かったけど。あの時はお返しに金が消し飛び、健康診断が怖くなったもんだ。

 

「失礼します。」

 

その声と共にフィリオプシスが入ってきた。

 

「こちらをどうぞ。」

 

「お、ありがと。」

 

チョコを受け取ると、ジッと俺を見つめる。

受け取っても出て行かないって事は、今食わないとダメみたいだ。……ちょっと胸焼けしてきたんだけど。

仕方ないと箱を開けると、でかいハート型のピンクチョコレートが入っていた。

 

「こいつは、なんとも……。」

 

「色は私の血液を混ぜてみました。」

 

「は……!?」

 

目を白黒させてフォリオプシスを見る。

 

「冗談です。ルビーチョコレートですよ。」

 

「びっくりさせるなよ……。」

 

ほっと息を吐く。マジで焦ったぞ。

すると今度は少し俯いて頬を軽く染める。

 

「しかし、愛情は込めました。」

 

「……おう。」

 

「では。」

 

言うことを全部言い切ったのか、そそくさと出て行った。

俺にはチョコを齧って唸る事しか出来なかった。

 

 

 

 

「今日だけで血糖値ヤバい事になりそう……。」

 

腹を押さえてベッドに横になる。

流石にチョコはもう食べたくない。

 

「ラックさーん!ハッピーバレンタイン!」

 

「ぐ、グム!」

 

うぐっ、来るとは思ってたけどさ。

 

「はいこれ、チョコ!みんなと同じにならないようにオペラってお菓子にしてみたよ!」

 

「そ、そうなのか、そりゃあ嬉しいな。」

 

「あーん!」

 

ニコニコと弾けるような笑顔でフォークを向けてくる。

こ、こんなの断れる訳ねぇだろ!

 

「あ、あーん……。」

 

美味ぇ、美味ぇけど……出来れば今じゃなかったらもっと良かったなぁ。

 

「どう?」

 

「ああ……美味ぇぜ。」

 

「良かった〜、味見はしたけど初めて作るから不安だったんだよね。」

 

「また作ってくれるか?」

 

「そんなに気に入ってくれたの?うん、良いよ!」

 

よし、次作ってもらう時はもっと味わって食おう。

 

 

 

 

「うっぷ……。」

 

流石にやばいかも……。ベッドの上で四肢を放り出す。

 

「やっほー、ラック。サヤからのスキャンで色んな数値が上がってるけど大丈夫?」

 

ひょこっとマゼランが顔を出す。……ん?いや、待て聞き逃せない事があったぞ。

 

「お前ら……この鞘にそんなのまで仕込んだのか。」

 

「便利でしょ!脈拍や血糖値、今日の天気なんかもわかるよ!

それにちゃんとサヤって名前があるんだからね!」

 

こいつ名前あったのかよ、見落としてたわ。

いや、それよりもだ。

 

「……それ、いるか?」

 

「今いるでしょ?」

 

「確かに。」

 

『私の計算ではもう少しで鼻血が出る確率が78%です。これ以上チョコレートを摂取する事は推奨しません。』

 

「え、マジ?」

 

そんなに食ってたのか。つーかマジで無駄な所に振り過ぎだ。

 

「この辺の機能外してもっと戦闘用の機能付けれねぇの?」

 

「ダメダメ!この子はこれだから良いの!」

 

「……そうなのか。」

 

技術者の考える事は分かんねぇな。

 

「簡易メンテナンスやスキャンは助かるんだけどなぁ……。」

 

こんな小言言ってくるAIは必要か?

 

「じゃ、体に気を付けてよね!いつかあたしの探検隊に入ってもらうんだから!」

 

そう言うと小さなチョコを一つ置いて帰って行った。一応バレンタインは意識しているらしい。

 

「でもチョコじゃないのが良かったなぁ。」

 

 

 

 

甘いのを抑える為にまたコーヒーをおかわりしていると思いっきり扉が開かれた。

 

「ハッピーバレンタイン!」

 

「おいこら、扉壊れちまったら俺の弁償になるだろうが。」

 

入ってきたエクシアの眉間を拳でゴリゴリとする。

 

「あいたたたっ!?ごめん、ごめんってば!」

 

「はぁ、そんで、チョコか?正直今日はもう甘いもの口にしたくねぇんだけど。」

 

エクシアだったら言っても良いだろ。

するとやっぱりみたいな顔をする。

 

「だよね〜、じゃあ一口だけ!後は冷蔵庫に入れて食べる時にレンジで軽くチンしてくれればいいからさ。」

 

「一口だけな。」

 

「うん!」

 

小さな箱から一切れのチョコパイを取り出して目の前に置かれる。それをフォークで一口サイズに切り分けて食べた。

 

「うん、美味い。」

 

「ん、そっか。」

 

「……なんだ、その、悪いな。本当は今全部食べて欲しいんだろ?」

 

「まあね。でも良いよ、ラックなら美味しく食べてくれるって分かってるし。

それじゃ、お返しは三倍だからね!」

 

軽く手を振って出て行く。

考えてなかったけど全部三倍か……頑張ろ。

 

「ラックー、いつも寝袋代わりにしてるお礼にこれあげるー。」

 

「うおっ!?」

 

顔を下げるといつの間にかドゥリンがいてチョコを置いていた。

 

「もー、いくらなんでも酷くない?」

 

「あ、ああ、悪かった。」

 

「私が小さいのは分かってるけどー、あんなに無視されたら泣いちゃうよ。」

 

「次から気ィつけるって。」

 

ぽんぽんと軽く頭を叩くとじとっとした視線を向けられる。

 

「全く……また寝袋代わりにさせてもらうから、よろしくー。」

 

「そんくらいなら別に良いけどよ。」

 

それじゃあねー、とふわふわした口調で帰って行った。……今思ったけど隊服の予備とかないのか?

今度代わりに申請しといてやろっかな。

そう考えた瞬間扉が開かれた。

 

「こんにちは。」

 

「よ、よぉ、アンセル。」

 

「チョコを貰ったんですけど、私はあまり甘いものが好みじゃなくて、食べませんか?」

 

「……この前予備隊の女子会にフリッフリのスカートで潜り込んで見事に溶け込んでチョコレートパフェ食ってたろ。」

 

「……何の事でしょう?」

 

「どうせそのチョコも貰いもんじゃなくて自分で作ったんだろ、食わねぇぞ。」

 

「それはちょっと困りますね。そうだ、食べさせてあげますよ。」

 

こ、コノヤロウ、最近大人しいなと思ってたら今日のためだったのかよ!

しかも胃もたれと胸焼けでグロッキーな時に来やがった!タイミング測ってたろ!?

上にのしかかって来たアルセルの腕を咄嗟に掴んで止める。多分口にチョコを入れたら最後だ。

 

「くっ、このっ!」

ポケットから小さな笛を取り出して思いっきり吹く。まあ、俺には笛の音は聞こえてないけど。

アンセルが疑問符を浮かべながらチョコを押し込もうとすると遠くから微かに声が聞こえてきた。

 

「……?」

 

早く、早く来てくれ。

 

「━━━ン。」

 

「ぉ、おおおっ!」

 

「嫌な予感が……。」

 

「ワンッ!!」

 

扉をぶち破ってカーディが現れた。

ああ……扉壊れちまった……。

 

「よっしゃ、来たかセコム!アンセルを連れて行ってくれ!」

 

「了解!」

 

「え、ちょっとまっ━━━━━━」

 

アンセルの言葉を無視して襟を掴んで入っていった。

……なんか、カーディの格好が裸に赤いリボンだけだった気がしたんだけど、疲れてんのかなぁ。

 

「にしてもこの笛、便利だな。」

 

カーディ族が行動を知らせる為に使う、ペッローにしか聞こえない笛らしい。

アンセルがよく俺の所に来るからって貰った。

 

「……ん?」

 

廊下を全力で走って来る音が聞こえる。

ああ、まあ、他にもペッローはいるし来てもおかしくはないか。後で説明しとかねぇと。にしても誰が来たんだ?

 

「呼んだ!?」

 

「ケオヴェッ!?」

 

扉が壊れて開いていたからか、ケオベが走ったまま部屋に入って腹に飛び込んだ。

 

「さっきの音何?」

 

綺麗に鳩尾に入ったせいで軽く呼吸困難になるがなんとか息を整えると体を起こした。

 

「ほら、この笛だ。」

 

軽く吹いてやると物珍しそうに眺める。

 

「やってみるか?」

 

「いいの?」

 

笛を持つと大きく息を吸って吹くと、驚いたように飛び跳ねて耳を押さえた、よく見ると目の端に涙が見える。。

 

「うぅ、これ、うるさい……。」

 

「ああっ、思い切り吹いたからか。」

 

俺には聞こえないからよく分かんねぇけど、びっくりするくらいには大きかったらしい。

慰めるように頭を撫でて涙を拭って、俺が買ったお菓子を渡すと元気よく元の場所に走って行った。

 

「……台風みたいだな。」

 

大きく息を吐くとアンセルの持ってきたチョコを見る。これ、後でカーディかクロワッサンにでも渡すか。……結局何が入ってたんだ?

 

「どうしたんだろう……?」

 

「すごい壊れ方してる……。」

 

声が聞こえて入口に目を向けると、ムースとメランサが扉を見て驚いていた。

まあ、そりゃそうだよな。

 

「あー、ちょっと色々あっただけだから気にすんな。

それで、二人もチョコを持ってきてくれたのか?」

 

互いに頷き合うと、机に箱を置く。

開けてみれば、ムースの方は長方形の小さなチョコレートガナッシュがいくつか。そして、メランサの方はハートの形をした、多分同じチョコレートガナッシュが入っていた。

ははーん、隠す気がまるでないな?

 

「大事に食わせてもらうぜ。」

 

なんか鼻の奥ツンとしてきたけどな。

二人が緊張した顔で俺を見てくる。

……わかったよ!食えば良いんだろ!

 

「……はぐっ。……もぐっ。」

 

一口ずつ食べて上を向く。いや、違うから、これあれだから、美味し過ぎて感動してるだけだから。

 

「う、美味いぜ。」

 

「良かった……。」

 

「ほっ……。」

 

顔を見合わせて喜ぶ。うんうん、良かった良かった。

 

「あー、ところでさっきカーディが随分刺激的な格好してたんだけど、何か知ってるか?」

 

「本当にやったんだ……。」

 

メランサがぼそりと呟く。

なんでも、クロワッサンとカーディも含めた四人で話し合っていると、クロワッサンがヒートアップして提案したらしい。

カーディも賛成して、二人を置いて暴走したらしい。

 

「なるほどなぁ。」

 

「ラ、ラックさんはああいうのどう思います?」

 

「どうって……あー、嫌いじゃねぇけどさぁ。うん、バレンタインってこう、そうじゃねぇだろ?」

 

イベントはちゃんとイベントとしてっつーか、なんつーか。

 

「まあ、それはそれで喜ぶっちゃ喜びはするけど、やっぱりバレンタインっつったらチョコを貰いたいってのが本心だな。」

 

まあ、別にチョコじゃなくても良いんだけどさ。

 

「だからまあ、二人がチョコくれて滅茶苦茶嬉しぜ。」

 

そういうと二人は嬉しそうに笑ってくれた。

 

 

 

 

あれから少し話をすると他にも配るって出て行った。

その間も上向いてたけど怪しまれてないよな?

 

『鼻にティッシュを詰める事を推奨します。』

 

「……そうだな。」

 

鼻血が垂れちゃ格好がつかない。いや、ティッシュ詰めてもだけどさ。

 

「ラック、さっきの笛の音はなんだ?」

 

「!?」

 

声をかけられて後ろに振り返るといつの間にかテキサスがいて、俺を見ていた。

今のでティッシュぶっ飛んでったけど鼻血垂れてない?……あ、大丈夫だ。

 

「なんだ、びっくりさせんなよ……さっきのはカーディセコム呼ぶ為の笛だから気にすんな。」

 

笑いながら話しかけるとテキサスの視線が俺に向いていない事に気付く。どこを見ているのかと視線を追うと、机に山積みになったチョコを見ていた。

そしてゆっくりとこっちに振り向くと、色々な感情がごちゃ混ぜになった目をしていた。

 

「全く、ほんっとお前はわかりやすいよな。」

 

「そんな事はないはずだ。」

 

立ち上がってテキサスの頬を両手で挟んでもにょもにょする。

 

「……やめろ。」

 

「尻尾は嘘を吐けないぜ?」

 

ゆらゆらと揺れる尻尾を押さえる。

まだ毛先が揺れてるんだよなぁ……。

尻尾がある種族はちょっと大変だな。

 

「ほら、ポッキーゲームでもしようぜ。」

 

どうせ持ってるだろうと腰のバッグを漁ると、やっぱりあったそれを口に咥えて上下に振る。

 

「私はそんなに簡単に……。」

 

「ほれほれ。」

 

サクッ、と食い付いた。チョッロ……大丈夫かこいつ。

まあ、機嫌が直るならなんでも良いか。

 

「うっわ、何これ。ちょっとあんた━━━━へぇ。」

 

「むぐっ。」

 

Wが入ってきた瞬間に最後の一口になってテキサスが俺の首に抱き着き、いや極めながらキスをする。

パキッと音がした、待ってこれ腰にもクる。

 

『首と腰に極軽度の損傷。後程冷やした方が良いでしょう。』

 

……あんがと。

 

「そう……モテモテで良いわねぇ。」

 

目が笑っていないWが足音を大きく立てて近付いてくる。

 

「チョコもこんなに貰って?女の子からキスねぇ。ふ〜ん。」

 

俺とテキサスを引き離すと肩を殴ってくる。

普通に痛い。

 

「お前何怒ってんだよ。」

 

「べっつに、怒ってないわよ。」

 

いや、絶対嘘だろ。

 

「まさか俺とテキサスがキスしてたのに嫉妬してたのか?可愛い所あるじゃねぇうぼっ!?」

 

からかうように言うと、顔を真っ赤にさせたWの拳が鳩尾に入り、思わず膝を着く。

 

「そんな訳ないでしょっ。んんっ、そこの発情狼が昼間からお盛んで鬱陶しかっただけよ。」

 

「そ、そうか。」

 

鳩尾を押さえていると、テキサスが心配そうに背中を撫でてくれる。

 

「……はぁ、悪かったわよ。」

 

こいつが謝るなんて珍しいな。

そんな事を考えながら息を整える。うん、よし、落ち着いてきたぞ。

 

「手を上げたのはあたしだから、落ち着くまであたしがいてあげるわ。」

 

そう言ってテキサスを脇に投げると代わりに背中を撫で始めた。

……うん、胃が痛くなってきたぞ。

 

「……何をする。」

 

「あらあら、歯を剥き出して怖いわねぇ。

それに耳も遠いのかしら?あたしがいるんだから邪魔者は行くのは当たり前でしょ?」

 

これさ、もし喧嘩にでもなったら俺が巻き込まれるよな。よし、逃げよう。

刀やサイフ、貰ったチョコ等を抱えると気配を完全に消して存在すらも薄れさせて離れる。

 

「抜き足差し足忍び足っと、こんな事の為に身に付けた技術じゃねぇんだけどなぁ。」

 

廊下に出た瞬間トップスピードで走る。数秒後、部屋が爆発した。大事なもんは壊れてねぇといいなぁ。

 

 

 

 

ベンチに座ってプルタブを開ける。

うーん、やっぱり缶コーヒーは合わねぇな。しかし、これがなけりゃこんなチョコは食いきれやしない。

 

「うぇ。」

 

違和感を感じて鼻に手をやると血が付いていた。やっぱり出ちまったか。けどティッシュみてぇなのは手元にねぇし、しゃーねぇ袖で拭うか。

 

「ラック、上向いて。」

 

「んぁ?」

 

声に反応して上を向くと鼻血を拭かれた。

 

「おお、モスティマか。サンキュー。」

 

「どういたしまして。焦って食べ過ぎだよ。」

 

「そう言われても、折角くれたもんだからな。

それに長期間保存出来ねぇもんだってあるし。」

 

今だってそういうのを優先して食ってたし。

 

「そんで、モスティマも?」

 

「まあね。一番最後に渡して、一番一緒にいたかったんだ。嬉しい?」

 

「そんな事言われて嬉しくない男がいる訳ないだろ。」

 

隣を軽く叩くとモスティマが座る。

 

「はいこれ。」

 

「ん。」

 

短い言葉でチョコを受け取る。

早速開いてみると小さなチョコが幾つか入っていた。

 

「鼻血出てたんだから無理しなくても良いよ?」

 

「いや、せめて一つくらいは食わねぇと。」

 

そう言ってチョコを摘んだと思うと手の中から消えた。

 

「じゃあ、私が食べさせてあげようかな。

ほら、口開けて?あーん。」

 

「え、ちょっ……。」

 

咄嗟に周りに誰もいないことを確認する。なぜか少し気恥しい。

 

「……あーん。」

 

まあ、この前のプリンとかオムライスとかでわかってた事だけど、やっぱりモスティマが一番俺の好みがわかってる。

別に他のみんなのが不味い訳じゃない、でも一番好きな味と言われるとモスティマになる。

 

「美味い。」

 

「そっか。」

 

それきり話もなくなり、俺は黙々とチョコを食べ続けた。

……また鼻血が垂れてきた。

格好つかないなと思いながらまたモスティマに拭われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・それぞれのバレンタイン

 

「「シャー!」」

 

「ふ、二人とも落ち着いてくれ。」

 

「ドクター、こっちも食べてみてよ。」

 

「こちらも食べてくださりますか?」

 

「す、すまない。少し待っていてくれ。」

 

アーミヤとエイヤフィヤトラを落ち着かせている間にも続々とオペレーター達がチョコレートを持ってくる。

手が、手が回らない……!

こんな時にラックがいてくれればいいのだが、恐らく彼も似たような状況になっているだろう。

まあ、俺と違い軽くあしらっているのだろうが。

 

「ドクター、チョコあげる〜。」

 

プラチナがチョコを置いていくと現状をチラ見して部屋の端の方に行く。

まさか、見学するつもりなのか!?

 

「「シャー!シャー!」」

 

「ドクター!チョコ持ってきたよ!」

 

「失礼します。日頃のお礼としてチョコを持ってきました。」

 

増え続けるオペレーターにギスギスし出す室内。圧力が目に見えてきそうだ。

これを収めるには相当な努力が必要となるだろう。

 

「……いくぞ!」

 

俺の戦いはこれからだ!

 

 

 

 

「お兄ちゃん、チョコレート持ってきたよ!

もちろん、ヤーカおじさんとクーリエのもあるからね。」

 

ほう、最近ロドス内の空気が緩んでいると思っていたが、バレンタインだったか。

 

「……失礼します。たまたま、たまたま余ったので持ってきました。」

 

「……そうか。」

 

珍しい、いつもならエンシアが一人で持ってくるはずだが。

 

「ありがとうございます。」

 

「大事に食べさせてもらいますね。」

 

ヤーカとクーリエが少し顔を青くして受け取る。

ロドスにいる時のバレンタインは他のオペレーター達からのお裾分けで大量にチョコをもらってしまって、そうなると数日は食べ続ける事になる。

そう言う私の後ろにもはち切れんばかりの袋がいくつか置いてある。

しかし、妹達から貰ったチョコを残す事など私には出来ない。

二人が部屋から出て行った瞬間三人で椅子で円陣を組み真ん中の机にそれぞれの袋を下ろす。下ろす時にやけに重厚な音がしたがそれほどの相手である事に間違いはないだろう。

 

「コーヒーをお持ちしました。」

 

「よし、二人とも準備はいいな。」

 

「ええ。」

 

「勿論です。」

 

行くぞ甘味よ、この私を楽しませてみろ……!

 

 

 

 

「くぅ〜……はあ。やっと終わった。」

 

この時期も意外と配達が多いなぁ……全部チョコだけど。

見慣れた街並みに見慣れないカップルの集団を見てゲンナリとする。

 

「じゃあ、お疲れ様でした……ってあれ、クロ姉だけ?」

 

「みんなもう帰ったわ。どうせラックはんの所やろ。」

 

「ああ……。」

 

あの人も大変……いや、喜んでそうだなぁ。

 

「折角や、ウチの家で二人でパーッといかん?」

 

クロ姉の提案に腕を組んで考える。

確かに、街に出ればカップルだらけ、テレビにもカップル、ロドスの空気も数日前から甘いくらいだから僕だけ一人寂しく過ごすのは抵抗がある。いや、ラックさんが煽ってくるだろうからかなり嫌だ。

 

「行きます。」

 

その後クロ姉の部屋に着くと、着替えると言って別室に引っ込んだ。

やる事もないしとソファに座ってテレビをつけるとバレンタイン特集。うげっ、と声を漏らして消す。

そう言えば買い物とかはしてなかったけど食材はあるのかな。自分で言うのはなんだけど、クロ姉には好かれているからチョコが貰えるかもしれないと期待していたが、別室からリボンを体に巻いただけで出てきた瞬間に後悔した。

 

「う、うわぁあああ!?」

 

「逃げたらダメやろ?それに気が緩み過ぎやで。」

 

座っていたソファをひっくり返しながら後ろに転がって座り込んだまま後ずさり続けると遂に壁にぶつかった。

 

「裸だって見たんやし、そろそろ慣れてもええんやない?」

 

「裸よりも恥ずかしいでしょ!?」

 

叫びながらもクロ姉が手をわきわきさせながら近寄って来る。

 

「で、出来るだけ優しくお願いします。」

 

「はははっ……ダメやで。」

 

たすてけ

 

 

 






ようやく書き終わったバレンタイン。気付けばもう四月ですよ二ヶ月でっせ。
ぶっちゃけ途中で止めようも思ってたんすけど、折角だからって事で書き切りました。
みんな出したくなるからもうシーズン系の話は書かないんじゃないですかね。気が向いたら分かんないですけど。
書いてる間にも色々思い付いてるんで待っててくださいな。








今後の読みたいと思う内容

  • ラックの過去話や異格イベ等
  • このままで構わん
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