酒を飲んで、女を抱く   作:黒色エンピツ

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四十一話:心優しいお医者さん

 

 

怪我をしてから一週間程度。やっと歩き回れるようになった。

やっとっつっても普通ならもっと時間がかかるからロドスの技術の高さがわかる。

そんで、この前助けた子供達は各々の国へ車やヘリを使う事で返したらしい。ただ、身寄りのない子は受け入れる事にしたそうだ。

これで一安心って所か。

 

「よし。腹ごしらえもそうだが、先に酒でも……。」

 

飲みに行こうと思って着替えていると病室の扉が開いた。

 

「お酒はまだ禁止だよ。」

 

「げっ、ススーロ……。」

 

口煩いのが来ちまった。

 

「病み上がりなんだからタバコも厳禁。ほら、渡して。」

 

「嫌だね。」

 

ベッ、と舌を出すとススーロがむっと顔を顰めた。

 

「医者の言う事は聞いて。」

 

タバコを取ろうとするススーロの手を躱して高くあげる。

 

「へっへー、届かねぇだろ。おチビちゃん。」

 

「くっ……やぁっ!」

 

ぴょんぴょんと跳ねながらタバコを取ろうとする。ちょっと揶揄うつもりでやったが中々……。

しかし、酒とタバコもダメときた。そんなら鈍った体でも動かすかな。

ぼんやりとしながら今日の予定を決めつつタバコに火を着けた。

 

「……ん?あっ、やべ。」

 

手癖で着けちまった。

目線を下に向けてみると唖然とした顔のススーロが俺を見ていた。

 

「わ、悪ぃ悪ぃ。ほら、この通り消したからさ!」

 

タバコを握り潰す。うわあっつ。

ぷるぷると震えるススーロ、背中から淀んだ空気を出し始めた。

 

「あ、あーっ!そうだ!今日はお医者さんの言う事を聞かなきゃいけなかったー!」

 

大人しくベッドに戻って潜り込む。

 

「看病してくれると嬉しいなー……なんて。」

 

チラリと様子を伺うと口を真一文字に結んでジト目め俺を睨んでいた。

 

「……はぁ、お願いだから今日は大人しくしててよ?」

 

「はーい!」

 

少し待っててと部屋から出たススーロが戻ってきた時には切られたリンゴを皿に盛ってきた。

 

「お腹空いたんでしょ?はい、口開けて。」

 

「え、あ、はい。」

 

もっと怒られると思っていた俺は少し困惑して口を開くとフォークに刺したリンゴを食べさせてくれた。

 

「美味しい?」

 

「……ん。」

 

あれ、もしかして、医療オペレーターの中で一番優しいかも……。

モシャモシャとリンゴを齧りながら想像してみる。

…………………ふむ、セイロンかラナ、それとギリガヴィル位か。

他は逆にこっちが疲れそうだ。

そのまま丸一日世話してもらっちまった。

……なんか、調子狂っちまうなぁ。

 

 

 

 

翌日、昨日の様子見で経過観察もいらないだろうと判断されて一人で廊下を歩く。

さてさて、ススーロはどこかなっと。

 

「んっ、と、とどか、ないっ。」

 

声が聞こえて倉庫の中を覗き込むとつま先を伸ばして懸命に上の荷物を取ろうとしているススーロを見つけた。脚立もなさそうだ。

ゆっくりと後ろから近寄って荷物を取る。

 

「これか?」

 

「あ、ありがとう。」

 

「どこまで運ぶんだ?」

 

「えっと、じゃあついてきて。」

 

ススーロの先導についていく。小柄だから歩調を合わせる為にゆっくりとしたペースになる。

ぼんやりとしながらあくびを一つするとススーロがチラリとこっちを見た。

 

「どうした?」

 

「そっちこそ、急に手伝ってくれてどうしたの?」

 

「昨日看病してくれたろ。そのお礼。」

 

「なら早く完治させてほしいけど。……ありがとう。」

 

「どういたしまして。」

 

気分良くススーロの後ろをついていく。道ですれ違う職員やオペレーターが変なものを見たような目で見てくるのが少し鬱陶しいな。

よし、変装するか。

コソッと白衣を調達して伊達眼鏡を掛ける。そして前髪を目元まで垂らして猫背にする。

 

「ふふん、これならパッと見じゃバレねぇだろ。」

 

「そうだといいね。」

 

それから力仕事や高い所の物を取ったりと、簡単ながらススーロには無理そうな事を代わりに手伝ったりしていた。

うんうん、変な目で見られてはいるけどバレてはなさそうだ。

 

「そろそろお昼にしよっか。」

 

「そうだな。腹減った。」

 

ふんふんと小さく鼻歌を歌いながら食堂に向かって注文をする。

 

「いらっしゃいませー!あ、ラックさん、もう歩いても大丈夫なの?良かったー!」

 

「……いえ、私は謎の研究員Lです。」

 

ば、バレただと……いや、まだ誤魔化せる。

そう思っているとカウンターの向こうの厨房にいるグムの大きな目に涙が溜まり始めた。

 

「グムの事、嫌いになっちゃった……?」

 

「わー!?悪かったって!泣くな泣くな!?」

 

厨房に飛び込んで抱き締めながら頭を撫でまくる。

流石に泣かれちゃ俺が困っちまう。

 

「俺がグムの事を嫌いになるはずがないだろ?」

 

「……うん。」

 

「ごめんごめん、意地悪しちまったな。」

 

「全く、変な事をして困らせるんじゃない。」

 

「マッターホルンか。」

 

「そんな変装じゃロドスのオペレーターは騙せないだろう。」

 

マッターホルンに大盛りチャーハンを押し付けられる。

 

「これ頼んでたのと違うぞ?」

 

「混んでいるからこれで我慢してくれ。」

 

「うっへ……。」

 

大盛りチャーハンを持ってススーロの対面に座る。

 

「トラブルメーカーだね。」

 

「ちぇっ、こっちのが目立たないと思ったんだけどなぁ。」

 

不貞腐れてチャーハンをかき込んでいると伊達眼鏡を取られた。

 

「どう?似合ってる?」

 

「似合ってるけど、それ俺のー……」

 

Wに伊達眼鏡を取られた。まあ、うん、可愛かったし良いか。

 

「肌寒くなって来た。」

 

「え、ちょっ……」

 

そして白衣をケルシーに奪われ。

 

「私はいつものがいいかな?」

 

唐突に現れたモスティマに髪の毛をセットされた。

 

「…………。」

 

「良かったね、元通りだよ。」

 

「なんでこんなバレんの……?」

 

軽く頭を搔く。そこそこ自信あったんだけどなぁ。

 

「今日はこの辺りで部屋に戻って安静にしててほしいんだけど。」

 

「大丈夫だって、体の調子も良いし、少しくらいは動かねぇと。」

 

「まあ、聞いてくれないのは分かってたよ。変な事しないようにね。」

 

「善処する。」

 

「そこは確約してほしいんだけど……。」

 

ススーロがため息を吐きながらサラダをもそもそと食べる。

だって変な事してなくてもラップランドとかが来たりすると変な事になりそうだし。

 

「ふぅ、ご馳走様。」

 

チャーハンを食べ終わって、水を飲みながらススーロを待つ。

こう、小さな口を一生懸命動かしながら食べてるの見てると癒されるな。

 

「どうかした?」

 

「いや、なんでもない。」

 

そっか、と言いながらサラダを頬張るが、こっちをチラチラと見て来て何度か目が合う。

 

「もう、食べたいなら言ってくれれば良いのに。」

 

そう言いながらサラダを刺したフォークをこっちに向けてくる。

 

「え?いや、俺は別に。」

 

「ずっと見てたでしょ?ほら、あーんして。」

 

看病してくれていた時のようにごく自然にサラダを押し付けられる。

 

「わかったわかった、食えば良いんだろ。」

 

大口を開けて食べる。ここでサラダを食べたことは無かったけど、結構イケるな。

サラダを飲み込むと周りをぼんやりと見渡す。ススーロを見てるとまた勘違いされそうだ。

 

「ご馳走様でした。」

 

「ん、行くか。」

 

ススーロの食器を持つと慌ててススーロが立ち上がる。

 

「ちょっと、自分の食器くらい持って行けるよ。」

 

「気にすんな気にすんな。」

 

笑ってカウンターに返しに行く。

 

「もう、まだ完治してる訳じゃないのに。」

 

「お礼だからな。大人しく寝ててほしいならまた看病として部屋に一緒にいるくらいじゃねぇとな。」

 

「わかった。じゃあこっちも徹底的にやるから。」

 

「え?」

 

 

 

 

「ま、待て待てッ!流石にトイレくらい行ける!!」

 

「ダメ、ちゃんと言う事聞いて。」

 

尿瓶を持ったススーロの腕を掴んで止める。

引っ張られて部屋まで戻って来てからトイレに行こうとしたらこうなっちまった。

 

「わかった!ちゃんと休んでるから!」

 

「安心して、ご飯もトイレもお風呂も全部私がするから。」

 

「一人で出来るっての!つーか飯はさっき一人で食ってたろ!」

 

「恥ずかしがらなくても大丈夫。慣れてるから。」

 

「そういう問題じゃねぇぇえええ!!」

 

「ラック、刀を届けに来たぞ。」

 

扉が開いてヴァルカンが入ってきた。

 

「た、助かった!」

 

「……すまない、まさかそこまでとは。」

 

そしてこの現状を見ると後ろ歩きで戻って行く。

 

「まっ、待ってぇぇ!せめてサヤは置いてってぇぇ!!!!」

 

「わっ……!」

 

前のめりになった瞬間、ススーロを押し倒す様に倒れる。

反射的にススーロの後頭部に手を置いてクッションにする。

 

「あっぶね……大丈夫か?」

 

「……大丈夫だから、早く戻って。」

 

ほんのりと赤くなった顔で俺の胸を押し返す。

 

「しょっと……ま、こんな感じでバッチリ動けるから、看病はもういらねぇよ。」

 

「ダメ。」

 

「……え?」

 

「今日一日、ずっと看病するから。」

 

「だ、だから……」

 

ぺちっ、と口に手を当てて口を塞がれる。

 

「わ・か・っ・た?」

 

「……あい。でも、せめてトイレだけは……。」

 

「ワガママばっかり、トイレだけね。」

 

「俺が悪いのか……?」

 

それからは飯はなるべく野菜中心、飲み物も酒は無し。まあ、それは良い。好き嫌いはねぇし。

ただ、暇だからって部屋の掃除を始めないでほしい。

 

「ほら、こことかホコリ溜まってるよ。……こ、これって。」

 

本棚の整理をしていてエロ本を見つけると顔を真っ赤に染めると咳払いをして、まるで気にしてないように掃除を続ける。……まあ、チラチラと横目で見ているが。

 

「うん、大丈夫だよ。少なくとも持ってるとは思ってたし、このくらいで動揺してちゃ……ひゃっ。」

 

掃除を続けながら時々エロ本等を見つけると小さな悲鳴をあげる。

 

「あー……そっちよりもあっちならそういうのは無いけど。」

 

「だ、大丈夫。このくらい普通だよ。うん、普通。」

 

「んまあ、気にしないなら良いけど。」

 

そんな顔で言われてもなぁ、とベットに寝そべりながら思う。

まあ、反応面白いしいっか。

時々悲鳴をあげながらも掃除をするススーロを眺めていた。

 

 

 

 

「……んで、風呂まで来なくても良いんだけど。」

 

「安心して、水着は着てるから。」

 

えっへん、と得意気に胸を張る。

 

「いや、全然安心出来ねぇだろ。」

 

この短い間に頭悪くなったのかと思ってススーロの頭を何度か小突く。

 

「もし何かあったらケルシー先生に言うからね。」

 

「わぁ、すっごい安心。」

 

最初に頭ぶん殴られたせいでMon3trの事苦手なんだよ……。

 

「シャワー熱くない?」

 

「ん、丁度いいぜ。」

 

ススーロが小さいからかなぁ、昔エクシアやフロストリーフと風呂に入った時の事を思い出す。

そういや、あいつらも洗わせてーってよく言ってきたもんだ。あれなんなんだろうな。

気付くと、頭を洗い終わって背中を洗ってくれていたススーロが前に回ろうとしていた。

 

「待て待て、前は自分でやる。」

 

「恥ずかしがらなくても大丈夫だよ。私に任せて。」

 

さっきと同じようにむふーっ、と得意気にする。

 

「……ああもう、好きにしてくれ。」

 

エロ本くらいであんな顔してたから言ったんだけど、タオルで態々隠しもしたのに。

大きくため息を吐いたと同時に小さな悲鳴が聞こえた。いや、別に勃ってはいないぞ。

 

 

 

 

「さっきのは俺は悪くねぇだろ?機嫌直せって。」

 

「ふんっ。」

 

うーん、どうすっかな。

ベッドの横の椅子で本を読む彼女を見つめていると眠たそうに目を擦った。

 

「朝早かったのか?」

 

「ちょっと調べ物があったから。」

 

「なら、早く寝ろよ。背が伸びないぞ。」

 

本をそっと取って別の所に置くと、ススーロを抱き上げる。

 

「は、恥ずかしいから止めて。それに私はもう大人だよ。」

 

「はいはい。」

 

軽く揺れながら背中を叩くとゆっくりと体を預けてきた。

 

「おやすみ。」

 

眠った彼女をベッドに寝かせて立ち上がる。

さてと、起きた時に隣に俺がいたらまた騒ぎそうだし、装備でも取りに行くか。

 

 

 

 

「ヴァルカン、いるか?装備取りに来たんだけどって、暗いな。」

 

もう寝たのか?いや、そんなはずはない。まだそこまで遅い時間でもないはずだ。

 

「全く、また作業に没頭していたのか?電気、点けるぞ。」

 

入口すぐ横のスイッチを押して部屋を明るくした。

 

「……なんだこりゃ。」

 

ぐっちゃぐちゃに荒れ果てた部屋が現れた。これ、サヤを受け取りに行った時よりもひでぇな。

ヴァルカンがさっき来た時は特におかしい所なんて無さそうだったけどな。

 

「お、おーい、誰かいるかー?」

 

物を踏まないようにゆっくりと足を大きく上げて歩く。

まさか下敷きになっていないだろうなと思っていると、唐突に足を掴まれた。

 

「ヴァッ!?」

 

驚いて尻もちを着く。な、なんだ、いるじゃねぇか。

俺の足を掴んだ相手はそのまま足首、ふくらはぎと掴んでズルズルと這い出てきた。

 

「ブ、ブレミシャイン?」

 

「あ、ラックさんだぁ……。」

 

「……お前、なんでオーバーオールしか着てねぇんだよ!?」

 

「そんな事良いからぁ……これ……。」

 

俺の体をよじ登って来るとサングラスとゴーグルが一体になった物を無理矢理着けられた。

 

「こ、これはなんなんだ?」

 

「これはねぇ……。」

 

「ふぉ!?」

 

今度は後ろから誰かに抱き着かれた。

 

「ま、マゼラン?」

 

……布地を感じない。

 

「サヤ、繋げて〜。」

 

『了解しました。』

 

「お、おお、こいつはすげぇな。」

 

サングラスのレンズに大量の情報が流れてくる。人に視線を合わせると人名、何がどこにあるのか、今日の天気にスーパーの特売の時間……いや、特売の時間はいらねぇだろ。

 

「私とマゼランさん、他にもクロージャさん、メイヤーさんに手伝ってもらって作ったんだ、凄いでしょ?」

 

「あ、ああ、凄いな。それよりもサヤを……。」

 

「他にもね、こっちのツルについたボタンを押すとね。」

 

「暗視ゴーグルに赤外線ゴーグル……。」

 

「こっちのツルを押したら望遠鏡にもなるよ。」

 

両耳からぼそぼそとブレミシャインとマゼランの声が響いてくる。最早唇が耳に当たっている程に近くて、ぞわぞわと背筋が震える。

 

「わ、分かった、分かったから、お前らはそろそろ寝ろよ。何日寝てないんだ?」

 

手を使って後ろに下がろうとするとふにゅりと柔らかい感触が後頭部に伝わる。

 

「メ、メイヤー……。」

 

「まだまだあるからね、ミーボやドローンとも情報共有出来るようにもなってるんだよ。」

 

頭の上と左右から囁かれるように説明が続く。

この時点で既に頭の中はパニックになっていた。

前にモスティマにやられた時ですら片耳だったんだ。こんなの耐えられるわけが無い。

 

「や、やめてくれ、俺が悪かった。また、また後日取りに来るから……。」

 

「「「ダメ、今聞いて。」」」

 

「ぬわああぁぁぁ……。」

 

 

 

 

「……ん、ああ、寝ちゃってた。」

 

昨日は確かラックの看病をしてて……あれ、いない。

 

「患者にベッドを譲られるなんて、まだまだだなぁ。」

 

傍の机に置き手紙があった。装備を取りに行ったみたい。でも、もう朝なのに帰って来てないなんて変だ。

 

「……探しに行かなきゃ。」

 

何か他のオペレーターに巻き込まれていたら大変。とりあえず、ヴァルカンの所に行ってみよう。

 

 

 

 

「あの、ラックは来て……る…………。」

 

「それでね、こっちの機能は……」

 

「この機能も搭載するのに苦労してて……」

 

「ここなんて皆で意見を出し合ったんだよ……」

 

両腕をブレミシャインとマゼランに抱き締められて、顔をメイヤーの胸に埋めて痙攣しているラックがいた。

 

「ら、ラック!?大丈夫、起きて!?」

 

三人から引き剥がして床に寝かせる。

脈が早い、息も荒くて白目を剥いている。これは……。

 

「興奮、しているだけ、か。」

 

ちょっと心配して損したかも。腹いせにほっぺたを指でつついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の一幕

 

昼前まで惰眠を貪り、ぼんやりした頭で食堂へ向かう。今日は何すっかな〜、なんて考えていると前を歩いていた少女がやたらと遅い事に気が付いた。

足を怪我している風じゃねぇけど、ちょっと聞いてみるか。

 

「なあ、足とか怪我してないか?」

 

前に出て声をかけると随分反応が薄い。……いや、ちょっとずつ目が大きく開かれてるから驚いてる、のか?

 

『こんにちは!』

 

「ん、ああ、こんにちは。サポートロボットか。」

 

『こちらはカメラマンのシーン。そして撮影サポートロボットのレンズです!』

 

「こんにちは。」

 

元気な声のレンズが話していると、ゆっくりと間延びした声でシーンが声を出した。

 

「なるほど、種族特性か。悪いな、歩くのが遅かったから足を怪我してんのかと勘違いしちまった。」

 

『いえいえ、シーンお嬢様を気遣っての事ならとても嬉しいです!』

 

「そうか。」

 

良い子だなぁ、とレンズの頭?を撫でてから食堂に向かおうとする。

 

「ん?」

 

微かに袖を触られた気がして振り返る。

シーンが手を伸ばしてみたいだ。

 

「どうしたんだ?」

 

『シーンお嬢様はご飯が食べたいようです!』

 

「わかるのか?まあ、んじゃ行くか。」

 

とは言え、シーンの速度に合わせていたらどんだけ時間がかかるか分かんねぇからな。

 

「ほら、食堂まで行くから乗りな。」

 

……?ゆっくりしているのは分かるけど、中々乗ってこない。

 

「どうした?」

 

『シーンお嬢様は抱っこして欲しいそうです!』

 

「抱っこ?まあ、いいけど。」

 

シーンの正面に立って抱き上げる。

少し待つと両手両足を体に回して抱き着いてきて、頬と頬が触れ合った。

……思ったより力強いな。

 

「んじゃ、行くぞ。」

 

これ食堂に着いたら降りてくれるよな?

 

奇異の視線を感じながら食堂に入り、シーンのも合わせて注文して席に運ぶ。

 

「……そろそろ降りてくれないか?」

 

「うん。」

 

のそのそと動いて隣に座る。

な〜んか、シーンって見覚えある気がすんだよなぁ。でもちっとも覚えてねぇ。

うんうん唸りながら飯を食う。

 

「ごっそさん。」

 

早めに食べ終わったから、のんびりとシーンが食べているのを眺める。

ジッと顔を見ていると、ほんの少しだけ顔に赤みが差してきた。

 

『ラック様、女性の顔を見続けるのは失礼では?』

 

「それもそうか。」

 

サヤの言葉で見るのを止める。

飲み物を飲みながら待つか。

それからたっぷり一時間、時間をかけて飯を食べ終わってからシーンと別れた。

 

 

 

 

ゆっくりとした歩みでシーンが部屋に戻る。

先程までの時間を何度も何度も頭の中で反芻していた。

久し振りに会えた喜びと自分を覚えていなかった悲しみが胸の内で同居したまま、シーンは机の引き出しを開けた。

その中には、今よりももっと幼いシーンと、そんな彼女を股の間に座らせて芝生の上で笑うラックの写真が入っていた。

一緒にいたのは一週間程度だったが、それでもシーンにとってはかけがえのない時間であったことに違いはなかった。

あの頃から既にトランスポーターとして世界を渡り歩いていたラックの話は幼くて遠くまで出歩けなかったシーンにとって、どんなドキュメンタリーよりも楽しいものであった。

世界の様々な生き物、自然、天災後の惨状、全てラックの主観による話だったが、シーンは自分の足で見てみたいと憧れていたのだ。

昔と比べて自分は成長した、だから今度は自分も連れて行ってほしいとシーンは願いながらゆっくりとハンモックに乗り、写真を抱き締めるように丸まって眠った。

 

 

 

 




タイトルはテキトーです。
随分時間が掛かってしまって申し訳ないです。頭の中で組み上がっていても文字にすると難しいんですよね。

今後の読みたいと思う内容

  • ラックの過去話や異格イベ等
  • このままで構わん
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