酒を飲んで、女を抱く   作:黒色エンピツ

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四十六話:苦手なやつは誰にだっている

 

 

 

 

「……暇だ。」

 

休憩所のソファで寝転がりながら呟く。ここなら誰かいるか、いなくても待っていれば来ると思っていたが、みんな忙しいらしい。

読んでいたマンガを机に置くと目を瞑る。こういう時は一眠りするに限る。

 

 

 

 

「お、ドクターの言う通りだな。」

 

「そうみたいね。」

 

ぴくっ、と瞼が震える。誰かが入ってきたみたいだ。薄目を開くと、ニェンが顔を覗き込んでいた。

 

「……お前かよ。」

 

「お前ってのは随分な言い方だ。久しぶりに会えたってのに嬉しくないのか?」

 

「別に。」

 

クソ辛い飯食わされた思い出しかねぇわ。

よく見れば後ろにシーとリィンもいた。姉妹揃い踏みか。

 

「なんの用で来やがったんだ。特にシー、お前はこっち来んな。」

 

「あら、酷い言われようね。まあどうでもいいわ。今日こそ体を見せなさい。」

 

「やだね。」

 

こいつらと出会って良い事があった試しがない。いや、リィンは良い。あいつと飲む酒は美味い。

こいつらとの出会いは旅の途中だ。まだラテラーノから出て少し経った程度で、色んな人に興味のあった俺は偶然外に出ていて、偶然見掛けたシーを見て、見たこともない種族から声を掛けてしまった。

最初は邪険に扱われたが、俺が元々サンクタだと零した途端に周りの世界が塗り替えられていた。それから数ヶ月閉じ込められて体を調べられそうになったのを必死で逃げ続け、運良く絵の中から逃げ出せた。

そういえばあの時はサガに会うこともなかったな。どこにいたんだ?

ニェンはその一年後くらい。町の飯屋で飯を食ってたら、勝手にニェンが店の厨房に入って行って作った飯を食わされた。思わずぶん殴ると殴り返されて店内で乱闘騒ぎになってから気に入られてまた数ヶ月連れ回された。

リィンはどうやって旅の途中の俺を見つけたのか、ふらりと俺を訪ねてきて少し話してから、妹達のお詫びとして酒を奢ってもらうと、飲み過ぎて酔い潰れた次の日にはいなくなっていた。

 

「マジで何しに来たんだよ。リィンだけ置いて帰れ。」

 

「おいおい、リィン姉にばっかり甘いんじゃねーのか?」

 

ズンと腹の上にニェンが座る。

 

「……重い。」

 

「妹達が悪いね。久しぶりに会えて嬉しいのさ。」

 

くしゃりとリィンに頭を撫でられる。

 

「お姉ちゃんってのは大変だな。……わかったよ。相手してやるから、大人しくしててくれよ。」

 

「何よ、私達が悪いみたいに言ってくれるわね。」

 

「悪いっつってんだよ。」

 

シーが不満そうに鼻を鳴らす。

 

「んで、遊びに来たってんなら何すんだ?特にする事もねぇならもう一眠りさせてもらうぞ。」

 

「あー、そうだな。……おっ、いいものがあった。麻雀しようぜ。」

 

部屋の隅に雀卓を見つけたニェンが雀卓を抱えてくる。

麻雀ならそうそう暴れる事も無いだろうし、いいか。

 

「なら最下位は罰ゲームで一位の人の言う事を聞く事にしましょ。」

 

唐突にシーがそんな事を言いやがった。お前背中見たいだけだろ。

しかし、うん、勝って仕返ししてやろう。

 

「俺はいいぜ。後で泣いても知らねぇからな。」

 

「泣くのはあなたよ。」

 

そう言いながら牌を混ぜる。とっとと終わらせてやろうと軽く積み込む。

起家は対面に座ったシーだ。誰も牌を切っていないから必然的にシーか自分の手の方に意識がいく。なら、ここで早速左手芸で━━━━

 

「おいおい、何しようとしてんだ?」

 

牌を入れ替えようとした瞬間万力の様な力でニェンに左手首を掴まれた。

 

「……山がズレててな。直そうと思ったんだ。」

 

「へぇ、なるほど。そりゃあ悪かったな。イカサマでもするかと思っちまった。」

 

「そんな訳ねぇだろ。」

 

手首を見ると握られた所に跡が残っていた。

まさかニェンに止められるとは思ってなかった。しゃーねぇ、マトモに打つか。

 

 

 

 

「「……。」」

 

「まさか、アタシでも二人同時に飛ぶなんて思ってなかったな。」

 

「互いの手しか意識してなかったからね。」

 

リィンの言う通り、互いに互いの当たり牌は全て避けていたが、ニェンとリィンの当たり牌を切ってしまって当たり続け、最後にはリィンのツモアガリで同時に飛んでしまった。

 

「……それで、一位になったリィンは俺らに何させたいんだよ。」

 

拗ねたようにそう言う。シーも不機嫌な様子で腕と足を組んで目を瞑っていた。

 

「じゃあ、二人で飲んできてくれる?」

 

「そんなので良いのか?」

 

「妹の折角の友人だからね。仲良くしてあげてほしいんだ。シーちゃんには手出しさせないからさ。」

 

「……俺は良いけど。」

 

横目でシーを見ると仕方なさげに息を吐いていた。

 

 

 

 

場所が俺の部屋に決まって、酒やつまみを机に並べると、二人並んでソファに座る。

 

「リィンめ、強い酒ばっか置いていきやがって……。」

 

「なら飲む量を抑えたら?」

 

「いいや、やだね。あいつの用意した酒にハズレはねぇからな。ちゃんと飲む。」

 

「……そ、なら潰れるまで飲めばいいわ。」

 

「おう。」

 

早速コップに注いで一息に飲み干す。カッと喉が焼けるような感覚に浸る。

 

「〜〜っくぅ、美味いな。」

 

次に唐揚げを摘む。ここら辺はジェイやウンに用意してもらった。

隣のシーを見るとやや口の端が吊り上がっていた。

 

「映画でも見るか?」

 

「構わないわ。」

 

いつもならアクションにするが、シーはストーリー性のあるのが良いか?……ドンパチかホラーしかねぇ。ならホラーだな。

人形が人を殺すホラー映画を二人で観る。久し振りに観たけど、面白いな。

 

「……ん。」

 

ペースが早過ぎたかな。酔いが回ってきた。

ソファの背もたれに体を預けると、腰に何かが巻き付いてシーの方に引っ張られた。

 

「少しは水も飲みなさい。」

 

「悪い。」

 

シーから水を受け取って飲む。……ダメだな。頭がクラクラする。

 

「こっちに来なさい。」

 

頭を掴まれるとシーの方に倒れる。

膝枕?まさかシーにされるとは思わなかった。

 

「……ここまでしなくてもいい。」

 

起き上がろうとするとすると、左手に尻尾が巻き付いて止められる。さっき巻き付いたのも尻尾か。

 

「おい、さっきから何考えて━━━━」

 

「いいから黙ってなさいな。」

 

目の上にシーの手が置かれる。ひんやりとした手が心地良い。

昔からこいつは何を考えているかが分からない。俺を閉じ込めた理由も、なぜ背中に興味があるのかも。

まずい、眠くなってきた。

 

「眠いなら眠りなさいな。」

 

その声に促されるように意識が沈んでいった。

 

 

 

 

映画のスタッフロールが流れる中でシーがラックの頭を撫でて背中に目を向ける。

 

「……。」

 

背中は見たい。一体なぜ輪と羽が消えたのかが知りたい。けれど手を出さないと言った以上動く訳にはいかない。

 

「…………まあいいわ。ここにいれば機会は幾らでもあるでしょ。」

 

伸ばしたかけた手を戻して映画に目を向ける。

 

「あ」

 

既にスタッフロールが流れていた。

 

 

 

 

「いっつつ……飲み過ぎたな。」

 

調子に乗り過ぎたな。

喉が渇いて水を飲もうと起き上がろうとすると左腕が上がらない。と言うか、誰かを腕枕している。

昨日は確かシーと飲んでて、膝枕されて……

 

「……まさか。」

 

ゆっくりと布団を捲ると、シーがいた。

 

「ん……もう朝?」

 

「あ、ああ……。」

 

そのままシーが欠伸を漏らす。

 

「そう……もう少し寝るわ。」

 

そう言ってまた眠った。手を抜こうにも指に尻尾がゆるりと巻き付いている。

 

「……はぁ」

 

こいつら姉妹は何考えているのか本当に分からない。一緒に寝れるくらいだから嫌われてはいないんだろうけど。

 

「俺も寝よ。」

 

酔い潰れたから寝た気がしねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日のキッチン

 

 

 

「……んが?」

 

良い匂いがして目を覚ます。昨日はエンシオ達と飲んで、そのまま食堂で寝たんだっけ。

チッ、俺だけって事は他の連中は帰ったな。起こしてくれたっていいだろ。

 

「ナスラさんのお陰です。ありがとうございます。」

 

アーミヤの声が聞こえた。

珍しいな。飯でも作ってたのか。

フラフラとキッチンに入ってアーミヤの持っている串に齧り付く。

 

「きゃっ!?ら、ラックさん、驚かせないでください!」

 

「美味いな。」

 

「ラックもつまみ食いの共犯者だな。」

 

「黙っときゃ良いんだよ。」

 

料理人と軽く話してアーミヤと一緒にいた女性の方を向く。

 

「ラックだ。よろしくな。」

 

「な、ナスラよ……。」

 

ほんのりと頬が赤く染まる。ふぅむ、どうしたんだ?

 

「服をちゃんと着てくださいっ!」

 

「服ぅ?」

 

下を向いて自分の格好を見る。

 

「パンツ履いてんだろ?」

 

やれやれ、と笑ってアーミヤの頭を撫でると冷蔵庫からチューハイの缶を取り出して飲む。

 

「……お兄さん?」

 

アーミヤがあまり人がいる所では言わない呼び方に肩が跳ねる。

 

「な、なんだ?」

 

「今日はお酒は禁止です。」

 

「ま、待て待て、見ろ、こいつはたった3%だぜ?ジュースと一緒だろ?」

 

ピキッ、とアーミヤの頭に怒りマークが出来た気がして、慌ててご機嫌取りの為に酒を置いてアーミヤの傍でしゃがんだ。

 

「すまん、俺が悪かった。ほら、この通りだ。な?」

 

頭をやさし〜く撫でて何度も謝ると、どんどん頬が膨れていく。

 

「だ・め・で・す!」

 

「うへ〜……」

 

チラリと料理人二人に目を向けると露骨に目を逸らされた。ならばとナスラに目を向けると、やはり少し顔を赤く染めて距離を取られた。

 

「だったら……こいつでどうだ!?」

 

「きゃっ!?い、いきなり何を!?」

 

「ほぅら、たかいたか〜い。」

 

アーミヤの脇に手を入れて高く持ち上げる。

最初は不満そうな顔だったが少しずつ楽しそうな顔に変わっていく。

ふっ、まだまだガキンチョだな。このまま有耶無耶にしてやろう。

 

「あー!アーミヤお姉さん、ズルいです!」

 

そんな事をしているといつの間にか時間が経っていたみたいで、今日も頑張って早起きしてきたスズランがカウンターにいた。

 

「私もしてください!」

 

「あ〜、はいはい。」

 

たかいたかーい、と持ち上げていると腿を叩かれる。

 

「んっ。」

 

今度はシャマレが腕を広げて待っていた。

 

「……しゃーねぇな。」

 

まあそんな順番にたかいたかいしてやると当然してほしいと言うポプカルにフロストノヴァの所のガキンチョ共なんかもやってきたり、ケオベやまさかのセイロンとシュヴァルツまで、さらに予備隊の面々が来たり、もう一度と並び直すのもいたりして……

 

「……今、何時?」

 

食堂の窓の外は真っ暗になっていた。

おかしいな……最初は明るかったんだけどな……。

はっはっは、なんてこった。今日一日の予定がまさかたかいたかいで丸潰れになるとか……。

 

「……ご飯、食べる?」

 

ちょっぴりセンチメンタルな俺の背中をちょんちょんとつついたナスラがご飯を持ってきてくれた。

 

「食べるぅ……。」

 

もしょもしょとご飯を掻き込む俺を対面に座ったナスラが笑ってみていた。

 

 

 

 






三姉妹めっちゃ難しいっすわ。


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