酒を飲んで、女を抱く   作:黒色エンピツ

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五十二話:観察

 

 

 

 

今日は最近たまに見かける赤いスカジについて観察してみようと思う。

いつものスカジは剣をゴルフのスイングのように軽快にブンブンと振り回し、ドクターか俺の後ろをついて回る。俺限定で戦闘訓練を挑んできては俺を殺しかけたりするお茶目な一面のある可愛い女の子だ。……ああ、可愛いとも。大体ズタボロにされて医務室のお世話になるけれど。

一方で赤いスカジだ。普段と違うフリフリな可愛らしい服装をしていて儚げ、寂しげな印象を受ける。そんなスカジだが、どうにも俺の周囲に誰もいない時を狙って現れる。そう、例えば……今とか。

 

「また来たのか」

 

「嫌、かしら」

 

「いつでも来て良いって言ったんだ。気にする事ねぇよ」

 

自室でマンガを読んでいると後ろから体重を預けるように抱き着いてきた。

マンガを閉じてすぐ真横にあるスカジの頬に手を添えると、目を細めた。

未だにスカジの知っている俺に何があったのかは教えて貰えていない。多分、教えてくれることは無いんだろうが。

 

「くっついてるだけで良いのか?」

 

「……そうね」

 

前に回した腕を解くと、隣に座って俺の腕を抱いた。

このようにこのスカジは俺に触れる事を好んでいる。中でも俺の顔に何かあったのか、頻りに顔に触れたり見つめたりしてくる。

 

「ちゃんといるから、心配すんなって」

 

「わかってるわ。でも……」

 

俯くスカジの頭を撫でてやる。

 

「あーもー、わかったわかった。好きにしてろって。顔見るなり触るなりなんなり好きにしろよ」

 

そう言ってやれば、スカジが膝の上に対面に乗ってきて両手で俺の頬を挟み、じっと顔を見つめ続ける。

 

「…………」

 

「…………」

 

なん、だ?このなんとも言えない時間は。確かに好きにしろとは言ったもののずっと顔を見続けられるとは思っていなかった。

確かに俺の顔が超絶イケメンである事は揺るぎない事実ではあるものの流石の俺も少しばかり照れが出てくる。

そうして目線を横にずらせば、俺の目と目が合うように俺の顔の向きを強引に変えられる。へへっ、今の聞こえた?首からミキッて鳴った。また医務室のお世話にならなきゃ。

 

「……………………んん、そろそろ良いか?」

 

「…………ええ」

 

あれだけ見つめた上で未だに満足してなさそうなスカジを横に転がすと無駄にアクロバティックな動きで膝に頭を乗せると俺の腹に腕を回し、顔をぐりぐりと押し付ける。

なんというかこいつの扱いはねこちゃんと同じような扱いが正しいのではないか?と思っていると腿に痛みが走る。

 

「〜〜ッ!?つ、抓んなよ」

 

「ごめんなさい、なんとなくそうしないといけないと思って」

 

迂闊な事は考えないようにするか……。

 

 

 

 

内心ねこちゃんを構うように相手をしていると昼飯の時間になった。俺が他の人の所に行けばスカジはいつの間にかいなくなるが、今回は観察の為に部屋に備蓄しているカップラーメンを食べようと思う。

お湯を入れて三分。蓋を開けて麺を勢いよく啜る。たまにはこういうのも悪くない。

食べるかどうかわからなかったがスカジのも用意しておいた。ちゅるちゅると麺を少しづつ啜って食べているから食べる事は出来るみたいだ。

 

「美味いか?」

 

「ちゅるっ……えぇ」

 

正直海の気配が強過ぎるから食えるかどうか不安だったが大丈夫なようだ。

しばらく黙々とラーメンを啜る音だけが部屋に響いた。

 

 

 

 

「やっぱ来るのか」

 

流石にトイレにまでは入って来なかったが、風呂にはついてきた。まあいい、よくあることだ。

スカジを椅子に座らせるとくっついてきた。

 

「ええい、洗いにくいから引っ付いてくんな」

 

そう言うと露骨にしゅんとする。

 

「……洗い終わったら引っ付いていいから、今は我慢しろ」

 

「わかった」

 

ピシッと背筋を伸ばして椅子に座る。……ほんと、調子狂うな。

 

「痒い所はありませんかー?なんて」

 

「特にないわ」

 

テキトーに言った俺の言葉にも律儀に返してくれる。なんつーか、ちょっと幼くなったか?体は変わらずナイスバディなのになぁ。

ところで、気にしてなかったが鏡越しに俺の顔を見続けんの止めてもらってもいい?

 

 

 

 

「ふぃー……」

 

湯船に浸かって大きく息を吐く。スカジは俺の膝の上で大人しくしている。多少性格が幼く感じるってだけで非常に目に良い……いや、悪い?

あんまりスカジとは触れ合った事が……いや、何度かあったな。訓練の時に関節を極められた時か絞められた時だったかな……。

ちゃぷりと両手でお湯を掬って、それを眺めている。折角だから入浴剤でも入れてやれば良かったかな。次があるだろうからその時だな。

 

「さて、そろそろ上がるぞ」

 

「……もう少しだけ、ダメかしら?」

 

「んじゃ、もうちょっとな」

 

そう言うと背中を俺に預けてぼんやりと斜め上を向いた。

 

 

 

 

「長風呂し過ぎた……」

 

あれからスカジにそろそろ上がるぞと言う度にもう少しと時間が伸び続け、俺がのぼせた。

 

「ごめんなさい」

 

「あー、まあ気にすんな。それよか髪乾かすからこっち来い」

 

水を一杯飲んでソファに座り、スカジを足元に座らせた。

タオルでしっかり拭いたとはいえ、この毛量は根気がいりそうだ。

ドライヤーの電源を点けてゆっくりと乾かしていく。自分にするのならガシガシと雑にやってもいいんだが、女の子にそんな事はできねぇ。気合い入れるぞ。

 

 

 

 

「やっと終わった……」

 

結構な時間をかけてスカジの髪を乾かし終わった。俺の髪も自然乾燥である程度乾いてやがる。

スカジが自分の髪をふわふわと手で弄ぶ。満足してもらえたみたいだ。

さて、そろそろ切り出すか。

 

「なあ、スカジ」

 

「何?」

 

振り向いて目を俺に向ける。

 

「お前、部屋になんかしたろ?こんなに長い時間誰かが俺の部屋に来ないなんておかしいからな」

 

ピタリと動きが止まって、油を指していない機械のような動きを横を向いた。

 

「……何もしてないわ」

 

「おう俺の目ェ見ろよ」

 

少しの間沈黙が続き、観念したのかスカジが口を開いた。

 

「……少しだけ、独り占めしたかったのよ」

 

「は……」

 

まさかの言葉に思考が止まる。勝手に複雑な事情でもあると思っていたからか、そんな単純な理由に気付かなかった。

何か言おうと頭を回してモゴモゴと口を動かすが、言葉は一向に出てこない。

俺がフリーズしてしまっているうちにスカジが俺の腹に抱きついて深呼吸を繰り返す。

悪い気はしないけど、その、なんというか……なんというかさぁ……。

 

「はぁ……」

 

ワシワシと頭を撫でてやる。

ギャップがあり過ぎてこっちが困惑してしまう。これもうやっぱりスズラン達と同じ扱いでいいだろ。

ソファの背もたれに身を預け、大きく息を吐くとスカジの顔に手を添えて上を向かせて頬をもちゃもちゃとこねくり回す。……結構クセになるな。

しばらくそうしていると手を振り払われて今度は逆に頬をこねくり回されてしまった。

 

 

 

 

「もう寝るんだけど、今日は随分と長くいるんだな」

 

ベッドに寝転ぶと、スカジが俺の腕を枕にして隣に寝転んだ。

 

「……」

 

「悪かった、なんでもない」

 

純粋に気になったから聞いただけなのに文句があるのかと見つめられた。

 

「明日、ラックが起きた時にはもういないわ」

 

「そっか」

 

それだけ言って眠った。少しは気晴らしになったなら良いな。

 

 

 

 

「んで、なんでまだいるんだ?」

 

「……先に起きたのだけれど、顔を見ていたらいつの間にか時間が過ぎていたのよ」

 

「……朝飯、食ってくか?」

 

「もらうわ」

 

冷蔵庫の余った食材を粗方食べてから元気よく帰って行った。

そういえば、触れてはいなかったがあいつの首に下げていた首飾りはなんだったんだ。風呂に入っている時でさえ外すことは無かったが……真っ白ですべすべしてそうな見た目だったな。

 

 

 

 

 

 

 

 

・ある日の食堂

 

「酒酒〜っと。お、なんかやんのか?」

 

いつものように食堂の冷蔵庫に勝手に入れた酒を取りに来たら人だかりが出来ていた。

酒を傾けつつ冷蔵庫に身を預けて眺めていると、ボフッ!とゴールデングローが持っていた何かが小さく爆発した。

 

「なんだ?」

 

周りが騒がしくなり、ゴールデングローの近くに行く。

 

「ああ、電気でぶっ壊れたか」

 

「あ、ラックさん……」

 

「ガキンチョ共はジュースやるから泣き止め。ムース、後はよろしく」

 

「わかりました」

 

冷蔵庫から取り出したパックのジュースを渡して子供たちと一緒にいたムースに任せる。スルトもいたみたいだが……もうどっか行ったか。

 

「またやっちゃった……」

 

確かゴールデングローはアーツの制御が出来てないんだっけか。

 

「あ、あの、ラックさん」

 

「え?ああ、なんだ」

 

「アーツの制御ってどうやっていたか教えてもらってもいいですか……?」

 

酷く沈んだ表情で聞いてくる。

 

「あの、訓練の映像をこの前見たんです。空気を操るアーツで氷や電気を作ったり、天気を変えることだって出来るんですよね?そんなに繊細な制御が出来るなら、教えてもらいたいんです」

 

「あー……悪いけど、難しい話だ」

 

「ど、どうしてですか!?」

 

すがるように俺に詰め寄る。

 

「根本的にアーツが違うんだよ。空気と電気じゃ扱い方がそもそも違う。人にあった制御方法ってのがあるんだよ。ミントは風を操るから俺も教えることができたけど、純粋な電気は難しい」

 

「そう、ですか……」

 

「ごめんな。俺がアーツを使えたら少しは電気を抑える事が出来たんだけど」

 

「い、いえ!私の方こそ、ごめんなさい」

 

そう言うと食堂を後にした。

俺にはどうしようもねぇし、何か解決案でもありゃあ良いんだけど……。

 

 

 

 

夜、風に当たろうと廊下を歩いていると食堂に電気が点いている事に気付いた。

コッソリと覗き込んでみると、ゴールデングローとクエルクスが笑い合って恐らく作る予定だった飲み物飲んでいた。

 

「俺が余計なお節介する事もないか」

 

強い子だな。あれならいずれアーツの制御も出来るようになるだろう。

気を取り直して風に当たろうと気付かれないようにドアの前を匍匐前進で通り抜けた。

 

 

 

 







クリスマスでしたね、こういう祝い事は豪華な料理を作るようにしています
それとUAが30万を超えましたし、前には評価数が100を超えました。今まで書いてきた事を考えればここまで伸びている事はとても嬉しいですね。
今年の更新は恐らくこれが最後になるでしょう、皆さん良いお年を

今後の読みたいと思う内容

  • ラックの過去話や異格イベ等
  • このままで構わん
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