初めての足跡   作:うすい

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得間頼花さん視点の楽玲(?)
時間軸はJGEの動画流出事件から少しばかり経過した頃です。


可愛らしい親友

最近、学校で何かと注目を集める少女がいる。

その子は瀟洒で可憐で慎ましやかで、とても美しいと評判の高嶺の花だ。産まれ持った容姿の端麗さもあって、元からかなりの人望を誇っていたけれど、近頃はそれが更に顕著になっている。人気が再燃したとでも言おうか。

かつては、完璧超人っぷりを地で行く瑕疵のなさに誰も彼もが及び腰になっていた。心無い話だけど、中には彼女に嫉妬して『あいつは私たちのこと見下してるんだ』とか、すげなく一刀両断されたからって『何様だよアイツ』だとか、口さがない人たちも珍しくなかった。

けれど、それはもう昔の話で。

 

「楽郎くん、おはようございます!」

「おはよ玲さん、今日も早いね」

「いっいえっ! 普通のことですので!」

「そう? 流石」

 

泰然としていて、どこか浮世離れした雰囲気を纏っていた少女は顔に花開くような笑みを浮かべて足早に通学路を駆けて行った。新雪を思わせる真白な頬は瞬時に色づき、自分は幸福を感じているのだと周囲に訴えてくる。

今日はいつもと歩く道を変えて正解だった。おかげで、前々から一度は見てみたいと思っていた通学風景を拝めたのだから。

 

(ああ……可愛いなぁ)

 

眠たげな瞳を隠そうともしない少年に駆け寄る少女の名前は斎賀玲。美人で、最近いたく可愛らしくなった私の自慢の親友だ。

 

--彼女は現在、恋する可愛らしい女の子として名を馳せている。

 

 

◇◇◇◇

 

「おはよー玲、今日も噂の彼と学校来てたねぇ。交際は順調?」

「うぇ………っ!? で、ですから……それは勘違いです! というか見てたんですか!?」

「ごめんごめん、気分転換に道変えたら偶然見かけちゃってねー……」

 

教室で挨拶も早々に彼の話題を出すと、玲はみるみると顔を真っ赤に染めて激しく狼狽した。我ながら白々しいとは思うけど、一応掌を合わせて弁明はしておく。

私の悪戯気な口調とは裏腹に、年頃の少女らしく取り乱す玲には以前の泰然自若とした雰囲気は見る影もなくて、思わず頬がゆるんでしまう。もちろん前の玲も可愛らしかったけど、ここ最近は一入だ。恋をすると女は美しくなるというが、元からの美人が恋をしたらどうなるのかといった好例と言えよう。

 

「でもよかったじゃん。見た感じ陽務くんも満更じゃなさそうだし、いっそ告白しちゃえば?」

「こ……っ!? ……と、というか、ま、まんざらでもなさそうでした……?」

 

玲はまるで借りてきた猫のように体を縮こまらせたかと思うと声量を二段階ほど下げ、周囲には聞かれることのないように私に問いてきた。

華奢な指先をくるくるとこねくり回し、私を真剣に見つめながらも忙しなく虚空を彷徨う瞳がひどく可愛らしくて、思わずからかいたくなってしまう。けれど、この今時珍しくも純情な親友に対してそれは、控えた方が賢明だろう。

 

「もちろん。あれから陽務くんのことちょっと調べてみたんだけど、懐の内と外で結構態度変わるみたい。玲に対してはいかにも気安い感じだったし、脈は十分あるんじゃない?」

 

これはまごうことなき所感だ。先日のSNSに投稿されていた動画の件や今朝の様子、それと彼の友人から齎された情報から鑑みるに、間違いなく『ありよりのあり』程度の好感度は稼いでいると思う。だから告白にさえ一歩踏み出すことができたのなら、普通にOKがもらえると思うんだけど--

 

「…………………ソウデスカ」

 

陽務くんも満更でもない、という情報を耳にしただけで思考が停止してしまう玲には些か難易度が高すぎるみたいだ。私としては健気な親友にいち早く幸せになってほしいところだが……まあ、周囲が急かすようなことでもないか。

陽務くんは趣味人らしいし、下手に勢いで恋仲になってしまえば逆にこじれてしまう可能性だってある。唯一の懸念事項は、玲の影響もあって陽務くんへの注目も比例して大きくなっていることだけど、その点に関してはあまり心配していない。

 

(玲が傍にいるわけだし、大丈夫でしょ)

 

恐らく無意識下での行動なのだろうが、玲は順調すぎるほどに外堀を埋めている。食堂での問答の際にとったオッズは『付き合っている』が6、『付き合っていない』が4だったけど、感覚からして付き合っていない派閥は『付き合っていてほしくない』という願望混じりの意見が大半だったように思える。

陽務くんは明確に否定していたけれど、二人が良い雰囲気にあることは周知の事実と言って相違ない。

 

(だから)

 

--だから今は存分に、このいじらしい片思いをする親友を眺めていよう。この誰もが憧れてやまない親友ならば、きっとうまくいく。

勿論、協力を求められたら助力をしよう、勇気が欲しいのならば背中を押そう、困ったことがあるのなら相談に乗ろう。そして、玲の行く末を見守ろう。

 

机に頬杖をついて、何やら思索に耽る玲を見つめる。今後の妄想でもしているのか、端正な顔はやはり幸せそうに緩み切っていて、つられて私まで笑ってしまう。

 

(やっぱり、親友には幸せになってほしいからねぇ)

 

「玲、一限移動教室だし早く行こう」

 

私が手を取ったことで漸く現実にもどってきたのか、玲はハッとすると慌てて準備を始めた。すぐ用意しますので!と慌てる姿が新鮮で面白い。

 

私の親友は、瀟洒で可憐で慎ましやかで--そして、誰よりも可愛らしい女の子だ。




得間さんの性格は少し違和感があるかもしれません。原作で出場頻度が増えることを祈ります。
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