二番目の主役   作:ぷりんたまご

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しーん4 もったいない

おっせぇー。マジ遅い、このままじゃ打ち合わせが出来んくなるわ。一回あのヒゲの頭に時計でもねじ込んだろか!

 

俺の苛立ちが顔に出てたのか、隣にいる人から声をかけられた。

 

「ごめんね。先に現場に入ってても良いよ?」

「ここで待つよ。俺だけってのは気が引けるし」

「ありがとう。あのヒゲは毎回こんな感じなの。せっかくの仕事を断って、役者探しに行ってくるとか、仕事はお前がなんとかしろとかほざきやがって。今日も先現場行ってろとか言ってきて、どっか行ったし。あぁ!もう思い出しただけで腹立ってきた!」

「oh...」

 

ヒゲさんはこんな人を助監督にしたのか。なかなかの英断だ。根は良い人なんだろうけど、どこかに闇を感じる。大黒天ってブラックなのか?もしかして俺入る事務所間違えたか?

 

「でも紫合君が入ってくれるから仕事も増えそうだね」

「まぁ俺がいなくても仕事は増えるだろうけど」

「?」

 

俺と今会話してるこの人は、柊雪、今のヒゲの助監督らしいつまりNo.2か。元だけど俺も助監督としての経験がある。先輩としてしっかりと見させてもらうよ。まぁこれで俺より上手かったら赤面確定やぞ。

 

「いやなんでもない。そういえば今日の撮影は何やんの?」

「えっと...シチューのCMだね。でもこれ女の子がお父さんにシチューを作ってあげるCMなんだけど。紫合くんって女の子じゃないでしょ」

「だな」

「う〜ん、違うと思うけど紫合君が女装でもするのかな?」

「んなわけないだろ」

 

どうやらまだ景のことを知らないらしい。

ちゃんと情報共有しとけよヒゲ!

 

「え?じゃあ紫合君はどうすると思うの?」

「昨日スターズに行ったときに新人を見つけたんだ。今ヒゲが迎えに行ってるはずだけど」

 

ちょうど良く視界に大黒天とプリントされた車がこっちに向かってくるのが見えた。

そしてそのまま...

事故った。 

 

目の前で車がおしゃかになるとか久しぶりだな。

 

よく分からないがとりあえず写真撮っとこ。スマホでパシャパシャしてると車から景がヒゲに抱えられて出てきた。何あれ?

二人は子どもみたいに口喧嘩をしている。

 

笑いを堪えてパシャリと二人の様子をおさめる。

うん良く撮れてる。

 

 

---

 

「小さいけど一応ちゃんとした会社なの、ほらヒゲ誤って」

「やだ」

「謝れよ」

「嫌だからしない」

「ゴミガキクズがぁ!」

 

いい大人が女の人に説教されてる絵かぁ。

二流芸人みたいなコントだな。

 

「えっと、紫合くんよね?」

 

景が遠慮がちに言う。名前は覚えてくれたが、よくわからない人認定されてるなこれ。まぁ少しずつ仲良くなればいいか。

 

「一つ聞きたいんだけど」

「ん?」

「どうして頭がウニョウニョしてるの?」

「いや、これ天パだから。ウニョウニョとか言わないで、結構気にしてるんだけど」

「あっ、そうなのね。ごめんなさい」

 

なんだろう。調子が狂うなぁ。天然というか恐れがないというか、ズカズカくるから合わせずらい。悪く言ったら空気が読めない。良く言うなら裏がないって感じ。あれ、俺の苦手なタイプの人じゃないこれ?

 

「あー別に謝ることじゃない、とにかくよろしくな。同じ事務所仲間として頑張ろうぜ、景ちゃん」

「でも私この人が生理的に無理だから入りたくないわ」

「それはわかる」

「オイ!」

 

あのヒゲが無理なのは全世界共通認識の一つだろう。

 

「ごめんなさい。私今日日直だから帰るわ」

 

このままだと帰っちまうぞ。

ヒゲ、こうゆうときは監督であるお前の出番だ。

そんな俺の心の声が聞こえたのか、ヒゲが景に声を掛けた。

いや、俺の心の声など聞こえてほしくない。前言撤回だ。

 

「あーあせっかくCMの仕事を与えてやろうと思ってたのになぁ」

「……CM?」

「そうだ。芸歴ゼロのお前には身に余る仕事だろう。でもなぁ役者が腰抜けなんだよ」

「なっ…」

「帰っていいぞ。下手くそはいらん(笑)」

「演ってやるわよ!!」

 

作戦成功。とでも言いたげな顔をこっちに向けるな。

 

---

 

「『父の日にシチューを』っていうCMだ。父親のために少女が不慣れな手つき料理を作る。要にシチューを作ればいい」

「さっさとそう言いなさいよ。説明が長いわ」

「アァ!?」

「はいはい、落ち着いて」

 

やれやれとでも言いたげに首を振りながら、景はセットに向かう。その姿を見てヒゲは変顔をしている。違った雪がめっちゃヒゲの顔を引っ張ってるんだ。あんなの顔の皮膚取れるぞ。

 

準備が整ったみたいだ。さて景の演技を見るのはこれで二度目だ。今度はどんなのを見せてくれるんだ?やべぇ鳥肌立ってきた。わくわくがとまんねぇな!

 

「じゃあテスト、よーい」

 

カチンッ

 

チャッチャッチャッ

カカカカカカカ

ボォアー

 

「カァァァット!!達人かお前は!」

 

まぁしょうがないか、役者初心者だもんな。それにしても最後のやつフランベか?後で教えてもらお。

 

「お前『芝居』を何だと思ってる?」

「思い出すこと?」

「分かるなら早よやれ」

「でも私父親に料理作った事ないわ」

「初めて料理を作った日を思い出せ」

 

景にフランベを教えて貰う約束を、どう取り付けようかなんて考えてたら展開が飛んでた。考えすぎだろ俺。

 

俺が思考を放棄したと同時に、景が変わった。

 

「カレーライスだったわ」

 

目の前にいた少女は料理を作り始めた。さっきとは明らかに別人だ。料理をしたことがないと言われても信じてしまうほどに見ていてハラハラする。

 

あっ指切った。いくら演技だからってわざと指切るか?いや意図的に切ったんじゃなくただ再現してるだけか。自分を傷つけてまでも演じる。怖いな。

 

「この子は、本物だ」

 

隣にいる雪がつぶやく。本物ねぇ。そんな言葉で片付けれるようなもんじゃない。

 

「カット!!シチューは別撮りな!」

「もったいないだろう」

 

つい口にしてしまう。

 

「えっとでも焦げてるし、しょうがないよ」

 

俺の独り言に雪が反応する。しかし俺が言ったのはシチューのことではない。雪はガサゴソとバックに手を突っ込み絆創膏やらなんやら取り出した。

 

「景ちゃん!」

 

駆け寄ろうとする雪から絆創膏を奪う。悪いと言い置き走りながら思う。もったいない。シチューのことじゃない。このまま終わらせるのがいけ好かないんだ。これは自分の傲慢だろうか。自己中心的な考えだろうか。それでもいい。

 

ヒゲは俺を見てニヤリとする。まるでやれるもんならやってみろとでも言わんばかりだ。まじムカつく、足の小指を机の足にぶつけろ。俺に呪いが使えたら速攻使うというのに。

 

前を向いて構想を練る。まだ景はこっちに戻ってない。だからこそまだ演じれる。

 

そんなもんじゃねぇだろ景!もっと見せてくれ!

 

準備満タン、ボルテージは最高、某漫画のセリフを使わしていただくとしたら『負ける気がしねぇ』

 

まぁ勝ち負けとかないんだけど。

 

息を整える、いくぞ景。

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま」

 

目線は合わせない。家の構造上、玄関先にキッチンなどが見えるわけがない。少なくとも俺の家はそうだった。景の家がどんなのかは知らないが、普通の家であることを願う。

 

靴を脱ぐフリは学生らしく、いつものように踵を踏む。

 

何もないところを廊下に見立て、大袈裟に歩く。

 

室内ドアは『押す』ものと『引く』ものがある。押すドアは押したときに十分な大きさを確保できる部屋。つまり広い部屋の場合が多い。それに対して引くドアは狭い部屋の場合が多い。狭い部屋に押すドアだとそのドアにスペースを取られてもっと狭くなるからだ。

 

まぁ絶対そうというわけじゃない。実際に逆のパターンも見たことがあるからな。

 

キッチンはリビングやダイニングの近くにあるはずだ。今回は押すドアをイメージするということだ。

 

ドアノブに手をかけ、中には入る。

 

キッチンにいる景を見つけ、少し驚きと微笑みを溢す。

景は俺を見て戸惑ってるようだ。

 

「今日はバイトじゃないんだ」

「え?」

「もしかしてクビになったの?」

「……まだ…なってないわ」

 

よし成功!ぶっちゃけこれは賭けだった。

 

この前ヒゲから景の個人情報を見せてもらった。いや、別に変があったわけじゃない。ただ気になっただけだ。未来のパートナーになるんだから遅かれ早かれ知ることになる。そこで気になったことが幾つかあり、どうやらバイトを掛け持ちしてるようだ。果たしてこんな空気を読めなそ……精神が図太すぎるこの子は、数多くのバイトをこなせるだろうか?答えはほぼ否!これは偏見だが景はこれまでに多くのバイトをして、そのほとんどをクビになったに違いない。主に人間関係が原因でな。

 

だからクビになってると勝手に思って景に問いかけた。

たとえクビになってなくて、クビになんてなってないわ!とか言われたとしてもリカバリーは効くから、100%ハズレない賭けとして成立していたわけだ。

 

我ながら凄まじい推理力だ。これならば自称探偵を名乗っても良いのではないか?

 

いや、やっぱやめようなんか羞恥心が体を駆け巡った。

 

「まだねぇ」

「なによ、嘘じゃないわ」

「分かってるって、疑ってなんかないよ」

 

これでいい。このまま徐々に入り込めば……

 

「ところで、あなたは誰?」

 

……ッ!

 

おっと、戻りかけてるな。俺の想定より早い。うーん、どうしようかな。やりようはあるがそれは普通すぎるよなぁ。ここで俺が、なに言ってんだよって優しく言って俺のペースにすればなんとかなる。でもそれは普通すぎるんだ。

 

策はある。けど気が進まない。あいつのマネをすることが気に食わないんだ。まぁ昨日も俺の勝手な想像でマネしたけど。

 

そう昨日公園で会ったあの子ども二人が言っていたウルトラ仮面を見てみたのだが、まさかあいつ主役だとは思わなかった。あいつは俺と同じで演技とかクソ下手なはずだけど……親のコネか。とにかくだ、ウルトラ仮面が変身するときモブが「あなたは!?」みたいな発言をする。第一話から見てみたけど毎回そのセリフがあったはずだ。

 

だが大事じゃないのはそこじゃない。昨日公園で会った子どもと景の弟妹の年齢が同じくらいだったのだ。家族を大事にしてるのは、昨日のオーディションを見れば分かる。そんな家族を愛しているお姉ちゃんが、自分の弟妹が見てそうなテレビを一緒に見ていないというのか。答えは多分否。景なら弟妹と一緒に見てそうだし、あのクソイケメンなやつが出てるんだから一人でも見てそうだ。いや、景の好みが分からんのにそう決めつけるのは早計かな。

 

まぁ結局何が言いたいのかというと……

 

「大丈夫。もう安心して。あの悪いやつは僕が倒すから」

「えっ?」

「僕はウルトラ仮面、みんなには内緒だよ。」

 

キラリンと効果音が付きそうなウィンクをする。あーやだやだ、こんなのやってられっかよ。キザっぽくてまじきちぃ。

 

なんかクソヒゲの笑い声が聞こえる。ウゼェなあいつ。

 

ほんとはあのクソイケメンゴミ演技野郎に文句を言いいたいところだが、こればかりはあいつは悪くない。脚本書いてるやつがそうゆう設定にしたのだ。

 

しかもそのセリフが出る回が、小さい頃から仲が良い幼馴染を助ける話だった。そして幼馴染を守るため自分がウルトラ仮面だと明かし、戦う。だけど自分の正体を知ってしまった以上敵から狙われる可能性もある。そう考え、幼馴染からウルトラ仮面だけではなく自分に関する全ての記憶を消した。

 

その回の一番最後のセリフはウルっときましたわ。というかあれ本当に子ども向け番組か?この俺でも泣いたわ。全国の子どもたちはどんな反応をしたか気になるが、今はそれどころじゃない。

 

「あっ………そんな…だって……」

「今まで隠しててごめん、今度は僕が守るから」

 

そうこの『今度は』というセリフがなにを指しているのかは、まだ語られてない。一体ウルトラ仮面に過去があるのかめっちゃ気になりますなぁ。

 

そんで景が『そんな…だって……』って言ったのはそれが幼馴染のセリフだからだ。つまり景はウルトラ仮面を見ている!

 

「うん、やっぱり景は演じるのが上手いね。あっ!シチュー作ったの?いやぁまいったね、今日こそは景に休んで欲しかったのに。明日からは僕が家事をするからね!さぁさぁ景はリビングでくつろいでて。」

 

これぞ俺の十八番、相手に喋らせない!攻撃が最大の防御ってやつだ。意味が合ってるのかしらないがな。

 

俺がセリフを言えば言うほど、そのセリフが設定となり俺も景もその設定を守らなくちゃならない。現実に戻りかけた景を無理矢理物語に繋ぎ止めたわけだ。

 

「わ、わかったわ………あの、少し言いづらいのだけど」

「ん?なに?」

「シチュー焦がしちゃったの」

 

ふむ。おっちょこちょいキャラか?そうゆう役なのか?

 

一つ前のカットで景が料理人並の腕であることは確認済みだ。それを踏まえて焦がしたと自らセリフを言うのだから、景は今演じているのか。

 

役者でありながらも景の役を感じ取ることができない現実を垣間見て、改めて俺は自分の才能の無さを感じた。

 

景、羨ましいよ君が。 

 

「あぁちょっと焦げ臭いと思ってたんだ。でも恥じることはないよ、景はまだ料理初心者だからね。それに……」

 

ふと視線を感じる。このキモい感じはヒゲだ!チラリと目だけ動かすと、もういいぞと言いたげな表情をしていた。せっかく景を俺のペースに呑み込んだのに。

 

まだ演じ足りない気持ちを抑えて、仕方なく終わらせる。

 

「食べれなくもないよ。」

 

焦げたシチューを味見する。うん不味い。

 

「僕は景の料理がいつか食べてみたいなぁ」

「そう……」

 

自分の成功したとは言えない料理を褒められて嬉しがっている少女が俺の目の前にいる。その照れ臭い笑顔も見惚れるほどに美しい。

 

でももう時間だ。

 

「景ちゃん」

「?」

 

景との距離を縮め。両手を振りあげて……

 

「起きろ!」

 

思いっきり肩を叩く。

 

のちに聞いた話だが、景はこれが原因で俺のことを『か弱い少女に手を上げる変態』と思っていたらしい。

 

それただのクソ男じゃねえか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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