二番目の主役   作:ぷりんたまご

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しーん6 ゆるさない

 

ヤベェ結構不味い。不味すぎる。

こんな日に限って寝過ごすなんて、アラームもっと鳴っとけよ!

 

と、こんな感じで俺は今めちゃくちゃ焦っている。

どのぐらい焦ってるの?と言われたら、飲んだ牛乳が1ヶ月前に消費期限切れてたぐらい焦ってる。

 

今日は景と一緒にオーディションに行くつもりだったが、お察しの通り寝坊してしまった。景には先行っとけと連絡したがどうだろうか。景も寝坊してたらどうしよう。

 

ちらっと時間を確認するがどう見ても遅刻は確定している。

たとえ神に祈ったとしても諦めて蹲っても結果は変わらないのだ。

 

「はぁ仕方がないか」

 

もう残された手段はひとつだけ。

あまり気は進まないけど仕方ない。

スマホを取りだしある人に連絡を取る。

俺の知人の中で一番地位がある人に。

 

「もしもし、アリサさん。実はさぁ……」

 

---

 

 

デスアイランドと言われる無人島に漂流した生徒たちが最後の一人になるまで殺し合うデスゲーム。

 

なんとも単純な設定だ。

今流行りのペイペックスみたいなもんだ。

いや、全然違うけど。

 

「で、もう台本をもらっていいのか?まだオーディションしてないけど」

「うん、上からはそう言われてるしね」

 

縦社会の闇を見た、俺のせいなんだけどね。

結局アリサさんに頼っちゃったから、これで二つの借りができてしまったわけだ。

一体どんな要求をしてくるのか。

想像もしたくない、最悪だ。

 

オッホッホッホッとアリサさんが笑う姿を思い……浮かばない。

逆にそんな笑い方だったらちょっと引いてしまう。

 

「それに紫合くん、君にはあめりかでの功績があるのだから誰も反対しなかったよ。僕を含めてね」

「そんなに評価して頂けるなんて、うれしいよ。手塚さん」

 

丸メガネ(サングラス)とピアスそして顎髭が印象的なオッサンがニコリと笑っている。

 

手塚由紀治、スターズの演出家であり、ヒゲとも知り合いらしい。

俺とは違うベクトルで性格が合わなそうな人だ。

 

「それでこの車どこに向かってるんだ?」

「とある撮影現場さ。名目上オーディションはやらないといけないから、実際の現場で審査するよ」

「はぁ」

「まぁ気楽に行こう、気楽に。いつも通りの君でいいのさ」

 

わざわざ車に乗るほど遠い現場でやらなくてもいいと思うが、俺はどうこう言える立場じゃないから従うしかないんだよな。

 

「緊張してるかい?」

「してない」

「じゃ一緒に深呼吸でもしないかい?」

「しない」

「はいっ!吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー、これを三回繰り返そう」

 

なんで俺の周りには異彩な人が多いんだろうか。

 

なんか嫌な予感がする。

帰りてぇ。

 

---

 

「うわぁ」

 

現場について俺が放った言葉である。

それも仕方ないだろう、何せ見覚えのある場所だからだ。

 

目の前に広がる広野。

隣には火薬の箱。

そして…

 

「やぁ久しぶりだね。仁伊路君」

 

クソイケメン野郎がいる。

 

 

 

オイ!これウルトラ仮面の撮影じゃねぇか!!

もう爆破する感じじゃん。

圧倒的に戦闘するじゃん。

 

「どうしたんだい?」

「…いや、何でもねぇよ」

 

トホホとでも言えばいいのか、俺の嫌な予感は的中したわけだ。

 

つまりこの撮影がオーディションってことか。

でも何役なんだ?明らかにこの場所は戦闘シーン用だろう。

まさか新キャラか?二人目のヒーローにでもなってしまうのか?

 

「何でここに居る?って言いてぇが……そりゃ居るよなお前が主役だもんな」

「まぁ、主役ということになるかな?」

 

何やこいつ。

見ないうちにウザ度が上がったな。

 

「僕も驚いてるんだ。代わりの人が来るとは聞いていたけど、仁伊路君が来るとは思わなかったからね。それに仁伊路君が日本に帰ってきたこともさっき知ったんだ」

「俺は今知ったよ」

 

てゆうか何年ぶりだ?

最後にあったのがいつか覚えてないな。

 

「それでどれがオーディションなんだ?」

「オーディション?何のことだい?」

 

すると俺の口が塞がれて引っ張られる。

目線を動かせば手塚が犯人だと分かる。

 

「何すんだよ」

「いいかい紫合くん、実は僕と君以外これがオーディションとは知らされてないんだ」

「はぁ?」

 

耳元で囁かれた言葉に反応してしまい、思わず声が出る。

 

「何でだよ!」

「紫合くん、よくよく考えてみたまえ。いくら期待の役者だといっても、いきなりウルトラ仮面に出れると思うか?」

 

なるほどな、つまり……

 

「俺は期待の役者じゃねえってか?」

「うん、違うね。ただの埋め合わせとして呼ばれたってことになってるんだよ」

 

俺のボケが一言で否定された。悲しい。

 

「その埋め合わせとして呼ばれた役者がたまたま俺だったってわけか?」

「そうゆうこと、たまたま君だったのさ」

 

やれやれ、アリサさんに礼を言わないとな。

でもここまでやれとはいってねぇぞ。

 

「もう大丈夫かい?」

 

空気を読んでくれたのか離れていたイケメンが聞いてくる。

 

さてここでぶっちゃけると大丈夫ではないのだ。

別に今回の撮影のことで心配してるのではない。

 

まぁそのなんだ……久しぶりに会う友達って気まずくね?

俺の思考は先程からそれで埋め尽くされている。

 

いや、だってさ、小学校で仲良かった友達が中学で違う学校になって高校で再開した、みたいな感じよ。

 

気まずいったらありゃしねぇよ。

どうすんだ!これどうすんだってばよ!!

 

ただでさえあんな事があったんだから……

 

「あぁおそらく問題はねぇ」

「そうかならいいけど…」

 

逆に!逆に聞きたいけどさ、お前は気まずくないのかね?え?どうやったらそんな爽やかスマイルができんだよ!

 

「チッ……はぁ、今回の撮影…」

「?」

「…世話になるよ、星野」

「あぁよろしくね、仁伊路くん」

 

やるしかない、か……

 

 

「さて、困惑してるところ悪いが着替えてもらおう」

 

お!きたきた。

俺が何役かまだ知らされてないかなずっとそわそわしてたよ。

まさかウルトラ仮面に出れるとはな。

 

あのガキどもにも自慢したいぜ!

 

---

 

「あの、これって……」

「そう着ぐるみさ!怪獣のね」

 

いや、悪役かよ!

よく考えてみればこのタイミングで新キャラは確かにありえない。

ちょっとぐらいさ、ほんのちょっとだけどヒーローとか演じたかったなんて思ってました。

 

「俺の記憶が正しければこれ幹部の一人だよな?」

「あぁそうさ」

「え?俺がやるの?おかしくね?」

「ハッハッハッ」

 

笑ってんじゃねよ手塚。

しかしどうなってやがる、いくらなんでもこれはおかしい。

そもそもこうゆう顔がいらないシーンはスタンドマンがやるはずだ、だからこそおかしい。

 

しかも悪役の幹部を演る(やる)ってのがより一層気味が悪りぃ。

 

「この回でこの幹部が死ぬんだよな?こんな大事な回なのに俺なのか?」

「死ぬなんて言葉は使っちゃダメさ。正確には『倒される』だ」

 

んなもんどっちも同じだろうが。

 

「つーかスタントマンは?」

「帰らせたよ」

「は?」

「いやぁ、あの顔は見物だったね。」

 

同情しかしないわ。

長い時間かけて現場まで来たのに帰らせるなんて。

やっぱこいつ鬼畜だな。

 

「さぁ着替えようか」

 

当然のように俺に拒否権はない

 

 

---

 

今日は日差しが強い。

暑いとは思わないがちょっと動いただけで汗が出る。 

 

どうゆうことかというと……

 

「あっついわ!!そしてくっさ!」

 

当たり前である。

一、二分しか着てないのにこんなにもダメージを負う物なのか。

 

「おい!リハーサル必要か?!」

「うーんやっといたほうがいいと思うけどなぁ」

 

ニヤニヤしながら手塚が言う。

 

あいつぜってぇこの状況を喜んでやがる。

 

「いらねぇよ!動きはもう覚えたからな!本番だ、本番!」

 

はっきり言って現場での紫合の印象はあまり良くない。

いきなり上から押し付けられ、丸投げ状態なのである。

手塚のおかげで現場は荒れずに済んでいるのだ。

 

当の本人は気にもしていないが。

 

 

 

くぅぅーーうぅ!

ごくごく飲む水がうめぇ。

本当はスポーツ用飲料水が良かったが、仕方ない。

 

それよりさっきからずっと見られてるがなんでだ?

……分かったぞ!俺の演技に見惚れたのか。

フッ残念だったなぁ!俺はまだ50%しか出していない。

俺の全力の演技とくと見よ!

 

 

 

残念ながら当の本人が気づくことはない。

だがこれは大した問題でない。

それよりやっかいなのが……

 

「すいません。本番は僕がウルトラ仮面に入ります。」

 

星野アキラという人間が爆弾をぶん投げた事だ。

 

「え?いや、何言ってんの?冗談がうまいね。さすが芸能人イケメンランキングで3年連続No.1をとっただけあるね。でも流石に危ないよ多分。危ないと思う。」

 

流石に想定外だったのか手塚は良くわからないことを言う。

なんだそのランキングは……ちなみに俺は何位だ?

 

「冗談ではありません。僕がやります。」

 

アキラの目はただ真っ直ぐに見据えている。

まるで何かの覚悟を決めたように。

 

そんなアキラの気持ちが手塚に『見てみたい』という欲求を抱かせてしまった。

 

「分かったよ。でも僕の一任で決めることはできない。だから少し話してくるよ」

 

手塚はただ紫合を送ってきたに過ぎず、現場に関わることはない。

だから現場監督と話そうと踵を返して歩き出した。

 

一つ言えるとしたら1人のわがままが現場を掻き乱したことは確かである。

 

そんな中紫合は、『えぇ?あいつとやるの?嫌なんだけど…』

シンプルに愚痴を心の中にこぼしていた。

 

そもそも変身した後は俳優が演じる必要ないじゃん。

後でアフレコしてろよ。スタントマンの存在意義をなくすんじゃねぇ!

俺が言える立場じゃないがな。

 

 

---

 

 

「よーいっ、アクション!」

 

結果としてアキラは演じることを許され、紫合は気まずい相手と演じることになった。

 

さっさと終わらそう。

そんな気持ちを抱くのもしょうがない、長年の付き合いってほどでもないが俺はもう分かっている。

 

俺とアキラじゃ合わない。ただそれだけだ。

 

「ここで貴様はおわりだぁ」

 

セリフは後付けだがタイミングを合わせるためにセリフを言う場合もあるらしい。

 

だから腑抜けた声なのは許してくれ。

やる気がないからな。

 

「僕は諦めない!僕は勝たなきゃいけないんだ!」

「貴様が俺様に勝つだって?正義のヒーローがそんな嘘ついてもいいのかぁ?それとも本気で勝つ気でいるのかぁ?」

 

なんか凄い!すごいぞ俺!悪役っぽいぞ!

セリフを見たときはどんな感じで言ったらいいか分からなかったが、ノリと流れで何とかなった。

 

しかし名役者じゃないかアキラ。

俺が見ない間にここまで変わってないとはビックリだ。

 

あまりにも()()()()()()()()()

 

失望した、というかもともとそんな期待してなかったけどね。

 

「くっ…」

 

俺の攻撃を食らいアキラが膝をつくふりをする

 

「何度でも言おう。貴様じゃ俺様を倒せない」

 

アキラはもって1、2年かな。

しょうがないよね。

アキラは俺と同じように才能がないんだから。

 

だから……

 

「諦めろ」

 

お前は必要とされてない。

 

「……僕にも譲れないものがある。あの日、彼女に誓ったんだ。世界を守るとッ!」

 

お前は役者になれない。

 

「だから、僕は絶対負けられないんだ!」

 

お前はもう負けてるよ。

 

俺はただ暑苦しい着ぐるみの中からアキラを見据える。

どんな顔をしてるか見えないが、きっと苦悶の表情だろう。

対して俺は無表情だ。なぜか何の情も湧かない。

 

「あの女か……仕留め損なったが貴様にとっては喜ばしいことじゃないのか?」

「何を言っている?」

 

あの女とは幼馴染のことだ。

ウルトラ仮面が、いや星野アキラが救えなかった人。

今でも彼は自分を責めてることだろう。

あの時と同じように。

 

ニヤリとつり笑ってしまう。

これほどまでに役がハマるとは思いもしなかったよ。

 

「分からないか?あの女は貴様の唯一の弱点なのだ。」

「弱点だとっ!」

「あぁそうさ!そんな弱点が無くなったんだ!喜べよ!」

 

ゲラゲラと笑う俺に対してアキラは動かない。

 

ここからはアキラことウルトラ仮面が主人公補正を使ってなんやかんやで俺を倒す手順だ。

 

「…………」

「どうした?喜び過ぎて声も出ないか?」

()にできるのはいまも昔も変わらない。だから俺はお前をッ…………」

 

さぁ『倒す!』と言え。

そうすれば休憩だ冷たい水にありつけるんだ!

 

たった三文字、言い切るのに一秒も必要ない言葉。

だから早く言ってくれ。

 

だが俺は勘違いをしていた、いま目の前にいるのはウルトラ仮面ではなくアキラなのだ。

そして俺は失念していた、アキラの本心を。

 

時間が解決してくれる。そんな言葉を信じて、今まで逃げてきたツケが回ってきた。

 

「許さない!」

 

台本無視。アドリブ。セリフを忘れた。そのどれでもない言葉は驚くほどに違和感がない。

 

アレは本音。ただの本音だ。

 

どうやらアキラはまだ俺を許してくれないらしい。

 

「へぇそうかい」

 

思わず声が出る。

小声だったから誰にも聞こえてないはずだ。

だから安心して言える。

 

「俺もお前が嫌いだよ」

 

だから言ったろ?俺とアキラは合わないって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とアキラの間に何が起こったのか、それはまた別の機会に話そう。

 

 

 

 

 

 

---

 

「お疲れしたー」

 

撮影が終わったのは俺が現場にきてちょうど3時間ぐらいだ。

思ったより時間がかかったな。

早く帰ろ。

 

セリフを変えてしまったあのシーンは撮り直さなくていいと言われた。

声は後付けだし、仮面をかぶっているので口の動きも分からないから大丈夫だとさ。

 

三文字の言葉のはずなのに口が5回も動いてたら違和感しかないよな。

 

とにかく終わりだぁ! 

だが簡単には帰してはくれないらしい。

アキラがこっちに駆け寄る。

 

「ごめん」

「なんだよ。俺はもう帰るんだ。邪魔すんな」

「僕は役者失格だ。芝居に情を挟むなんて……」

 

アキラは申し訳なさそう頭を下げる。

 

「気にすんな。それに情が入るくらい集中してたんだろ?」

「……」

「お前よりヤベェ奴知ってっから、なんとも思わねぇよ」

 

長い黒髪のシルエットが脳裏に浮き出る。

それでもまだアキラは頭を下げたままだ。

 

アキラがこんなに謝ることに少し驚いた。

俺を嫌ってるわけじゃないのか?

 

数秒後アキラはやっと頭を上げた。

その顔は少し寂しそうだった。

 

「ありがとう…」

「勝手に感謝しとけ」

 

はぁ、とため息が出るぐらい疲れた。

これだからイケメンは嫌いなんだ。

もうこいつとは演じたくない。

 

「じゃあな、さよならー」

「あぁ、()()

 

また?

残念ながらもうお前と会うつもりはないのだ。

これがキミとの最後の会話さ。

アハハ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして約1ヶ月後に俺とアキラが出会う。

 

「なんでここにいるぅ!」

「僕もこの映画に出るんだ」

「うげぇ」

 

これが約1ヶ月ぶりの会話である。

 

 

 

 


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