無窮の刃   作:兵頭アキラ

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一人称の練習です。
ガルパンとどちらを書くか悩んで一話だけ取り合えず投稿しました。



鬼神の少女

 空色の袴の巫女服を着た私、鬼神无靈は畳張りの道場で正座し、目を閉じて瞑想しています。

 段々と感覚が研ぎ澄まされていくのを感じます。周囲からは雑音が消え、極端に遅い胸の鼓動と鬼神家長子特有の無呼吸の時間が長い呼吸の音だけが聞こえてきます。

 そこでふと、背後に気の流れを感じた私はスッと目を開け、左側に置いていた刀を掴んで立ち上がりました。

 

「じい様、いきなり背後に立つのはやめてくださいな」

「おお、すまんすまん。じゃが、自分の意志で“視る”ことが出来るようになったんじゃな?」

「ええまあ、じい様の鍛錬のお陰です」

「うむ。“法然”の足運びを感じることが出来たのなら合格じゃ」

 

 “法然”とは、私達鬼神一族に伝わる無病息災を祈る舞、『そらの武舞』に使われる基本の足運びです。死角や盲点、音や気の流れの隙間を縫って移動し、すでにそこにいたかのように振舞う技です。

 この技と、“輪廻不朽”と呼ばれる返しの技を覚えて初めて、『そらの武舞』の修練が始まります。

 

「“輪廻不朽”はもう出来とるようじゃから、これからは残りの拾参の舞を習得せねばならん」

「はい。分かっております」

「その方は儂が稽古をつけるとして……无靈」

「習わし……ですね」

 

 そしてこの『そらの武舞』には一つ変わった習わしがあります。

 それは、自分の舞型を組み込むという物です。

 自分の力で武舞につながるような型を編み出し、舞う。それが鬼神一族の代々の習わしです。当然、舞の才覚が問われるので一代だけでなく二代、三代と時間をかけて完成させる当主もいれば、一代で二つの型を編み出した当主もいます。

 じい様曰く、私も才覚がある方に当たるようです。

 閏年の生まれなので実際には異なりますが、五の歳から二年の歳月をかけて昨日の夜。寝る間も惜しんで完成したのが、私の拾伍番目の舞です。

 

「私の舞型、“無空雲耀”は、四つの部から成る舞です」

「ふむ。では、見せてみよ」

 

 じい様に促されて、私は左手に掴んでいた刀をしゅらんと抜刀します。

 真夜中の空のように真っ黒な刀身は、私が両手で握ると曇のない透明な色に変色しました。この刀は鬼神一族の家宝で、初代鬼神がこの刀で鬼を倒したとされています。

 その功績から、鬼神という名字を与えられ、子孫である私達は初代様を称え、無病息災を祈って年の初めに舞う。

 その舞が、『そらの武舞』という訳です。

 じい様の前で、私は“無空雲耀”を舞います。

 この舞は目にもとまらぬ速さで四つの部を舞うのが特徴で、素早い足運びの一部『疾風』。五回連続で刃を振るう二部『黎明』。一刀に集中して振り下ろす三部『鳴神』。届かぬ禍に刃を当てる四部『薄明』からなります。

 一瞬にして終了するこの舞を終え、私は鞘に透明な刀を収めました。その拍子に、私の透明で光の反射で白く輝いて見えるおさげの長髪が肩にかかります。

 私は右手で髪を払い、

 

「どうでしょうか、じい様」

「うむ。良い出来じゃ。お前は儂よりも才能があるようじゃな」

「そんなことありませんよ」

 

 私は苦笑いを浮かべながらじい様の言葉を否定します。

 するとじい様は顎に手を当てて、

 

「少し謙遜が過ぎるのがお前の悪い癖じゃが……今は良いか。うむ。残りの拾参の舞を我が物とするのじゃぞ!」

「はい!」

 

 私は大きな声で返事をします。

 じい様に教わりながら修練を続け、三年後にようやくすべての舞型を習得しました。

 その年の初め。私は初めて『そらの武舞』を一晩中、一族の無病息災を祈って舞ったのです。その年の初めの月は、不気味なほどに輝いていました。

 

○○○

 

「ふぅ……ふぅ……」

 

 私は今、鬼神の屋敷にある蔵の奥底で肩を恐怖で振るわせながら着物の袖を噛み、息を殺しています。

 

「きゃぁぁっ!」

「うあぁぁぁ!」

 

 遠くで父様と母様の悲鳴が聞こえ、私は思わず耳をふさぎました。しかしそれでも聞こえてきて、何かが風を切るような音と共二人の悲鳴は聞こえなくなりました。

 壁越しに気の流れを見ても、二人の暖かな人の気配が消え、血なまぐさい汚れた気が見えます。するとその汚れた気の前に、よく知っている暖かい人の気が現れました。

 

(じい様……!)

 

 恐怖のあまり声にならず、口だけがパクパクと動きます。

 じい様は同じ目で私の居場所に気づいているようです。気の流れが遠くに離れていきました。そして一度キン!と金属同士がぶつかった音がした後、じい様の気が消えました。

 恐怖と悲しみで呼吸が出来なくなります。

 何か液体が落ちる音がした後、その汚れた気の塊は感じることが出来なくなりました。

 私はゆっくりと、蔵の門を内側から開けます。

 少し離れたところに、うずくまるじい様の姿が見えました。

 

「じ、じい様……?」

「う、ううぅ……」

「じい様!」

 

 まだ息はある!助かる!

 そう思った私は、わき目もふらずに嗤うひざの所為で何度も転びそうになりながらも、じい様の元に駆け寄ります。

 梅の木の下に倒れていたじい様に、私は着物の裾が土で汚れるのも気にせずに膝をついて四つん這いになり、声をかけます。

 

「じい様!じい様……!」

「ううぅぅぅ……」

 

 しかし、じい様はうめくだけで返事をしません。

 私は忘れていたのです。

 すでにじい様からは、暖かな人の気が無くなっていることに。

 顔の右から、殺意の気の流れが私に向かって流れてきました。

 咄嗟に離れると、じい様が私に向かって爪で抉るように振ったのです。うずくまったまま、人の関節の可動域を無視するように。

 

「え……?」

「うぐぁぁぁぁっ!」

 

 じい様は人の物とは思えない咆哮を上げました。

 そしてじい様だったモノは私に飛び掛かってきます。気の流れが見えている私はそれを転ぶようにして何とか避け、

 

「どうしちゃったのですか?!私です!无靈です!あなたの孫です!」

「がぁぁぁぁっ!」

 

 必死に訴えるが、私の声はじい様には届きません。

 巫女服と違って着物ですので動きづらく、何度も足をもつらせながら攻撃を避けていた私ですが、遂に梅の木に背中がぶつかりました。

 円を描くように動いていたため、一周してしまったようです。

 

「っ」

 

 視界の縁に、月明かりに照らされ、黒光りする真っ黒な刀が地面に転がっていました。初代様が鬼を倒したという、透明に色が変わるあの刀です。

 

「お許しください……」

 

 私はもう、大好きなじい様が暴れる姿を見ていられませんでした。

 意を決して変わってしまったじい様の脇を転がって刀を拾いました。そして、反転して飛び掛かってきたじい様の頸に無向かって、透明な刃を横一文字に一閃しました。

 頸を断たれたためか体が力なく私にもたれかかり、頭が地面を転がりました。

 

(ありがとう……大切な、儂の孫……)

 

 黒い塵のように消えゆくじい様の顔は安らかで、救われたようでした。

 しかし、私の手には肉を斬った悍ましい感触と、じい様を斬ってしまったという心の痛みだけが残りました。

 頬を、暖かい涙が伝っていきます。そして私は、堰を切ったように泣きじゃくりました。

 

「うあぁぁぁぁぁっ!」

 

 そんな梅の木の下で泣きじゃくる私の元に、燃えるような髪の男性が現れました。彼は詰襟の上から白い炎の意匠が入った羽織を纏い、腰に刀を差していました。

 彼は私の握る刀を見て「日輪刀……?」と呟きました。

 そして、彼は悲痛な顔で、

 

「すまなかった……」

 

 と、頭を下げました。

 

「何で!どうして早く来てくれなかったのですか?!どうして……!」

「っ……!すまないっ!」

 

 しかし、悲しみでわれを忘れていた私は、助けに来てくれたのであろう何の非もない彼に罵詈雑言をぶつけてしまいます。

 彼は無力さに拳を震わせながら、私に羽織をかけてくれました。人の温かみを感じることが出来ました。

 一晩中泣き続けて、泣きつかれた私のそばに、あの刀を差した男性がいました。

 いつの間にか縁側に寝かされていた私は、涙で赤くはれた目をこすりながら男性の方を向きます。

 彼は正座で私の方を向いていました。

 

「……ありがとう……ございました」

「いや……」

 

 私は粛々と頭を下げます。

 彼の目の下には隈が出来ていました。如何やら寝ずに私を見守ってくれていたようです。

 

「俺は煉獄槇寿郎。鬼殺隊という組織に所属している」

「鬼殺隊……」

 

 私は反復し、如何やら鬼を殺す組織であること。そして鬼とは昨日のじい様のなってしまった者を指すようです。

 槇寿郎と名乗った男性は、そこの最高戦力の一人であることも教えてくれました。

 彼は口を二度三度もごもごと動かした後、

 

「君……うちの子にならないか……?」

 

 と言いました。

 私の返答を待たずに槇寿郎さんは続けます。

 

「これが何の詫びにもならず、自己満足でしかないことは分かっている。だが、君の家族を救うことが出来なかった非が俺にはある。だからせめて……君が大人になり、独り立ちが出来るようになるまで、俺に面倒を見させてはもらえないだろうか?!」

「……」

 

 彼の言っていることは真っ当です。

 女の身一つで生きていくことは不可能に近い。出来たとしても、遊郭に身を売らなければならない。話を聴く限り、槇寿郎さんには妻がおり、同い年と生まれたばかりの男の子が二人と、その間の歳の女の子がいるようでした。

 

「分かりました。ですがせめて、私の家族の埋葬を手伝ってもらえないでしょうか」

「ああ、手伝おう」

 

 槇寿郎さんに手伝ってもらって両親を埋葬し、死体のないじい様には『そらの武舞』を舞って祈りました。

 すべてを終えた私は、私の荷物を持った槇寿郎さんの後ろをついて行きます。

 その背中から流れてくる気は、何処か壊れているようでした。




誤って削除してしまったため再投稿です。
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