うまく描けているでしょうか。
私の着物やその他の道具を持ってもらっている槇寿郎さんの後ろをついて行くと、私の家と同じくらいの大きさの屋敷に到着しました。梅の木があるかないかぐらいで本当に大きい屋敷です。
あまりにもそっくりなため、一周して来たのではないかと思ってしまった私は思わずつぶやいてしまいます。
「帰ってきた……?」
「……いや、ここが俺の家で、今日から君の家でもある」
「そう……ですね」
「……」
槇寿郎さんは黙り込んでしまいました。
私の家族や、村のみんなを助けることが出来なかったことを悔いているようです。彼から流れてくる気は、私の目には優しすぎるように見えました。お人よしと言いますか、誰かのために自分の人生をささげる……そういう人に見えます。
事実、私の事を拾って育てようとしているのですから、相当なものです。
鬼殺隊の最高戦力、『柱』はお給料もよいと言っていましたので、私を育てるのにお金の問題はないようです。
槇寿郎さんが門に手を掛けました。
キイと蝶番の擦れる音が聞こえると同時に、中から勢いよくこちらに走ってくる二つの気の流れが見えましたので、咄嗟に槇寿郎さんの影に隠れてしまいました。
私の行動に首をかしげている槇寿郎さんは、一度首をかしげてから門の扉を完全に開きました。そして屋敷の中から現れた気の流れの正体は、彼とそっくりな、燃える炎のような金髪の少年と少女でした。少女の方は、肌が少し浅黒く焼けています。
木刀を片手に勢いよく駆けてきた二人は槇寿郎さんの目の前で止まり、
「「お帰りなさい!」」
と、大声で言いました。
「ッ」
「ああ、ただいま」
いきなりの大声に私は身をこわばらせましたが、槇寿郎さんは平然と返しました。恐らくは、これはいつものことなのでしょう。
槇寿郎さんの影からその少年と少女のほうを覗くと、二人の方もこちらを見ているようでした。
鷹のような目で私のほうを見つめています。
私も彼らの気の流れを見ていますが、槇寿郎さんと同じく優しいお人よしの、しかし髪と同じ燃える炎のような気でした。
その気に安心して私は槇寿郎さんの影から少年と少女の前に姿をさらし、数歩進んで相対しました。私よりも頭一つ分大きい彼は、少し見下ろすように私を見つめました。少女の方は私と同じくらいで、話に聞いていた長男と、長女のことだと思い至りました。
「私は鬼神无靈と言います。今日からお世話になります」
私は自己紹介をして粛々と頭を下げます。
すると彼も着物を整え、
「俺は煉獄杏寿郎!鬼殺隊の柱になる者だ!」
「オレは煉獄燈火!兄様と同じく鬼殺隊の柱になる者です!」
と、これまた大声で言いました。
これが私、鬼神无靈と煉獄杏寿郎、彼の妹の燈火との出会いでした。
○○○
私は居候の身ですので、出来る限りの家事をして恩返しをしました。
まだ家族が生きていた時にはお料理の手伝いをしていて、それなりの物を作れる私のお料理は皆さんに満足いただけるものでした。
それから家事だけではなく、家族を殺した鬼を追うために鬼殺隊に入ることを決意しました。それに伴って、杏寿郎さんと燈火さんと一緒に剣を振ることになりました。
今日も今日とて木刀で素振りです。
私の素振りを見て、杏寿郎さんが頷きました。
「うむ!いい素振りだ!无靈はすじがあるな!」
「ありがとうございます。杏寿郎さん」
「……无靈、君も俺たちの家族なのだから、その杏寿郎さんというのはやめてもらいたい」
「……はい、わかりました。杏寿郎……でいいでしょうか?」
「うむ!」
杏寿郎が満面の笑みを浮かべて頷きました。
私も、つられて笑顔になりました。
すると、隣で一緒に木刀を振っていた燈火さんがこちらの袖を引っ張りました。
彼女の方を向くと、
「オレのことも、名前で呼んでくれませんか?」
「……燈火?」
「はい!姉様!」
「姉様?」
「オレよりも年上ですし、厳しい鍛錬に耐えることが出来るだけで尊敬に値しますから!」
燈火は三つも年が離れているにもかかわらず、とてもしっかりとした子です。
私の心の傷も癒され、煉獄家の一員として馴染んできたころ、元々病床についていた瑠火さんの容態が急変し、命を落としてしまいました。
外からやって来た私も娘のように扱ってくれた。とても良い人でした。私や杏寿郎、燈火に生きる上での心構えを説いた後、そのまま瑠火さんは眠るように息を引き取りました。
その日から、元々壊れかかっていた槇寿郎さんの気がぐちゃぐちゃに崩れ始め、鬼殺隊もやめてしまい、酒におぼれるようになりました。
槇寿郎さんの指導を受けることが出来ずに二年ほど木刀を振り続け、心肺機能を鍛え“全集中の呼吸”というものを習得することになりました。『炎の呼吸』というものだそうで、足を止めての強力な一撃を振るう剣だそうです。
これを使えば鬼を斬れるようになるようで、残された秘伝書を頼りに鍛錬を始めました。
ですが……、
「げっほげっほ……」
「大丈夫か?!」
「姉様!」
「は、はい……」
私の体は『炎の呼吸』には向かないようです。
技を一つ打つと、途端に苦しくなってむせてしまいます。でも、寝ずに呼吸器を鍛えることで、何とむせ返ることはなくなりましたが、それでも苦しいのは変わりませんでした。
ただ、私の気の流れを見ることが出来る目は、一撃で鬼を倒すことを至上とする『炎の呼吸』と相性が良く、鬼の動きを予知して技を打てるので、戦う上で有利に働くと杏寿郎は言っていました。
「鬼と戦う上で、无靈の目は非常に有効だ!何度も技を出して倒すのではなく、その目で動きを捉え、隙をついて一撃を叩きこむ方がよいだろう!」
「私は連続で技も撃てませんからね。その方がいいとは思います」
「その上、殺気を感知しづらいというのは強力な武器だな!」
さらに言えば私は力がありませんが、刀に鋭さと速さがあるそうなので問題はないようです。
そして、如何やら私は殺気の様なモノを感じられづらいらしく、予想がしにくいと杏寿郎は言いました。
しかし、実力的には向いてはいないが、戦う上で最低限は使える。……言い換えれば、その程度だそうです。
私は明るく振舞いますが、鬼殺隊に入ろうと決意したのにその程度しかないのはショックです。
そう言っていると、隣で一緒に木刀を振るっていた燈火が俯き、
「兄様のような力強さも、姉様のように鋭い刃も羨ましいです。オレにはどちらもありません……」
と言いました。
私よりも背も高く、力もあるのですが、そのせいで中途半端になってしまい、杏寿郎のように力強くも、私のように早くもない。
そんな彼女の刃は、どうすればいいかという迷いが感じられました。
杏寿郎が燈火の肩に手を乗せて、
「お前は迷っている!だがそれは悪いことではない!自分で考え、模索すればいい!」
「はい!」
燈火はパンと両手で頬を叩き、
「オレはまだ未熟者だ!なら、未熟なりにやって見せる!」
と、一振り一振りを今まで以上に真剣に、どうすれば自分に合った刃へと変えることが出来るのかと模索し始めました。
杏寿郎は煉獄家の長子であるため、『炎の呼吸』を誰よりも使いこなせなければならないという責任を背負っていましたが、その重さに負けることなく、奥義である玖の型以外の全てをどのような体勢でも放てるようになっていました。
私も私で、連発は出来ないながらも隙をついて一撃を叩きこむという戦い方を確立し、無事に藤襲山で行われるという最終選別に挑んでも問題ないとされるところまでやってきました。
燈火はまだ自分の刃を見つけていませんでしたが、まだ年齢的には挑めるような歳ではなかったため問題はないようです。
「明日は最終選別だ!无靈!気を引き締めるぞ!」
「はい。わかってます」
私は笑顔を浮かべて強い意気込みを見せる杏寿郎の方を向きました。選別に使う刀は煉獄家にある赤い炎のような日輪刀を使うようです。
試しに握ってみると、持ってきていた家宝の真っ黒な、握ると透明になる刀と同様に透明に変色しました。
そのことに杏寿郎は驚き、
「よもや!」
「この刀も色が変わるのですね……」
「日輪刀は一度色が変わればそれ以上は変わらない筈なのだが……」
「そうなのですか?」
「ああ。だが、今は気にしても仕方がない!明日に備えて、早く寝るとしよう!」
刀から手を離すと、透明だった色はすっと元の赤色に戻りました。
如何やら刀は日輪刀というようです。何故色が変わるのかはわかりません。しかし、そのことは後回しと言って豪快に笑いました。
それに対して彼も私に笑みを向け、明日に備えて早い時間に就寝しました。
明日は最終選別。鬼殺隊に入れるかどうかを問われる日です。
千寿郎くんはまだ幼いので登場しません。恐らく十歳前後と考えているので、今は五歳です。