私と杏寿郎は鬼殺隊に入隊すべく、最終選別が行われる藤襲山に向かいました。
本来は育手と呼ばれる先生のような人の許可がいるのですが、私達の育手にあたる槇寿郎さんがお酒におぼれて駄目になってしまったため、無許可で向かうことになりました。
とは言え煉獄家にある秘伝書に書かれた『炎の呼吸』の技を、どのような体勢でも即座に打てる杏寿郎と、呼吸はむいてないものの相手の動きを気の流れ予知できる私は何度も鍛錬を重ね、記述されていた基準を超えることが出来ました。
その基準というのが、『岩を斬る』というものでした。
最初は「出来るのか?」と首をかしげましたが、鬼殺隊に入るためにはこれを為さねばなりません。
意外なことに、これは杏寿郎よりも私の方が早く達成しました。彼の自己診断ではありますが、私の刀には無駄なに力が入っておらず、そのおかげで斬れたのだろうと推察していました。
とは言えそれはあくまで基準。
無許可には変わりがないので実力に不安が残りますがその時はその時です。
昨夜のうちに覚悟を決めた私達の心のうちには絶対に生き残る覚悟こそあれ、死ぬ覚悟はありませんでした。
私が気合いを入れるためにパチンと頬を叩くと、
「无靈!最終選別を合格するには生き残る必要がある!」
「はい。鬼を倒した数ではないのが意外でした」
「ああ、七日間を生き抜く……つまり、生きるという意志が重要なのだ!俺には煉獄の名のもとに人々を守る使命が、无靈には家族を襲った鬼を殺すという意志がある!その点において、俺たちの上にいるものはいないと確信する!」
「でも、過信はいけませんよ?育手さんがいない以上、独力であることに変わりはないのですから」
「分かっている!」
杏寿郎は強く拳を握りました。
腰には私と同じく赤い色の刀身をした刀が差してあります。
山に到着し、階段を上っていくと季節はずれでありながら、大量の藤の花が私達を出迎えました。
「季節はずれなのに……」
「この山は一年中藤の花が咲いている。鬼はこの花の香りを嫌い、さらには毒となるために近寄ることもしない。この花の匂い袋持っていれば、鬼避けとして使うことが出来る」
杏寿郎が頭上から垂れ下がる、藤の花を撫でながら続けます。
「俺たちは戦う力を持たない、弱き者を守る責務がある!」
「はい!」
階段を進み、開けたところに抜けると、そこには私達と同じく刀を差した方々が大勢いました。
全員私よりも頭一つ分高いです。
「多いですね」
「ああ、育手は全国に山ほどいる。そこで鍛錬を積んだ者たちが一同に会すのだから人数も多い」
「ここでいなくなる人もいるんですよね」
「いる。俺たちはそうにならないように出し切らないとな」
杏寿郎の纏っている気が変わり、鋭利で、しかし燃えるようなものになりました。
それを見ると、私のどこかぽわぽわした気が場違いなように……いえ、実質場違いでした。私の周囲にいる人たちが苛立ちなどの悪意を含んだ目で見てきます。
暫く待っていると、提灯を持った黒髪と白髪の子供が二人、現れました。
気を見る限り、黒髪の方が男の子。白髪の方が女の子です。
「皆さま、今宵は最終選別にお集まりくださってありがとうございます。この藤襲山には鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼を閉じ込めてあり、外に出ることは出来ません」
「山の麓から中腹にかけて、鬼どもの嫌う藤の花が一年中、狂い咲いているからでございます」
「しかし、ここから先には藤の花が咲いておりませんから鬼どもがおります。この中で七日間生き抜く……」
「それが最終選別の合格条件でございます。では、いってらっしゃいませ」
二人の子供のお辞儀を合図に、選別に集まった私達は木が生い茂って暗い、闇の中に飛び込みます。
「无靈!七日後、また会おう!」
「生き残りましょう!」
私は杏寿郎と別れ、長い透明な髪をはためかせながら駆けていると、あっという間に周囲からほかの参加者もいなくなっていました。
「真っ暗……」
鬼は太陽に弱いので、常に鬼を閉じ込めておくために暗いのだろうと推察しました。
しかし勇んで突入したはいいものの、特に目的地があるわけではないのでフラフラと歩いていると、
「っ」
背後から邪な鬼の気配が流れ込んできました。
どうも背後からくる鬼は存在を感知されていないと思われているようで、かなり慎重に行動しています。血の気配もありますから、少し前に人を喰い、余裕があるのでしょう。
「一人……食べられてしまいましたか」
死んでしまった人に黙とうをささげつつ、刀に手を掛けます。
そして振り返りざまに踏み込んで加速し、居合い抜きで鬼の頸を狙います。
「何で?!」
「“炎の呼吸 壱ノ型 不知火”」
私が存在を認識していると思ってもいなかったために完全な不意を突かれ、技をまともに喰らってしまった鬼は頸を斬り飛ばされました。杏寿郎よりも倍ほど速い私の“不知火”は、そこまで強くないとはいえ鬼にも通用するようです。
私が握っていたことで透明に変わっていた日輪刀を鞘に納め、塵となって消えていく鬼の最後を見届けながら、またフラフラと歩き始めました。
○○○
過酷な七日間を生き抜き、最初に集まっていた開けた場所にやってくると、そこには杏寿郎しかいませんでした。
「二人……だけ?」
「そのようだ」
杏寿郎が神妙な顔つきで言います。
東からは太陽が昇っており、私たち二人の影を細長く伸ばしました。
しばしの時を待っていると、試験の初めに現れた子供二人がやって来ていました。
最初の時と同じく黒髪と白髪の二人でしたが、白髪の方は違う子です。
「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます。ご無事で何よりです」
「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます」
「階級は十段階ございます。甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸……今現在皆さまは、一番下の癸でございます」
男の子の話を聴く限り、甲の上に九人の『柱』がいるようだ。
「本日中に玉鋼を選んでいただき、刀が出来上がるまで十日から十五日となります」
「さらに、今からは鎹烏をつけさせていただきます」
白髪の子が二回手を叩くと、空から何かが二つ、やってくる気配を感じました。
私が上を向いて、杏寿郎もそれにつられて上を向くと、空から烏が二羽やってきました。そして二羽の烏は私達の肩に留まります。
「鎹烏は主に連絡用の烏にございます」
私は留まった烏の顎の下を人差し指で掻いてみますが一切反応を見せず、まるで銅像のように身じろぎすらしませんでした。
そうしていると、目の前にある木の台に並んだ玉鋼を見ろと黒髪の子の視線に促され、
「あちらから、刀を造る鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼は、御自身で選ぶのです」
「行くぞ!」
杏寿郎に私は頷き、玉鋼の前までやってきました。
しかし、玉鋼なんて初めて見るものですから、どれがどれだか見当もつきません。なので、私は気の流れを見つめ、最もよく流れていた鋼を選び、杏寿郎もこれがよいと言って一つ掴みました。
この玉鋼で、私達の刀が打たれるのだそうです。
今度は別なところに案内され、巫女服を脱いで採寸してから背丈にあった隊服を支給されました。
逆ってくれたのは白髪の女の子の方でした。
その後に手の甲に階級の普段は見えない入れ墨を入れ、杏寿郎と再会してから藤襲山を下山し、屋敷の前に到着しました。
門を開けると、中から鍛錬をしていたのであろう燈火と、すっかり大きくなった千寿朗が、
「兄様!姉様!」
「お帰りなさい!」
と、木刀を置いて駆け寄って来たのでそれを抱擁し、帰ってきたのだという実感と共に屋敷の中に入っていきました。