「ここは……?」
目覚めると、超高層ビルよりも遥か高くそびえる塔が目の前にあった。
それに、何故かは分からないが、空は碧に染まっている。
辺りを見回せば、赤い棺桶が幾つか在った。
導かれる様に塔へと入ると、そこは広いエントランスの様になっていた。中央には階段があり、その先には扉がある。
だが、今回はそこに用などない。そう、思わされた。
私はその階段の横にある小さな機械に触れる。すると機械からは蛍光灯の様な光が発せられた。
そして、念じる。
ーーー最上階へ。
そこに、私を待ってる人がいる。
「貴方は?」
片目を髪で覆い被せている少年が最上階にポツリと立っていた。片手には刀、物騒だとも思えたけれど、この摩訶不思議な世界だからか、どうでもいいと思えた。
「……俺は有里湊」
ボソリと彼は答えたのだった。
……そして、彼は不意に銃を自分の頭に向けた。自殺行為にも見えなくはない。だから、
『待って!!』
そう、私はいつもなら言うんだろう。でも、そんなことさえもどうでもいいと思えてしまうのだった。
その代わりに私は片手を前に突き出した。
そして、呟く。
「「ペルソナッ!!」」
同時に呟いた。
パァンッと音が響き、彼の背後にも何かが現れた。
死神のような姿をしたペルソナ。
「死神……か、確かにそう見えるよね、どうでもいいけど。コイツは俺のペルソナ、『タナトス』」
『タナトス』、それはギリシャ神話における死の神。すると、死神のような、ではなくまさしく死神だったのか、と少し驚いた。まあ、どうでもいいんだけれど。
「そっか。私のペルソナは『マリア』」
マリアはキリストを『生』んだ人とされ、タナトスは『死』を司る。見事に相対してるようだな、と感じた。
「そうだね、俺も死んでるっちゃ死んでるし、君は逆に生命力に満ち溢れてる。本当に相対的だ」
「言い忘れてたけど、私の名前は星空みゆき」
「そうなんだ」
彼はどうでもよさそうに言いながら、どこかから日本刀を取り出した。
私もそれに対応して、強く念じてプリキュアに変身する。
そして、取り出したロイヤルキャンドルから発せられた桃色の光をブンッ、と振り形を整え光の剣を形成した。
これは私がプリキュアとして得た能力。
彼が床を蹴ったところから戦闘は始まった。
初手は私が防戦へと回り、剣と剣が交じり合った。
常人には不可能な動作、異常な筋力、どれも不可解に思う……普通なら。でも、私はプリキュアであると同時にペルソナ使い、ペルソナの能力はペルソナ使いにも対応される。タナトスは強力なペルソナ、不思議など無い。
そこで彼は呟く様に口を開いた。
「こうやってシャドウ以外と闘うことは少なかったっけ、何かとても懐かしいな……」
「前にもあるんですか」
「ま、何度かペルソナ使い同士でね」
「そっか……まぁ、」
私たちは互いに退きながら、互いに呟いた。
「「どうでもいい」」
マリアはタナトスの持った刀を避ける様に後退しつつ、ハマオンを放ったり、私の回復を行う。たまに放たれるメギドラオンによって、マリアはダメージを受けるが、追撃を受ける前に態勢を整えまた後退する。
また、剣と剣が交じり合う。
だが、それは柄の部分の話、切っ先は互いの頬を紅く染める理由となる。
痛みを感じる。でも、どうでもいい。それよりも何よりも楽しさが勝る、勝ってしまう。命を賭けている様な争いなのに楽しいと思ってしまった。
タナトスの放つブレイブザッパーと私の振るう光剣により、かなりの疲労を抱える彼。対して私はタナトスのメギドラオンを受け、彼の剣技を受け、かなりのダメージを負うがマリアの回復により、ギリギリの状態で意識を保っていた……いや、意識なんてもうどうでもいいかも。
考える前に剣を振るい、マリアによって回復を得る。知らず知らずに既に体が動くようにとなっていた。
彼は後退しようとする。私はそうはさせないと追いながら光剣を振る。
だが、目の前にタナトスが現れ、ブレイブザッパーを放ってきた時には流石に追撃を止めざるを得なかった。
そして、彼は後退した先で瞳を閉じて言うのだった。
『ハルマゲドン』
全てを無に帰する究極の魔法。
そう聞いた。
だが、使用者にも激しい衝撃が訪れるとも聞いた。
私はプリキュアとしての力を使う……わけではなく、同じように瞳を閉じて呟いた。
『インフィニティ』
かつて見知らぬお姉さんに貰った謎のカード、その効果は一定時間全ての攻撃を無効化させると言うもの。
「っ!!」
咄嗟に閉じたにも関わらず強烈な光が網膜に焼き付き、防いでいるのに衝撃が襲いかかる。
衝撃が収まり、ようやく体を動かせる様になった頃、私はそっと目を開けた。
眼前に広がる光景には未だ変わらず一人の少年が立つ。
「よく『ハルマゲドン』を防いだね、それは『インフィニティ』か……」
「はい、この前貰ったんです」
「……あの人にかな」
彼は少し悩ましげに頭に手を掛けた。
「さて、切り札も使った。俺にはもう手が無いね……」
「嘘つき……」
「あ、バレたか」
彼はまた自らの頭に銃を向け、引き金を引いた。
「オルフェウスッ!!」
「俺の最初のペルソナ、そして最後のペルソナ。どのペルソナよりも思い入れだけは強いね、間違いなく」
……それも嘘。思い入れだけ、なんかじゃない。間違うことなんてない、彼の中で最強のペルソナだ……。
「私は……どうしようかな?」
「チェンジくらいは待つよ?」
「そっか」
私は手を前に突き出し、カードをグッと握った。
「マリア!!」
厳密にはチェンジじゃない。
マリアの力を最大限に解放しただけのこと。ただ、このマリアの戦闘力は先程まで苦戦していたタナトスさえも勝つことが出来る。
『メギドラオン!!』
『マハラカーン!!』
彼の本気のメギドラオンを魔法反射のマハラカーンで防ぐ。反射した先では膨大な爆発が生じていた。
『ブレイブザッパー!!』
『テトラカーン!!』
『アギダイン!!』
『マハラカーン!!』
『イノセントタック!!』
『テトラカーン!!』
『ジオダイン!!』
『マハラカーン!!』
最大級の魔法や攻撃を反射して防いでゆく。何度も、何度も。
意識があやふやになればソーマを飲む。彼も全力で放つ合間にソーマの様なものを飲んでいた。
だが、やがてソーマではどうしようもなくなる。それは集中を持続し続けるがため、どうしても耐えられなくなる時。
私はその一瞬を狙い
『プリキュアハッピーシャワー!!!』
必殺の一撃を撃ち込んだ。
桃色の光線は彼に向かい、そして
『メギドラオン!!』
魔法で打ち消された。
どうしよう。最終兵器を失った今、反撃のチャンスなどなくなってしまった。もはや勝つ見込みなんて無い。私は諦めなければならない
……どうでもいい。
所詮それはフェイクなのだから。
私は彼がメギドラオンを放つ時を見計らい、先手を打っていた。
『 ホーリー 』
ごくわずかな言葉。だが、それは意味を持ち、マリアはそれに応じて動く。
メギドラオンが放たれたと同時、彼の頭上に光が差した。
まだ終わらない。終わりではない。地を強く蹴り、トップスピードで彼に一撃を放ちに掛ける。
……だが、光剣はまたしても彼によって押さえられた。
「そうだね。確かにハマ系統で僕を殺ったとしても、装備やペルソナの効果でギリギリ耐えられる様にはなってるからね。そのギリギリを削り取るために一撃を入れようと考えるのは正しい。良い判断だよ」
彼は苦しくありつつも、私の光剣を振り払った。
そして、持っていた剣と銃も投げた。
「ま、どうでもいいや。降参、もう勝てる気がしない」
私は唖然としつつ、どうでもいいながら言うのだった。
「嘘つき……」と。
こうして彼と私の戦闘は終わった。
勝敗の着かぬままに終わった。
私も
「疲れただけでしょ?」
「いや、一般人が正義の味方なんかに勝てるわけないだろう?」
「また嘘をつく……」
はっぷっぷーと頬を膨らませながら、拗ねたフリをしてみた。
何が一般人なものか。
インフィニティをくれたあの人から聞いた。
……彼もまた、世界を救った英雄なのだと。
……世界から忘れられたが、彼は一人で世界を背負ったのだと。
「さて、どうかな?」
「貴方がそう言うならもうどうでもいいよ」
「そうかい」
それよりも、と私は言葉を続けた。
「あの人……エリザベスさんは貴方を救おうとしてるよ?そろそろ逃げても良いんじゃないかな」
「……流石に怒るよ?」
「どうでもいい、じゃないんだ」
「当然だよ、俺は望んでこうなったんだ。逃げるわけないだろ?」
あの人のことはどうでもいいのか。
「救うなんてお門違いも良いところだよ。お疲れさま、もうほっといて、と伝えといてよ」
「一応伝えとく、意味は無いと思うけど」
「伝えることが必要なんだよ。……ふぅ、一夜の夢にしては中々楽しかったよ、ありがとう」
やっぱり夢だったんだ。
「こちらこそ、ありがとうございました」
私たちは握手を交わし、そして……………
夢は終わりを告げる。
私はこのことを忘れない様にしっかり思い出にしまった。
彼が最後に見せた笑顔とともに。
ご存知ペルソナ3の主人公との対峙です。
数年前に書いたものを見つけたので投稿することにしました。
内容としては短めで、書きたかっただけの話です。
時系列としては、最終章以降を想定しています。
最終章まで書き終えた時には、リメイクとして書き直そうと考えているので、書かれる可能性の低い予告程度として受け入れていただきたいです。
最後に現状報告となりますが、現在8章を執筆途中でありまして、予告の兼ね合いから7章の投稿が遅れています。
7章自体は数年前に完成を迎えていたのですが……。
それでは、このあたりで失礼します。