【アオイのガイド】
「狩猟場の説明はこれで以上になります。それでは、少し休んだら次の目的地に参りましょう」
「おつかれさまー」
聴衆への説明を終えたアオイ。自身が先頭になって歩き出し、見学者の人間たちを誘導する。
「ふぅ。上手く話せました。ただ話している途中で、また少し噛んでしまいましたね」
誘導のさなか、先ほどのスピーチを振り返って改善点を自己分析していると、
「アオイちゃん、がんばー」
「上手く出来ていると思うよ、俺は」
見学者の人たちが、彼女のことを労ってくれる。
「頑張らせて頂きます。えへへ……」
エルフの少女は照れくさそうに頬をかいた。
森の中切り開かれた進む一行。
先頭に立って皆を先導しながら、時々後ろを振り返っては、みんながちゃんと付いてこれているか。何かに気を取られて置いていかれてしまったり、脇に逸れて木々の中に入り込んでしまったりした人たちが出ていないことを、確認することも忘れない。
こうして見渡す見学者の人たちの顔ぶれは、異種族の暮らしに興味を持つだけあって、好奇心旺盛な人々であった。
異種族の人とのふれあいを求む寛容さも備えていたから、案内役のアオイも、さほどプレッシャーを抱かずに済んだのだった。
中には最近街で良く見かけるらしい(?)如何にもナイフを握って刃を舌なめずりしていそうな、怪しい雰囲気の男もいるにはいたが、実際会話を交わしてみると、決して威圧感を覚えることはなかった。
「良かったです、皆良い人そうで。これなら今日一日上手くやっていけそうです」
先導するアオイに、先ほど彼女の容姿を見て「まだ小さいのに」と言った女性が話しかけてくる。
「次はどこに向かうのかしら」
「はい。次はエルフの森の祠に向かいます。そこにはエルフの森に昔から伝わる、大事な杖が保管されているんです」
女性の質問に、アオイはよどみなく答えた。
「へー。楽しみにしてるわ」
彼女の友達らしい女性が、口を挟んだ。
「エルフの森って中はもっと鬱蒼としていて、薄暗いイメージだったけど。意外と明るくて陽気なのねー」
「そうですね。見学をされる皆さんが、初めて来たときに驚かれるそうですよ」
アオイが説明する。
最初にアオイに話しかけた女性も、話し続けた。
「ただ道の横に生えている木が、私達の歩く道の頭上にまで枝葉を伸ばしてくれるでしょう。それが日傘の役割をして、直射日光を防いでくれるから。日焼けに悩まされなくて有り難いのよねー」
「アンタつい最近バカンスで島に渡った時も、『急に日差しが差してきた』って、ステージそっちのけで日焼けばっか気にしてたよね」
「しょうがないじゃない。水着の跡の日焼けって、恥ずかしいんだから」
「あんたが『早く宿に帰りたい』って渋るからさ。ステージでスズナちゃんの両隣にいた子たちも気になってたのに、話を聞きそびれちゃったじゃないの」
「うっさいわね。ステージの後の後夜祭で2時間並んで、スズナちゃんのサインを貰って来てあげたのは誰だと思っているの」
「はいはい。まぁでも話を戻すけど。確かにエルフの森って日差しは穏やかだし。さっきからそよ風が定期的に吹き込んでくれているし。ジメジメしないで爽やかで良いのよね」
「でしょー」
女性たちが、森の快適さについて口々に感想を言い合った。
「日差しを防いでくれたり、爽やかな風を送り込んでくれたり。この森の木々って、まるで人に親切にしてくれているみたいだわね」
冗談めかして言う女性だが、
「えへへ。きっとそれは、森の木々が私たちが住みやすいように計らってくれているからですね」
前を歩くアオイは、再び振り向いて笑顔で言った。
「私たちエルフが、愛情を持って木々の世話をしているのに応えてくれているんです」
「えっ? どういうこと」瓢箪から駒。アオイに思いがけないことを言われ、不思議そうな顔をする
これもエルフ種族についての範疇での説明だったから、【フォレスティエ】で訓練をしたアオイは淀みなく答えられた。
「それはですね。私達自然を愛し、森で暮らすエルフは、森の全ての動植物と触れ合い観察することで、そこに宿る命の営みや息遣いといったものを識ることが出来るのです」
「えっ? 動物たちだけじゃなくて、森の植物にも生命があるの?」
「はい。森の動物たちだけじゃなくて、木々や草花にも、命は宿っているのです」
「へー」
「うっそー」
感嘆の声をあげる女性たち。
アオイは続けた。
「例えば目の前の動植物が悪い病気にかかっていたり、あるいはその場所の環境が悪くて、健康が優れていなかったとします。そういった動植物を発見次第、私達で保護してあげます。そして病気を治療したり住んでいた場所の環境を改善してあげたりします。そんな風に、調子を崩していた動植物さんが、また健やかに育てるように計らってあげのでする。こうしてエルフと森の動植物は、昔から共生してきたのです」
「へぇ。エルフが森の木々のお世話もしていたんだ」
「でも、これだけ木がいっぱい生えているのに、全ての木を見て回るのって大変そう。大丈夫?」
あらためて尋ねられたアオイ。
「そこは慣れですね……。ただある程度習熟すると、森を見渡すことで全体を通した生命の流れ? みたいなものを感じられるようになるそうです。その流れに滞ったものを見つけたら、その周辺に異常のある場所がある、って事になるんだそうですね」
「アオイちゃんも
「私は新米なのでまだまだなのですが……。ただ直接森の『声』を聞いて、周辺の動植物さんでどこか具合が悪い方がいらっしゃらないか、尋ねています。えへへ、ちょっとズルいですね」
「それって木の声が聞こえるってこと?」
「はい、そうですね」
「えーっ、ウッソー!」
「それって本当なのー?」
アオイの返答を聞いて、女性たちが目を丸くした。
「すごーい! ねぇ聞いた? アオイちゃん、森の木々と会話が出来るんだって」
「信じらんなーい!」
後ろを振り返り、後続のメンバーにも喧伝する2人である。
「はい。それだけじゃなくて、こう見えて私。エルフの森に住む動物や、花ともお話が出来るのです」
ちなみに、彼女はブリキの人形とも(1人で)会話ができるのだ。
(まぁこれも。長年のボッチ生活の間に身につけた技なのですけどね……)
「そっかー。それでさっきもあんな風にしゃがみ込んだり藪に飛び込んで不思議なポーズをとったりして。地面の方を見て何かをぶつくさ呟いていたんだね」
「待ち合わせ中にも他の仕事を欠かさないなんて、アオイちゃんは偉いなー」
と、先ほどの出迎えの前の奇行? についてを、思わぬ形で蒸し返される。
「それにしてもアオイちゃんのあの仕草可愛かったなぁ」
「にゃあにゃあ♪」
草むらでのアオイの恥ずかしいモノマネまで再現されてしまった。
「あ……。見られちゃっていましたか……。アハ、アハハハ……」
「勝手に感心までして頂き悪いのですが、会話の内容までは知られるわけにはいかないな」と内心タジタジのアオイであった。
「――こうして仲の良いエルフと人間の魔力に優れた方々が手を携え。エルフの森から人間の街へと繋がる結界が完成したのでした」
本日のエルフの森の観光案内も、いよいよトリとなった。
再び人間の街とエルフの森を繋ぐ道へと戻って来た一行。
今アオイが説明するのは、エルフの森とランドソルに魔物が侵入するのを防ぐ役割担う結界が出来た経緯についてだ。
「この結界があるおかげで、魔物がほとんど街に入ってこなくなり、人々は安全に暮らせるようになったのです」
結界については、とある経緯でその修復にアオイも関わった経緯があったから、幾分思い入れがあった。
こうして皆の前で説明をする時も、説明に力が入って緊張というものを忘れてしまう。
「きっと結界を作ったお二人は、いつまでもずうっと、仲の良い友だち同士だったのでしょうね……」
〆に目を細め感慨深げに語ったアオイ。
「本日のガイドは以上になります。皆様今日は一日お付き合い頂き、本当にありがとうございました」
本当はもっと人間の皆さんにお礼をいっぱい言いたいのだけども、
「ガイドの後はお客さんたちはみんな森を回って疲れているから、帰りの挨拶は手短に済ませようね」ってミサト先生から習っていたから、その通り簡潔な挨拶に留めた。
「アオイちゃんおつかれー」
「アオイちゃんのおかげで、一日楽しかったわ―」
お辞儀する背中に歓声を受けながら、「はぁ。何とか初日を乗り越えられました。お客さんもみんな良い人で良かったです。だけどこの調子でこの夏を乗り切ることが出来るのでしょうか」とほっと肩を撫で下ろしつつも、この先のことを思い憂鬱になるアオイであった。