【蛇足1・乙女の悲鳴】
エルフの森をツアー中。お昼休憩の時間になった。
ボランティアで面倒を見ていた園児たちは、エルフの森からお借りしているロッジで、お昼寝だ。
さっきまでクロエに絡んでいた子どもたちも、疲れ果てて今はぐっすりおやすみ。
「ありがとう。ここは私が面倒を見るわ」と、サレンが子どもたちの世話を引き継いだ。
そんな訳で彼らの世話から解放されたクロエは、食後ぶらぶら周囲を歩きまわっていた。
森の開けた場所に足を踏み入れる。
「ん……」
ふとクロエは何かを見つけ、立ち止まった。
広場の端っこにある木の幹に取り付けられているのは粗末な工作機械。
その木製の箱の正面には、赤くて丸いボタンが、ポツネンと取り付けてあるのだ。
それを見てクロエは思わず唸った。
(いや、何これ。こんなところ見るからに怪しげな装置用意して。設計者何考えてるんすか。えっ、何これ発進ボタン? 押したら何か出てくるの。地下で設計中の巨大ロボットとか出てくるんですか。はたまた秘密基地に繋がるエレベーターのボタンになってるとか。いっそエルフの森が地面ごと浮上するんですかねー。ってんな訳あるかっつーの。)
クロエ17歳。
斜に構えていても、未知のものに対する憧憬は人一倍強い、年頃の乙女であった。
(いやいや考えすぎだし。まぁでも、ここまでこれ見よがしに設置されているのを見たら、どうしても押したくなって来たんだが。)
何故だろうか。そのボタンには、どこか懐かしい、見る者に「押さずにはいられない」気持ちを湧かせる。不思議な魅力を備えていた。
(いやまぁ。設置した人には悪いけど文句を言われたところで「押すな」って注意書きが書かれている訳じゃないし。物は試しでやってみますか。)
ぐっ、とボタンに指をあてがう。
「んじゃ、ポチッとな」
押し込んだ。
…………
何事が起こるのかと期待していたが、何かが飛び出すわけでも周囲の地面が動くわけでもなく。何も起こらないままだ。
しばらく待ってもやはりうんともすんとも言わない装置。
「まぁ、そんなもんだよな。あぁ。くだらないことで時間を潰してしまった」
と、クロエが諦めてその場を立ち去りかけたその瞬間、
どがああああぁぁぁぁぁん!
すぐ後ろで激しい爆発。
「きゃああああぁぁぁっ?」
爆風をモロに受けて、悲鳴をあげるエルフの少女。
「何事ですか!?」
悲鳴をあげて颯爽と駆けつけたのは、【フォレスティエ】のアオイ。レンジャー然として、実に身のこなしに長けている。
これがあのいつも皆の前でキョドっているか弱いエルフなのか。そう思わざるを得ないほど格好良い。
駆けつけたアオイはクロエに対して事情を問うた。
「い、いやね……」
クロエがどう説明したものか悩んでいた時。
「あ! これですね」
アオイが指し示したのは、先ほどクロエが見つけた機械。
「それがどうした訳よ」
「私がここに設置したマシンが作動したのですね」
「ってアオイが作ったの、これ」
「もちろんです」
「いや、もちろんってね……。で、何なのさ」
アオイは何故か誇らしく宣言する。
「これこそが、私が作成した友達作り修行の為のマシン。『限界突破友達作り大爆発アフロくん』なのです!」
「アフロ……何?」
「『限界突破友達作り大爆発アフロくん』。まず改良版の友達養成ギプスを身に着けた私が、『限界突破友達作り大爆発アフロくん』の前に立ちます。そしてボタンを押します。それから私は30秒以内に笑顔を作って『友達になってください』と言わないといけません。もし制限時間を越えてしまうと……」
「越えてしまうと?」
「どかん! と大爆発。爆発に巻き込まれた私は、たちまちアフロ頭になってしまうのです!」
「いや、アフロってね」
「それを見た人はこう思うのです。『むむ、友達作りのために身を挺してアフロ頭になるとは。こいつ出来るな』と。すなわち。友達作りのアピールに成功しても、失敗しても。いずれにせよ相手に私って凄いやつだと思わせることができる。画期的な修行法なのです!」
「いや、その努力を素直に友達作りに向けよう」
ハッと気がついたアオイ。
「それにしても先ほどとても可愛らしい悲鳴が聞こえたのですが。あれは一体?」
「あ、ああ。それなんだけどね」悲鳴の主はしらばっくれた。「さっきとっても可愛いエルフの女の子がやって来て、そこにあるボタンを押したらドッカーン大爆発。驚いていたところを私がなだめて、今はどこかに帰っていったから安心しといて」
「うう。私の作ったマシンで驚かせるとは、悪いことをしてしまいました。今すぐ謝りにいかないと」
「それもうちが何とかしとくから。ともかくアオイは午後もガイドがあるんでしょ。今のうちに準備しておきー」
何とか取り繕い、アオイをよそにやることに成功する。
アオイが立ち去った後、クロエは呆れて呟いた。
「何っつ―かあの子。やっぱりすげーわ」