やはり俺の青春ラブコメはまちがっている(独)   作:あきカン

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どうしても、比企谷八幡は守りたい。

嵐のように日々は過ぎ行く。カレンダーを捲る手は淀みなく、あっという間に夏休みが終わった。だからといって忙しさにかまけて勉強を怠っていたわけじゃない、いやむしろめっちゃ頑張りましたよ? マジ誉めてほしい。ホント誰か……。

 

だから夏休み明けの学校というのは、学生の敵といえるほどに誰からも嫌われている。その恐ろしさたるや、月曜日なんて目じゃない程。

 

まず生活のリズムを整えるのが地獄。昼夜逆転生活を一週間も続けていれば、それを直すのにどれほどの日を要するか。……憂鬱なので考えないことにしておく。

とはいえ、夏休み明け初日に遅刻などという間抜けな失態を犯したくはなく、前日は21時に寝た。お陰で恐ろしく快眠。やったね!

 

などと元気に物事を考えないと、夏休み明けのショックからは立ち直れないのだ。……あぁ、早く来ないかなぁ、夏休み。

 

そうしてわりと元気な朝を迎えた俺に対して、目の前にいる妹はまだ眠そうな目をしていた。

 

「うぅ……。眠い」

 

ちびちびと味噌汁を吸う。珍しく早起きした俺が作ったものだが、まあまあの出来だ。

 

「昨日ちゃんと寝なかったのか?」

「課題がちょっと残ってたんだよぉ」

 

あらまぁそれは大変! 高校一年生の犯す失敗第一位よそれ。

と、以前俺もちょっと犯したミスを妹も味わっているのだと思うと、やっぱり兄妹なんだなと思う。

そんな妹に対して俺がしてやれることなんて。

 

「まあ気にすんな。辛いのは今日だけだ」

「お兄ちゃん」

「……ん?」

「割れてる」

 

そう言って箸を持ち上げて見せた。間にあるのは俺が作った目玉焼き。じゃなかった、目玉の潰れた卵焼きだ。

 

「……悪い」

「いや、いいよ。胃袋に入ればみんな同じだし」

 

その優しさが兄にはつらい……。妹にできることは兄にできて当然。しかし、なにせこの妹のハイスペックぶりは常軌を逸している。掃除に家事洗濯、料理に至るまで。……専業主夫、やめようかな。

ついほろりと零れそうな涙を我慢して目玉の潰れた卵焼きを箸でぶっ指し口に放り込む。……普通にうめえ。さすが塩コショウ様。

と、調味料のすごさに舌を巻いていると、ふとタタタタと床を踏む気配。

 

「あ、カーくん」

 

そう、我らが家族。カマクラである。

カマクラはたったこ居間にやってくると、ちろりと視線を小町に向けたあと、じろりと俺を睨みつける。

 

あー、はいはい。

 

俺はよっこらせっと立ち上がると、キッチンの棚からチュールを取り出し、封を開ける。皿の上にぴゅろっと飛び出た中身を見て、猛獣の顔つきになったカマクラがガツガツと牙をむき出し食べ始めた。

以前、そんなにうまいものかとちょっとにおいを確めてみたが、こう……なんというか独特なにおいだった。それを言えば世の中全てのにおいが独特と言えるんだが、そんな屁理屈はどうでもいい。

問題はこいつが明らかに俺を下に見ているということだ。序列で考えれば母親、父親、小町、カマクラ、俺、の順である。ひどくない? ボク長男だよ?

なんて、うちの家族は妹大好き家族であるのでそんなことは関係ない。兄の俺ですら妹の可愛さには耐えられない。もう戸塚しかその先はいない。

と、またまた回想に耽ってしまったが、ともあれ、こいつが俺を見下しているのは純然たる事実なのだ。さっきも小町が飯をはむはむしているのを見て、となりで味噌汁を啜っていた俺を睨んできた。

やがて、皿の上が空になるのを確認すると俺はそれを洗い元の位置に戻す。すると小町が言った。

 

「お兄ちゃんー、小町先食べちゃったから先行くねー」

「おーう」

 

今では当たり前となったやりとりを済ませて小町はリビングを出る。すると、シーンとなったキッチンでカマクラが俺をじっと見つめていた。

……何だよ。

そう目力で睨み返す。しかしこの猫、そんなことでは小揺るぎもしない。おそらくは「はよいけ」とか「見てんじゃねえよ」とか内心思っているのだろう。あぁ怖い……。そんな裏の顔を知っているのは唯一俺だけだ。

はいはいわかりましたよ、と俺はため息もそこそこに席を立つ。靴を吐き、鞄を前かごに入れて、まだ暖かい陽光の下を、ふあーとあくびしながらチャリを漕いだ。……ねみぃ。

 

***

 

まだ暖かさの残る放課後の部室。代わり映えしないこの光景は、果たして良いものであるのか。ずっと同じ関係を、蛇足で続けることに何の意味がある。

いや、わかっている筈だ。それを望んだのは他でもない俺たちなのだから。過去の選択によって分岐された未来の中から一つを選び、ここに落ち着いただけにすぎない。だから別次元の俺が他の選択をしていないとも限らない。世界は多次元的に存在しているのだから。

しかしそれでも、専業主夫という唯一絶対のスタンスだけは、俺のたった一つのアイデンティティとして全ての世界線の俺に備わっていることだろう。ヒキ氏ーはそう思うのであります。

 

「最近増えてきたよな、この手の案件」

 

パソコンの画面を指差しながら言うと、雪ノ下は頷く。

 

「そうね。やっぱり夏休みを過ぎたあたりから、こういった悩み事が増えるのはどの学校も同じなのかしら」

「高校生の恋愛なんてどこも一緒だろ」

 

やれ彼氏がかっこいいだの、やれ彼氏がつれないだの、女子側の小言がスレッドに並ぶのは当たり前。見ていて眩暈するわ。ていうか前半、相談じゃなくてただのノロケじゃねえか。

淡々と面倒なものを削除していく。どれも似たようなもんだから一人の女子が何度も投稿してると言われても一瞬信じそうだ。

だからその中に、場違いのような普通の悩み相談があると一際目立つ。

 

「なんだこれ」

 

思わずこぼしてしまったが、他のツイートまがいのものを見て俺は少々混乱していたらしい。

 

<PN:Taishi さんからのお悩み>

 

『好きな人との距離を縮めるにはどうしたらいいっすか。向こうはただのクラスメイトのような感じなんすけど、それを変えていくにはどうしていけば教えてほしいっす』

 

その差出人が誰であるのか、わかったのはおそらく俺だけだ。しかし別人という可能性もなくなはないため、あえて一般的な回答にしておく。

 

<奉仕部からの回答>

 

『積極的に話しかけていけば向こうもそのうち気になってくるんじゃないでしょうか』

 

「テキトー! ヒッキー、テキトー!」

由比ヶ浜が声をあげる。……なんだよいいだろ、さっさと玉砕してほしいんだよ兄としては。

などと目線を送っていると、俺の回答を見た雪ノ下が眉をひそめる。

 

「むしろ嫌われてしまうんじゃないかしら、女の子ってそんな単純な生き物じゃないわよ」

 

……なんだろう、こいつに言われるとものすごく説得力がある。単純のたの字も当てはまらないその筆頭だからだろうか。しかし言われてみれば、男に女のことが同性以上にわかるわけがないのだ。性別の違いというものは、そのまますっぽり性格の違いにも当てはまってくる。男に単純馬鹿が多いように、女にもだいたいが当てはまる基準があるのだろう。それがつまり、今時分言われたことそのものに違いない。

 

「で、あれだろ? それを人前で見られたくないから表面的には普通に接して見せるんだろ」

「あら、よくわかってるじゃない」

 

コワいよ~、なんで女の子ってこんな怖いこと笑顔で言えるの? ……まさか、まさかまさか、由比ヶ浜も……。

 

「ちょ、なんであたし見るし! みんながみんなそんなんじゃないし!」

「……わかってるよ、確認しただけだろ」

「何かわかったの?」

 

雪ノ下が聞いてくる。俺はにやりと笑い肩を竦めてみせた。

 

「なにも」

 

だから女子ってコワいのよ。裏が見えないから。……しかしまあ由比ヶ浜は、ある程度こっち側ではあるのだろう。俺は未だ送信はしていないその文章を全て消し、新たに回答を提示する。

 

<奉仕部からの回答(part2)>

 

『当たって砕けてください』

 

兄としては妹の幸せが第一なのです。さっさと砕けて散れ。

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