「……アンタ、さっきのわざとでしょ」
寒気につつまれた遊園地のベンチでぽつりと川崎が告げる。
「何のことだ」
「とぼけてもわかるよ。アンタ、大志に何か言われてるんでしょ」
核心を持った口調に、これ以上の茶番は無駄だと、俺は上着のサイドポケットからカイロを取り出した。
「協力はしていない。さっきのは、それが最善だと思っただけだ」
こんな寒空の下、何の準備もしない奴がどこにいる。冬ならばカイロの一枚や二枚、背中に貼った上で懐に隠しもっておくのは当たり前だ。演技のうまさはさておき、小町も何の疑いもなく送り出されたとは思っていないだろう。
「お前の方こそどうなんだよ。大事な勉強時間まで割いて弟に協力するほど余裕なのか?」
「息抜きが大事だって言われたのは本当だよ。大志は何も話しちゃいない」
それは暗に、全てを知ったうえで協力していると言っているようなものだ。弟に気づかれないようにあくまで姉としてのふるまいを見せていたのはそのためか。変なぎこちなさもなく、打ち合わせた感じもなかった。
「アンタはどうなのさ」
聞かれて俺は薄く笑った。愚問だな。
「俺には小町がいるからな。妹のわがままを聞けるのは兄の特権だ」
堂々と言ってみせる。川崎は予想していたのか、少し驚いたような顔をすると、ため息を吐くようにベンチに深くもたれ掛けた。
「……シスコン」
「ほっとけ」
そんな短いやりとり。川崎は遠くを見やった。すると、とたとた近づいてくる天使の気配。
「おねいちゃん、こーひかっぷのりたい!」
我慢できなくなったのか、京華が土いじりに飽きてやってきた。こんな年ごろの娘を放っておくなんて、世の奥様が知ったらカンカンですわよ!
なんて適当なボケを脳内で繰り出し「ないな」と笑った。
「はいはい」
川崎は言いながら立ち上がる。このやさぐれ感、セーラー服とバットを持たせたらもっと磨きがかかるだろうに。
それでも彼女の本質は新妻であるからして「じゃ、行こうか」と優しく京華の手を掴んだ。
無言で俺も立ち上がると、川崎が振り返ってこっちを見てきた。クソ、俺の
内心舌打ちをしつつも、顔は平然といつもの顔の俺である。やっぱ演技力高いんじゃないだろうか。
「地蔵になってるんじゃなかったの?」
「歩いた方が身体も温まるだろ」
用意していた返事をすると、川崎は「離れて歩いてよね」と一言告げて前を向いた。
俺は、当たり前だと鼻で笑って見せた。
えー、俺も疑似お父さんプレイやりたいぃー!