コーヒーカップの勢いに負けてぐるんぐるん目を回すこと数セット。降りた時にはなかなかと疲労困憊だった。
「うおお……」
「大丈夫?」
隣りの川崎がおじいちゃんのように腰を曲げてうずくまる俺に声を掛ける。
「ちょっと……。休憩させてくれ」
情けなく弱音を吐くと、「ん」と小さく頷いた。俺はよろよろと目先のベンチに座り込み、力なく項垂れた。
「気持ちわりぃ……」
「はい」
どこからか聞こえた声に顔を上げると、川崎が紙コップを持って俺の前に差し出していた。
「サンキュ……」
湯気を立てているということは温かい飲み物なのだろう。この際マッ缶でなくても文句は言わない。俺は有り難く受け取った。
飲むと、じんわりと甘く、コロロがホットになる。これは間違いなく、MAXコーヒーに違いない。
なぜこれを選んできたのか、聞くのも野暮というものだろう。紙コップを傾ける川崎に俺は言った。
「いくらだった?」
「いいよ。付き合ってくれたお礼」
ぶっきらぼうに言うと、くいとコップを傾ける。不覚にも見とれてしまいそうになった。カッコ良すぎやしませんかね……。
ほっと息を吐くと、川崎は呟いた。
「私が言うのも何だけどさ、大志はああ見えて結構シャイなんだ」
え、どこが? と俺は思ったが、普段見られない川崎の表情に繰り出すことはしなかった。
「だからこの前みたいに誰かを頼ったこともあんまりなくて……。あんたには大志、結構なついてるでしょ?」
「いや好きなやつの兄だからって、利用しようとしてるだけだと思うんだが」
「大志はそんなことしない」
きっぱりと言った。
「だから大志がまた頼ってきたら、力になってやってほしい」
「俺も兄としての立場あるから、その辺はなあ……」
悩む仕草を見せると、横からズバリと飛んでくる。
「あんた、兄である前に男だろ」
どういう理屈だよ……。
「大志が言ってたよ、応援してくれるって。男は約束を守るもんでしょ」
協力はしないって言ったのになあ。さては都合の良いことだけ覚えてたな。
ここで言い訳をしていては「男じゃない」とか色々言われそうな気がする。いや別にそれは良いんだが、隣りの京華にまで男らしくないと思われたくはない。なにせ俺、おにいちゃんですから。
「わかったよ。けど小町の気持ちが最優先だ。俺は……あいつが幸せなら何でもいい」
「いいよ、それで」
川崎は満足したように頷いた。すると京華が急にベンチから降りて、ある方向に指を差した。
「あ、おにいちゃん」
それに反応して、川崎がそこに視線を向けた。しかしあるのは、ただ悠然と回り続ける観覧車だけだ。
「けーちゃん、お兄ちゃんどこにいるの?」
「あそこ」
京華の指は動かない。川崎は眉をひそめたが、つまりはそういうことなのだろう。
「中にいるんだろ」
「えっ」
それしかあるまい。双眼鏡でも渡して確認させれば早いが、そんなパパラッチの常備品のようなものを俺が持っているはずもなく、携帯で確認をとろうとする。
『小町、今どこだ?』
しかし待っても、返事はこなかった。既読すらつかず、これは電源を切っているのではないかとしか思えない。
俺は携帯を閉じ、観覧車の方向を見やった。
「どうする、行くか?」