やはり俺の青春ラブコメはまちがっている(独)   作:あきカン

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比企谷小町は、いつだって変わらない。

買い物を終えて、二人は八幡たちと合流することになった。時刻はまだ正午を過ぎたあたりだが、あの二人が一日中遊べるほど時間の使い方を知っているとも思えなかった。せいぜいのんびり缶コーヒーでも飲んで、兄はまったりしているだろう。その隣りにいるであろう、川崎沙希がリフレッシュできたのかはわからないが。

 

「じゃあちょっと、お兄ちゃんに連絡してみるね」

 

携帯を持ち出し、小町はそう告げた。もしかすると彼が携帯を持ってきていない場合も十分考えられるのだが、その時はその時だ。

俯いた表情の大志が、いきなり「待って!」と叫んだのが文字を打とうとしたのと同時。『今どこ?』と数秒もかからず遅れるメッセージであったことを考えれば、ギリギリのタイミングであった。

 

なかなかびっくりして大志を見ると、真剣な表情。どうしたのか聞いてみると、つぐんでいた口を開いて言った。

 

「……比企谷さん、何も言わずについてきてほしい」

 

思い詰めたような険しい表情に、戸惑いながらも「うん」と返事をした。

何も言わずにと言われてしまったからには、どこに行くのか聞くのもしてはいけないのだろう。

 

まさかどこかに連れ込むなどということは考えも及ばず、そんな度胸があるのならばわざわざこんな宣言をしたりしないだろう。

 

「あ、ごめん。その前にお手洗い行かせて」

 

すぐそこにある園内トイレを指さすと、大志はこくりと頷く。小町はしゅたたたと短い距離を駆け、トイレを済ませると、急いで戻ってくる。

 

「ごめん、じゃあはい、どうぞ」

 

ぎこちなく告げると、大志は「うん」と歩き出した。並んで歩くのは少々緊張して、小町は大志の後ろについた。

 

果たして、二人がやってきたのは八幡たちのいるエリア付近。来た道を戻ってきただけのように思われたが、急に方向転換をして、ある場所に足を向けた。

 

そこは遊園地のなかでも指折りのスポット。————観覧車である。

幸いにも人の姿は周りになく、大志もほっと息を吐いているように見えた。

 

何も言わずにと言われている以上、ここに連れてきた理由を問うのも約束に反する。小町は大志のあとに続いて観覧車に乗り込んだ。

 

職員さんの説明を聞く限り、一周にかかる時間はおよそ15分らしい。それが長いのか短いのかわからなかったが、その時間内で大志が何かを伝えようしているのだけは予想できた。

 

動き出す瞬間、ぎぎぎと鉄のこすれ合う音がした。小町はやや身構えたが、そこから二人の乗ったゴンドラはゆっくりと浮上していった。

 

横の窓ガラスを見ると、見たこともないほど遠くまで景色が続いている。しかしまだ半分も来ていない。そこからさらに遠くの街並みまで移り、頂点に登ったころにはまるで雲の上にいるような気分だった。

 

「うわ、たっかーい」

 

さながらタワーの窓ガラスに顔を張り付けて覗き込むこどものごとく、小町は窓に手を当て景色を堪能していた。

なるほどこれで15分か。……悪くない。

あっという間にゴンドラは一周を果たし、入り口の扉が開いた。

 

そこでふと、小町は異変に気づく。

大志が微動だにしていないのだ。ずっとそこで固まったまま、俯きがちに下を見つめている。

 

「どうしました?」

 

聞いてくる職員に向け、小町はだめもとで聞いてみた。

 

「これってもう一周してもらうことってできますか?」

「はい、可能ですよ。ご利用になられますか?」

「はい、お願いします」

 

間もなく、扉が閉められる。職員さんに頭を下げ、小町は大志に視線を移した。

 

……つい、自分だけ堪能してしまった。大志のことなど忘れてしまい、初めての観覧車にこどものようにはしゃいでしまって恥ずかしい。それを見られていないことも、また恥ずかしい。

 

緊張した面持ちの大志に、小町はそっと告げた。

 

「ごめん、観覧車はじめてだったからさ。ついはしゃいじゃった」

 

経験豊富に見えて、意外とこういった場所にくるのは初めてである。なにせ兄がああいった性格なゆえ、行くのはたいていどこかのショッピングモールだ。最近はこういったレジャー施設などにも足を運ぶようになって、やっと一般的な娯楽を共有できるようになったばかりである。

 

「いや、いいよ」

 

目の前の少年は、俯いた表情を崩しはしなかった。それがどこか思い詰めているように見えて、いつかの兄の姿に重なる。いくら妹といえど、家族(あに)の悩みを放っておくようでは友達の悩みも聞いてあげられない。ましてや彼は同学年だ。今この状況で、聞いてあげられる人間が自分以外のどこにいる。

 

小町はポケットから、二本の缶を取り出した。兄からよく聞いた話である、話をする前には、まずお互いに落ち着くことが重要だと。

 

————俺はたいていコーヒーさえあれば平常を取り戻せる。カフェイン最強、マジ最強。

 

摂り過ぎないようセーブさせているが、一定の効能があることは知っている。帰りに買っておいてよかったと内心胸を撫で下ろしながら、小町は大志にそれを差し出した。

 

「寒いでしょ。温まると思うよ」

 

さながらカイロの代わりであるのかのように渡すと、大志の表情から緊張が少し薄れた。寒い日は自然と顔がこわばってしまう、普段から目つきの悪い兄ばかり見ているせいで気づかなかったが。他人の受け売りというのはなかなか馬鹿にできない。

 

「ありがとう」

 

カシュとプルタブを開けて大志がコーヒーを呷る。真っ白だった顔色に赤みがさした。まるでここだけ冬のようだと小町は思う。

ふーっと息を吐いた大志がぽつぽつと話し始めた。

 

「今日、付き合ってくれてありがと」

「ううん、こっちこそ。うちの兄のリフレッシュになったかは、ちょっとわかんないけど」

「うちの姉ちゃんはたぶん……大勢で遊ぶのとか苦手だから、先輩が相手で安心してると思うよ」

 

大志は苦笑い交じりにそう呟いた。

今なのかと小町は思う。聞くべきか? 聞いてもいいのだろうか……。

 

「ね、さっき言ってた話って、ここでよかったの?」

 

彼のために聞くと、大志は「うん」と頷いた。

 

「ここじゃなきゃ、おれはちゃんと言えないから……」

 

そう告げて、大志はぐっと顔を上げる。見たこともない、男の顔をしていた。

 

「……ッ。———……」

 

 

 

 




季節設定冬にしたいです。書いているのが今の時期なので、秋ですが今くらい寒い季節ってことにしてください。
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