『勉強会』それは何も、青春を謳歌せし者達だけの特権ではない。ただ単に成績をあげたいという思いから人が集まることもあるし、【赤点を乗りきろう同盟】なんかが発足し、大勢で苦手科目をサポートしようという思惑もあったりするかもしれない。
しかし大半(特に男子)はうまくいかない。
人が多いと集中力は下がるし、他の人がダラダラやっていると自分もダラダラしたくなる、そんな覚えはないだろうか。
そんな、勉強に対して無気力になってしまうような勉強会など起こすべきではないのだ。
結論を言おう、成績を上げたければ勉強会なんてものを作らず、自分で何とかしようとすることだ。そうすればいつのまにか、一流のボッチになれる。
「比企谷くん、そこは2ではなく13よ」
そう、思っていたのはいつの日か……。
「っとと、計算ミスしてたわ」
「ヒッキーおっちょこちょーい」
指を差して由比ヶ浜は俺を笑う。
───こいつ。
「由比ヶ浜、なんでこの回答がこうなるんだ?」
俺は由比ヶ浜が書いた答案を指差す。
問: ミチオはカオルにどういう想いを持っているでしょうか。
答: 好き
「なんでって、『ミチオ』は『カオル』のこと好きなんじゃないの?」
「そりゃそうだろ、前文にそう書いてあるんだから。けど問題はそこじゃない。行動からもう少し具体的な思いが読み取れるだろ?」
てか書いてあるし。
由比ヶ浜は少しだけ悩むような仕草をとり、
「この鈍感主人公ー!!………とか?」
……どこのツンデレヒロインだよ。しかも書いてないし。
「お前それどこで知ったんだよ。最近のアニメでもなかなか見ないぞ、そんな台詞」
俺の発言に雪ノ下の手が止まる。
「……比企谷くん、あなたそういう類にも精通しているの?」
やばい、雪ノ下と由比ヶ浜にだけは知られたくなかった事実を。
「いや、材木座に無理やり勧められてな。たまに送ってくるんだよ、あいつの好みなキャラの画像とか」
そう自分から精通しはじめたことは否定しておく、あくまでも材木座によってアニメの知識を無理やり覚えさせられたということに。
「………へえ、そう」
あからさまに雪ノ下、と由比ヶ浜の顔が曇る。まごうことなき嫌悪の顔。俺に向けられたものじゃないことはわかるが、いったいあいつの何をそこまで嫌っているのか。
「……ともかくだ。由比ヶ浜、無理に登場人物の気持ちになる必要はない。そういう小説みたいなことをさせてるんじゃないからな、これは」
あくまでも書かれていることからそれに準ずる一文を抜き出せと伝える。
そうすると、少しだけだが由比ヶ浜にも成長の兆しが見え始めた。
「家出してきたミチオを泊めてあげたけれど、自分の生活も忙しいし、できればまた夢を追う彼の姿が見たいから一度家に帰ってほしい……まあ、だいぶよくなったか」
あくまで今までと比べて、だけどな。
しかし、確かにこの手の文章は俺もあまり得意な方じゃない。論文などの論述の方が明らかに得意だ。文字から人の気持ちが全てわかるなら顔や仕草で表現する意味自体がなくなる。あくまでも俺たち読者にできることは共感するくらいなものだ。
俺は回答を大分削ったものを由比ヶ浜に見せる。
「また夢を追う彼の姿が見たいから帰ってほしい──ほんとにこれだけでいいの? ヒッキー」
「文章はシンプルな方がいいんだよ。無理に長々と続くようなものは何が重要かわからないからな」
ここで一番重要なのは彼女がミチオのことを好きだということ。 こういう時には一度その登場人物の気持ちにならないといけないのだが、俺はそういうのが苦手だ。
だからキャラクターを変える。
たとえばミチオは戸塚で、カオルは俺。戸塚なら俺は何日でも泊めてやるし、むしろ泊まってほしい。しかしそれは戸塚のためにはならないから、俺は泣いて戸塚に言うのだ。
「ごめん、戸塚。俺はお前のためなら何でもしてやりたいが、もうこれ以上、脱け殻みたいなお前を見たくないんだっ!」
そして戸塚は俺に言う。
「わかったよ八幡。僕、八幡に見合うようなお嫁さ……じゃなかった、友達になれるように頑張るよ」
俺は笑顔でそれに答える。
「ああ! 待ってるぜ!」
とまあこんな感じで当てはめていけば、カオルはミチオのためを思って行動していることがわかる。
しかし由比ヶ浜には理解できなかったようで。
「わっかんないよーっ!」
結局はそれで終わった。まあ少しは前進した……ということにしておきたい。
「──比企谷くん、こことここ、あとこれを追加しておくわ」
息つく暇もなく、雪ノ下大先生からのお達しがきた。
そう、俺も数学を勉強しなくてはいけないのだ。
俺は由比ヶ浜に【味噌ピー茹でピー事件】以来のことわざの課題を出した。
そしてしばらくの間鉛筆が走る音と由比ヶ浜のぶつぶつとした声がリビングに響く。
すると。
「小町ただいまー」
「おう、お帰り」
「おかえりなさい、お邪魔しているわ」
「小町ちゃん!やっはろー!」
突然登場した我が妹に、現場は一気に空気を変える。
雪ノ下と由比ヶ浜に挨拶した小町は俺に向かって言う。
「お兄ちゃん、もうすぐお昼だよ」
俺は時計を見る。
「……そういえばそうだったな、すっかり忘れてた」
俺がそう言うと、小町はふっふっと不敵な笑みを浮かべる。
「テテーン! こういうこともあろうかと、小町はお昼ご飯の具材を買ってきたのです!」
まるでマジックショーのようなテンションで、小町は後ろに隠していたレジ袋を見せた。
「だから俺が起きた時にあわてて出ていったのか」
「そうだよー。 お兄ちゃんはたぶんなにも用意してないだろうと思ったからね」
我が妹ながら流石という他ない。そういう気配りスキルはボッチの俺には備わっていないのだ。
「小町さん、私も手伝いましょうか?」
雪ノ下が立ち上がる。
「いえいえ、雪乃さんは座っててください。お客さんなんですから」
「そういうわけにはいかないわ。ただ待っているだけというのも時間の無駄だし、ちょうど今から休憩にしようと思っていたところなの」
多少の方便も交えながら雪ノ下が食い下がる。
「なるほど、そういうことならお願いします。ちょっと多めに買っちゃったので、実を言うと一人だと結構きついなーと思ってたんですよ」
小町は意外とすんなり受け入れた。というか、今の一連のやりとりは、なんというか社交辞令のようなものだったように感じる。
「私も手伝おっかー?」
「「由比ヶ浜さん(結衣さん)は座ってて大丈夫(です)よ」」
ほぼシンクロしたように二人の声が節々で重なる。
由比ヶ浜がガーンとした表情をする。そして机に頭をつけてうーっと鳴く。
「……まあ気にすんな」
俺は由比ヶ浜に声をかける。
由比ヶ浜の顔があがる。
「料理ができない女子が好きな男もきっといるだろうからな」
「フォローになってないしっ!」
由比ヶ浜が叫ぶ。
「っていうかヒッキーは料理できるの……!?」
少し強めに由比ヶ浜が訊いてくる。
「……ああ、兄は意外とできますよ、料理」
料理中の小町がなぜか俺より先に答えた。
「本人は疲れるからっていつも嫌がりますけど、昔小町が熱出した時とかは、両親じゃなくて兄がお粥を作ってくれたりしたんですから」
何を平然とそんな恥ずかしい話を………。
「……へえ、意外と優しいのね、比企谷くん」
凍てついた言葉が吹雪とともに飛んで来る。
「へー、ヒッキー料理できるんだ」
女子二人ふたりの反応の差がやばい。注目している部分が違うことが容易にわかる。
「まあでも、昔の話ですよ。今は料理はほとんど小町が担当なので兄が料理できる保証はどこにもないですね」
こ……こいつ、人のあがった唯一のポテンシャルの高さを上げた本人にも関わらず否定しやがった。
「料理はレシピが全てなんだよ。俺は別に料理ができるというわけじゃなくて、料理が作れるだけだ、レシピさえあればな」
とりあえずそういうことにしておく。嘘も方便というやつだ。まあ持論というふうに理解してくれるだろう。
「まあ兄の世迷い言はほっといて、料理進めちゃいましょう」
「そうね、それが最善ね」
何が最善だ、人の話を聞け。
その後食べた昼食は雪ノ下作の鳥団子スープと小町の肉じゃがだった。
勉強もスポーツ(体力を除き)も以前やったお菓子作りでさえも普通に手際の良さが目立つ雪ノ下だが、料理の腕前だけはまだ知らなかった。
小町意外では初めての手料理ということもあり緊張しなかったいえば嘘になるが、口に入れる。
まあ味の感想なんてものはしないのだが、まあ……その、あれだ。
これからは、週一で小町に鳥団子をスープ作ってもらおう。
本編を知ってる人に「嫁度対決で料理の腕は知ってたんじゃないか」という最もな指摘を受けたんてすが、まあSSなので大目に見てください(OVAだしオッケーだよね、たぶん)