Muv-Luv Alternative Preliminary Ideal   作:しゅーがく

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始めまして、しゅーがくです。
マブラヴを初め、色々な作品や外伝が発表されているMuv-Luv。
『Muv-Luv Alternative』と『Muv-Luv Alternative Total Eclipse』をプレイして、一番印象に残ったオルタの外伝を妄想してましたが、文章化することにしました。

1話1話の投稿文字数の少ない自分の欠点を潰す為にもがんばってみようと思います。ですが、その分投稿頻度は落ちます。


episode 1

「んっ、はぁ。よっこいしょ。って...えっ......。」

 

武は目を疑った。珍しくいつもは締めるカーテンを閉め忘れて寝たが、起き上がり外を見ると幼馴染の鑑純夏の家の隣の家は突然、大きく青い物に変わっていた。それは国連軍横浜基地所属の戦術機、F-4ファントムだ。

 

「3回目......か......。」

 

武は絶望した。1回目の『この世界』ではオルタネイティヴⅤが発動し、ラグランジュ点で建造している宇宙移民船団が辿り着くかも分からない航海に旅立ち、地球では五次元効果爆弾、通称『G弾』が世界各地に点在するハイヴに落とされる『バビロン作戦』が発動される。2回目ではオルタネイティヴⅤを阻止し、数式を回収、00ユニットの完成、凄乃皇弐型と四型、桜花作戦......。神宮司軍曹や、伊隅大尉、速瀬中尉、涼宮中尉、柏木、たま、美琴、彩峰、委員長、冥夜、純夏......色んな人に助けられ、そして失い、その引き換えに『前のこの世界』の人類、約10億人と『前のこの世界』に居た時に壊してしまった『元の違う世界』の人類60億人を助けた。でも、また『この狂った世界』に連れて来られてしまった。

 

「またか......でも、因果導体は純夏で桜花作戦の後にODAの劣化で機能停止して、浄化出来る反応炉も『前のこの世界』で速瀬中尉がS-11で......。」

 

武がもの思いに更けながら歩いた先は、白陵学園のあった場所に建てられた横浜基地だった。相変わらず、あのレーダーサイトは凄いと感心をしていると、基地の施設に異変を感じた。

 

「今日は10月22日で、ここはまだ佐渡島ハイヴのBETAは攻めて来て無いのに、何であんな所に要塞級の死骸があるのだろう。」

 

武は遠くに見える地面に刺さった要塞級の脚を眺めた。何本も刺さっている。

 

「あの辺は確か第1滑走路がある場所だな。」

 

武は運のいい事に出てきた家の自分の部屋に掛かっていた白陵学園の制服、『この世界』では横浜基地207衛士訓練小隊の制服を着て出てきていた。

 

「何も無い下の町を見に行くなんてどうかしてるぜ。IDと外出届を見せてくれよ。」

 

話し掛けて来たのは『前のこの世界』で話しかけて来た警備兵とは肌の色が違っていた。

 

「......。」

 

武は黙って通ろうとした。

『前のこの世界』でもそう言って止められて、殴られて、夕呼先生を呼んでもらって、霞のリーディングで信用して貰ったんだ。

なので今回もその手で行こうと武は考えた。

 

「悪い冗談はよせよ、ここの訓練兵だろ?」

 

警備兵はハハハと笑って手を出した。片手にはライフルが握られている。

 

「冗談じゃ無い。」

 

武は塞がれている所を通ろうと歩くが、警備兵に邪魔されてしまう。

 

「おい!怪しい奴め。IDと所属部隊を言え!」

 

今度は警備兵はライフルを構えて、強い言い方で武に言った。

 

「両手を組んで挙げて膝を付けっ!IDと所属部隊を提示せよっ!」

 

警備兵はもう一人の警備兵を呼んで、HQに通信を入れさせた。

 

「ちょっとまて!次いでに、夕呼先生を呼んでくれ!」

 

武は両手を挙げて膝を付いて言った。

 

「ん?何故貴様が香月博士を呼ぶのだ!」

 

「いいから!呼んでくれ!」

 

武は強い口調で言った。

 

「分かった。どうせ報告はしなきゃいけないからな。」

 

そう言うと警備兵はまた通信をした。

 

基地の正面玄関から夕呼が秘書官のピアティフ中尉と警備兵2人を連れて武の捕縛されている警備兵詰所まで来た。

 

「私を呼んだのはあん......た!!」

 

警戒している顔から夕呼は驚きを隠せない顔に変わった。

 

「ピアティフ中尉、社を連れて来て頂戴。」

 

「了解。」

 

ピアティフ中尉も驚いた顔をしていたが、すぐに基地の施設に入って行ってしまった。

 

「さて、貴方は誰?目的は?」

 

そう言うと夕呼は入って来て驚いた位置から動かず、そこから拳銃の銃口を武に突き付けた。

 

「はい。白銀武です。目的は......分からないです。」

 

そう武が答えても、夕呼は質問を続けた。

 

「じゃあ、シロガネタケル。貴方にもう1つ質問するわ。」

 

「分かりました。」

 

夕呼が一呼吸している間にピアティフ中尉が霞を連れて入ってきた。霞も夕呼同様、驚いた顔をしたがすぐに普通に戻った。

 

「じゃあ質問。この娘の名前、分かる?」

 

夕呼の口から出た質問は武の考えを遥か斜め上をいっていた。

武は『この世界』に来たのは今まで記憶にあるだけ2回、その2回とも2001年10月22日で、夕呼はあったことも無い霞の名前を言えなんて意味の分からない質問を武に突き付けた。

 

「えっ......何、言ってるんですか?分からないです。」

 

武は知っているが、また繰り返す10月22日を上手く横浜基地に入る事を考え、ワザと知らないフリをした。

 

「この娘は社霞。ごめんなさいねぇ、もう1つ質問いいかしら?」

 

またもや驚いた顔をした。

武は一体どういう事かさっぱり分からずにいた。今までの2回の記憶と相違点が浮上してきたからだ。今まで引き止めてきた警備兵は変わり、今まで質問は誰だの目的だのを聞かれてきたが、よりにもよって霞の名前を聞く。意味の分からない点ばかりだった。

 

「本当に、正直に答えなさい。貴方の目的は何?」

 

夕呼は今度はとても冷酷な目で質問を投げかけた。

 

「オルタネイティヴⅣの成功と、オルタネイティヴⅤの阻止です。そして、『この世界』の人類を救う事。それに俺は同じ世界、同じ時間をループしている様です。1回は解放されて『元の世界』というか『もう1つの元の世界』に戻って居ましたが、再び『この世界』に戻ってこさせられました。」

 

 

「社。」

 

「はい。」

 

一瞬だけ、無言を挟み、また夕呼は武に質問をした。

 

「質問をする前にこれだけは言って置くわ。今日はその『10月22日』ではないわ。」

 

武は驚いた。また因果導体、鑑純夏の思いや、シリンダーに入っている脳と脊髄によって確立時空を飛び越え、同じ『この世界』に飛ばされたと思っていたからだ。

 

「それで、質問。私は貴方と同姓同名顔や身体付きが瓜二つな人間の知り合いが居るわ。いえ、『居た』の方が正しいのかしら。これも言いたかった事。それにその人間がつい最近、失踪したのよ。あそこの桜並木に行ったきりね。」

 

武は記憶を遡った。2回目の『この世界』で桜花作戦で大切な仲間と純夏を失った事と、作戦後に霞から聞いた純夏についての事を思い出した。その後、桜並木の下で夕呼と霞に見送られて『元の世界』に戻った事を。

夕呼の言った事はそれと酷似していた。武は桜並木の下から『元の世界』に戻っている。それに桜花作戦が成功し帰還した後、戦死などといった事にして有耶無耶に出来ない様な状況で、2回目の時に武は何人もの人間と言葉を交わしていたので戦死として事後処理出来ない事も。

 

「じゃあ質問ね。さっき同じ世界を2回体験したとか言ったわね?その時の私の対応は?」

 

質問というか、なんかよくわからない展開になってきていて、武はもう何が何だか分からなくなっていた。

 

「1回目は、この後すぐに営倉に入れられて、その後に夕呼先生に出して貰いました。2回目はこの世界について、先生しか知り得ない情報を言い、それに加えてそこの娘に俺の言っている事が嘘ではない事を証明して貰いました。」

 

武はあるがままに言った。これまで経験してきた『この世界』について言った。

 

「そう、重ねて質問するわ。その前に私の部屋に行きましょうか。」

 

武は一応信用されたのか、拘束を解かれ、一応自由にはなった。

だが、夕呼は今までの1回目と2回目とは全く違う対応を取られて、頭の中は真っ白になっていた。

 

「じゃあ、質問ね。まず『この世界』では既にオルタネイティヴⅣは成功しているわ。」

 

夕呼の言葉に混乱していた武の脳はさらに混乱した。戻ってきたのは10月22日ではなかったのか?と再び考えてしまった。

 

「2回目の最後の記憶を教えてくれると嬉しいわ。」

 

夕呼は机の上に散乱している資料のうちの1つを手にとって言った。

 

「はい。その前に、俺は夕呼先生によってここの訓練学校に入らされました。その後、1ヶ月後に任官している事を先に言って置きます。」

 

「続けて。」

 

夕呼は険しい顔をしている。

 

「最後の記憶はある事がきっかけで予定していた作戦が早まったのですが、その作戦はオリジナルハイヴ攻略を目的とした桜花作戦で、各外縁部に点在するハイヴを陽動として前線を押し上げて、その後に国連航空宇宙総軍全軍とアメリカ航空宇宙軍約8割を投入してオリジナルハイヴへ軌道降下、その際、オリジナルハイヴ反応炉、あ号標的の攻撃部隊A-01と決戦兵器A-04がオリジナルハイヴにSW115から地下茎構造に突入し、あ号標的の破壊に成功した。という事ですかね。」

 

武は不安になった。夕呼はさっき今日は10月22日ではないと言った。じゃあ、今日は何年何月何日なのかが分からないのだ。

 

「そう、貴方をシロガネタケルと認めざる負えなくなったわ。さっき言った記憶が正しい事も、嘘を一切交えていない事も証明出来たから。」

 

夕呼はため息を付いて、さらに質問をしてきた。武はもう証明出来たのならいいじゃないか、と思った。

 

「じゃあ、最後に。本当に素直に答えてよ?」

 

武は念を押された。一体何を聞こうというのだろうか。

 

「『2回目のこの世界』での所属部隊名を先ず答えて貰いましょうか。」

 

「国連軍太平洋方面第11軍横浜基地・基地副司令直属特殊任務部隊A-01です。」

 

「では、さっき言った桜花作戦での決戦兵器A-04とは何かしら?」

 

「米国主導HI-MAERF計画にて生み出された戦略航空機動要塞XG-70をオルタネイティ

ヴⅣが接収し、研究が中断されいたものがオルタネイティヴⅣによって完成させられた。XG-70d『凄乃皇・四型』の事です。」

 

夕呼は表情を変えずに質問を再びぶつけてきた。

 

「なら、その桜花作戦で自分の部隊はどれだけの犠牲が出たの?」

 

「戦死4名です。メインコンピュータは機能停止しました。」

 

「そう。」

 

夕呼は霞の顔を見てすぐにこっちに戻ると大きく深呼吸した。

何かを言うのを決心したのか、一瞬の戸惑いや焦りも感じた。

 

「白銀、あんたは救った2回目の『この世界』に戻されたようね。だけど、ちょっと違うわ。『この世界』の桜花作戦も成功したし、凄乃皇もある。だけれど、『この世界』での桜花作戦は横浜基地から出撃した部隊には戦死者がいなかったわ。しかもさっき言ったわよね?戦死4人生還2人って。こっちではね、戦死0人生還14人よ。メインコンピュータは再起不能になってたけど。」

 

武は固まってしまった。同じところに飛ばされたのでは無かったのかと考えたが、どうしても見当がつかなかった。唯一ついたのは、『2回目のこの世界』で夕呼が言っていた事。『確率時空には幾つもの世界が存在する。』

じゃあ、この世界は俺が救ったんじゃ無いんだ。武はそう思った。

 

「ちょっと違うって事は、白銀が経験した『2回目のこの世界』では桜花作戦のあ号標的攻撃部隊で戦死者が出ている事位しか見当がつかない。そう考えると白銀が経験した『2回目のこの世界』というのは『この世界』により近い確率世界という事になるわ。」

 

「じゃあ、安否確認をしていいですか?『2回目のこの世界』では最初に神宮寺軍曹、次に柏木、伊隅大尉、その次に速瀬中尉、涼宮中尉、そして桜花作戦で委員長、たま、彩峰、美琴、冥夜が死にましたが、『この世界』ではどうなんでしょう?」

 

武は夕呼の『近い確率世界』という言葉を聞いて安心していたので、本当にそうなのか確認したかった。

 

「そうね、さっき白銀が言った通り、その人間は全員生きているわ。その様子を見

ると、さっき挙げた人間は白銀の経験した『2回目のこの世界』というものの中で戦死したのね。」

 

「......はい。」

 

武は安心すればいいのか分からなかった。自分が救った世界じゃなくて、違う自分が救った世界に来てしまった。それに、自分が幼かったせいで失ってしまったものも生きている。自分が救った『この世界』ではないが、嬉しかった。

 

「じゃあ、『この世界』に居た俺は因果導体にしていた物から解かれて帰ったって事ですね?」

 

「そうね。」

 

夕呼は一息付くと口を開いた。

 

「白銀はまた因果導体にされたのか?また、因果導体にしたものは何か。『この世界』の白銀武も因果導体にしたものからループするチカラから解放されて作戦後、即ち桜花作戦後に『オルタネイティヴⅣは成功して、失った物も取り返せました。もう俺はこの世界の人間ですが、元の世界に帰ります。』そう言って帰った。なのに今度は別の確率世界に囚われ、オルタネイティヴⅣを成功させ、『元の世界』に

帰った別の白銀がよく似た『2回目のこの世界』に飛ばされた。そういう事ね。」

 

夕呼は簡潔に今の状況を整理した。だが、次に何を言うのか武は大体見当がついていた。

 

「白銀、あんたA-01に戻ってもらうわ。実質オルタネイティヴⅣが終わったって言ってもまだ、どうなるか分からないわ。」

 

「......はい。」

 

武は夕呼の言った通り、桜並木で失踪した白銀武の代わりに白銀武としてまた、A-

01に戻った。

 

「かなり似た世界だけど、多分あんたが経験してきた『2つの世界』とは、誰かの生死以外は同じだと思うから、普通に過ごせばいいわ。因みにどれだけの期間『元の

 

世界』に居たのかしら。」

 

「約1年です。」

 

「分かったわ。今日は2002年2月3日よ。覚えて置いて。」

 

そういうと、夕呼は武の背中を押して副司令執務室から出した。

 

 

武は横浜基地の地下施設を歩きながら思った。既に因果導体としての機能は機能していないはずなのに機能してしまい、自分がいた『2回目の男の世界』と似た世界に来てしまった。

武は戻った事を伝える為に伊隅戦乙女中隊の中隊長、伊隅みちる大尉に挨拶に向かった。横浜基地は元々ハイヴだったこの地の地下茎構造を利用して作られた基地だ。主縦坑を中心に出来ている。

廊下では色々な基地の職員と顔を合わせるが、何せ戦闘員・非戦闘員合わせて1万人を超える基地では知ってる顔の人間と会うには、部隊のブリーフィング室や部隊長室、PX(食堂)などしかない。武はA-01部隊長室へ向かっていた。

 

 

武は部隊長室の前で立ち止まったまま、物思いに更けていた。

突然消えた軍人は敵前逃亡などの軍規に違反という事で銃殺刑なんてザラだからだ。

 

「......しっ............失礼します......。」

 

「どうぞ。」

 

武はノックをして恐る恐る入った。奥ではみちるが書類と格闘していた。

 

「誰かは知らんが、私は忙しい。後にして......く......れ?」

 

みちるは手元が緩んだのか、持っていた書類を落としたようだった。

 

「只今、原隊復帰しました。」

 

武は敬礼をして言った。

 

「白銀、任務ご苦労だった。香月博士からは聞いている。」

 

そう言うとみちるは執務に戻った。最初動揺していたのが引っかっては居たが武は夕呼が『そういう事』になっていたと、後で修正して行方不明から急遽命令された特殊任務という事にしていたらしい。

 

「失礼しました。」

 

武はそういって部隊長室を去った。

確かに、とても『似た世界』に転移した武だったが、特別違和感は感じていなかった。

 

 

行くところもなく、原隊復帰とは言っても『この世界』に来てからまだ数時間しか経って無いし、訓練に入るのも翌日だと夕呼にも言われてたため、武はぶらぶらと基地の中を散歩していた。武の部屋は『元の世界』に戻った『この世界』に来ていた武の部屋のあった場所だが、行方不明になってからは冥夜が整理したと夕呼が言っていたので、武は自分の部屋へ向かった。

武の部屋は誰も使って無かった様に片付けられていたが、ベッドの上には1つの箱が置いてあった。

中には武に武の下着とシャツ、愛用していた万年筆、A-01部隊章、ナイフ、自動拳銃が入っていた。

 

「『この世界』の冥夜は俺が帰ってくると思ってたのか。」

 

武は少し嬉しかった。武が経験した『2回目のこの世界』では桜花作戦の際、武と霞以外全員戦死していた。その記憶も主観時間で1年前の話だった。『この世界』と『前のこの世界』との相違点は武と関わった人間の生死だけだった。

荷物を元の場所に戻し、武はPXに向かった。

 

 

PXは時間外であったため人間は少なく、厨房にいるおばちゃんこと京塚曹長が居た。今夜の仕込みをしている様に見える。

 

「京塚のおばちゃ~ん、合成コーヒーお願いします。」

 

武がそう厨房の中に言うと京塚曹長は外に出てきて武の肩をど突いた。

 

「武、よく帰って来たねぇ?行方不明かと思ったら特殊任務で前線に行ったんだろ?皆怒ってたよ。」

 

「はい、すいません。」

 

そう武が言うと笑顔で合成コーヒーだねと言ってコーヒーを出して貰った。

 

「ありがとう。」

 

武はコーヒーカップを持って椅子に座った。

戻った『元の世界』では『前のこの世界』の記憶は無かったが、時空の狭間にあったが、また飛ばされた時に持って来てしまったと武は自論を立てた。だがまた因果導体として来た『この世界』にはA-01部隊の皆が死んでしまった記憶は無い。重い因果から流出してしまうが、流出源が無い以上、流出する心配は無かった。原因が無ければ結果もない、そういう事だ。

そう物思いに老けた後、返却口にカップを戻して、PXを出た。

 

 

「あれは......タケルっ!また懲りずに黙って行きおって......。」

 

武が廊下を歩いていると、後ろから冥夜が走ってきた。

 

「あぁ、ゴメン。急だったからな。」

 

武は振り返って言った。そこには1年前の冥夜が居た。何も変わってないが、表情が何と無く和らいでいる様に思えた。

 

「そうか、再び同じ事を仕出かしたと思い、見かけた時には一発殴ってやろうかと

思って居たが、事情が事情だ。」

 

そう言うと腕を組んで姿勢を崩した。

 

「特殊任務大義であった。そなたは特殊任務が多いな。」

 

「いやぁ、参ったよ。桜花作戦の後、帰還して桜並木見に言ってたら先生に今すぐ

行けとか言われちゃってさ。何も言えなかったんだ。」

 

冥夜はそうかと言うと皆にも挨拶しろと言って何処かへ行ってしまった。

 

 

武は基地を見て回っていると気付いたら校舎裏の丘に居た。そこで武は霞と話をし、冥夜と話し、純夏と話し、純夏と喧嘩をし、恋人になったその場所だ。

校舎裏から見える景色には瓦礫の間から撤去されずに残ってるBETAの死骸や大破した戦術機がチラチラ見える。下半身が分かれた戦術機、両腕が飛んだ戦術機、コクピットブロックが潰れている戦術機、あらゆる方法で機能停止した戦術機が転がっていた。

 

「殺風景だな。」

 

そう呟いて所々禿げている草むらに腰を下ろした。

風を隔てる建物が基地しか無い横浜に磯の匂いを乗せた風が吹いている。何処か懐かしい匂いにも武は思った。

 

 

基地内は桜花作戦よりも人員が不足している現在、とても静かだ。元々どこかの部隊のブリーフィング室だったところも負傷者のベッドがところ狭しと並んでいるところを見ると、どうやらやはり佐渡島ハイヴのBETA群は横浜基地に攻めてきていたようだ。相当の被害を蒙ったのだろう。

ほとんどのベッドには包帯でグルグル巻きにされて管がたくさん繋がっている人や、痛い痛いと唸っている人、腕が無かったり足が無かったりする人たちなど沢山収容されていた。衛生兵もあちこちで見かけるが相当参っているのだろう。そう武に考えさせられるような状況だった。

でも、速瀬水月や涼宮遙は生きていると夕呼は言った。それを疑ったり、信じたりを繰り返していた。

 

「あっ、白銀少尉。」

 

後ろから声をかけられて、一瞬ビクっとしたが声を聞いて誰だかはっきり分かった。

武が後ろを向くと居たのは風間祷子少尉だった。

 

「お久しぶりです、風間少尉。」

 

武はすこし何故いるか考えたが、答えは簡単だった。『前のこの世界』の90番格納庫で凄乃皇四型に轢かれなかったのだ。もしここに居ないならそれ以外の理由で基地から居なくなるなんて無かったからだ。

 

「失踪かと思いきや特殊任務とは、お疲れ様でした。」

 

「はははっ、そんな事無いです。戻って来れましたし。」

 

武は少しドギマギしながら言った。『前のこの世界』でも『元の世界』へ逃げて帰ってきた時にもそういう理由を207衛士訓練小隊の皆に言っていたからだ。今回もその延長線上にあるのではないかと考えてしまっていた。

 

「白銀少尉が戻ったことを聞くと皆喜ぶと思いますよ。早く挨拶に行ってあげてね?それと、PXに午後7時集合よ。」

 

そういって祷子は歩いていってしまった。

祷子の言った、みんな喜ぶの意味がよく分かっていない武は、再び基地の中をブラブラした。

 

 

武は適当に時間を潰し、午後7時過ぎにPXに行った。入り口に近づくに連れて騒いでる声が聞こえてきた。

 

「白銀が戻って来たですって!?あんにゃろーとっちめてやるっ!」

 

「白銀は失踪したはず......。」

 

「違うよー特殊任務だって...って!タケルが戻ってきたの!?」

 

などといった、聞きなれている声が聞こえていた。

 

「どうも~。」

 

武はそんなこともお構い無しに、PXにズカズカと入っていった。武の顔を見た瞬間、空気は一斉に氷付いた。

 

「あっ、お帰り、タケル。」

 

まず走り寄って来たのはは美琴だった。

 

「よぅ、久しぶり。」

 

武は後から続いて来た同期に挨拶した。皆、信じていないようなさっきの会話は何処へ行ったのやらと考えていると、水月が横から横腹に握りこぶしを飛ばしてきた。

 

「いってぇ!やめて下さいよ~速瀬中尉ぃ~。」

 

武はヘラヘラと笑いながら言った。

 

「なに一人だけ特殊任務に行ってるのよ!」

 

「えぇ、それは突撃前衛長の仕事ですから。」

 

武がその突撃前衛長のことを言った瞬間、またもやPXはの空気は凍りついた。

 

「ぬわんですってぇぇぇ!それどういう意味よ!」

 

水月はその言葉に過剰反応し、武の横腹を殴り続けた。

 

「突撃前衛長は私よ!なに言ってんのアンタ。理由教えなさいよ!」

 

水月は殴りの波状攻撃に手を抜かずに聞いてきた。

 

「痛い!痛いですから!止めないと話せないですよ!」

 

武がそういうと、水月は殴りを止めた。

 

「えーっと、理由はですねー。」

 

「白銀少尉は『俺が本当の突撃前衛長だ。速瀬中尉には突撃前衛がお似合いだ。』と言っています。」

 

横から何時現れたのか、美冴が水月の耳元で囁いた。

 

「ぬわんですってぇぇぇぇぇぇ!!白銀ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

それを聞いた水月は武のこめかみに握り拳の人差し指の第二関節だけ立てて思いっ

きりグリグリした。

 

「痛い痛い痛い!すみません!っていうか、そんなこと言っていません!宗像中尉が勝手に......。」

 

武はそう叫びながら周りを見渡すと美冴は居らず、少し離れたところで祷子と話をしていた。

 

「むぅなぁかぁたぁ~?アンタねぇ!」

 

そう言って離れて行った水月に武はホっとしていると、冥夜が無念だ、と小さく言ったのが聞こえた。

 

「なんか、言ったか?冥夜。」

 

「なんでもない、許すがよい。」

 

そういって、大丈夫か?とか聞いてきた冥夜はいつも通りだった。

 

 

あのPXでの騒ぎは祷子が仕掛けた事だと後で分かった。基地が襲われ、桜花作戦で出撃して末端まで疲弊していた仲間のせめてもの息抜きだとか言っていた。

武は風間少尉らしいと思い、一騒ぎした後に部屋に戻った。

相変わらず硬いベッドは『元の世界』の柔らかいベッドに1年間寝ていただけあって、3年間寝てきたこのベッドに戻ったのが懐かしいと思いながら寝た。

武は寝に落ちる瞬間、純夏が起こしにくるのだと考えていた。




10000文字は一回の投稿で超えたいのですが、中々超えれないですね。
これだけの文を考えるのに一週間は掛かったので、これからがちょっと心配になりました。
色々なオルタの資料と格闘しながらの作成は結構楽しいものです。
作品に登場する登場人物はセリフ意外は下の名前で書いています。一瞬、苗字に階級をつけて主観的に書こうとも思ってましたが、それはやっぱり難しかったです。それに、涼宮姉妹の判断ができないという点も考慮しました。
楽しく読んでいただければ幸いです。

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