Muv-Luv Alternative Preliminary Ideal   作:しゅーがく

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大変ご無沙汰です。しゅーがくです。
前回の投稿から約3ヶ月放置してました事をお詫び申し上げます。
まぁ、いろいろ諸事情によるという事で。




episode 15

 

 

 

武と冥夜は縦一文字に月虹を囲んで匍匐飛行中だった。訪れた補給も確かに別の場所で秘密裏に行われた様だった。

現在は白川郷インターCPより北西8kmくらい行ったところだった。周辺には僚機以外敵味方反応が無い。反抗もとい、突撃が敢行され、戦線が一気に海岸線まで押し上がっていた。武たちが死守していた加賀笠間守備地域も既に後衛配置となり支援物資や部隊が陣を張っている様だ。

ヴァルキリーズは手薄になりつつある地域を転々としている様子が見受けられた。部隊員が2人も抜けたというのにあの活躍っぷりは凄いとしか言いようが無い。

そんな中、月虹からの秘匿回線が繋がった。

 

『プリズム1よりヴァルキリー10、指定地域に到着した。試験を10分後に開始する。』

 

そうプリズム1の衛士は言った。

武にはその意味が理解出来なかった。現在、3機が停進しているのは何もないただ瓦礫で出来た開けた地域だった。

 

「ヴァルキリー10よりプリズム1、試験とは実戦試験ですか?」

 

『そうだ。10分後にここら一帯に小規模BETA群がやってくるという。そこで僚機付きでの戦闘性能実験を行なう。』

 

『ヴァルキリー11よりプリズム1、して僚機の方は?』

 

冥夜も秘匿回線に繋がれていたのか、会話に入ってきた。武はてっきり2人での秘匿回線かと思っていたが、冥夜もいた。黙っていたのだろうと思った。

 

『ヴァルキリー10に頼もうと思う。ヴァルキリー11には臨時編成の帝国軍戦術機小隊と共にこの戦域に接近するありとあらゆる移動物体を止めて頂きたい。』

 

『僚機は私がやります!そんな大切な実戦試験にタケっ......ヴァルキリー10を僚機として使うなど.....!?実戦試験になりません!!』

 

冥夜はとても真剣にそう言った。武はプリズム1から僚機としての実験参加には聞いた瞬間すぐに乗り気になっていたが、冥夜に遮られてしまい、その理由が分からなかった。

 

『どうしてだ?12機だけでBETAに蹂躙されていた基地内部を突破してきたものだから強者だと思っていたのだが......。』

 

「突破はしましたが、そんなにですか?」

 

『ヴァルキリー10っ!』

 

プリズム1の言ったことに答えただけであった武は何故だか冥夜に怒鳴られてしまった。そして、武が口を開く間も無く、冥夜が話し出した。

 

『そういう意味で試験にならないという訳ではありません。ヴァルキリー10と最小単位編成で小規模BETA群相手に戦うとなると、殆ど彼に獲物を取られてしまいます。』

 

『そんな......だからヴァルキリー11を僚機にしろと?だが......』

 

『そこまで仰るのなら私は下がります。ですが、本当に宜しいのですね?』

 

『うむ。』

 

プリズム1が冥夜の催促を断って、冥夜が秘匿回線から断つと不意にプリズム1が武に聞いてきた。あそこまで言われたのだから、気になったのだろう。

 

『貴官は強者だというのには少々信じられんのだが、どうなのだ?』

 

「強者とは思えませんが、仲間から奇怪な変則機動だと言われます。」

 

プリズム1の衛士は黙り込んでしまった。数秒して再び口を開いた。

 

『貴官とは何か縁がありそうだ。少し昔話をしよう。』

 

そう言ってプリズム1が話し始めた事は武が1度目も2度目にも来ていた2001年の話では無く、1998年にあったBETA日本侵攻に置いて大規模な防衛戦『帝都防衛戦』に関してだった。

プリズム1の衛士は、何処とは言えないが当時首都の士官学校にて教官をしていたが、帝都にBETAが攻めてくるという理由で歳もままならない子どもたちを戦術機に乗せ、自らも戦術機に乗り、防衛戦に参加したという。戦線か瓦解し始めた時、死の8分を乗り越え、逞しくなった訓練生たちを見て強くなったなぁと思ったとの事。だが、訓練生たちはその時会ったのは3人。しかもBETAの返り血だろう、機体は真っ赤に染まっていた。同じ部隊に配属された筈の訓練生は11人だった筈なのに1/3になっていた。戦場では普通の事だが、自分の持った教え子がこうも死んで征く様は流石に心が痛かったと言う。

戦闘が収束し、訓練生たちの事が気になったプリズム1の衛士は、軍のKIA認定書類に目を通したそうだ。戦闘が収束した時、生き残っていたのは1名。極秘事項ではあったが、強制脱出した後、戦車級に囲まれていたところを斯衛軍戦術機に拾われたそうだった。何十人といた教え子がたったの1人になってしまっていた。死に様が分かっていたのは斯衛軍に拾われた教え子と同じ部隊だった10人のみ。殆どは戦闘中に要撃級の衝角にコクピットブロックごと潰されたり、突撃級に衝突され、上下半身真っ二つになり爆発したり、光線級に焼かれたりとだったが、戦闘の最中会った3人のうちの1人は拾われた教え子だったが、残りの2人は戦闘中でも無い時にBETAに喰われた。1人は強制脱出したはいいが負傷していたらしくそのまま兵士級に喰われ、もう1人は生きている時に見つけたが負傷しておりしかも、戦車級に囲まれていた。負傷した教え子は殺して欲しいと懇願したそうだが、撃った弾は当たらずに戦車級に喰われてしまった、との事だった。

死に様の報告が無い衛士はごまんと居る。分かっているだけ有難いとも思うが、最後の2人は余りにも酷い死に方だった、と。

 

「それで、生き残った1人はどうしているのでしょう?」

 

『多分、ここの戦場で暴れているか、戦死しているかも知れないな......。自分よりも若い者が死んでいく様はとても心が痛い。』

 

武は唇を噛み締めていた。

かつての記憶。2回目、まりもが兵士級に喰われたのを見た時の事を思い出していた。

情けなくなり落ち込んでいた自分に励ましの言葉や失敗談を話してくれて、恥ずかしかったが顔を見せようとした時、兵士級に喰われていた事を。

それが向こうには見えていたのか、プリズム1の衛士は声をかけた。

 

『貴官はもしかしてその生き残った教え子だった奴と同じ経験をしたのか?』

 

「はい......お教えしたいですが、ヴァルキリー11に聞かれると困るので。」

 

『繋がって無いだろう。』

 

「ありがとうございます......。あれは、訓練兵の時............

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『そうか。その教官は......。貴官は横浜の部隊なんだな。通りで国連軍の持っている筈のない不知火を装備している訳だ。』

 

「はい。」

 

『となると、昨年発表されたXM3とか言う新概念OSの......。』

 

「私が発案者です。開発は副司令ですがね......ははっ。」

 

武は自分の過去も話すと、プリズム1の衛士は真剣に聞いていた。声の年齢的には、まりもが任官した当時も衛士だったのだろう。元々帝国軍だったまりもの事を知っているかも知れない。

そして武がXM3の事を話すと、興味があったのかあれやこれと質問をしてきた。武は答えれる範囲で答えたが、やはり帝国軍にもこういう衛士がいるのだなと実感した。

そして急に話しを止めたプリズム1は時間を確認すると、また何かの縁と言って、話を変えた。

 

『近々、朝鮮半島にある甲20号目標攻略作戦が展開されるのはご存知か?』

 

「いえ、知りません。それは帝国と国連の合同作戦ですか?」

 

『合同作戦だ。だから聞いたのだ。帝国軍では編成がもうなされている。が、今回の攻勢で大幅に変更されるだろうな。』

 

武はプリズム1の衛士が言う事を考えた。口ぶりからすると、そんなに帝国軍に被害が出ているのかと疑いたくなるが、突然そういう事を言い出した理由がわからなかった。

 

『このご時世戦力が足りぬ。帝国・国連軍両軍の連合軍にて甲20号目標の破壊をするだろう。様子からして貴官らの部隊は直接CPに連絡を取っていたところを鑑みて、戦術機1個中隊で1つの部隊として成り立っているな?』

 

「っ!?何故それを!」

 

『気付かない方が可笑しい。あとな、私の所属している部隊も今は任務で離れているが、『2個中隊』で1つの部隊としている。最近、1個大隊単位での訓練を受けさせられているのだがな。帝国軍には1個中隊で1つの部隊として成り立つ部隊が無い。』

 

意味深な発言をしたプリズム1の衛士はそう言って笑った。

そしてプリズム1の衛士は最後にこう言ったのだ。

 

『私の部隊は94式戦術歩行戦闘機 不知火が配備されている。貴官も不知火に乗っているな?』

 

そう言ってプリズム1の衛士は秘匿回線を切ってしまった。

武は何を言ったのか理解が追いつかないまま、数分間呆然としているとアラームがコクピット内に鳴り響いた。10分経っていた。気付いてはいたが、武とプリズム1を囲む様に4機の帝国軍戦術機小隊がいた。

 

『ヴァルキリー11より各機。前衛にて移動震源探知。小規模BETA群と判断。』

 

数km先にいつの間にか移動していた冥夜からの通信だった。すぐに武も移動震源を探知した。BETA群だ。

 

『ヴァルキリー11よりプリズム1。僚機は先程私が具申した通りにさせていただきます。』

 

『いいや、やはりヴァルキリー10にして貰う。手加減は出来るのだろう?』

 

「はい、ですが気は抜きません。」

 

『はっはっは!という事だ。ヴァルキリー11、貴官には戦域警戒を頼む。』

 

そう言ってプリズム1は通信を切った。

ステータスチェックをする武の不知火の背後に着いた月虹は、跳躍ユニットに火を入れ、蒸している。

 

『プリズム1よりオルフ各機。4方位警戒にて戦線周囲を偵察。......ヴァルキリー10、征くぞ.......。』

 

撃震が4方位に散り、ヴァルキリー11、冥夜が戻ってきたのを確認すると、BETA群を十分に引き付けた。

 

『プリズム1よりヴァルキリー10っ!散開っ!!』

 

膝を曲げて不知火と月虹は同時に飛び上がった。

敵の上空で光線級に警戒しつつも行う2機の最小編成単位での連携戦闘機動は武もプリズム1の衛士も驚いていた。武は、XM3も無しに此処まで動けるのかと。プリズム1の衛士は、XM3の実力に圧倒され、それに加え、XM3無しでもかなりの操縦技術があると見て取れる動きだった。

ひっきりなしに跳躍ユニットの方向を変え、突撃砲を乱射し、飛び回る。設置する際には、弱った戦車級を踏み潰し、脚部に力を込めて飛び上がった。

突撃砲の残弾ゲージは常に減り続け、殲滅する頃には1200まで減っていた。武の予想よりも撃っていなかった。

 

「ヴァルキリー10よりプリズム1、状況終了。」

 

『プリズム1、確認した。』

 

戦闘時間、網膜投影に映る時計から読み取ると、8分間。8分間で総30体以上のBETAを殲滅した。突撃級は存在しなかったが、邀撃級は存在していた。大型種混同のBETA群だった。

 

『すっ......スゲぇ!!』

 

『青塗りの不知火は奇怪な機動で目を奪われたが、あの月虹をあそこまで......。』

 

『青塗りの不知火と言えば、甲21号作戦の話。知ってるか?』

 

4方位に散っていた撃震が集合するなり、そんな話を始めた。

武は甲21号作戦という言葉に反応していた。戦域データリンクには佐渡島が跡形もなく消え去っていたので、もしかするとと思っていたからだ。

 

『む、なんだ。言ってみろ。』

 

『えっ、ええ。甲21号作戦の撤退中の帝国軍戦術機2個中隊が、要塞級で出来た壁の向こうにいる重光線級が撤退に支障が出る理由で討伐するよう命令を受けたんですが、要塞級が多過ぎて通れず立ち往生していたところ、青塗りの不知火の1個中隊が現れ、そこから突撃前衛装備の不知火が飛び出し、要塞級を何十体と単機で撃破していったとか。』

 

『ほぉ......して、何故それを今思い出したかの様に言うのだ?』

 

『その青塗りの不知火は奇妙な変則機動をしていたと言っていたんです。あっ、甲21号作戦の事は機密事項でしたね......。』

 

『いいさ、他言無用。誰にも漏らすなよ。それで、ヴァルキリー10。冷や汗をかき過ぎでは無いのか?』

 

「いっ、いえ。」

 

武は余りに話が肥大化している様に思えてならなかった。確かに要塞級の壁に短期陽動で突入したし、重光線級の光線吶喊をしたが、そんな量を倒した記憶は無い。

 

『貴官がその不知火だったりするのか?奇妙な変則機動であったし。』

 

その瞬間武の肩が跳ね上がった。

 

(このおっさん鋭過ぎるでしょ!?)

 

武はそう心の中で叫んだ。

 

『ヴァルキリー11よりプリズム1、先程の無礼、お許し下さい。』

 

『ヴァルキリー11、気にしてない。プリズム1より各機。試験項目は以上だ。これより白川郷インターCPに帰投する。』

 

『『『了解!』』』

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白川郷インターCPに戻ると慌ただしく人が出入りをしていた。フレームの歪んだ撃震が戻ってきており、強制脱出も出来ない様子だったからそうだ。前線はというと、国連軍の部隊がBETAを殲滅し、海岸線に到着すると、続いて他の所も押し返し、BETAの攻勢のあった全域は無事に取り戻していた。現在はというと、動ける戦術機と機械化歩兵部隊が残存BETAと散発的に戦闘を行い、シラミ潰しに確保していってる様だった。

 

「ヴァルキリー10、部隊に復帰します。」

 

『ご苦労だった。』

 

A-01は白川郷インターCPで待機になっている。網膜投影に写し出された不知火は何れも返り血を浴び、紅くなっていた。それ程の激戦だったと安易に想像が付く。だが、誰1人として欠けてはいなかった。

 

『白銀〜後で報告書、よろしくぅ〜。』

 

突然入った秘匿回線に武は驚いたが、それが夕呼からの月虹に関する催促だという事はすぐに理解した。

紅くなった不知火が如何して待機しているのかと言うと、除染作業が追いついておらず、順番待ちだという事。A-01は次の次くらいだという。

その為、自分らの番が回ってくるまで待機だという事らしい。

 

『ヴァルキリー1よりヴァルキリー10、先程まで行っていた任務、一応私にも報告書を。それに任務に関する奴らからの質問は適当に返してくれ。余り知られたく無いものらしい。』

 

『ヴァルキリー10、了解。』

 

みちるもわざわざ秘匿回線でそう武に釘を打った。

武が不意に空を見上げると、夕暮れで空が赤くなり、これまで戦闘がこの空の下で行われていたとは思わせない様な綺麗な空だった。

その空の下、紅くなった不知火を見ると何とも言い難い雰囲気を出している。

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石川での迎撃作戦後、基地に帰投した武は、ほかの迎撃作戦の結果を見ていた。結果は成功。どこの戦線も海岸線に押し返し、殲滅したとの事。日本帝国内はお祭り騒ぎだ。

武は帰投した夜中、プリズム1の衛士について思い出していた。

ああいった事は昔はよくあったと聞いてはいるが、もしかするとあの衛士がA-01に転属となれば、知っているに越したことは無かった。

不意に思い立ち、武は京都防衛戦について調べる事にした。

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横浜基地の資料室に来た。兵舎には殆ど人が出歩いていない時間帯で、誰とも会わなかった。

資料室に入ると、京都防衛戦の報告書を探し出し、見ていった。

1人だけ生き残った部隊をシラミ潰しに紙にリストアップし、それが終わると更に、強制脱出した後に救助された衛士を探してこれもリストアップした。

1人だけ生き残った部隊は何十とあったが、強制脱出後救助された衛士は1人だけ。

 

「篁 唯依。当時、帝国斯衛軍少尉。嵐山補給基地守備隊第2小隊小隊長。」

 

それを見てすぐに別の事を調べだした。

 

「真田 晃蔵。当時、帝国軍大尉。京都の斯衛軍衛士養成学校にて教官、京都防衛戦の際、帝国軍に復帰。」

 

真田 晃蔵大尉以外にはヒットしなかった。という事は月虹、プリズム1は真田 晃蔵大尉という事になる。

 

「顔は出さなかったが、調べようと思えばすぐに見つかるものだな......。」

 

武は調べた履歴を消去すると、資料室を出た。もう夜も深いからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回の投稿は未定です。書き始めて無いので......。

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