Muv-Luv Alternative Preliminary Ideal   作:しゅーがく

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どうも、しゅーがくです。
前回の投稿からそこそこ期間が空いてしまいました。まぁそれは置いといて、先に進みます!


episode 19

Alternative 19

 

 

 

「PTSD......以前、白銀にその話は上手くはぐらかされてしまったのだが、何があったのだ?」

 

まりもは意を決っし、PTSDの件を聞いた。武はその発言に驚き、少し震えてしまった。教えてしまう事の恐怖、不安。脳裏に廻るのはそれだけだった。

 

「......。」

 

武は口を開く事ができない。

幾ら夕呼の言った事とはいえ、まりもに関する記憶は重い因果だ。思い出した今も流れ出ているかもしれない。

 

「白銀?」

 

まりもは武の顔を覗き込む。

武は唇に血が滲むほど噛んでいた。キツく、出そうな反吐を止める様に。

 

「......聞いてはいると思いますが、因果律量子論上、思い出している時点、因果導体の目的や他の並行世界とのパイプの状態が繋がっている場合、神宮司大尉......。」

 

「む?何だ。」

 

 

 

「大尉の身の安全は保障し兼ねます。」

 

 

 

まりもは口を開いて驚いていたが、その時も尚、唇を噛んでいる武を見てすぐに返事をした。

 

「因果律量子論については香月副司令に聞いている。問題無いが、パイプの状態は知らない。そして、私の身の安全がというのはどういう意味だ。」

 

まりもは前のめりになり、武の顔を睨んだ。

 

「もし、繋がったままならば、私を媒体に『この世界』の私に関する記憶と所謂、重い因果が流出し、それと同時に繋がっている先からも重い因果が流入します。」

 

武は冷や汗を少し拭い、呼吸を整えた。

 

「重い因果とは、印象に強く残るものの事で、『2回目の世界』で私はある事件の後に抱えた重い因果を持ち出し、並行世界にも同じ事象を起こしています。」

 

武はまた呼吸を整えたが、それを見ながらもまりもは少し口を開いた。

 

「結局何なんだ?並行世界に持ち出した重い因果が私のどうのとは。」

 

武上がる脈拍を感じ、ジワジワと体が暑くなるのを感じ、必死に言おうとした。

 

「こっ、『この世界』では、......XM3のトライアル中にBETAの地下侵攻はありましたか?」

 

「あったな、そんな事。迅速な指揮ですぐに制圧されたが。」

 

「私がPTSDを患った『2回目の世界』ではその地下侵攻に地表到達されるまで気付かず、惨劇になったんです。」

 

まりもはそこは聞いたぞと言わんばかりの表情をしているが、武はその表情を読む余裕が無かった。

 

「演習装備の私は頭に血が上り、先達の命令を無視し、闇雲にペイント弾をBETAに撃ってました。死ね......死ね......と。」

 

武は再び呼吸を整えた。

 

「怯むだけのBETAにその後、コクピットブロックを大破させられました。」

 

武の脳裏にその時のビジョンが浮かぶ。

 

「みっともなく恐怖に震えて、迫りくる死を拒み、助けを求めました。そうしていると、今の第1大隊の伊隅大尉に助けられてから、それまで積み上げた努力をここで崩してしまった事と、頭に血が上り鎮静剤を遠隔注射された情けなさ、一度BETAに屈服してしまった自分を責めてました。」

 

武は乾いた喉を唾を飲んで潤わせ、汗を拭いた。

 

「そんな時、大尉が私を励ましに現れてくださいました。当時大尉は軍曹だった頃の事です。」

 

「よくわかっているぞ。」

 

「大尉は落ち込み自己嫌悪に陥り、塞ぎ込んだ私に、新兵だった頃の話や昔の夢などを話して下さいました。それが嬉しくて嬉しくて、でも自分のこんな姿を見せるのが嫌で、恥ずかしくて私は大尉に背を向けたままでした。」

 

武は心臓がバクバクと脈をうち、血管がはち切れんばかりになり、呼吸も乱れていく。

 

「ようやく勇気を出した私が後ろを向くと..............................っく!」

 

いろんな思考が武の脳を駆け巡る。

 

 

 

「大尉は..................残党のっ............兵士級に..................喰われていたんです。」

 

 

 

武の拳はギリギリと血が滲む。

 

「それが俺のPTSDを患った訳です。最も、2週間で治りましたが。」

 

武は息をちゃんと整え、顔を上げると、まりもはまだ表情を変えていなかった。

 

「まだ......まだあるだろう?」

 

まりもはそう言った。

最初は何を言っているのか分からなかったが、すぐに思い出した。重い因果がそれだけじゃないという事に。

 

「はい。大尉は以前、私から並行世界では大尉は教師をしていると聞いていますか?」

 

「あぁ。ここ横浜基地の位置にあるらしいな。」

 

「大尉が『2回目の世界』で喰われた後、私は逃げ出しました。『この世界』から。」

 

武は崩れた制服を少し直した。

 

「逃げた世界で私は解放された、もう死にそうになる事も無い、BETAも居ないと思うのと同時に、大尉の死を引きずっていました。」

 

「その日、学校へ行った私はその世界で大尉を見て突然泣き出し、周りに不審がられました。その後、大尉の膝で泣きながら『2回目の世界』であった出来事を理解してもらえないとわかっていながら只々、話してました。」

 

「外も暗くなる頃に私は泣き止み、大尉とご飯を食べてその日は帰ったのですが、次の日、大尉は生きていませんでした。ストーカーによって殺害され、精肉機に頭を挟まれで死亡していたんです。」

 

「......。」

 

まりもは黙ったままだ。

 

「私が逃げ出し、逃げた先で同じ様な事が起きました。これが重い因果で起きた事です。......私のPTSDはそこから来てました。」

 

「真っ暗闇の中、いつ喰われるか分からないコクピットで震え、目の前で喰われた。それがPTSDになった訳です。」

 

_________________________________

 

武は廊下を歩いていた。

まりもの部屋から出て、だいぶ時間は経ったがついさっきまでいた様な感じだった。

武がPTSDになった訳を言い終わると、まりもは『大丈夫だ。貴様が帰ってきて5日くらい経ったか?それまで何も無かったんだ。』そう言って仕事があると言って何処かへ行ってしまったのだ。

確かに言われてみればその通りだった。気が付いてからかなり時間が経っている。『2回目の世界』では半日で重い因果の効果は出ていた。それが数倍の時間出ていないとなると、影響が無いと考えられた。

だが、確実じゃない。今日まで無かったとは言え、明日、今この瞬間だってあり得ることだ。

 

「色々と根回しする必要がありそうだ。」

 

武はそう考えた。

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『甲20号作戦』

 

作戦指令書が夕呼によって武に手渡された。

時期的には合っている。そして俺からの手紙にあった通り、みちるに頼み、連隊での訓練も積んだ。トライアルの時のベテラン達にも1度顔を出して少し話をしてきた。勿論、純夏の調律も行ってきた。短期間で劇的な回復を見せ、俺の記憶の断片に残る凄乃皇四型搭乗時以上に調律の精度が高くなった。

我ながらよくここまでこの短期間、体が動いたと感じた。

 

「アンタには先に渡しておくわ。目を通しておいて。それとA-01はセオリー通り、決戦部隊として突入。最深部のコアを破壊。主縦坑を通って脱出。」

 

「了解です。」

 

「じゃあそういう事で。あー、あと、不知火・弐型の試験配備は甲20号作戦後よ。レールガンは一応あるけど、使う?」

 

「いいです。運用訓練やってませんし。」

 

そう言い残し武は夕呼のもとを去った。

歩きながら武はある事を考えていた。

 

(甲20号。鉄原ハイヴを攻略して、人類反抗のユーラシア奪還の橋頭堡にでもする気なのか?)

 

そこから関連づくのは、基地の移転。もしかしたら夕呼からの特殊任務があるはずだ。決戦部隊としてA-01が突入するのも、斥候に横浜基地所属の衛士ばかりなのも頷ける。

考えられるのはただひとつ。

 

(純夏の為だろうな。)

 

それ以外無かった。

詳しくは知らないが、もしかしたら純夏の血液の代わりであるODLの浄化にハイヴの機能が必要なのかもしれない。だが、凄乃皇四型に簡易型ODL浄化装置があるという点から、ハイヴが必要にないというのも考えられる。

 

(益々わからん。)

 

武はここで考えるのを止めた。してても仕方ない。そう思ったからだ。

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横浜基地所属の国連軍戦術機甲部隊の戦術機全機にはXM3が搭載されている。

これまでの戦術機の機動性を覆す新概念OSだ。

他の基地の部隊や他国にも持っているところがあるかもしれないが、全機搭載は横浜基地だけだろう。

あったであろうトライアルでほぼ全部隊が体験している。

 

「あ"っ、動きスゲぇ。」

 

武はふと立ち寄ったモニタルームを覗くとF-15の小隊がAH戦闘訓練をしているモニタの鑑賞会をやっている様だった。

奇怪な機動性、俊敏なフットワークは観る者を魅了していた。

 

「スゲぇよ!XM3マジでスゲぇ!!」

 

「敵のニブチンF-4もあんな瞬発性があるんだな。」

 

そんな会話をしている衛士達は全員強化装備のままだった。

 

「これで俺ら戦術機乗りの生存率が飛躍的に向上したらしいぞ。」

 

「そういえばこの基地にいる斯衛部隊の武御雷にもOSが搭載れているらしいけど、この前演習見たらマジでスゲかった!!ただでさえ、通常のOSでもピーキーな機動性と格闘戦性能があるのに、あんなん積んだらもう恐ろしい。暗殺者だわ、あれ。」

 

そんな会話を聞き、武はそのモニタルームの出入り口の近くから立ち去った。

あの会話をしていたのは、訓練部隊時代、PXで格納庫に佇む武御雷に難癖をつけた日本人衛士だったのだ。

 

(あの人たちも世界が変わるのと、変わって見えるのかな......。)

 

コツコツと長い廊下に響く足音は武には永遠と続く道の上に立った様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




甲20号目標攻略ですよ!全員集合!

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