Muv-Luv Alternative Preliminary Ideal   作:しゅーがく

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少し遅くなった気がします!気のせいですよね!?(ネタが思いつかなかったなんて言えない....)
今回は謎の大隊単位でのシュミレーションです。
前回迷っていた部隊のコールサインも今回は少し適当ですが、コメントで頂きましたご助言を今後は生かしていくつもりであります!!

シュミレーションは少し長くなりそうです。


episode 4

突撃級と小型種で構成された先頭集団は震源数では中隊規模の集団が迫っていた。

 

「B小隊、接敵し次第通路を開け。無駄弾撃つなよ!」

 

水月が先行して正面に展開していた突撃級の後ろに回り、36mm機関砲を放っていた。突撃級は次々と血飛沫を上げてぐったりと倒れている。ピクリとも動かなくなった。

 

「ヴァルキリー10、フォックス3ッ!!」

 

武は得意な変則機動を生かし、次々とBETAを血祭りに挙げた。接近戦をすると返り血を浴びてBETAの体液が機体に付き、UNカラーの施された機体は紅く染まっていく。B小隊に編成されていればなお更そうなる。保有できる弾倉が少ない為、36mmは4000から6000も撃てば空になり、120mmは36発も撃てば底をつく。

 

「砲撃支援、入ります。ダイバー3、フォックス2ッ!」

 

武たちの第1中隊(ヴァルキリーズ)の後方に展開し、周囲警戒をしていた第2中隊のC小隊が砲撃支援を行った。

武のB小隊はすでに先頭集団に穴を開けていた。武たちの後ろからどんどん大隊がBETAの間をくぐっていた。突撃級は急に方向転換出来ないという弱点がある。それを利用したのだ。

 

「ヴァルキリー1より各中隊へ、このまま全力噴射でBETAを飛び越える。追っ手は迎撃しても構わない。続けッ!!」

 

武の頭上をA小隊が飛び越えて、100m先で着地していた。周りには肉眼で数えられる程の小型種しかいなかった為、すぐに掃討をしていた。

 

「ヴァルキリー2了解。B小隊続け!!」

 

水月の号令で、前に出ていた武たちもみちるを追うように全力噴射で残っていたBETAを飛び越えた。

 

「アックス1了解。」

 

「ブロック1了解。」

 

「ダイバー1了解。」

 

「コブラ1了解。」

 

「イージー1了解。」

 

「フランク1了解。」

 

戦闘に集中していたのか数秒遅れて第2、3中隊からもオープン回線で通信が入った。

武たちは着地してからは先行をすぐに始めていたので、隊が集中している200m前方に居た。オリジナルハイヴの横坑は前にも見ていたが、その広さに圧巻していた。広間だと勘違いするほどの広さだ。

全力噴射中に遙が前方10000に中隊規模のBETA群出現とか言っていたが、まだ8000もあった。多目的VLSの有効射程は4000で、例えC小隊が近くに居ても攻撃しようが無いので、武は威力偵察だと思って前にすすんでいた。

ガシャンガシャンと機体が歩行する度に装甲がぶつかり合って犇く音がするが、もう不快には思っていなかった。『前の前のこの世界』に居たときに慣れてしまったのだ。

突然ピピッという音を発してBETA接近警報が出ると、武は戦域マップを確認した。あえてそういう状況に誘導したのだが、こればかりは自動なのでどうしようもない。最初の接敵で少量の大型種と突撃級、戦車級しか倒さなかったので、要撃級の大半と戦術機では脅威度の低い闘士級や兵士級などがどこから増えたのか、通過したときよりも倍くらいの数になって後方から押し寄せてきていた。前からは依然として中隊規模のBETA群が接近してきているが、そっちを相手にしていたら後方から来る要撃級の餌食になってしまう。

 

「第3中隊は後方から追撃してきた奴等を、残りは前方から接近中の奴等をやる。全機散開!以降兵器使用自由!!」

 

みちるの号令で戦域マップに表示されている後方で固まっていたアイコンは一斉に散開した。第3中隊が後方で残りが前方ということは、一番槍は武たちのB小隊ということになる。

 

「第3中隊は掃討後、兵站拠点を築く。」

 

オープン回線でコブラ1のアイコンが表示されるとヘッドセットからそういった声が聞こえてきた。武は改めてシュミレーターの性能に関心した。

すでに先行していた冥夜と水月は戦闘を開始していた。すでに横坑のあちこちに戦車級や突撃級の死骸がゴロゴロ転がっている。どの死骸にも弾痕や斬り傷がついていて、戦車級の中には強い衝撃でミンチになっているものまで転がっていた。

 

「ヴァルキリー12、フォックス3ッ!!」

 

横を随伴していた慧が冥夜や水月が撃ち零したBETAの掃討を始めた。兵站拠点を築くということは、周囲の安全を確保しなくてはならない。そうなれば、最初のような限られた数だけ倒すのではなく、目に見える全てのBETAを駆逐しなければならない。武も便乗して掃討に加わった。

 

「ヴァルキリー10よりヴァルキリー12。前方の要撃級15体を蹴散らすぞ!」

 

「了解。」

 

武は慧を引き連れて全力跳躍し、冥夜たちが乱戦している区画に飛び入った。

突撃砲の36mm機関砲のモーター音と撃鉄が信管を叩き、弾が撃ちだされる音や、自分の機体の間接の悲鳴などしか聞こえない。それに、自分に向かって迫ってくる大型種の足とも自分の芯を震わせているように思えた。

武は跳躍ユニットのロケットエンジンを初期噴射し、直ぐにジェットエンジンで戦闘速度まで上げた。

視界の下では不知火やF-15E、F-4EがBETA相手に乱戦している。戦域マップを見たところまだ、喰われた衛士は居ないようだが、既に爆風で飛んだのだろうBETAの破片が肩部装甲ブロックに被弾したのか、姿勢制御が上手くいっていない動きを見せる機体があった。

武はそれよりもまずBETAを倒すことに集中した。一々感情に囚われていては、何も出来ないと、色々な人に教わったからだ。

 

「接敵するぞっ!」

 

「了解!」

 

2機の不知火はXM3搭載機ならではの武の操る変則機動をしながら、要撃級の頭部を撃った。それでも周りにはまだ要撃級は8体はいる。残りは慧のところに行っているのだろう。戦域マップのヴァルキリー12のアイコンの周りには7体のBETAに囲まれている表示が出ている。少しずつ減っているようだが、遅れをとってはいけない、武はそう思った。

 

「くっそぉぉ!」

 

武は突撃前衛が装備する追加装甲を投げ捨て、長刀に持ち変えると跳躍ユニットを吹かして上昇すると、360度回転しながら36mmを要撃級目掛けて放ち、生き残った奴は長刀で真っ二つに斬った。斬った瞬間、横を通り過ぎた突撃級の後ろを36mmで撃ち、仕留めたが、あの獲物は多分後ろで小型種や突撃級、後続で相手が出来なかった要撃級の相手をしていた冥夜や水月の獲物だったのだろう。不満を言う声がオープン回線から聞こえた。

 

「現戦域のBETA群の掃討を完了した。CP、周囲のBETA出現地点予測は?」

 

「広間を2つ抜けたところに連隊規模のBETA群が移動中です。現地点への到着予想時間は戦闘集団3時間、本隊5時間。兵站の設営を開始せよ。」

 

オープン回線での会話は大隊全員に聞こえる。大隊とはいえ、2個中隊はシュミレーションでしか存在しない部隊だ。生きているかのように会話が出来るのが武にとってとても不思議で堪らなかった。

 

「1つ目の広間まで前進し、兵站を構築する。」

 

オープン回線でみちるはそう言った。うしろではすでに兵站は出来ており、全機が全周警戒をしていた。

大隊の36機が一斉に噴射地表面滑走で広間まで飛んだ。

 

 

オリジナルハイヴは1回攻撃しているから、横坑もそうだったが広間の大きさに驚くことはなかった。

ただ、やっぱり広いなぁとしか思わなかった。

 

「兵站はどこまで進んでいる。」

 

みちるはオープン回線で遙に尋ねた。

 

「広間より2km手前まで構築が完了しています。補給コンテナの到着にはまだ時間は掛かるみたいです。」

 

兵站を構築するとはいえ、補給コンテナが到着しなければただの撤退進路の確保に過ぎない兵站はまだ広間まで到達していない見たいだ。補給コンテナには突撃砲、支援突撃砲、予備弾倉、短刀、長刀、多目的VLS、推進剤補給タンクといった戦術機が戦闘するには必要不可欠な装備や補給物資が収められている。その補給コンテナが到着していないのは、前線の衛士にとって不安要素になってしまう。

広間はとてつもなく広く、ひょっとしたら要塞級も入ることが出来てしまうのではないかと思ってしまう程、高さや奥行きがある。基地にある戦術機の格納庫のようだと武は思った。

 

「全機到着しました。これまでの戦闘で損害は出ていません。」

 

オープン回線で喋ったのは噴射地表面滑走をしていた大隊の最後尾であった第3中隊のC3小隊だった。だが、表示されるのはコールサインだけなので、網膜投影されているのはフランク1だった。

確かに損害は出ていないが、データリンクで機体の歪みや被弾した箇所は表示される。既に、2機のF-15Eの肩部装甲ブロックに損傷したという情報が出ている。肩なら大して損害は無いが、機体の姿勢制御に微妙なズレが出るほどの損傷だ。もう1機は主脚に突撃級の装甲殻の破片が刺さったのか、これもまた姿勢制御にズレが出る程の損傷だ。

 

「この先のC層14広間まで前進する。中隊別で3班に分かれてC14広間を目指す。途中で3本に横坑が分かれる為だ。」

 

みちるはそう言って戦域マップの横坑が3本に分かれるところにマーカーをした。

横坑が3本に分かれて直ぐに1本に戻るのは、少し疑問に思ったがそう深く考えても埒があかないので、武は考えるのをやめた。みちるが態々3班に分けたのは、そういった事を考慮したのだろう。でなければ、3本の横坑のうちの1本に大隊全機を通過させるはずだからだ。

 

 

 

「左から第2中隊、第1中隊(ヴァルキリーズ)、第3中隊で横坑に入る。合流は3本の横坑が合流するこの先4000地点だ。」

 

みちるの号令で36機の戦術機が12機ずつに分かれて行った。真ん中の横坑に不知火が12機入っていく。桜花作戦の道中にこのような横坑があったかと思い出せば、そのような記憶は微塵も無かった。これも『前のこの世界』と『この世界』との相違点なのだろう。

戦域マップにも12機ずつ入っていくのが見て取れる。

 

「CPより第2中隊。偽装横坑よりBETA大隊規模が出現。以降の作戦に支障が出ると判断した為、至急殲滅せよ。」

 

遙がオープン回線っで部隊の情報を言っている。これも中隊での作戦行動以外にも、大隊で動いたり、もっと大規模な部隊との連携を考えた訓練なのだろう。

だが、シュミレーションでヴァルキリーズデータを使ったオリジナルハイヴの攻略を訓練にしようする部隊なんてそうそう居ない。多分、今シュミレーションで連携中の第2中隊と第3中隊は途中までは記録がある為、動きは予測できるのだろうけど、オリジナルハイヴを攻めたヴァルキリーズデータでは訓練していないだろう。そもそも、オリジナルハイヴは一般衛士部隊で攻められるなら、世界各地に点在するハイヴも攻められて、領土奪還は20年以内で実現していただろう。そのオリジナルハイヴを攻略した桜花作戦も武の居た『前のこの世界』では殆どの随伴機は撃墜され、国連軍や米軍の援護も受けずに進めたのは奇跡に等しいと武は思った。だが『この世界』では中隊全員が生き残った状態での桜花作戦決行だったが、搭乗機は武御雷ではなく不知火だったらしい。

 

 

「アックス1了解。中隊各機、出口付近を固めるぞ。」

 

「了解。」

 

戦域マップには偽装横坑のあるとされている壁に戦術機が囲んで、今かと待ち構えているように思えた。よく考えたら、真ん中の横坑には偽装横坑を作れるとは思えないような地下茎構造をしている。できるのだとすれば、偽装縦坑を用意するしかない。かといって、どこの横坑や縦坑、広間にも偽装横坑や偽装縦坑を態々BETAが用意するとは思えなかった。

 

「うわぁ!出てきあがった!!」

 

オープン回線をオフにしてなかったのか、偽装横坑から溢れるように出てくるBETAを見て、第2中隊の誰かが悲鳴を上げた。

偽装横坑から出てくる属種は基本、小型種だが、偽装横坑の直径が大きければ大型種が出てくることもある。ここはオリジナルハイヴなので、後者の方が多いのだろう。普通小型種が出てきたらそこまで驚かないのだが、ここまで驚いている様子から察するに大型種、要撃級が出てきたのだろう。

 

「撃ち漏らすなよ!フランク小隊!支援頼んだ!」

 

「了解!」

 

戦域マップに移るアイコンはどんどん偽装横坑から離れ、横坑からは漏れてはないが、乱戦になっていた。幸いにも光線属種が出現していなかったので、突撃砲の弾倉が空になって新しい弾倉に交換できない機体は空いている片方のマニピュレータで短刀を引き抜き格闘戦を、支援小隊は高度を取って格闘中の友軍機の支援をしている様な表示がされていた。

第3中隊は偽装横坑が発見されなかったのか、それでも警戒しつつ前進している。真ん中の横坑担当の第1中隊(ヴァルキリーズ)は小隊毎に離れて前進していた。武のB小隊は最前列。みちるのA小隊は中央。美冴のC小隊は最後方でそれぞれ陣形を取りながら主脚で移動・前進している。

 

「偽装横坑から発生したBETA群、殲滅。」

 

オープン回線でアックス1からの報告が全隊に行き渡った。戦域マップを見る限り、損害は出ていないようだ。まぁ、そこまで規模の大きな集団ではなかったからだろう。

3本に分かれていた横坑が1本に集まるまであと500という距離にまで進んでいた。

 

 

深くなるに連れて横坑も広間もだんだん広くなっているように感じるが、それは気のせいだろうと武は自分に言い聞かせていた。

今はオリジナルハイヴD層・15広間。まだまだ道のりは長い。複雑に入り組んだ地下茎構造は突入した部隊を迷わせることもあるそうだ。その上、ハイヴ内は小型種や要撃級が多数存在し、ハイヴ内でのKIA認定の殆どが、撃墜後に捕食されたというものばかりだ。考えていてとても吐き気を催すものだ。

 

「ヴァルキリー1よりCP。D層最深部へ到着。」

 

「CP了解。兵站確保の為、現状を維持。次の指示を待て。」

 

こういったやり取りもオープン回線で行うのは、部隊内に何かを中継するのではなく、直接話を聞いて現状を認識できるようにするためだ。ハイヴ内なら尚更だ。秘匿回線は緊急時や、一般衛士には明かせない内容を話す以外使えない。しかも、上官から使用許可が下りないことには、形式上は使えないことになっている。実戦となれば、その規律は簡単に破られてしまうが、重要なことであれば許される。

 

「兵站が行き届いてないのって、ちと早過ぎませんかね?」

 

武は水月に聞いた。

 

「兵站建設作業よりも、進軍速度が速いのよ。流石だわ。」

 

そういって水月は通信を終えた。何か忙しいのか、それとも不味い事でも起きたのか。武は不安になった。だが、知らされないということは、知らなくてもいいと判断されたからだ。気にしていても仕方がないと武は思った。

戦域マップには兵站のルートと完成できた兵站がどこまでできているかが表示されている。補給の際には、兵站を利用して補給しなければならないから、基本は兵站がどこまで来ているか、集積所がどこにあるかは戦域マップで確認できるようになっている。一番近い集積所は横坑が3本に分かれるところだ。

兵站を建設できるということは、地上部隊によって地上にいるBETAが掃討できたということだ。だが、武の経験したハイヴ攻略、桜花作戦では兵站や後方支援が望めなかったので、凄乃皇四型の上部に直接補給コンテナを溶接してあったから補給ができたのだ。普通のハイヴ攻略戦では補給の目処がたたず、最終的には近接格闘戦になるといわれている。推進剤切れで動けなくなる機体もあるらしい。そう武は座学で習っていた。

 

「CPより大隊へ。兵站がD層に達しました。作戦を続行して下さい。」

 

兵站が到着したのは、待機命令から20分後だった。

 

 

相変わらず主脚で歩行しながら前に進んでいた。跳躍ユニットを使わないのは、いつ途切れてもおかしくない兵站で補給ができなくなるかもしれないからだ。無駄な推進剤は使わず、戦闘時だけ使う。これも訓練兵時代に座学で習うことだ。

主脚が地面に着く度に体は揺れ、機体は軋み、地面は少し沈む。辺り一面は緑色の壁や床、天井しかなく、凹凸もない。見ていて飽きる景色だ。だが、そこに気を取られていたら警戒もできない。ただ、振動感知センサーや集音センサー、レーダーや機体ステータスを入念にチェックしているだけで、周りのことは気にならないのだ。

 

「ヴァルキリー1よりCP。E層を通過。」

 

「了解。1600先のF層1広間にて待機。兵站到着を待て。」

 

E層を通過している時は何故だかBETAは姿を現さなかった。これは大隊内でも疑問に思っていたことだ。新しい、攻撃パターンなのだろうか。そう考えるしかなかった。

どこの層にもBETAはいるものだと勘違いしていたが、いない層もあるのかと武は少し関心してしまった。

 

「ヴァルキリー1よりCP。F層1広間に到着。」

 

「CP了解。」

 

主脚での移動で10分もしないうちに広間についた。E層を出た時から広間まで着く間にもBETAは出てこなかった。

F層1広間での待機はとても長く、静かで中ではとてもざわざわした雰囲気だった。

 

「ちょっと静か過ぎるわねぇ。このハイヴのBETAたちは引きこもりなのかな?」

 

水月はニヤニヤしながらオープン回線で言った。確かに、こないのはおかしかった。ハイヴ内にBETAの攻撃対象になる高性能コンピュータが36個もあるのに、襲ってこないのは不自然だった。

 

「そんな訳無いですよ。偶然、この一帯にはBETA1が居ないだけで、すぐに集まってきますよ。ちゃんと警戒して下さいよ速瀬中尉。」

 

「はいはい。分かったわよ。」

 

オープン回線で気の抜けた会話をしていると、いつもみちるに注意されていたが、今回は注意してこなかった。その通りだと思っているのだろう。多分、秘匿回線で遙に確認でも取っているはずだと思っていた。

 

「ヴァルキリー1より大隊各機。現状でBETA共が攻めてこない理由がはっきりしていない。CPでもデータ照合をやっているようだが、前例のない事だと思われる。よって対策が立てられない為、全周囲警戒を密とし、横坑を微速前進とす。各機、配置に付け!」

 

確認はとっていたようだが、結果として現状を説明できないらしい。階層を横断する際、接敵しないのは前例がないが、まずハイヴの中階層まで到達したことのある部隊がそう居ないから、前例もなにもないのだ。全くをもって初だった。

 

「反応炉まで辿り着けて、脱出出来ればいいんだ。あと半分、引き締めろ!」

 

みちるは部隊を励ます言葉をオープン回線で言ったが、2回目のオリジナルハイヴ。今回はシュミレータってだけでも気が軽いが、それでも一度入ったことのあるオリジナルハイヴだ。その時の恐怖感で少しは動揺するところもあるだろう。データリンクでバイタル値も確認できるが、流石修羅場を何度も潜り抜けた先任たちだけあって安定している。207A・Bの半分はバイタルが興奮状態を示していた。多分、本人達もシュミレータだと分かってはいても、オリジナルハイヴ攻略をした自分たちのデータ『ヴァルキリーズデータ』であってさえ、BETAの波や地上では観測しない桁違いの発現率、そういったものに怯えているのだろう。

 

「全周囲警戒の態勢を維持したまま前進する。」

 

「了解。」

 

36機の戦術機が円を描いている様な陣形で主脚を駆使し、移動を始めた。前の位置は普通の歩行をし、側面はカニのような動きで前進、後方は後ろ歩きといった人間に出来て戦術機に出来ない動きは無いとよく言ったが、本当にその通りだと関心した。

 

「この動き、JIVESだったら滑稽に見えたでしょうね。」

 

「そうね~。」

 

聞こえるのは戦術機が歩行し主脚が地面に着地する際、地面が揺れる音と自分の鼓動しか聞こえていない。BETAの大移動の音さえも聞こえず、静寂が地下茎構造内と包んでいた。

 

「CPより大隊各機。この先の3広間にて大規模BETA群出現、総個体数は10000っ!!」

 

大隊を静かな空気が包んでいたが、一瞬で緊張に変わった。

先のF層3広間は戦域マップでも周りに点在する広間より少し広く、尚且つ偽装横坑が集中している広間だった。どういった理由でそこにBETAが集まっていたかは定かではないが、今大隊が移動している横坑は絶対にそのF層3広間に着く。

普通は総個体数10000のBETAを相手するのは連隊・師団規模の戦術機甲部隊だ。1個大隊で何ができるというのだ。

 

(そういば、桜花作戦の時......。)

 

武は『前のこの世界』での桜花作戦を思い出した。最深層で総個体数140000との戦闘を経験していた。それも、たった5機の戦術機で。たった5機でも支援はあったものの、最深層への到着は叶った。戦術機も不知火よりかは近接密集戦闘に優れた武御雷だったが、それでも5機での突入は難しかったと思える。

 

(10000相手なんて桜花作戦の時の方が惨状だったな。1個大隊なら十分対処できる。)

 

武は必ずといっていい程の自信はあったが、主観時間で1年前の出来事。1年も戦術機に乗ってなければ腕は鈍り、感覚も鈍る。動きだけは『元の世界』に戻った時でもバルジャーノンで失われずに済んだ。だがバルジャーノンは『この世界』や『前のこの世界』、『前の前のこの世界』では対AH戦闘を想定している戦闘だと夕呼はいっていた。だから合同演習もXM3のトライアルも乗り越えられた。と、武は思ってる。そう、思わされたからだ。

 

「広間に入り次第、VLSを一斉掃射。着弾と同時に突入する。乱戦が予想される為、分隊での行動は絶対だ。単機で挑もうなどと考えるなよ。」

 

みちるはピリピリした言い方で、大隊にそう告げた。確かに、VLSはBETAの足止めやうまくいけば倒すこともできる。最初に掃射しても何の問題もないだろう。さらに兵站が確保されている現状では、とりあえず今は補給ができる。密集戦闘なんて、切羽詰った時にやることだ。

 

「多目的VLS発射ッ!B小隊優先に広間に突入する!」

 

「了解!!!」

 

広間前で一回立ち止まり、突撃前衛で構成された前衛が3個小隊、強襲掃討と迎撃後衛で構成された中衛が3個小隊、砲撃支援と打撃支援で構成された後衛が約3個小隊、最後尾には制圧支援が多目的VLSの安全装置を解除した状態に変えた。

前衛は跳躍ユニットのロケットエンジンから火を噴かせる程の出力まで上げていた。号令があれば最大戦速でBETAに突っ込むことができる。みちるの号令で一斉掃射された。飛翔する弾頭は不規則な軌道を描き、次々とBETAに吸い込まれるように着弾していった。

着弾した瞬間、大型種は一部が吹き飛び人間ならば息絶えるくらいの損傷を受ける。小型種が周りの何十体かを巻き添えに色の悪い肉の塊に変化した。

弾頭の雨から生き残ったBETAは真っ直ぐ武たちに向かって突撃してくる。どこでのBETAの陣形も前衛は突撃級だ。少し距離があるため、回避運動はまだとらないが、前衛の数体の突撃級の装甲殻には被弾したような後が残っていた。

 

「B小隊いくわよッ!!」

 

「了解!!」

 

水月の合図で武たちの小隊は一番でF層3広間に突入した。

突撃級の足を止めれば、BETAの進行速度も落ちる。ハイヴ内なら尚更だ。頑丈な装甲殻に前方は守られているが、後ろはむき出しで36mm機関砲で撃っても簡単に死ぬ。だが普通は最後方に光線属種が待機していて匍匐飛行程度の高度をとっても狙い撃ちにされてしまう。後ろが取れれば簡単に倒すことのできる敵なのに、倒すことができないのだ。だが、今回は後方に光線属種はおらず、地上を這う虫けらしかいなかった。

 

「あの柔らかいケツに劣化ウラン弾を鱈腹ご馳走してやれ!」

 

水月の号令で光線属種のいない広間で高度をとり、上空から突撃級の弱点に36mm機関砲を撃ちこんだ。

着弾すると血飛沫を上げて、なんともいえない叫び声を出し、グッタリと突撃級が倒れていく。その突撃級の死骸を交わしながら、多目的VLSミサイルコンテナの降ろす作業をして立ち止まっている制圧支援装備の戦術機が5機程いるのだろうか、大慌てでコンテナを降ろしている。それをBETAに近づけまいと2個小隊が援護に回っていた。武たちは既にBETA群の上空に来てしまって支援に行くことができないし、そもそも支援に行けなかった。

 

「制圧支援の奴らは2個小隊に任せておけ!存分に暴れろ!」

 

再び水月の号令と共にBETAで地面の見えない横坑と広間の狭間に急降下した。

 

「ヴァルキリー12、フォックス2、フォックス3ッ!」

 

「ヴァルキリー11、フォックス2、フォックス3ッ!」

 

「ヴァルキリー10、フォックス2、フォックス3ッ!」

 

水月は一番前で急降下しているから言わないのか、武たちは降下の最中にも地上にいるBETAに鉄の雨を降らせていた。水月も36mm機関砲をずっと撃ちっぱなしだ。

接地するころには、降下予測地点辺りにいたBETAも殆どが屍に変わっていた。どの死骸も何がしかの部位を欠損していて、傷口からは大量の体液を垂れ流していた。広間内の床は基本緑色をしているが、武たちが降り立って周辺の状況を確認している辺りだけは赤色に変わっていた。機体の中にいても嫌な臭いがしているように武は感じていた。

 




目標の一回の投稿での10000字を超えることができました。今回は10115字みたいです。切り上げる基準はテキストの保存を行った後にプロパティにて容量を確認してます。大体10000字が20KBですので、いい基準になります。

少し質問ですが、オリジナルハイヴの最深層ってアルファベッド表記ですと何層なんでしょうかね?少し分からなくて困ってます。知ってる方がいれば教えていただけたら嬉しいです!

最後に、ご指摘ご感想お待ちしております!!読んで下さりありがとうございます!


ー追記ー

かなり投稿が遅れてます。色々呼んでくださった方々の感想のことを考えていると中々手が進みません。10000字を目標に書いてきましたが、投稿頻度を考えると6000字近くまで目標を落とすのが必要と感じました。
今後の展開もマブラヴ好きの友人などが一切居ない為、相談出来ず、苦しむばかりです。書くのは楽しいのですがね。
今後も遅れが想定されますので、気長に待っていただければ幸いです。

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