機動戦士ガンダムRE:VOLVEー宇宙世紀に転生したので自由に生きたいー   作:ゆいはらうい

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第2話

どれくらいの沈黙が、静寂が、そこには有ったのだろうか。

 

前話、記念すべき第1話のラストのあの状況、あまりの唐突さに読者の皆さまだって驚いたであろうことは想像に難くないし、そして何よりそんな皆さまより僕の方がもっとずっと驚いている。

 

驚愕している。

 

目は見開かれ、瞬きも忘れ、口はあんぐりと開いたまま、みじろぎ1つ出来ないでただそこへ突っ立っていた。

 

 

「聞こえておるかな、入谷有生君。もう一度言う、大変申し訳ないのだが、君は私のミスで死んでしまった」

 

 

そう言った。

沈黙に耐え切れないとばかりに、目の前に佇む老人は至極穏やかな声色で、先ほどと同じような台詞を繰り返した。

 

この白い部屋、いや、よくよく見てみれば、別に天井が有る訳でもなく、壁が有る訳でもないこの場所を『部屋』というのはおそらく正しくなくて、見渡す限り一面の白に包まれたこの場所は『空間』と言った方が正しいのだろうと思うけれど、ともかく、先程の静寂からも分かるようにこの空間には僕と件の老人の2人きりのようだ。

 

 

 

「入谷有生君」

 

入谷有生。

いりや・ゆうせい。

ユーセイ・イリヤ。

 

彼が発したその名前。

僕の名前だ。

 

そういえば、前話であれほど長ったらしいモノローグというか自己紹介を延々と語っていながら、僕は名前を名乗っていなかったことを思い出した。

 

名前もわからない人物の人生遍歴をこれでもかと長ったらしく、聞かされていたのだ、僕だったら到底耐えられないと思う。みんなの忍耐力は凄いなあ。

 

先ず名を名乗るのが社会人というか、人間としての常識だと言うのに、これはこれは大変な失礼をしてしまった。読者の皆さまにはこの非礼を誠心誠意詫びたいと思う。

 

大変申し訳ありませんでした。

改めまして、入谷有生です。

24歳。

1995年の12月24日のクリスマスイブ生まれ。

O型。

好きなものはガンダムです。

どうぞよろしくお願いします。

 

よし、しっかりと自己紹介をする事ができた、これで安心、どんな状況でも礼儀を忘れないのは良い事だと僕も思うし、あれやこれやと口うるさく言うことのなかった寡黙な祖父ですら『礼儀を欠くな』とよく言っていたものだ、これで僕のジェントルマンな印象はバッチリだ!やったね!ありがとう!おじいちゃん!

 

違う違う。

そうじゃない。

 

しまった、まるで鈴木雅之さんの楽曲みたいになっちゃったじゃないか。

 

 

 

そんなこんな。

 

無残というか燦々たるというか、寒々しいというか可哀想というか、自分でもビックリするくらいの思考のとっ散らかり具合であって、詰まるところ僕は大変に混乱してしまっていて、結果として、僕は名前を呼ばれた事に対して返事をする事もできず、返事どころか声ひとつ出すことは叶わずに、ただ目の前の老人を見つめる事しか出来なかった。

 

そんな僕の目を見て、全てを察したのか、いや一連の全てを察されていたらそれはそれで嫌なんだけど、老人は静かに微笑んだ。

 

まるで神様みたいに。

微笑んだ。

 

「驚くのも無理はない、何しろ突然の事だし、ゆっくり落ち着いてから私の話を聞いてくれればいい」

 

そう言った。

 

穏やかにそう言う姿は、彼が着ている純白のローブのような着衣も相まって、何だか神々しくすら思えてきて、何故だが僕に安心を覚えさせる。なので僕は安心ついでに1つの疑問を口に出してみることにした。

 

「あの、どうして僕の名前を知ってるんですか、アナタにお会いしたことありましたっけ?」

「いや会ったことなど無い」

 

当然とばかりに、彼はキョトンとした顔でそう答えた。

 

「それならばどうして」と疑問は深まる。

 

テレビで活躍する芸能人、スポーツ界を牽引する選手、そういう類の著名な方の名前を会ったこともなく知っているのは分かる。理解できる。僕に置き換えたとしてもそんな人は沢山いる。

 

しかし、僕はもちろんのこと、と言うと悲しくもなるけれど、そんな著名な人たちとはほど遠い。東京で寂しい一人暮らしを営むただのサラリーマンだ。

 

そこまで考えて僕は1つの結論へと辿り着く。

 

まさか。

彼は僕のストーカーなのか。

つまりこの状況は拉致監禁ということか。

 

こんなヒゲモジャの老人が僕のストーカーとは世も末だ。しがないサラリーマンをストーキングする白いモジャモジャという物語に一体どんな需要があるというのだろうか。鉛筆と消しゴムでもイケるという人々だって素通りする内容だ。薄い本にすらならないだろう。

 

 

 

「混乱しているようじゃな」

 

そりゃそうだ、僕は深夜まで続いた仕事を片付けて、明日の休みを楽しみにウキウキの帰路に付いていたはずで、確かにそのはずなのに、気づいたら真っ白な空間にストーカー(仮)の老人と2人きりにされた僕の身にもなって欲しい。いや本当にそうだとしたら犯人はアンタじゃないのか。ってことは全部お前が元凶じゃないか。ふざけているのかこの男は。

 

あまりにも突破なこの状況に段々腹が立って来た。

ふつふつと怒りが湧いてくる。

 

怒りによってほぼ思考停止に追い込まれていた僕の脳みそはフル回転、もうギュンギュンにくるくる回り、この老人にどんな罵詈雑言を浴びせてやろうかと僕の中の語彙を懸命に探し回り、あれやこれやと考えて、そしてその結果として僕はとても冷静になった。

今までの思考を省みて、ひどく恥ずかしくなり、反省したのだった。

 

 

 

「ここはどこですか、アナタは誰です?」

 

驚き怒って冷静になって、何だがもう訳の分からなさが天元突破した僕の口からは、そんな質問が投げやりに、げんなりと溢れた。

 

「先ほども言ったのじゃが、コチラ側でちょっとした、いや入谷君にとってはとても重大なミスというか行き違いがあってな」

 

そう言って老人は口ごもり、申し訳なさそうにコチラを見た。

 

「ミスとか、行き違いとか、役所の方か何か?」

 

目の前に立つ白い髭を携えた老人は何をどう頑張って目を凝らしてみても、とても役所の人間、というかそもそも日本人にさえ見えないけれど、物は試し。

 

あまりにも役者然とした説明にそう切り返した僕に対して、老人はやはりモゴモゴと口ごもりながら続ける。

大量の髭のせいでモゴついているのだろうか。

バッサリ行ってやりたい。

 

怒りを忘れられない僕。

許して欲しい。

 

「そうじゃな、先ずは私の自己紹介からするとしよう、何せ人とこうして直接話すのは久しぶりでな、どうも勝手がわからん」

 

まるでアナタは人じゃないみたいな言い方ですね。

どう見たって人間じゃないですか、阿呆らしい。

 

そう言おうとした。

言えなかった。

 

僕の皮肉たっぷりの感想よりも、老人による自己紹介が先に始まったからであり、そして何よりその自己紹介が強烈この上ない物だったからだった。

 

「私は君たちで言うところの、神じゃ」

 

驚愕。

戦慄。

呆然。

 

そして僕の思いは再び前話のラストへと舞い戻った。

 

本当に。

何なんだこの状況は。

 

 

 

 

 

004

 

 

 

 

 

「つまり、アナタは僕らを管理している正真正銘紛うことなき本物の神様で、人の生き死にもアナタが管理しているようなモノで、いや、管理していなきゃいけなかったのに、それなのに本来亡くなるはずだった方と、全然関係ない死ぬはずのなかった僕を間違えて死なせてしまった。つまり僕はアナタのミスのせいで死んでしまったと」

「そうなります」

「神様だって時間は戻せない、覆水盆に返らず、本当はもっと長く生きるはずだった僕はもう生き返れないし何もかもが元通りにはならない、僕は大人しくこの状況を受け入れるしかない」

「その通りです」

「そしてアナタは僕が何も知らないままでいるのは不憫だからと、自分のミスの説明、という弁明、ぶっちゃけ言い訳をする為にこの空間に僕を呼んだ」

「そうです」

 

 

 

ということらしかった。

 

ため息が出ちゃうね。

 

 

いや、皆さんの言いたい事は分かる。章が1つ進み、そしたら時間がぶっ飛ばされていて僕の状況理解が粗方終わっているのだ。そりゃ無理もない。ついて来られる訳がない。ツッコミたくなる気持ちは分かる。

 

僕だって本当ならこんな小狡い手法は使わずに行きたかったのだが、驚愕しっぱなしのこの状況を理解する為に、噛み砕く為に、僕はかなりの時間を浪費してしまったわけで、それを事細かく描写していたら、いくら忍耐強い皆さんでも飽き飽きしちゃうこと間違いなし。

 

そんなわけでの時飛ばし。

キング・クリムゾンという訳だった。

どうかご理解頂きたく思う。

 

 

さてさて。

そして。

 

事のあらましを何とか咀嚼、自分が死んだという突破な事実をどうにかこうにか受け入れて、受け入れてしまって、その後に粗方の質疑応答も終わって、僕は神様が何処からともなく取り出した昭和感溢れる丸いちゃぶ台に、事もあろうに神様と向かい合わせに座って、これまた何処からともなく取り出した、湯呑みに入ったお茶をズズズと飲んでいた。

 

どういう原理か分からないがその緑茶はしっかりホット。

落ち着くね。

 

 

 

「入谷君、状況を理解してくれたところで、これからの話をさせて貰ってもいいかのう」

「これから?」

 

やっとお茶で一息ついた僕に、そんな事を言う神様。

死んだ後にこれからも何も有るんですかと聞きたくなるが、何せ死ぬのは初めての事だ、わからない事も多いのだろうと大人の我慢、そのまま神様のお話を目で促す。

 

「これから、というのは言葉の通りの意味じゃよ。普通の場合、死後にはその人物の罪と善行を元に輪廻転生する上での転生先、例えば犬か人間か、などが選ばれる」

「普通の場合ってことは…」

「そうじゃのう、君の場合はそもそも死亡した事自体がこちらのミスじゃし、特殊というか、むしろ特別に、選択肢を増やしてあげようかと思うんじゃ」

 

なんと。

ここに来てようやく建設的な話になって来た。ここまでは『僕がどういった経緯で此処はやって来たのか』という、つまり過去のお話だった。

 

 

ここからは、おそらく『その先』の話。

 

 

「選択肢って、具体的には何です?」

 

お茶をちゃぶ台に置いて居座り直す僕。

そんな僕に、神様は指を一本立てて見せた。

 

「まず1つ目に選べるのは、元いた世界への輪廻転生じゃ。先程も言ったように通常の場合、転生先はその人間の罪と善行によって決まるが、君の場合は転生先も君が決めていいし、その場合ある程度であれば望みも聞こう」

「融通って?」

「例えば人間としてもう一度赤ん坊として生を得るのならば、容姿に恵まれたいとか、芸術面にしろ運動面にしろ何か特別な才能が欲しいとか、暮らしに困らぬ裕福な家庭に生まれたいとか、どこそこの国に生まれたいとか、そう言ったところかのう」

 

さらり、と告げられた言葉に、ごくり、と思わず喉が鳴る。

 

貧乏でこそなかったものの、僕という、入谷有生という人間は特別な容姿や才能に恵まれることは決してなかったと思う。

地味だったと言ってもいい。

それを手にしたいと、手にしたらどんな未来が開けるのだろうと、そう想像しなかったと言えば嘘になるし、想像しない人はいないだろう。

 

それがこうも容易く手に入るという、チャンスが目の前に有るという事実に思わず胸が高なった。

 

そして。

胸が高鳴り呼吸が上ずるのと同時に神様が提示した物、つまり1つ目とは別の選択肢が猛烈に気になってくる。

 

選択肢はそもそもAとB、時にはCにDと、選べる物の全てがほぼ対等であってこそなのだ。

 

誰もが飛びつきたくなるであろう1つ目とは別の道。

 

 

 

「そして、もう1つ」

 

神様は相変わらずの微笑み顔で僕に語りかける。

相変わらず困惑気味の僕へと語りかける。

告げる。

僕の人生を、いや正しくは僕の輪廻転生を大きく変える、狂わせる、そんな選択肢を神様はあくまで穏やかに、告げる。

 

「君が望む世界への転生、存在する世界であればどんな世界でも、輪廻転生の枠を超えて君を送り出そう、この場合は輪廻転生というシステムの都合上、赤ん坊として生まれるのではなく、つまり『転生』ではなく、ほとんど君のままでの『移動』という形にはなるがのう」

 

 

望む世界。

そう言われて僕が思い浮かべた世界は1つだった。

たった1つ。

それだけだった。

 

しかし思い浮かべたとて、『あの世界』は存在しない、空想上の世界なのだとくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ放ろうとして、辞めた。

そうだ。

ファンタジーだ空想だと言うのなら、そもそもこんな風に神様と会っている状況がファンタジーなんだ。

 

ならば問うてみる価値はある。

 

 

「存在する世界、っていうのはどういう事なんでしょう、僕がいた世界とは別の世界が存在するんですか?」

「もちろん」

 

神様は、にっこりと微笑んだままで続ける。

 

「入谷君は、パラレルワールドという概念を知っておるかな?」

 

唐突な質問。

神様の口からまさかの単語、『パラレルワールド』が飛び出したことに驚いた僕は、おずおずと肯定の返事を返すことしかできなかった。

 

「まあ、一応知ってます」

「そうか、何となく理解してくれれば良いだが、あの概念は非常に的を得ておってな」

「的を得ている…ですか。確か、僕が生きていたのと同じような世界が沢山存在するっていう話ですよね、パラレルワールドって」

「そう、そしてその世界は人々の生み出した『選択肢』の数だけ存在している、一本の幹から枝分かれして行く大樹のようにな、この枝葉のそれぞれは決して混ざり合うことは無く、輪廻転生というシステムもその世界ごとに行われているから死した後に別の世界へ行くという事もない」

「それで『転生』ではなく『移動』って…」

「そうじゃ、元々別の世界に存在した魂を別の世界の魂にする際、もう一度赤ん坊として生を与えるのにはコチラ側としても色々と不都合があってな、もしそちらの選択肢を選ぶのならば、先ほども言ったが、まあ多少の誤差はあるが、ほぼ君という存在のままでの『移動』になってしまうんじゃ」

 

そこまで言った神様は、いつもの微笑みから少し悪戯っぽい笑みに表情を変えて僕をじっと見つめて、こう付け加えた。

 

「そしてここで面白いのは、人が想像し得る世界は大方の場合存在し得るということじゃ、例えそれが人間にとっては空想上の、映画や漫画、小説やアニメの世界であっても、そういう世界は可能性の結果として存在するもんじゃ、人の想像力も大した事はないと言ったところかのう」

 

 

 

そう言って、説明は終わりとばかりに再びお茶をすすり始める神様。

 

しかし僕はそれどころじゃない。

お茶を飲んでいる場合ではない。

 

思わず立ち上がり、興奮で赤くなった頬を気にもせず神様を見つめた。

 

確かめなきゃ。

僕の夢が叶うのかを。

 

 

 

「それじゃあ、どんな世界も存在し得るって仰るのなら、存在するって事ですか、ガンダムの世界も」

「ああ、有る」

 

 

有る。

存在する。

 

 

決して存在しないと思っていたものが手に入る場所にあるのだ。

その事実の衝撃はもの凄かった。

もう僕の頭から1つ目の選択肢など消え去っていて、ただただ喜びに埋め尽くされるのみだった。

 

良かった。

 

神様から死んだと聞かされて、じいちゃんがいなくなった今、僕の死を悲しむ人もいないし、誰かが困る事もない、むしろ会社から解放されてラッキーだ、なんて1人考え落ち込んでいたけれど、だけれどこれはきっと運命だったのだと思える。

 

神様でさえ感知できない、そういう運命なのだと。

 

「どうやら、心は決まったようじゃな」

「はい」

 

神様の問いに迷いのない声を出し、迷いのない瞳で短く答えながら、しかしここで、僕の中には新たな疑問が浮かんできた。

 

見過ごしていたとある謎。

 

「というか、さっき神様は僕の質問に『有る』って即答で返されてましたけど、そもそもご存知なんですか、ガンダムのこと、ガンダムの世界のことを」

 

そう、さっきは興奮のあまり唐突にガンダムという言葉を口にしてしまい、それに当たり前のように神様が返すものだからそのまま進行してしまっていたが故に引っかかりもしなかったのだが、そもそも神様が『ガンダム』という存在を認識していなければ、その世界が本当に有るのかどうかは分からないのでは、そう思ったのだ。

 

しかし。

そんな僕の疑問は神様が、再びどこからともなく取り出した1つの物体によって消え去った。

 

「それは、まさか」

 

そう、神様の手にはしっかりと初代『機動戦士ガンダム』のBlu-rayディスクが握られていた。

驚く僕。

不思議なポーズでフフフと笑う神様。

 

ちゃぶ台を挟んで繰り広げられるシュールな状況であった。

 

「そのまさかじゃ、神様と言っても基本的には人と世界を見守り管理するのが仕事みたいなものでな、詰まるところヒマなんじゃよ」

「つまり、神様は…」

「そう、何を隠そう私もガンダムファンの1人というわけじゃ、同士よ、だからこそ私は断言できるんじゃ、ガンダムの世界、宇宙世紀もその他の歴史も、それら全ては人の可能性の結果、パラレルワールドとして存在しておるとな」

 

なるほど。

確かにそれなら先ほどの迷いない『有る』断言も納得だ。

 

まさか神様でさえも虜にしてしまうとは、恐るべしガンダム、恐るべし富野由悠季。

神様もファンとかどんな知名度だよ。

 

というか、神様のミスはそもそもガンダムによる注意力不足のせいなんじゃないのか。いや知らないけれど。もしそうだったとしたら僕の死はガンダムが間接的な原因ってことに。

 

いや。

気にしない。気にしない。

気を取り直そう。

 

「それじゃあ確認なんですけど、僕を宇宙世紀の世界に転生させる事も、神様には可能ってことですか?」

「もちろん、世界として存在しておるからな」

「マジですか」

「大マジじゃ」

 

それならもう、という先ほどから既に僕の答えは決まっている。

叶えられる夢ならば是が非でも叶えたいのだ。

 

 

 

「僕は宇宙世紀に転生したい、あの世界で生きてみたいです」

 

そう言った僕に対して、神様は少し難しそうな顔をした。

 

「君だからこそ理想と思う世界でも、君だからこその苦悩も苦難も困難もある、混迷した時代じゃ、それでもか?」

 

苦悩も苦難も困難もあろうはずがない。

心からそう思った。

肯定も否定も無く、ただ強く神様の瞳を見つめる。

 

「そうか、いいじゃろう、承った」

 

 

 

神様が了承の返事を返すのと同時に僕の身体は淡い光に包まれる。

まるでサイコフレームの共振の如き、暖かく優しい緑黄色の光。

 

その光の中で僕は慌てて質問をする。

忘れていたが、しかしとても大事な質問。

 

「ちなみに何ですけど、転生する年代を選ぶ事は可能なんですか?」

 

年代。

時代。

 

ひと口に『宇宙世紀』と言っても、その歴史はガンダムシリーズの発展と共に連綿と続いており、選択肢は膨大。

しかし、いや、やはりと言うべきか僕の答えは決まっている。選びたいからこその質問だった。

 

「ああ、まあ、そうじゃのう、ちなみに君の希望は?」

「宇宙世紀0079、その少し前でお願いします」

 

YESでもNOでもない曖昧な返答をくうように、僕を自分の希望を叩きつける。

 

全ての始まりの年。

後に『1年戦争』と呼ばれる、ガンダムシリーズ最初の戦争が始まった年。

宇宙世紀0079。

 

「ふむ、希望にはなるべく添いたい、しかし世界を超えての転生、魂の移動にはそれなりの負荷があっての、多少の誤差が生まれるかもしれないが了承してくれると助かる」

「分かりました」

 

多少であれば問題ない。今重要なのは『あの世界へ行ける事』なのだ。

そう思って反射的に返事を返した僕。

しかし、その時の神様の何やら曖昧な、誤魔化すような雰囲気が気になって、やっぱり『多少』の程度を確認しようとした僕を、神様の言葉が遮った。

 

「先ほど元の世界に転生する場合は融通を効かすという話じゃが、こうなったのも何かの縁じゃし、そもそもを言えばこうなってしまったのは私の責任、あの世界で役に立つような特典をいくつか付けておこう」

「ありがとうございます」

「ちなみにじゃが、入谷君、1番好きなモビルスーツは何かな?」

「好きなモビルスーツですか」

 

一瞬考え、そして答える。

僕の心を掴んで離さない機体の名を。

 

「フリーダムガンダムです、ガンダムSEEDの」

「承知した」

 

その答えを聞いた神様は、やはり穏やかにニッコリと笑う。

そして別れの挨拶を交わすように、僕を送り出すように、言うのだった。

 

「君を誤って死なせてしまった事、本当に申し訳なく思っておる、時代が時代、苦しい事も沢山あるじゃろうが、どうか君の2度目の人生を自由に、心のままに、出来れば幸せに生きて欲しいと思う」

 

その言葉を発する刹那、初めて見る、神様の苦しそうな表情。

伏せた目線。

その表情の意味をこの時にも、そして後にも、僕は知ることはない。

 

「さあ、行っておいで、探しておいで」

 

そうだ、探すしかないのだ。

自分の力で、足で、手で、これから探していくしかないのだろう。

 

その表情の意味を。

僕がこうして一度死に、再び生を得る意味を。

 

探すしかないんだ。

 

 

 

 

そして、僕の意識は一際強くなった閃光にかき消されていく。

 

その閃光の向こう側に最後に見えたのは、穏やかな神様の顔だった。

 

もっと色々と聞くべきだった気もする。

神様に会えるのなんて、神学者の夢だろうに。

 

そんな取り止めもない事を考えながら、僕の意識はぷっつりと、さながら舞台演劇の暗転のように完全に無くなったのだった。

 

 

 

 

 

さあ行こう。

始めよう。

僕の新しい人生を。

僕だけの転生を。

 

 

 

 

 

あれ、何か大事な事を忘れているような。

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