また一緒に笑い合えるように   作:ハルノブ

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また一緒に笑い合えるように
やりたい事、やらなければならない事。


 ヒロト達がアルスとの最終決戦を終え、早くも3か月が経った。

 ここ3か月の間にGBN内の出来事として二つ目のビルドダイバーズとしては正式に元祖ビルドダイバーズと同盟を組むといった結構なイベントがあった。リアルでのイベントは学生であるヒロト自身とカザミの試験期間が迫ってきてログイン頻度が落ち、今度は気楽なオフ会でもしようという話もあったが日取りが上手く決まらずにいる。

 

 そんな体感としてはかなり早めな3か月を過ごした今日、ヒロトはフォース『アダムの林檎』リーダーであり上位ランカーのマギーのバー入口まで来ていた。

 マギーは個性の強い人物であるが、初心者の手ほどきを行ったりダイバーの悩み相談に乗ったりと良心的ダイバーとしても名をはせている。

 実際アルスとの決戦前、大規模シミュレーションを行う事が出来たのはマギーの人脈が有ればこそだった。

 

 『本日貸し切り♡』と札がかかっているドアを開けて中に入る。

 

「あれ誰も居ない?……マギーさん!居ますか!」

「はーい!ごめんね、ちょっと待ってぇ!」

 

 どうやらマギーは奥にいるようだ。

 ヒロトは椅子に座っていいのか悩み、なんとなく店内を見渡す。以前初めて来たときは店の内装に気を遣う余裕など無い状況であったが、シンプルながら大人の雰囲気漂うバーだ。と感じても未成年のヒロトに実際バーなんて行った経験はない。

 壁に掛けられているイラストに目が留まる、イラストと言うより英語で書かれた文章が額縁に収まってるだけの物だ。

 英文は簡単で和訳はすぐにできた、わざわざGBNのバーに飾られてるくらいなのだ、おそらくガンダム系のネタで間違いはない。

 そして1分もない間にバーの奥から朗らかな様子でマギーが出てくる。

 

「ユアウェルカーム♪ヒロト君、いらっしゃーい。あ、それやっぱり気になっちゃう?」

「ええ、まぁ」

「ここに来るの初めてで気が付いた人、皆同じ顔をするわ。その後、私にこう言うの、あれ何で飾ってるんですか?って。聞かれた私は目に『止まっちゃう』からって返す。ここまでテンプレよ、100回はやったわ」

「っふ」

 

 英文は和訳すれば『止まるんじゃねぇぞ』であった。

 マギーの淀みないトークにヒロトは思わず笑いが込み上げて、すぐに飲み込んだ。

 

「……改めてこんばんは。シミュレーションの件、改めてありがとうございました」

「どういたしまして、気楽にしていいわよ。さ、座って、どーぞどーぞ」

「あ、はい」

 

 促されたヒロトはバーカウンターの小高い椅子に座る。

 マギーはカウンターの向こうで飲み物を出しながら、ちらりとどこか所在なさげにするヒロトを見てクスリと笑った。

 

「あ、座りにくかったらそこの普通の席でもいいわよ?」

「いえ大丈夫です」

「そう、炭酸って飲める?」

「飲めます」

「じゃあとりあえずこれかしらね」

 

 ヒロトが受け取ったグラスには濃いめの青いジュースが入ってるようだった。

 

「ブルーハワイ?」

「そう、イメージ的には貴方のアースリィーガンダムね、飲みやすい炭酸よ。……あざとすぎるかしら?」

「いえ、嬉しいです」

「良かった、じゃあ乾杯」

「……乾杯」

 

 グラスが合わさって軽い音が鳴る。場慣れしてないヒロトには不思議な音色に思えた。

 

「何か話があるって事でしたけど……」

「あら、そんな難しい話じゃないのよ?」

「そうなんですか?」

 

 何の話をすべきか話題を持ってこれなかったヒロトは、この流れなら雑談だろうと辺りをつけて内心でホッと一息入れた。ブルーハワイを口に運び、飲み込む前に味を確認すると割と好みの味がする。

 

「ただのよくある恋バナよ」

「……へぁ?!」

 

 狙い済ましたかのようなタイミングで放たれたマギーの言葉に撃ち抜かれたヒロトは、身内でもなかなか聞かないような声を出してしまった。

 

「あら、そんなに驚く?」

「いや急に何聞いてるんですか!?」

 

 予想外の話題の振り方に焦るヒロトは大きな声で質問を返す。

 マギーはだって、と肩をすくめると

 

「メイちゃんの話だとエルドラに巫女服の女の子、ヒナタちゃんだっけ?を招待したって聞いたし。ちょっと好奇心わいちゃって」

「ヒナタは幼馴染で、そういう関係じゃないです。家族みたいな……」

「あら、そうなの。じゃあ、メイちゃんは?」

「メイは仲間ですよ!」

「あら、異性として好ましくない?」

「……良い人だとは思いますが、そういう目では、ちょっと」

「うふふ、そう。なら……」

「……まだ続くんですか、この話題」

 

 必死で真摯に返すヒロトはまだ次があるのかとすでに疲れを見せている。

 そんな彼の様子にマギーはクスクス笑う。

 

「本命はイヴちゃん?」

「ッ!!」

 

 滅多に感情を荒立たせないヒロトだが、誰にでも踏み込まれたくない領域はある、イヴの話題はまさにそれだった。

 ガタンと大きな音を立て彼は立ち上がり、俯いて歯を食いしばる。

 傍から見ると亡くなった想い人をたかが恋バナに出されたヒロトは怒って良い、この話を聞いてる人が他に居ればさらに怒ってマギーを強く咎めるだろう。

 しかしこの店は本日貸し切り、誰も居ない。

 

「……もう帰ります」

「あら、本当に帰っていいの?」

 

 踵を返そうとするヒロトをマギーは素早く引き留める。

 

「っ何が言いたいんですか!?」

「……どうしようもないから諦めるの?」

 

 荒ぶるヒロトに対しマギーの声色は変わらず落ち着いたものだった。

 二年程前に起こった第二次有志連合戦の終盤、オープン回線から聞こえたリク達の言葉は否応なくヒロトを打ちのめした。

 『好きを諦めない』彼らはそう言って、最後まで抗い続けていた。

 

 だが、あの時点でヒロトには選択肢などなかった。

 イヴが何かの事情を抱えているのは察していたが、まさか異星から地球の電脳空間にやってきたなど想像できる訳もない。

 これからもずっと仲良く遊んでいられる、やりたい事だってある、希望に満ちていた時間は突然に終わりを告げた。

 しかし、イヴの死は消して無駄になっていない。サラは救われ、世界は救われ、多くのELダイバーが生まれるきっかけの一つとなった。

 

 こうするしかない、今あることを喜ぶ他にどうすればいいんだ。

 怒りに身を震わせたヒロトは、持ち前の冷静さをすぐに取り戻した。感情を理性でコントロールできるのはヒロトの長所であり、この場において何より痛ましい事であった。

 

「イヴは自分のやりたい様にやったと思います、俺はそれを尊重したいんです」

「……そう」

 

 声は少しだけ震えてはいるが、ヒロトは努めて冷静に自分の考えを述べた。

 その少し震えた声とヒロトの痛ましくも素晴らしい理性にマギーは一粒涙を落とし、それでもあえて言う。

 彼の今の声を聴いてさらに踏ん切りがついたのだ。

 

「あなた鈍感って言われたことない?」

「え?」

「やりたい様にやったってなによ?」

 

 鼻を鳴らすマギーにヒロトは一瞬ポカンとしてしまう。

 

「……イヴは自分の身をかけてGBNを守ったんです、それを」

「そんなのやりたい様にやったとは言わないわ」

「え、は?」

「それは彼女自身がやらなくては駄目と思ったから、だからやっただけよ」

「っアンタに何がわかる!!」

 

 言葉の綾を取るマギーにヒロトの憤怒は再度湧き上がった。

 だがマギーは今にも掴み掛りそうなヒロトの怒りをまるで気にしない。

 

「それはまぁ、女の気持ちかしらね」

「ふざけるな!」

「ふざけてないわ、ちょっと聞きなさいな。あなた本当は気づいてるんじゃないの?」

「……何を?」

「聞いた話によれば、第一次有志連合戦よりずっと前から貴方とイヴちゃんは一緒に遊んでいた、きっと生半可な時間じゃないんでしょうね。その中でいろんなアーマーを作ったりディメンションを巡ったりしていた。そうした話の中で宇宙で超長距離を移動できるようなアーマーを作りたいと思えるようなことがあった」

「……ネプチューンの事ですか?」

「そうそのアーマー。完成しなかったのはともかく、どうして彼女のために作ってみようと思ったの?」

「二人で一緒に銀河の果てまで行きたいって、そう言っていたから……ダメでもともとのつもりだったけれど……」

「あらぁ、ロマンチックねぇ。……ねぇ、これで気が付かない?」

「え?」

「やりたい事とやらねばならない事の違いよ、やりたい事は二人でこの先も一緒に居たい、やらねばならない事はもうやったわ」

 

 ヒロトは過去の事をあまり深く思い出すとどうしても気分が重くなるので、過去を自分で振り返り咀嚼しなおすができていなかった。

 イヴはこれからやりたい事ははっきり口に出す性格だ。思い返せばヒロト自身最初の方はGBNでやりたい事が上手く見つからず、イヴの提案に乗っていろんな場所にともかく向かっていた。プラネッツシステムのアーマー達は殆どその時に着想を得ている。

 

「いやでも、二人でこの先も一緒に居たい、とは言ってないような?」

 

 銀河の先まで行こうと言ってるだけじゃないか、と再度記憶を掘り起こしてみるが、やはりそう言っている筈だ。

 いつの間にか自然に怒りが収まり、いつも通り落ち着いた調子を取り戻したヒロトにマギーは内心ホッとする。

 

「あら、本当に鈍感」

「……えぇ?」

「あのね、銀河の向こうにまで仮に行けたとして、どれくらい時間がかかるのよ?そんな長時間誰も居ない場所で二人でいたいなんて、ほとんど告白じゃないの。ただの男友達にそんな事を言う女はいないわ」

「え!?そんな……ええ」

 

 マギーがヒロトのグラスにお代わりを注ぐついでに、注意深く彼の表情を伺うが怒りは本当に消し飛んだようだ。

 それどころか思わぬ過去の解釈を示唆されて顔は真っ赤に染まった子供のそれである、表情を押し殺しているより遥かに健全だろう。

 

「嘘だと思うなら本人に確かめてみなさいな」

「……どうやってですか?」

 

 彼女の体は既に存在せず、データは四散してGBNの何処かを漂い、ほぼ形を成していない。メイの持っていたあのイヤリングはほぼ奇跡の産物だ。ここまで焚きつけたからには具体的な案もありそうだ、とヒロトは期待してマギーに問うが

 

「知らない」

 

 マギーの答えは素早かった。

 

「ええ!?」

「私はプログラマーじゃないもの、まるで具体案ありますよね?みたいに聞かれても困るわぁ」

「それは……そうですよね」

「やり方も自分で考えなさいな。いえ、自分達で考えなさい。その上で誰か探してほしいならもちろん手伝うわ」

 

 マギーは微笑みながら応援する。

 ヒロトはマギーの持って回った言い回しでなんとなく思い当たることがあった。

 

「もしかして、メイから何か相談されたりしたんですか?」

「あら、気づいちゃった?気づいちゃったついでにその他もう二つ来たわ、似た相談」

 

 ヒロトはああ、と呻いた。

 マギーはその様子につい悪戯心が沸いた。

 

「パル君からはヒロトさんが時折すごく悲しい雰囲気を出すときがある」

「パル……」

 

 パルは優しく聡い、ヒロトの様子に察するところもあり思わず相談に来たのだろう。

 

「カザミ君からミッション終わった後にディメンションを見渡してる事がある」

「カザミ……」

 

 最初は本当にどうかと思ったが、今となってはなかなかに頼れるリーダーになったカザミは周りを見ることをしっかり覚えたようだ。

 

「メイちゃんからヒロトがうじうじしてる」

「メイ!?」

 

 メイは表情が少しは動くようになったり、感情がどんなものかを理解しつつある。言いたいことをはっきり言うのも個性だろう。

 

「ふふ、要はみんな気が付いてるって事よ、貴方が諦めたくないって」

「……やるだけやってみます、今度こそ。ご迷惑をおかけしました」

「いえいえ、お気になさらず。……それにね、私自身諦めない事には一家言持ちなの」

「そうなんですか?」

「そうよぉ。私、オカマ、男だけど女。ほら諦めてないの権化でしょ?」

 

 朗らかに言うマギーは、ヒロトから見て強く輝いているように思えた。

 

「今度は『二人』で来なさい、甘ーいお話、期待してるわぁ」

「それはちょっと……」

 

 マギーから粋な心遣いを感じはしたが、流石にその期待には素直に頷く事の出来ないヒロトであった。

 

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