ヒロトたち三人がフレディに連れられ、彼の自宅へと向かう際中の事。
村人二人が悩み事を話し合っていた。
「まだ来ないな。……やっぱり、なんかあったのかな」
「どっかで立ち往生してるのかも知れんな」
どうやら来るべき物か人が届かない事を心配している様だった。
ヒロト達が思わず歩みを止めると、メイがすぐに声を掛けに行った。
「何かあったのか?」
「ん?おお、あんた達か。いやどうってことはないんだが」
話し込んでた一人がポリポリと頭を掻くと、もう一人の方がムッとして声を上げる。
「どうってことはあるだろ、あれが届いた方がいいんだし」
「……お前そんな事言ったら気を使ってくれって言ってるようなもんだろうが」
「そんなつもりはないけどよ、でもこっちに来るまでの道中で止まってたら助けようがないだろ。今乗り物が出払ってて確認にも行けやしないんだぞ」
話の流れから凡その事情が分かったヒロトたち三人は視線を合わせる。
助けるか?という事ではなく誰が行く?という一瞬のアイコンタクトだった。
諸々対応力のある自分が行くべきだとヒロトが名乗り出ようとしたが、メイに手で制止される。
「私が行こう、その物資が通るルートは決まっているか?」
「いやすまねぇな、厚かましくて」
「いや、いい。大した手間ではない」
片方は申し訳なさそうに、ほら見た事かともう一人を小突いたがもう一人の方も別に間違っちゃいないだろ、と小突き返す。
「地図見せながら話す、こっちに来てくれるか。実際そんな大きい荷物でもないし、むしろ運んでる奴が心配なくらいだ」
「わかった。二人は先に行ってくれ、片付けて戻ってくる」
「ああ、頼む、メイ。ありがとう」
「頑張ってくださーい!」
「待ってるぜー」
メイはひらひらと軽く手を振って、村人たちについて行った。
彼女に気を使われたな、とヒロトは感じはしたがその点について話している余裕は村人にはなさそうなので素直に見送る他にない。
「メイさんは優しい人ですよね!いっつも手際が良くてとってもカッコいいです!」
フレディはメイの素早い対応を見ながら、目をキラキラさせ見送っていた。
カザミはそんな興奮するフレディに笑いかける。
「確かに、あいつの落ち着きっぷりはヒロトと張るよな」
「何だ、急に?」
カザミに間接的に褒められたらしいヒロトがくすぐったさを感じていると、彼がガっと肩を組んでくる。
「誉め言葉は素直に受け取っとけっての!」
「……実はさっきの件でゴマ擂ってるとか」
「そんな素直じゃねぇ奴はこうしまーす!」
「痛い痛い」
カザミはヒロトの穿った言葉に半笑いしながら、肩を組んでる事を利用してそのままヒロトの頭を締め上げる。
かなりの力で頭を締め付けられたヒロトはカザミの腕をタップして早々ギブアップした。
フレディもそんな二人の様子に楽しそうに笑い、カザミの意見を肯定する。
「ヒロトさんは頼れる司令塔ですよ!」
「……そうか。ありがとうフレディ」
表裏のないフレディに褒められてしまっては、自分に対して厳しい評価を下しがちなヒロトも受け止めざる得ない。
「我らがフレディに言われたら素直に聞くしかねぇよな」
「えへへ」
「逆にフレディに嫌いって言われたらすげぇ凹むだろうけど」
「えぇ!?そんなこと言いませんよ!!」
フレディがワタワタする様子に二人が笑っている時、小さい三つの影が近寄ってきた。
アシャ、トワナ、フルンの村のちびっこ三人組だ。彼らは飛ぶように走ってきてカザミを取り囲む。
「カザミが居るー!」
「カザミだー!」
「カザミちょっとこっちきてー!」
「……はいはい、分かったから引っ張るなって」
三人に手を掴まれて引っ張られ、カザミは笑いながら対応する。
ヒロトとフレディが手を振ると、二人に見送られる形で子供たちについて行った。
「あはは……。忙しい村ですいません」
「いや、いいんだ。そもそも今日は息抜きが目的だから、遅かれ早かれ皆好きに動いてた」
「そうなんですね!……では、ヒロトさんは何かしたい事ありますか?このまま家に来るのもいいですけど!」
「したい事?そうだなぁ」
ヒロトは顎に手を当てると、なんとなく空を見上げた。
今日のエルドラは空が高く、気持ちのいい風が吹いている。
「高い所」
「高い所?」
ヒロトはここに来た当初にもやった事を思い出しながら、話す。
「この村の風景が一望できるところに行きたい」
「なるほど!うーん、ではあの上に行きましょう!」
フレディが村を囲んでいる壁を指す。
フレディの提案にヒロトはコアガンダムで飛んだ方が早いな、とさっと結論出す。それに歩きでも登れる手段はあるのだろうが、生粋の山の民に比べヒロトは体力がない。フレディに疲れ切ったみっともない姿を見せそうで、ちょっと複雑な気分になったという事も加味している。
「ここまで来たのに悪いけど、コアガンダムのところに戻ろうか。飛んだ方が速そうだ」
「はい!」
フレディの方はそんなヒロトの思惑に気づくことはなく、ちょっとでもガンプラに乗れることを喜んでいる様だった。
二人は話しながらコアガンダムの元に戻る、フレディは早足で嬉しそうに前を進んでいった。
フレディをコアガンダムの手に載せ、ちょっと余計に飛んでから崖の上に着陸する。
「空を飛ぶって気持ちいいですよね!」
「……ん?うん、そうだな」
ヒロトはフレディの感想を聞いたとき、自分は誰かのガンプラの手の上で運んでもらった経験がない事に気が付いた。
気が付きはしたが、誰かを乗せて運ぶというのは色々気を使う事は有るにしろ心地いい事に変わりは無い。ヒロトにとってはそれでよかった。
ヒロトは崖のふちに座って、村の方を眺めた。当然だが高い建物は無い。
こうやって俯瞰してみると、何か家を作っているような場所がある事に気が付く。
「あの辺りにはまた家を作るのか?」
「あ!あそこは最近夫婦になった二人が住むんです!皆で家作ってるんですよ!」
「そうか、良い事だな」
ヒロトが聞くと、フレディが嬉しそうに教えてくれる。
「農場、こう見ると結構いろんな場所にあるんだな」
「はい!食べ物は大事です!」
「そうだな。……あれは水場か、井戸もあるんだな」
「そうです!でも、あの井戸調子悪くて。……近々調べる計画を皆で立ててます!」
「あれは――――」
ヒロトが目に付くところをあれこれと聞くと、フレディは喜んで一言一言返してくれた。
一通りヒロトの目についた場所の説明が終わると、フレディはヒロトの方をじっとのぞき込んでいた。
「どうした?」
「高い所がお好きなのかなぁって思ったんですけど、ヒロトさんは風景を見るのが好きなんですね!」
「……そうだな、好きだ」
フレディの言葉に、ヒロトはイヴと過ごしていた時の事を自然に思い出した。
あれはなんだろうか、これはなんだろうか。
ヒロトが聞いて、イヴが答える。イヴが聞いてヒロトが答える。
見たい場所より少し高い所や一望できる場所で、そうやって二人でよく話していた。
遠目から見て予想を立てているだけなので、実際に近くに行ってみるとまるで見当外れな答えだった時が少なからずあった。そうやって、遊んで笑っていた。
もうずいぶん前の話になるな、とヒロトは思わず懐かしんでしまう。
ヒロトが村を見ている様で見ていない時、フレディは急に何を考えたのかポツリと呟いた。
「誰かを好きになるってどんな気持ちなんでしょうね……」
「えっ!?」
「ええっ!?」
ヒロトが驚いて声を上げると、まさか彼がそのような声を上げると思っていなかったフレディの方も目を真ん丸にして驚いた。
隣で鏡に映った自分の様に驚いているフレディを見て、自分の話じゃないなとヒロトはすぐに気が付いた。ヒロトは最近イヴに関する思いを見破られる事がたまにある物だからつい過剰反応してしまった。
「いや、何でもないんだ。どうしたんだ、急に」
「いえ、あの、その」
ヒロトは必死に取り繕って、フレディに今の発言の意図を問う。
フレディは少し落ち着かなさそうにしたが、思い切って全部言う事に決めたようだ。
「さっき新しい家を作ってるって話がありましたけど、そこに住む予定の二人を見て何かこう」
「うん」
「僕は家族の皆や、村の皆の事大好きで、ヒロトさん達の事も勿論好きですけど、そういう気持ちとは別な気がして。前にマイヤ姉さんに聞いたときは特別な好きなんだから違って当たり前だって答えてましたけど、それもなんだか分かるようで、分かんなくて」
「……そうか」
「というか、マイヤ姉さんちゃんと答えてくれてはいないんです!なんか適当っていうか!」
ヒロトはフレディ越しにマイヤの様子を察し、何ともコメントしにくい気持ちになった。
「ま、まぁ、フレディの言う事は何となくわかるよ」
「分かってくれますか!」
フレディはヒロトに自分の悩みを肯定してもらって、ちょっと嬉しそうに尻尾を振る。
そして彼はハッとすると
「……これ恥ずかしい質問だったりします?姉さんが答えてくれないのは、そういう事だから?」
「うーん。まぁあんまり聞かれたくないことかもしれない」
「やっぱり!じゃあ、謝らないと!」
「いや、謝るのもやめた方がいいかもしれない」
多分余計拗れる、ヒロトはとっさに思った。そしてその手の質問された時の自分やカザミの様子も含めて親身に伝える。
自身に非があれば素直にとりあえず謝る性格のフレディはどっちつかずの答えにワタワタと反応した。
「ええぇ!?ならどうしたらいいんですか!?」
「あえてそれ以上その話題に触れないって選択肢もあるんだ、謝るのが正解とは限らない」
ヒロトの答えにフレディはあまり納得できないでいたが、彼がそういうならと頷き、少し経つと自分なりに纏める事が出来た様だった。
「人との関わり方って難しいですね」
「……フレディは賢いなぁ」
自分がフレディと同じ年だった時にここまで聡かった気がまるでしないヒロトは、心からフレディを褒めた。
褒められたことにフレディはめっぽう上機嫌になると
「ヒロトさんは、特別の好きになる気持ちって分かりますか?」
「え!?」
この話は終了した気でいたヒロトはまだ終わってなかったことにまた声を上げて驚いた。
フレディはそんな彼の様子に気まずそうにすると
「ごめんなさい!ヒロトさんはマイヤ姉さんとは違うから、答えてくれるかもって思ったんです」
「……ああ、なるほど」
「答えたくない質問をしたならごめんなさい……」
フレディはしょんぼりと肩を落とし、項垂れてしまった。
そんな彼の様子を見て、自分が恥ずかしいだけの気持ちで考えを伝えない事にヒロトは多少罪悪感を感じてきた。
ため息をついて、自分の気持ちを言葉にする努力をしてみる。
「どうだろう、特別な好き、か。考えるから、少し待てる?」
「はいっ!」
やはり誰かから一度は真面目な意見を聞きたかったのだろう、フレディはすごく嬉しそうにヒロトの言葉を待っている。
イヴへの気持ちは色々ある、感謝と後悔、記憶も色々ある、楽しい事悲しい事。
ヒロトはふと、また空を見る、今日はやっぱりいい天気だ。
「空模様みたいなものかも、特別に好きになると、その人にいろんな感情を抱くんだと思う」
「空模様?天気の事ですか?」
「うん、うまく言えないけど――――」
一拍、言葉を探す暇を入れて
「ほら、今みたいにすごく晴れていたり、曇ったり、雨が降ったり、嵐が来たり、後に虹が掛かったり」
「変わっていくって事ですか?」
「俺にとってはそうだった、ん……、いや、今もそうだ」
「!」
フレディはヒロトの些細な言葉の言いなおしに、彼が今誰かを好きでいる事に気が付いた、その誰かの事も何となくわかった。この質問はやはり聞くべきではなかったかもしれない、思い当たったおかげでヒロトが涙したあの時の様子を思い出して、つい悲しい気持ちが沸きあがってくる。
でも、もっと聞いてみたいとも感じた。もし嫌そうなら、沢山謝ればいい。
「もう少しヒロトさんの考え、嫌じゃなければ、聞いていいですか?」
「構わないさ。そうだな……」
ヒロトは自分の複雑な心境はともかく、フレディには明るい気持ちでいずれ来るだろうこの気持ちに向き合ってほしかった。
「その人と一緒に居れば、楽しい気持ちで入れる時間の方がはるかに長いと思う。二人で色んな物を、見て、聞いて、触って、一緒に居ると世界が広がってもっと色がついて行くような――――」
離れた時は、世界は小さく、望みもなく、色まで無くなってしまったけど。それでもあの日々は紛れもなく、ヒロトに とっては
「楽しかったな、俺は」
そう言葉に出して、彼は強く実感する。
「俺は本当に――――」
イヴが、と言いかけたが飲み込む。
「それが、特別な好きだと、俺は思うよ」
「……すごいんですね」
フレディは今聞いたことをうまくまとめれない様に、それでも感想を述べた。
そんなフレディを見て、あまり上手く伝えられなかったんじゃないかとヒロトは思い、むしろ彼の感想の方がよほど分かり易いような気がして少し笑う。
「ああ、ともかくすごい。フレディなら、きっとなればすぐわかる」
「そうでしょうか?」
「できるさ」
別れて、一度無理に納得して、やっぱり違うって気が付いて、諦めないってようやく少し前に言えたばかり。そんな遠回りしている自分とは違って、きっと。ヒロトは自然とそう思えた。
そんなヒロトの応援に、フレディはグッと涙をこらえ答える、その応援はフレディからするとすごく悲しい気持ちになる物だった。またヒロトからヒロト自身に対する想いが見えて、無性に悔しかった。
「ヒロトさんも、できますよ……!」
「……え?」
「だって、ヒロトさんは皆を守ってくれたすごい人じゃないですか!マサキさんを助けて、アルスさんを助けて!ヒロトさんのおかげで変われたって、前にもカザミさん達も言ってたじゃないですか!だから――――」
フレディは必死でヒロトに言葉を投げかける。
「そんな風に自分が凄くないって!自分が大したことないって!まるで自分の事を嫌いみたいに言わないでください!僕ができるとか、そんなの関係ないです!自分を諦めないでください!」
「……ぁ」
「僕は色んな人が真剣に、貴方を想って伝えた事を素直に聞けてないヒロトさんは嫌いです!」
興奮し、こらえ切れず涙を流しながら、フレディはなりふり構わず最後まで言いたい事を言いきった。
ヒロトもそんな彼の様子と、必死で伝えてくれた言葉に思わず涙が零れた。自分を軽く見る気持ちを見透かされて、それでフレディが傷ついた事が苦しくてたまらなかった。
「ごめん、なさい」
「変われますか?」
「……すぐに変われないだろうけど、努力する」
ヒロトの言葉に、彼の誠実さを感じたフレディは涙をぬぐわずににこりと笑った。
「そう答えてくれるヒロトさんは好きですよ」
「ああ、ありがとう、フレディ」
ヒロトが笑顔でフレディにお礼を言うと、彼は気恥ずかしそうに顔を手で拭った。
「言わないって言ったのに、すぐ嫌いとか言ってしまいました。その上なんか偉そうにしちゃいました」
「いや、フレディはおかしくない。俺の方がどうかしてた」
フレディはヒロトの返事にムッとする。
「ヒロトさんが悩んでたことは僕にもちゃんと伝わってます、なのでそういう言い方も良くないとは思います。けど、今日は大目に見てあげます、説教は短い方が伝わるって村のお爺ちゃんも言ってましたし」
「……ああ、そうかもな。実際凄い刺さった」
「そんな意地悪言っても僕は謝りませんからね!」
フレディは気丈に胸を張っている、その様子にヒロトも分かってるよと笑った。
ヒロトはフレディを通して自分を見つめるきっかけを得た。フレディはヒロトを見て、痛くても触れた方がいい事もあると学んだ。何より、フレディとヒロトは、また仲良くなることができた。
他の三人が集まって来たのは、それからほんの少し後の事になる。
◆◆◆
「さっきの話二人はどう思った?」
「隊長こそ、どう思ったんですか。たまには自分の意見を先に出してくださいよ」
「……」
「以前も報告はありましたが、ELダイバーは確実に保護できるようですね。今回は、復活とGBNに対するダメージが無い、もしくはコントロールする事ができれば目標は達成です」
「できると思うかい?」
「あー、隊長が居てくれたら心強いなーとは思いますけどー」
「隊長がダメっていうなら、仕方ないですねぇ」
「……君たちそんな意地悪だったかな?」
「あの時の事思い出して俺思う事があるんっすよ」
「あら、私も一緒な気がするわ。せーの」
「「偶にはわがまま言ったらどうなんです?」」
「……分かったよ。まったく、困った部下達だなぁ」