「やってくれたな、キョウヤ」
「こうなってしまっては成功させるしかないですね」
「ふん、よくもまぁ言ってくれる。こちらでELダイバー・イヴの探索を行っては見たが望みは薄いぞ」
「最初から後者が本命ですよ」
「当てはあるのか?……まさか本気で奇跡を起こそうとでも言う訳じゃないだろうな?」
「そのつもりです」
「馬鹿馬鹿しいな、できる訳がない」
「そうでしょうか?実際、我々は奇跡を起こしている」
「ブレイクデカールの渦中か、ELダイバーサラに対する話か。あれがもう一度起こせるとでも?見える脅威もないのに人の意識が集まるという認識は浅はかではないか?」
「脅威に集中させる事だけが人の意識を集める方法ではありませんよ、それに私が言っているのはその二つの話じゃない。もっと前の話だ」
「何……?」
「そしてカツラギさん、貴方もその奇跡を起こした一人だ」
「……?」
◆◆◆
オフ会を開催する事になった週末、4人だけで話せる場所をパルが用意してくれた。
コアガンダムに関する作業をするだけなら最初からG-CAFEでいい。しかし、今日話す内容は奇跡を起こす為の手段についてが主。そんな話をしていたら他の客からほぼ確実に変な目を向けられる事になるし、そもそも騒めいた煩わしい環境で話すべき事でもない。
パル自身から自分が会議に適した場を用意すると案を出し、メイは素直に頼る事に決めた。対してヒロトとカザミは思わずその時の出費や面倒を考えて遠慮したが、仲間に遠慮するんですかと彼にしょんぼり気落ちされて口を塞ぐしかなくなった。
「うわ、高そう」
身も蓋もない表現がカザミの口から飛び出したのは、彼からしてみると仕方のない事だった。
事前にパルから場所を聞いて、ネットで位置と外見を見ただけでも一室貸し出しの値段が見たくなくなる面構えをしたビルだった。
自分の小遣いだとこの部屋を30分も借りればいいほうだろうと予想できるくらいには、会議室内の設備も整っている。件の事を話し合うにはこれ以上ない空間なのだろうが、変に緊張してしまいそうだ。
隣に居るヒロトは何も言わずにはいたが、うわぁー……と内心結構戸惑っているのが透けて見えた。滅多にない間抜け面を晒している。
「いい場所だ、ありがとうパル」
メイが端的に礼を述べた事に雰囲気にやられていた二人はハッとして続く。
「パルさん、ありがとうございやす!」
「助かるよ、パル」
パルはあはは、と苦笑する。
「僕も適当に用意してって言っただけなんですけど……、まぁ遠慮せず使いましょう」
当のパルの方もここまでとは認識していなかった。
普段ならカザミがツッコミを入れそうな発言であったが、今も雰囲気にのまれているのか、多少は上品に振舞う事に決めたのか、今日はそういう事は無かった。
ヒロトとカザミが荷物を置いて椅子に座る中、メイはパルの肩から机の上に飛び移り、適当に位置を変えてそのまま座り込もうと動く。そんな彼女の動きを予期していたパルは、すかさずカバンから精巧な椅子のミニチュアを取り出して机の上に置いた。
「メイさん、こちらにどうぞ」
「……感謝する、パル」
「いえ、ピッタリでよかったです」
メイが座る事を前提にして作られた椅子は、彼女の身体を傷つけないように細心の注意を払われて作られた物だった。
椅子に座ったメイが感動している間に、パルは備え付けの机まで用意する。
以前G-CAFEでメイと出会った時メイが机の上に適当に座ったりしていたのをパルは覚えており、次回があるなら何とか彼女が居心地のいい様にするつもりだった。
「こっちも良ければどうぞ」
「おぉ……」
「では、皆さん始めましょうか」
パルの至れり尽くせりの対応にメイが言葉を失う中、彼は微笑んで会議の開始を宣言した。
カザミはパルの流れるような紳士対応に開いた口が塞がらない。ヒロトも他人事の様に感心していたが、イヴが無事復活してモビルドールで生活するようになったならこういった配慮が必要だと気が付く。彼の安堵の言葉から椅子も机もパルが制作した物に違いない筈だ。
ヒロトは紳士的立ち振る舞いの一片をパルから学び、これから先も色々見習える点が多そうだと素直に感じた。
「ああ、始めるか」
「お、おう」
「おぉ……」
机を触っているメイはまだ少しの間感動が収まらない様であったが、会議はスタートした。
パルは手を上げると、まず今回の最初の話を何にするか決めに行くために発言する。
「先にコアガンダムに教えてもらった事でしょうか?」
パルが首をかしげて言うと、メイがハッとして感動を振り切り同意する。
「……コアガンダムが何を伝えたいのを考えて、それから奇跡の手段を模索した方がいいと私も思う。先に奇跡の件を考えても、コアガンダムの警告内容の解釈よっては水の泡になりそうだ」
「賛成ー」
「俺も賛成だ」
ヒロトは賛成しながら自身の荷物からコアガンダムとネプチューンアーマーを取り出して、机の上に置く。
急に語り掛けてくることはないだろうが、会議の場にはいて欲しいとヒロトは思ったからだ。
カザミはアーマーの方を見て首をかしげる。
「お、ネプチューンも持ってきたんだな」
「ああ、なんだか目に入ってな。特に何か考えていた訳じゃないんだが」
ヒロトが今日ネプチューンアーマーも一緒に持っていこうと考えたのは、本当に何となくであった。
「そのアーマーは元は姉さんの為に考えたのだろう、ならばこの場に必要なくらいではないのか?」
「イヴさんを助ける話をする為に今日集まるつもりでしたから、その子も連れてくるのは自然だと僕も思います」
「ありがとう、二人共」
そんなヒロトの何となくに、メイとパルが自身の解釈を述べる。
ちょっとした自身の発言にも良い理由を見つけてくれる二人に、ヒロトは微笑んで感謝した。
カザミはネプチューンアーマーを皆で作る時の努力を思い出しながら、そのアーマーの着想の理由に目を向ける。
「銀河の向こうまで行きたい、だったか。イヴさん、エルドラに帰りたい気持ちとかあったのかなぁ」
「……どうだろう、少しはそういう思いもあったのかもしれないな」
カザミの言う通り、イヴのあの時の様子は少なからず望郷の念が含まれていた様にヒロトは思えた。
そんな風に感じていると、マギーが言っていた実質告白みたいなもの、という一連の話まで思い出した。思わず微妙に顔が熱くなる。
カザミはそんなヒロトの様子に目敏く気が付いた。
「お前なんで顔ちょっと赤くなってんの?」
「……ちょっと待ってくれ、何でもないんだ」
「一々隠し事するな」
妙な事を思い出してしまった、とヒロトが必死で隠そうとするとメイがすかさず指摘する。
メイの指摘に他の二人もうんうんと頷く、だが今思い出した内容をサラっと口に出せる程ヒロトの羞恥心は死んでいなかった。
「いや使えない情報だから、ホントに」
「僕は以前から本当に常々思ってたんですけど――――」
パルはニコッと笑う。しかし伴って吹き出してくる圧は尋常ではないとヒロトは感じた。
「ヒロトさん、一人で勝手に結論付けるのやめられませんか?」
「……ごめんなさい」
ヒロトはパルから見える怒りに少し怯えて謝りながら、でもこれホントに言うの?と強く葛藤する。
そうやって迷ってる間にパルからの圧力がさらに増した。噴火数秒前だ、ヒロトは肌で感じ取り、もはや言うしかなくなった。
「……マギーさんと、ネプチューンアーマーについて話した時があったんだが」
「……?」
今までの会話ではまったく考えてない人名が急に出てきて、三人が首をかしげる。
「二人で一緒に銀河の向こうまで行きたいって、そういうイヴの発言が発想の元だったっていう話をしたんだ。それを聞いたあの人は、それが仮にできたとしてものすごく時間がかかる、そんな長時間二人っきりで居たいって言うなんて告白みたいなものだって。……あのさ、まだ言わないとダメか?もういいだろ?その時思った事まで説明する必要あるのか?」
「「……あー」」
もう限界と、ヒロトは顔を両手で隠して俯いた、イヴがどう思ってその発言をしたのかは本人に聞くまでわかる事ではない。だが今になって好意をはっきりと自覚した彼にとって、あの時のマギーの発言は本当にいろいろ心に来るものだった。
パルとカザミは、ヒロトが隠し事をしている事に少し怒っていたが、一転してかなり申し訳ない気持ちに切り替わった。
メイは、うむ、と頷く。
「姉さんはよほどヒロトの事が好きらしいな」
やめてやれ!とカザミは静止しそうになったが、そもそも自身が口火を切ったような物なのでどういったものか言いあぐねた。
ヒロトがしばらく立ち上がれない心境にまで追い落とされたが、メイの方は気にしていない様だった。
「叶えてやりたいな、その夢」
「まぁな……」
「そうですね」
カザミは頷く。ヒロトの羞恥心をくすぐった事に対しては罪悪感はあったが、メイの呟いたことに心底同意できるものであった。パルも同様の気分で頷きながら、ぼんやりと考える。
「銀河の向こう、まさに星の海ですね。GBNで再現できるものでしょうか……」
「全ては無理だろう、ある程度の範囲なら再現可能だろうな」
「……運営に手を貸してもらえるなら、なんか適当な理由つけてそれっぽい空間作れねぇかな」
メイが妥当な考えを述べ、カザミも思い付きで発言し始める。
パルはカザミの厚かましく聞こえる発言に苦笑する。
「カザミさん、それは我儘が過ぎますよ、手を貸してもらえるなら――――」
「えー、そうかぁ?」
カザミはパルから諫められてもなおも首を傾げた。
「イヴさんはGBNを守ってくれたんだろ、運営も礼の一つはするのが筋じゃねぇの?」
「……!」
カザミの反論は個人的な感想に近かったが、パルは思わず黙り込む程考えさせられた。
いつの間にかイヴの夢についての話が始まりヒロトは自分の顔を隠しながら聞いていたが、彼のその発言で熱が冷めて頭を起こした。
メイはカザミの発言に頷く。
「世界一つを守ったのに報酬がない、こうして考えると不自然だ。良いことに気が付いたな、カザミ」
「お、素直に褒められるのは珍しいな」
メイからの賛辞にカザミは嬉しそうに笑った。
「復活が上手く収まったらそのまま報酬も頂こうぜ、ちょっと空間借りるだけだし、別にいいだろ」
「今回の件に紛れさせるなら、復活させる場所は宇宙、環境は星の海と設定しよう」
「いいですね、きっとコアガンダムもアーマーも喜びますよ!」
「……」
三人が盛り上がっている中、ヒロトは一人置いて行かれている気がした。
イヴを復活させたいという願いは、仲間の内の誰より自分の方が強い気持ちを持っている。その筈なのに、この会話はなんだか着いていけなかった。
顔を上げたが黙り込んでいるヒロトに、三人も気が付いた。
なんだか暗い表情をしているな、とカザミは感じた。
「イヴさんが戻ってきた後の事、お前も考えとけよな、ヒロト」
「……ああ」
カザミ言われて気が付いた、自分はイヴともう一度会って、聞きたい事を聞いて、見せたいものを見せた後に何がしたいのか。一緒に居たいとは思って居るが、その具体的な様子まで考えていなかった。
メイは首をかしげ、ヒロトに聞く。
「姉さんに想いを告げないのか?」
「そのうちには」
「それは何時だ?躊躇する意味はあるのか?姉さんの態度は脈ありという奴ではないのか?」
「……ちょっと待ってくれ」
メイの疑問は次々に続く、最後の表現は恐らくマギーから聞いたのだろう。
ヒロトが呻いてメイを制する様子に、カザミはニヤリと笑ってパルの方を向く。
「俺絶好の機会を思いついたんですけど。星の海で告白ってのは、いかがな物なんでしょう?パルヴィーズ先生?」
「急に何ですかその呼び方……。でも、僕は素敵だと思いますけど、雰囲気がいいですね」
「雰囲気は大事だとママも言ってた、絶好のチャンスではないか」
「三人共……」
三人揃ってヒロトの背中を押し始める。
カザミは少し面白がっているが、ヒロトとイヴに上手く関係を再構築して欲しいという気持ちは皆一緒だった。二人が別たれた時の状況があまりに悲しい物で、過去を乗り越えて気楽に笑う二人を見たかった。
その真摯な思いは、ヒロトに届いていた。
「話が凄い逸れて来てるぞ」
「……そうだな、話し戻すか」
気恥ずかしさを押し殺したヒロトの指摘に、カザミは粛々と頷いた。
「ありがとう」
呟かれた言葉は凄く小さな声だったが、三人にはしっかり届いていた。